Because, I’m
ミニチュア写真家・見立て作家 前編
見たことありそうでない!ミニチュアの世界
ブロッコリーの森でピクニックを楽しむ家族、米粒の雲の隙間を飛ぶ旅客機、ハイヒールの滑り台で遊ぶ子供たち……。ミニチュアフィギュアと身近にあるモノ、それらを組み合わせて、実際のシーンに“見立て”た作品にする、ミニチュア写真家・見立て作家である田中達也さん。SNSでミニチュアカレンダーとして作品を発表したものが話題となり、Instagramのフォロワー数は250万人を突破した。田中達也さんが創り出すシーンは、どこにでもありそうでどこにもない。だけど妙に親しみを感じてしまうのはナゼだろう……。「MINIATURE LIFE展2」会場でお話を伺った。
Q. まず入り口で目に止まったのが、田中さん自身のフィギュア。ブロッコリーの木の下でカメラを構えています。ジオラマの世界に入りたいという願望があるのですか?
それはやっぱりありますよね。箱庭とかでも、細かい所まで作り込めば作り込むほど、その中に自分も入ってみたくなるじゃないですか。僕の作品を観ている人たちもきっとそう。だから会場の中にある大きな木のオブジェも、それを体験してもらうために作りました。ボタンを木の葉に見立てた「季節の衣替え」という作品を再現したものです。今回は巡回展で、色々な場所に持って行かなければならないため、どの会場にも入る2メートル半くらいが限界の高さ。木の質感も、あえて模型っぽくしてるんですよ。
Q. 展覧会では、選りすぐった約120点の写真作品のほか、約50点の実物ミニチュア作品が展示してあります。一番思い入れのある作品は何ですか?
お米を雲に見立てた「ハブ ア ライス トリップ!」が好きですね。というのも今までInstagramで発表してきた作品の中で、一番〈いいね!〉が多かったからです。個人的にもシンプルな構図のものが好きですし、お米が浮いているというのが面白いと思って。今回もアクリル板を使って撮影時の状況を再現しています。
もう一つは「おスシティーSL寿司ロコモーティブ」ですね。巻きずしを列車に見立てたものです。今回はそれを大規模に再現しました。鉄道模型やプラモデルが昔からの趣味なので、それを思う存分やれるのは幸せ。ジオラマ的な楽しみはこちらで、見立ての妙では「ハブ ア ライス トリップ!」という感じですね。
Q. Instagramのフォロワー数が250万人超えていますが、SNSをはじめたきっかけは?
2010年にインスタグラムを始めたことがきかっけです。最初は普通に風景などを撮影していました。そのうち被写体が欲しくなったのですが、当時はデザイナーとして働いていたこともありモデルを雇う時間もない。そこで趣味で集めていたジオラマ用のミニチュアを被写体に使い始めました。
SNSに毎日アップし続けていると、「毎日見たい」という声もあり、1年続けたら「写真集を作りたい」という目標ができて、写真集を作ったら今度は「個展でもやるか」と……。やがて作品の依頼が増えてきて今に至るという感じですね。結果的に毎日継続してやったからこそ、こうやって多くの人に知ってもらえるようになったと思いますし、発想力も鍛えられたと思います。例えばホッチキスの針は何度も使っている素材ですが、最初は縦に重ねてビルに見立てるくらいだったのが、横にして色々組み合わせてみたら、ステンレスのキッチンや、エスカレーターのステップに見えてくる。このように全部出し尽くした!と思った後に出てきたアイデアの方が、見る人の驚きが大きいですんです。その発想にたどり着くためにもそれを見つけるためにも、毎日続けることは大切だと思います。
Q. 田中さんの作品は、誰が見ても一瞬で「はいはい、わかるわかる!」と思えます。その辺りは意識して創作しているんですか?
スマホでSNSを見ていると たくさんの情報が、アッという間にフィードで流れていくじゃないですか。だから一瞬でいかにわかりやすくするかというのが大事なところ。そういう意味でビジュアルやテーマをシンプルにするというのはすごく心がけていますね。ビジュアルでいえば「記号化」がポイントです。例えば〈南の島〉を簡単なイラストにすると、大抵の人はぽこっとした半円にヤシの木を描きます。ということは、半円の物にヤシの木を挿せば、何でも南の島になるということです。色もそうですね。夏といえば青、じゃあ青いものを配置しよう。冬といえば雪、じゃあ白いものを……とういうやり方です。
テーマについては、自分の思い入れだけで作るとやっぱり上手く行きませんね。たまに映画やマンガも作品の題材にしますが、「皆が知っているだろう」というものじゃないと使いません。その中でも誰もが知っている要素、例えば「ドラゴンボール」なら孫悟空の必殺技の〈かめはめ波〉を選びます。これだったら、作品を見たことなくても大体の人はイメージできますから。
本当は色々詰め込んで作り込みたい、もっと自分の好きな世界を深堀りしたい、そう思うかもしれませんが多くの人に伝わる作品にするには深くのめり過ぎない〈さじ加減〉が大事だと思います。
(前編 了)
Because, I’mミニチュア写真家・見立て作家 後編はこちら
写真 能谷わかな(ORIONSHA Inc.)
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店