Because, I’m
ビコーズワイン ブランドディレクター
Because,の魅力を、たくさんの人に伝えたい。
「知れば知るほど、ワインはおいしい。」をコンセプトに生まれたBecause, ワインシリーズ。おいしさとリーズナブルな価格の両立、ワイン知識を育むラインナップの妙もさることながら、目を引くのがその独創的なネーミングとラベルのデザインだ。ワインに含まれる代表的なアロマをイラストで表現したそれは抽象絵画のよう。それでいてワインの中身をしっかり伝え、飲み手はワインの知識を深めることができる。このアートと実用を兼ね備えたラベル、そしてBecause,という名前はどのように生み出されたのか。ブランディングを担当したCC INC.の戸田宏一郎さんと齋藤太郎さんに誕生秘話を伺った。
Q. そもそもこのプロジェクトに関わったきっかけを教えてください。
齋藤 以前からおつきあいのあったフィラディスの石田大八朗社長から直々に、「自分たちのブランドを作るから手伝ってほしい」とお話をいただいたのがきっかけです。これまで高級ワインを輸入販売して来たけれど、もっと気軽に飲めるカジュアルなワインを作り、もっと多くの方にワインの楽しさや奥深さを広めたいという熱い想いに共感して、お引き受けしました。
ブランドがまだ無いところから携わり、作っていくということは僕らにとってもチャレンジングなこと。広告やPRなどのマーケティングは商品を売るために必要な活動ですが、売上などの結果に関わらず、予め決められた対価をいただくというのが通例です。今回のプロジェクトはフィラディスさんの挑戦を運命共同体として支援するために、売上に応じて我々も収益を得るという特殊な契約形態をとりました。
戸田 僕もクリエイティブ・ディレクターとして、1つの商品やプロジェクトを単体でデザインしてみないかという話は結構多いのですが、まだ世に出ていない商品のブランディングから始まり、しかもシリーズ化するという、時間軸で育てていく機会はそう多くありませんから、非常にやりがいを感じました。それはこれから長い歴史を紡いでいくであろうブランドの出発点なわけですから、責任も重大だと思いました。
Q. デザイン的には、最初にどんなところを出発点にしようと考えたのですか?
戸田 エンドユーザーである飲み手とワインの〈距離感〉ですね。ワインというのはワイナリーの歴史や作り手の個性、味や香りの指標といった独特の文脈があり、それを読み解いていくことが醍醐味でもあるのですが、今回はそうした知識に精通したマニアックな人達だけではなく、まだワインに親しんでいない方々もターゲットにするということなので、もっとカジュアルにしないといけないだろうと思いました。
しかし、ワインはコンサバティブな世界であるため、ちょっと間違うとそっぽを向かれたり、“わかってないよね”という風になったりする。そのさじ加減を慎重に見極めながら、どうカジュアルにしていくかが課題でした。しかもそれはデザイン的にというだけでなく、結果的に人々が気軽に参加してみたくなるようなものでなければなりません。店のPOPやワインの裏ラベルの説明書きとは違う〈指標〉をちゃんと提示して、ワインというアカデミックなものを楽しく学ぶための〈装置〉になって欲しいと考えました。
Q. 具体的にはどのようにコンセプトやデザインが決まって行ったのですか?
齋藤 こちらからいくつか例を挙げて、石田社長とキャッチボールしながら詰めて行きました。コピーライターの細川美和子さんにもプレゼン時から関わってもらったので、非常に内容の濃い提案になったと思います。ちなみに細川さんはワインエキスパート、僕もワインが非常に大好きなので、楽しみながらやらせてもらいました。
戸田 2年前ですね、初めて提案させていただいたのは。ベースとなるコピーとして「ワインにハマる面白さを、あなたの毎日に届けたい」というのがあって、そのためにはワインを学ぶということをやっていこうと、『School of WINE なるほどワインって!』というコンセプトを打ち出しました。そして学ぶべき要素として、〈香り、味、色〉〈人や物との関係性〉〈時間〉を掲げ、これらをエンドユーザーに伝えられるキャッチコピーやラベルのデザインなどを3つ用意しました。その中には「知れば知るほど、ワインはおいしい。」というコピーと、代表的なアロマをイラスト化してそのワインのキャラクターのように配置し、「Becasue, I’m 〇〇 from □□」と銘打つ現在のスタイルの原型が含まれています。
Q. 最初の段階で〈答え〉が見つかったのですね。では完成までは簡単な作業でしたか?
戸田 いえいえ。そこからが本番です。このワインで訴えたいことを、色やイラストのタッチでどう具体的に表現していくか。クライアントはワインのプロではあるけれど、コミュニケーションのプロではないので、これは良い悪い、これは好き嫌いみたいな感覚的なキャッチボールをしながら、時に誘導し、時に話を膨らませながら、段々とゴールに向かっていく。そんな根気のいる協同作業になりました。
Q. ワインにとってアロマは大切な要素ですが、ここまで前面に打ち出したラベルのデザインは見たことがありません。
齋藤 確かに多いのはシャトーや畑の絵とか、そういうクラシカルなものですよね。そこは今までにないアプローチでというのが念頭にあり、ご提案したところ、石田社長からも「香りをラベルで表現したものはない」という反応をいただきました。
戸田 「School of WINE」というコンセプトからは、絶対にシャトーのラベルには繋がらないんですよ。〈美味しいワインを多くの人に〉というゴールは一緒でも、〈入り口〉をどこに設定するかで随分と道筋は変わる。その道筋によってキャラクターも違ってきますから。Becauseという哲学的な名前にした狙いもそこで、ワインらしくないというデメリットはありますが、その背後にあるものを知りたくなる言葉だからです。
その代わり入り口がしっかりと決まれば後は楽です。この後どんな種類のワインが来ても、特徴的なアロマをいくつか抽出してイラストで表現するというルールが完璧にできているので、オリジナリティのあるデザインが生み出されると確信しています。
Q. 〈入り口〉を見つけるというのは大変なことなのですか?
戸田 そうですね。例えばすでに発売されていて、でも売れていない商品を売れるようにするには、ターゲットを見極め、アプローチ方法を変更するなどの方法があります。ですが、このワインのように未知の商品の切り口をどこに置くかというのは、やはり広告のプロとしての経験値が問われたと思います。
齋藤 販売の入り口ということでいうと、コロナ禍で試飲イベントなどができていないのは残念ですね。このワインは、ラベルを見ながら実際に飲んでみて、「ああ、こういう香りが入っているんだ」と気づいてもらうことで面白さが伝わるブランドだと思うので。
戸田 そうそう、ちゃんと説明して飲んでもらうと、「面白い!」「美味しい!」ってなるから、ポテンシャルは相当高いワインだと思いますよ。
齋藤 試飲イベントもただ飲んで終わりではなく、食とか、音楽や映画、アートといった別のカルチャーと掛け算したい。そうすれば、「ワインって難しい、面倒くさい」と思っている人に、「ワインは楽しい」と思ってもらえるはずですから。
Q. 今後のビコーズワインの展望について聞かせてください。
戸田 齋藤の言葉と少し重なりますが、ワインだけじゃなくて、ワインの周りにある世界をオープンにしていけるような存在に、このブランドがなってくれると良いと思いますね。もともとワインの好きな人たちは、オペラや夜の晩餐会とともに楽しみながらワインと親しんで来た歴史があるので、その現代風のやり方を模索していきたい。
正直なところ、ラベルのデザインってその始まりの一つでしかないんです。この商品と出会った人たちが、〈ワインを飲んでいるんだけど、ワインじゃない別の世界も楽しめている〉という風になっていく、文化づくりのお手伝いができると僕自身も非常に楽しいです。
齋藤 ブランドは育てていくもの。色々な人に認知してもらい、試してもらい、ファンになってもらうことは相当な時間がかかる作業です。戸田が言ったように、〈ワインの世界だけではない様々な世界を横断したコミュニティ〉をつくるなど、じっくり時間をかけてこのブランドを育てて行きたい。今回は最初からチーム全員が一枚岩でやっているので、大いに期待しています。
(了)
写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店