Because, I'm Because, I’m<br>トーストアーティスト 後編
Interview 24 / 佐々木愛実さん

Because, I’m
トーストアーティスト 後編

知れば知るほど、トーストアートは‟ときめき“探し。

前編はこちら

見た目と美味しさが両立できなければ意味がない。

佐々木さんが作り始めたトーストアートは200を超える。それは、朝食という生活のルーティン、かつ創作活動でもある。調理し、食べるという生活のサイクルをアートに昇華する試みは、退屈な日常を華やいだものにしていく生活の知恵ともいえる。SNSを通して作品を上げていく中で、最初に注目したのは海外のメディアだった。

Q. 作品を作りはじめて約2年が経つわけですが、ご自身の内面や周りの環境に変化はありましたか?

SNSのフォロワーは増えました。特に海外の方が多いです。最初は枯山水のトーストがツイッターで話題になったのですが、それ以前のフォロワーは、開設したばかりだったので15人くらいしかいませんでした。今は100倍以上に増えています。インスタグラムのフォロワーも85%は海外の方です。花札や浮世絵、水墨画など、日本の文化を表現しているものが特に人気ですね。

左:日本の伝統文化、花札をモチーフにしたトースト。材料はサワークリーム、しらす、青海苔、焼海苔、明太子、ミニトマト。右:いか墨を使った水墨画風のトースト。いか墨は焼き上がりの変化が魅力の食材。

海外で知名度が上がっているのは、『VOGUE』の記事に取り上げられたり、片付けコンサルタントのこんまりさん、モデルのジジ・ハディットさんがインスタグラムにシェアしてくださったのが大きいですね。こんまりさんのときめきを大事にする感性が、私の素材に対するスタンスと近いのかもしれません。いろいろメッセージを頂いたりして、ありがたいなと思う反面、私の普段の生活は全く変わりません。スーパーに行ってときめいてっていう日々です。

朝食というルーティンを、トーストアートという食材の魅力を発見する創作活動に変えた佐々木さん。その原動力は“ときめき”だ。

そういえば、このトーストアートをきっかけに、料理を始めたんです。それまで料理は殆どやってこなかったんですが、「料理も作られるんですよね?」って聞かれることが増えたので、これもいい機会だなと。そうしたら、より一層、味にも注意が向くようになりました。最近納豆のトーストを作ったんですけど、納豆の分量がどれぐらいだったら味がすごくおいしく感じられるかなとか、味覚の部分で考慮することが増えてきましたね。

逆に分量を間違えたなっていうのはブラックペッパーを使ったトーストです。割と初期のものですが、当時は味の予測がまだ鈍くて。ブラックペッパーの面積が多すぎて、食べたら「あ、辛い!」って(笑)。
なんとかチーズを乗せて食べましたが、食材の味の魅力と見た目の魅力が両方とも最大化できないと食材の魅力を表現するとは言えないなと。この両立は大事にしています。

納豆トースト。大好きなからしは、色合い的にも味付け的にも重要な食材

色とりどりの胡椒で描いた作品は、イタリアの建築家、グラフィックデザイナーのフランコ・グリニャーニをオマージュした。味覚が食材の魅力を映すと、反面教師となり教えてくれた作品でもある。

Q. 佐々木さんのように美しく表現するのは難しいですが、食材の魅力の再発見や楽しく美味しく食べるという目的であれは、私たちにもできそうな気がします。

ぜひやってみてください。インスタを見た方から、「技巧的にすごい」と言われることがありますが、それは伝える手段であって、身近にある食材と向き合うという本質の目的は、生活の延長にあります。アートって言うと「ちょっと私には」とか「知識がない」とか壁を感じる方もいらっしゃいますが、私は日常と非日常の扉を開ける行為こそがアートだと思っています。
できれば、食材をじっくり観察してときめく喜びを感じて欲しいです。観察には、気持ちが華やぐ、あるいは落ち着く瞬間が必ずあります。それは心の健康にとってすごくいいはず。

表現するときに大事にしているのは、魅力をあえて一つに絞ること。食材一つひとつにたくさんの魅力があるのですが、それを全部拾おうとすると散漫になってしまうんですよ。
例えばブロッコリースプラウトを使ったトーストでは、色のグラデーションに着目しました。スプラウトは1本だけ見ると単調な白に見えがちですが、たくさん並べると本来の色が見えてきます。それに角度を付けて切り返すと、光の反射角が変わって色がより豊かに見えてくる。そういったふうに、伝えたい魅力を一つに絞って、魅力が最大化するように見せ方を考えています。

スプラウトを用いたトースト。茎を並べてできるグラデーションが美しい。

苺の断面の白い線が美しく感じて並べたトースト

カレー粉のベースに、ヤングコーン、ラディッシュなど野菜のごろごろ感がキュートなトースト

たらこマヨのツブツブ感のあるベースに描かれた、ディック・ブルーナさんの代表作ミッフィーをオマージュしたトースト

あと、いくつか気をつけていることもあります。
例えば、食材は自らペースト状にはしないとか。ゴロっとした固形感が食材の魅力だと思っているので。なので、食材単体がどのくらいの大きさなのかが想像できる程度に、形をとどめるようにはしています。水分量もすごく大事です。周りの食材に移ったりしますので。例えば海苔は水分ですぐ歪んじゃうので扱いには気をつけています。室温にも注意しています。あまり温かいとサワークリームが溶けてしまいますし、食材の鮮度が落ちますからね。

食べることは原点。アートであり食べ物であるということを大切にする。

Q. 投稿した作品も200を超えていますね。いま、制作の原動力になっているのは何でしょう?

トーストアートは、私にとっては生きるために必要な呼吸。何か作っていないと具合が悪くなっちゃうんです。一週間何も作らないと、窒息みたいな感覚で、精神的にもきてしまうので、生きるために作り続けます。

私自身は、コロナが落ち着いたら海外のローカルスーパーで買った未知の食材で朝食を作るという旅に出たいですね。その食材は現地の人にとってはお馴染みのものだけど、私の眼には非日常に映る。現地の人にとって、仕上がったトーストは日常に映るのか?そうした日常と非日常のグラデーションに興味があります。それができる日が早く来て欲しいなと願っています。

(後編 了)

撮影 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店

佐々木愛実さん

佐々木愛実(ささき・まなみ)さん
デザイナー/アーティスト
1992年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業。アーティスト、デザイナーとして活動。「朝食で感受の扉をひらく」をミッションに、青果物の美しさを「発見→表現→消化→共生」のルーティンに込める朝食習慣をもつ。これまで見過ごしてきた青果物が持つ魅力に目を見張り、日常の景色が解像度高く見える瞬間を、日々アップデートしている。この活動が国内外で話題となり、ABC News、VOGUE、The New York Times、ELLE、designboom、NHK、SBS Newsなどの様々なメディアで取り上げられる。

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