Because, I’m
塩のツナギスト 後編
塩でカラダを海にもどそう!
solcoの店内に入ると、目に飛び込んでくるのが、チョークの文字が書き込まれた大きな黒板。印象に残ったのは、「その昔、生命は海から生まれました。海のエキスたっぷりの塩をカラダに取り込み、カラダを海に戻していきましょう」という文章。これこそが、田中園子さんがsolcoを通して発信していきたいメッセージなのだ。塩は、美味しいだけでなく、人のカラダが本来、欲しているものだという。後編では、そんな塩の重要性と、健やかなライフスタイルのために、塩をどんな風に活用していくべきか。お聞きしていく。
Q. 塩は調理に欠かせないだけでなく、塩に含まれるミネラルは人のカラダに不可欠なものなのですね。
人だけでなく、ミネラルが必要なのは、地球上のあらゆる生物にいえることです。
塩が、生物が生きるために必要なことは、太古の昔、それこそ原始時代から人間だけでなく、動物たちも本能で知っていたわけです。だから動物が、塩が湧き出る泉などに塩を舐めに行くとき、人は後をつけて塩を手に入れていたんです。
一つ面白い話があって、私があるお客さまに、塩の結晶の一つのピラミッド型はマヤのピラミッドに似ているというと、その方は、「マヤ人は塩の結晶を見て神殿の形をピラミッドにしたのかもしれないですね」といいました。それを聞いて、マヤ人は波打ち際などで結晶化している塩を見て、その神秘的な形を塩の象徴と考え、生命を司る塩は神様みたいなものだから、神への感謝を表すために神殿を造り、ピラミッドの形にしたという説もあり得ると思いました。
2020年に5年がかりで誕生した、北海道の「十勝の塩」という塩があって、太平洋に面した山や森の栄養が流れるプランクトン豊富な海水で作られているのですが、本当に旨みがあって、寒い所で炊いているからかザクッとした食感で、後味がどこか土っぽい。作り手さんがなぜこの塩を作ったのかというと、実は牛のためなんです。病気にならない元気な牛を育てるには、良い塩が不可欠。牧場にはいつもバケツに入った塩が置かれていて、牛たちはちゃんとそれを舐めに行きます。
この塩、モッツァレラチーズやジャガイモなど、北海道産の食材とすごく合うんです。この仕事をして確信を持てたことの一つですが、同じ土地で産まれた塩と食材はすごく合うんですよ。海底湧水のように、ミネラルを含んだ山の水が地中を通って海底から湧き出る例もそうだし、同じ土地の中で、ミネラルは循環(自然界で土壌、微生物、植物、水、大気などを介してミネラルが再生・吸収をくり返す)しています。おそらく、そのことに関係していると思っています。

塩の結晶の一つのピラミッド型。基本の立方体(キューブ)が頂上としてできた後、4つの辺がフレーク状に徐々にできるため、階段のような模様になる。
Q. 塩を摂ることによって、体調が良くなったという声も多いそうですね。
たとえば肌の調子が良くなったとか、疲れにくくなったといった声を多くいただきます。私自身も、塩にハマってから、以前にも増して塩を摂るようになったことで、朝の目覚めが良くなったし、血流が良くなって、以前は冬場などは寒くて眠れなかった末端冷え性や足のつりが感じなくなりました。
地球上には数多くのミネラルが存在しますが、現代では、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなど、16種類のミネラルが機能維持のために必須だということがわかっています。これらは、生命活動の維持に不可欠です。ミネラルは体内で作り出すことができないので、食物から摂取するしかない。海水と人の体液のミネラルバランスは類似していて、人の体液は「内なる海」とも呼ばれています。大切なのはバランスなんです。でも、人によって、また同じ人でもその時々によって、ベストのミネラルバランスがあります。
ミネラルって体内でチームで働いているといわれていて、たとえば、骨や歯を形成するカルシウムの働きをマグネシウムが助けているし、ナトリウムが多ければカリウムがバランスをとって余計なナトリウムを排出させています。塩の摂り過ぎは高血圧のリスクだといわれますが、それは、ナトリウム以外のいろいろなミネラルが足らないせいかもしれません。現代人はミネラル不足といわれますが、いろいろな原因があるとは思いますが、昔に比べ、野菜などの農作物のミネラルが減っている事もあるでしょう。これは、農作地の土のミネラル不足が原因。最近は、サプリを飲まれる方も多いですが、私はやはり、ミネラルの宝庫である塩で補うのが良いと思っています。(尚、一般に普及している塩に食塩=精製塩があるが、その成分は99%塩化ナトリウムで、製造の過程で他のミネラルは失われる。精製塩は、加工食品や外食産業などで多く使われる傾向がある)
塩をカラダに取り込むことで、「カラダを海に戻していこう」というのがsolcoの提案。いろいろな塩を舐めてみて、「美味しい」と感じるものがあったら、それがその人にとって必要なミネラルを含んでいると思っています。

自分に必要な塩の量を実感すること、自分のカラダや食材と対話しながら、どんな塩を合わせていくか、日々考えることが大切だという。
Q. 塩を美味しく感じるのは、その内にあるミネラルを欲しているからという説は説得力がありますね。
どんなミネラルを欲するかは個々によるのですが、大きな流れでいえば、時期や季節などでも傾向があるんです。たとえば、コロナの前と後では傾向が変わりました。「雲仙の温泉塩」という塩があるのですが、非常にカリウムが多いのが特徴で、口に含むと舌に刺すような酸味があるんです。酸味を活かして天ぷらや、脂身の多い肉・魚にも合うのですが、コロナ前はあまり売れませんでした。でも、コロナ以降から売れ始め、いま爆発的に売れているんです。この温泉塩はカリウムだけでなくマグネシウムやカルシウムも非常に多い。ここ数年のストレス生活でいろいろなミネラルが失われたり、バランスが崩れているためか、味見して美味しいという方が格段に増えたのではと思います。
また、年々夏が暑くなっていますね。汗も大量にかき同時にミネラルも失われてしまいます。最近、私も含めsolcoのお客様に好評なのが、ミネラルドリンク(塩水)なんです。作り方は、500mlの水に5g(小さじ1杯)の割合で塩を溶かすだけ。最近は飲むための塩を買いに来られる方が増えています。すぐできるミネラル摂取法なのでおすすめです。
塩を理解し、日々積極的に取り入れることで味覚にも変化が現れ、他の調味料を多用することもなくなり、添加物の入った味が不要になってきます。たとえば、コロッケ一つでもソースをかければ、ソース味になってしまいますが、塩ならジャガイモの味が活きて、素材本来の味が楽しめるようになります。すると、食材のことも気にかけるようになるはずです。更に、いろいろな塩を知ると活用法も広がります。たとえば、苦みの強い食材に苦みのある塩、酸味の強い食材に酸味のある塩をかけると、苦みや酸味をまろやかにしてくれる作用もあるんです。料理の味がぼやけていると感じた時にも、塩を少しかけるだけで旨みが際立ってきます。
塩を毎日の食生活に積極的に取り入れれば、味覚が正常になっていくだけでなく、結果として健康的な食生活に導かれます。店にちなんだ造語ですが、私はそんな風に塩を活用することを、「solcoる(ソルコル)」といっています(笑)。皆さんにもぜひ、solcoる食生活を実践していただき、食卓をもっと美味しく豊かにしていただきたいです。

(後編 了)

solco
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撮影 sono
原稿 網野由美子


