Because, I’m
「かわいい❤️」イラストレーター 後編
「かわいい」に宿る魔法
たけいさんが自分自身と向き合うきっかけとなったのが著書『お姫様になれる本』。この本で伝えたかったのは、すべての人が確実に幸せになるための「生き方」だという。お姫様としての生き方の鍵は「かわいい」にあり。そこには、幸せを引き寄せる魔法が宿っているという。その魔法とは?幸せになりたい人、必見です。
Q. 『お姫様になれる本』を書くうえで、「かわいい」とは何なのかを突き詰めて考えたそうですが、答えはありましたか?
あるとき、渋谷の山種美術館で催された『Kawaii 日本美術』という展覧会に行ったときのこと。伊藤若冲や上村松園など日本画家の子どもや動物などを描いた作品が展示されていて、日常のシーンの中にあるKawaiiがテーマでした。テーマにひかれて行ったものの、実際にはちょっとピンとこなかったんですね……。でも、一緒に行った妹が「超かわいい!」と叫んだのが掛け軸の絵。素朴な布袋さまを描いた作品でした。
布袋さまですから、まん丸のお腹を突き出したツルッ禿の神様。どこがかわいいのかなと。後で図録を見ていたら、「かわいい」の語源について考察した文章があったんです。そこには「かわいそう」が転じて「かわいい」になったと書かれていた。私にとっては衝撃でしたね。
Q. 「かわいそう」には、あわれみだけじゃなく、愛しさもあるということですね。
「かわいそう」が転じて「かわいい」になるなんて……! そういえば私の夫は、昔からドジな人で、失敗を隠せないタイプだから、ハタから見てかわいそうな状況になりやすい。『シンデレラ』実写版を一緒に観たときは、映画館から出てもまだ感動のあまり嗚咽していたくらいです。でもいま私は、そんな夫のことを「かわいい」と感じている。
そう考えたとき、かわいそうと思えるものは、かわいいと思えるのかもしれないと。
たとえば、昔は男性全般に対してもかわいいとは思えませんでした。中年のおじさんなんて、特に苦手。背広の裾がほころびているとか、なんかヨレヨレしてだらしないなとか。
でも、そういう姿もジーっと見つめているうちに、「かわいい」と思えるようになり(笑)。
決定的なのは虫です。私、虫が子供のころから大嫌い。こんなこと言っていいのかわからないけど、内心では全ての蛾を一か所に集めて抹殺したいくらいに思っていました。でもそれって戦争をするときの、人の恐ろしい心理と同じですよね。
あるとき、毛虫を見つけて観察してみた。すると、けなげに生きている姿にどこか憐みを感じたんです。ジーっと見ているうちに、「かわいい」となった。そうやっていろいろな虫を見てみると、みんなかわいく感じるようになる。クモなんて手に乗せても平気になりました。虫もそうですが、動物でもそれまで描くのは全部、ウサギとか猫とか、かわいい動物ばかりで、豚とかあり得ないと思っていました。でも、「かわいい」と思えたからこそ、イラストでも描くようになれたんです。
かわいくないものをとにかくジーッと見てみよう、です。あとは、自分が嫌いと思っているものでも、好きな人が必ずいるということを知るべき。だから、好きな人に好きな理由を聞くといいんです。
ある女性は「ブサかわいい」がストライクゾーンだと言う。ぷっくり太った猫とか、お腹を出して寝ているおじさんとか(笑)。私の中では、「ブサかわいい」なんて許せない感覚があったけれど、その人の「かわいい」ポイントを教えてもらうことで、自分も見方が変わってくるんですね。
愛おしい=かわいいと思えるものが増えていくうちに、心も豊かになっていくような気になるんです。
Q. これまでに意外な「かわいい」の発見もありましたか?
おじさんたちにも「かわいい」と感じるものを聞いたところ、ある人は「鉄道の音」と答えました。その人は好きな電車が走る音をiPhoneで録音して聴くと、その音も愛おしく思えるといいます。さらに「匂い」に反応する男性もいて、その人は飼っている子猫の鼻の辺りを嗅ぐと「かわいい」と感じるのだとか(笑)。なるほど、「かわいい」は形あるものだけじゃないんですね。
私もいい匂いやいい香りが大好き。お気に入りのポプリを置いたり、引き出しの中にサシェをしのばせたりしています。また、幸せな記憶を呼び起こす「思い出の香り」もありますね。たとえば、下校時間の帰り道の雨の匂い、お母さんが焼いてくれたプティングの匂い、好きな人がつけていた香水の香り……。あなたの大切な記憶と結びついた思い出の香りは、あなたにとっての愛おしい香りです。
さらに「音」にも魔法の力があります。音は波動なので、ダイレクトに身体や心に響くのです。私が住む北杜市は八ヶ岳の麓で豊かな自然があります。車で少し走ると湧き水があって、はずんで踊るような水の音を聞いていると、とても浄化されるような感覚になります。小川のせせらぎや虫の鳴き声、小鳥たちのさえずりも愛おしく感じる音です。
日常の中にあふれている「かわいい香り」や「かわいい音」。それを意識して自分に吸収していると、小さなときめきや幸せをたくさん感じることができるのです。
Q. たけい流「かわいい」の魔法について、まとめをお願いします。
その1. まずは自分が「かわいい」ということに気づきましょう。
女性も男性も、あなたは、親、恋人、友達など誰かにとって絶対的に「かわいい」存在なんです。自信をもってほしいのです。かつては、私も誰かと比べては、自分にダメ出しをしていました。でも、あるときヨガの先生に言われたのは、「24時間自分と一緒にいるのは自分自身。もしそのいちばん近くにいる人が、自分を否定し続ける人だったらどう思う?」と。その言葉にはっとして、自分をほめることを心がけるようになりました。
その2.「かわいそう」が転じて「かわいい」になる。
ちょっとキモチわるい、不細工だからと避けていたところに、実は「かわいい」に転じる要素が隠されています。私も虫が大嫌いだったけれど、今は好きになってむやみに殺しちゃいけないと思う。誰かにとって大切なものかもしれないという視点を持つようになると、それを守りたい、大切にしたいという気持ちが湧いてきます。
その3. 「私なんてかわいくない」と思い込まない。
そんな風に思っていたら自分を大切に扱えません。だから、自分に対しても厳しいことをしてしまうのです。私もずっと痩せているのがかわいいと信じていたから、苛酷なダイエットを続けていて辛かったときがありました。今思えば、あの頃は呪いにかかっている人生だったかなと(笑)。
その4. 誰でもお姫様になれる。
私自身も「お姫様」はどこか別世界に生きる特別な人、お姫様だからこそハッピーストーリーを歩めると思っていました。けれど、私たちは誰もが、ひとり一人が主人公である物語を生きていて、幸せになるための鍵を持っている。「私」が主人公のハッピーストーリーを歩んでいけばいい。それが「お姫様」という生き方なのです。私もいろいろ失敗はするけれど、今はこの世界でいちばん応援したいお姫様が自分ですね。
その5.「かわいい」ものが周りにあると幸せな気持ちになる。自分にとっての「かわいい」を見つけましょう
(後編 了)
写真 sono
インタビュー 歌代幸子
編集 徳間書店