

Because, I’m
ミニチュア写真家・見立て作家 後編
コロナの今こそ、“見立て”の精神で。
日常にありふれている物を別の物に見立て、一つの特別な風景を作り出す田中さん。作品を観た人は皆、「はいはい、これわかる!」と膝を打つ。そんな風に、誰にでも共感できる世界観は、どのようにして生み出されるのか。巡回展「MINIATURE LIFE展2」をスタートさせたばかりの田中さんに詳しく話を聞いていくと、「見立て=工夫すること」という根源的なテーマが浮かび上がってきた。つまり、〇〇がダメなら〇〇でいってみようという思考。それはコロナ禍の私達の生活にも非常に重要なことだという。

Swimming Note 水泳選手は目も超いい/メモ帳の表紙が透明の青色だったことから、この作品が生まれた。
Q. 展示されている作品を見ると、ポップコーンを“親子が眺める夏の雲”に見立てたり、トイレのフタを“登山隊が列をなして登る雪山の斜面”に見立てたり、〈テーマ〉と〈素材〉の組み合わせが絶妙です。どちらから先に考えるのですか?
毎日やっているので、その季節、例えば夏といえば青、青といえばジーンズというように、テーマから連想していくパターンがまずあります。
それとは逆に、素材から思いつくこともあります。それは買い物をしている時に多いですね。例えば表紙が青い透明の下敷きみたいになっているメモ帳があるんですが、それを開くとプールみたいに見えるんです。リングの部分は飛び込み台。それを使って撮影したのが「水泳選手は目も超いい」という作品です。これはメモ帳の表紙が青かったから思い浮んだアイデア。普通のメモ帳を頭の中で思い浮かべても考えつきません。なので、買い物には頻繁に行くようにしていますね。

XXXXXLサイズの波/折りたたんだジーンズがビッグウェーブに見えてくる。

Mt.Toilet TOTOここまで来たか。。/雪山の登山隊を描いた作品も、実はトイレで撮影していました。
Q. 今までで一番多く使っている、あるいは好きな素材はありますか?
ブロッコリーはよく使いますが、逆に木に見立てる以外に使い道がない。だから木としてよく使います。僕の見立ての中で一番象徴的なモチーフですね。というのも、見立てに行き着いたきっかけがこのブロッコリーだから。たまたま夕食であまったブロッコリーを木に見立てるという作風を思いついたんです。それがきっかけで、見立てという作品を突き詰めることになりました。いわば、見立ての初級編というイメージです。

Brottree Forest ブロッツリーの森/ブロッコリーは、田中さんの世界観を象徴するモチーフ。
ホチキス針を使った作品は、30作品くらいあります。ステンレスのキッチンにもなるし、本棚にもなる。コの字でシンプルな形だから使いやすいんでしょうね。しかも分離して、一個ずつ分けて使うこともできる。汎用性なら一番です。

作品のヒントは日常にあふれている。見慣れたものを違う視点で見ることで発見がある。
Q. 今回の展覧会は、#Nature、#Workers など8つのカテゴリーに分けられていて、最後にたどり着くのが #Family です。特別な意味があるのでしょうか?
展覧会を構成するうえで、最初に考えたのが、8つのカテゴリーでした。
そもそもカテゴリーを分けたのは、例えば、音楽のアーティストでいうベストアルバムのような感じです。この順番で見たら皆はどう思うか、サビに当たる部分はどれにしようか、というふうに考えて作品を選びました。
その上で、最後にふさわしいカテゴリーとして思い浮かんだのが「家族」でした。何故なら、人間には必ず家族がいるから。親から生まれたから自分がいるわけです。この地球上にいる人間で、家族について考えたことのない人間はいないはずです。例えば、#World Travelというカテゴリーもありますが、日本人だと稀に海外に行かずに人生を終わる人もいます。そういう人たちを含めても、一番ガチッとはまるのが家族。だから、そこを押さえておくと、感動して終わってもらえるのではないかと考えたんです。

Seasonal Clothes 季節の衣替え/誰の心にも響く、それが“家族”というテーマ。

永遠に溶けない雪だるま/タイトルも秀逸。なるほどと思うと同時に、心も温まる。

Moon Side Down 黄身といつまでも/フライパンの夜空に浮かんだ月が、恋人たちを優しく照らす。

Autumn Colors 実りと食欲の秋/赤く色づいた樹木と収穫を連想させる秋の作品。
Q. 私生活でも家族を大切にしていて、二人のお子さんともよく遊ぶそうですが、どんなことをして遊ぶんですか?
ダンボールで迷路を作ったり、城みたいなものを作って遊んだりしますね。子供もそれを真似して、色々作ったりします。そこから学ぶことも多いですよ。例えば、「テーピングカー」という作品は、うちの息子がセロテープケースをひっくり返して「キャンピングカー!」と遊んでいるのを見て、「お、これは作品にできる、まんまいけるじゃん!」というのがきっかけです。

テーピングカー/子供との遊びの中から着想した作品。“遊び心”はいつだって必要だ。
あと、遊んでいる中で、どれぐらいの見立てなら、これくらいの歳の子は理解できるんだろう、という目安にもしています。例えば船を作るにしても、漁船より帆船。後ろにエンジンのついている方がより漁船らしく思うけど、船と子供がイメージするのは海賊船のような帆船なんです。誰にでもわかる作品を作るうえで子供でもわかるようにというのはすごく重要な基準だと思いますね。心がけていますね。
Q. 最後に、「見立て」が普役の生活に役立つことはありますか?
見立て=工夫することだと思います。それがないから代わりに別のもので補う、ということが見立ての原点だからです。
例えばインテリアの DIY で、ホームセンターのコンクリートのブロックを積み上げて板を乗せ、棚に見立てるのもそうですよね。ブロックはブロックのつもりで使うとブロックでしかないけれど、自分なりの工夫や考え方次第で色々な物になるんです。
いまのコロナの状況もそうです。外食に行けない、旅行に行けない、それなら〈家にいることが楽しい〉という方法を考えればいい。これがダメなら別の方法で。そういう考え方を身につけると、楽しい人生を送れるんじゃないかと思います。

Virus Block 悪いウイルスをブロック!/2019年の作品だが、いまこそブロックしたい!
(後編 了)
写真 能谷わかな(ORIONSHA Inc.)
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店