Because, I’m
厨二星人 前編
化学調味料的な音って分かりますか?
国内外で精力的な活動を続けるHIDEYUKI KATSUMATA氏。2017年に南米最大のアートフェスティバルで2000人の聴衆を前に講演を行い、2018年には香取慎吾氏による“NAKAMA de ART”プロジェクトに参加。2020年も世界で数々の展覧会が予定されていました(新型コロナウィルスの影響ですべて白紙状態)。そんな世界的アーティストが“音”にも一過言ありと知り、アートを離れたお話を伺いに、アトリエにお邪魔していました。コロナ直前、リアルにのんびりお話伺えた幸せな時間の記録。
Q. 今日は、本業のアートのお話ではなく、KATSUMATAさんが音オタクだと伺ってやってきました。
いやいや、そこまででもないですけどね。ある日、良いスピーカーを手に入れたら、好きなミュージシャンがギターを弾きながらトントンと足でリズムをとっている音まで聴こえてきたんですよ。え!こんな音まで入っていたのか、と驚いてしまって。それからステレオとかスピーカーとかに凝りだしました。
今は、スマホでもまあまあ聴けるし、持ち歩けるような小さなスピーカーの性能も高いですが、実は僕はそういうのはあまり好きではないです。なんというか、聴いて楽しいとか心地よいと思いやすいように、濃いめに味付けがしてある。化学調味料的に音が作られているんです。知らず知らずに癖になるけれど、なんというか、分かりやすい。もちろん、それが好きな人はそれでいいのだけど、そういうことも知らずになんとなく聴いているより、自分が本当に好きな音の方向性を決めて選んだほうが自分らしい好きな音が見つけられるんじゃないかな、と。化学調味料的なものもそうでないものも聴いて、その上でどちらかを選ぶのはいいけど、知らないうちにそれしか選択肢がないなかでチョイスをしているのはどうかな、と。
電気量販店なんかでもスピーカーの試聴ができるし、そんなに高いものでなくてもかなり音環境は変わりますよ。ほんの少し、こだわってみるだけで世界はひろがりますよね。
Q. アートを制作している時なども、爆音で聴いているんですか?
聴いている時が多いけど、別に音がないと描けないわけではないです。そんなにそこにコントロールはされていません。僕にとって一番幸せな時間は、やっぱり絵に没頭している時間なわけで。集中して描いている時は音が流れていても全然聞こえないんだけど、ふと悩んだり、手が止まった時に音楽が流れ込んできて、パワーをくれることもあります。
前に友人のタイのアーティストがレコードとステレオにはまっていて、僕が訪ねた時も明け方まで酒を飲みながら音楽を聴いていたんです。最初はよく分からなかったけど、自分が好きな音楽を好きなステレオシステムで好きな酒を飲んで座って聴いているのも幸せだよなー、とつくづく思ったんですよね。だんだん音の価値が分かるようになってきたのかもしれないですね。
Q. これまでに影響を受けた音楽は?最近はどんな音楽を聴いていますか?
そうだなあ、演奏の上手いバンドを聴いても影響は受けないかもしれない。良いな、かっこいいな、上手いなとは思うけど。自分のメンタルの一番奥に刺さってくるのは、下手だろうがなんだろうが、アティテュードで共感できる人の音楽ですね。
実は、コロナで中止になってしまったけど、僕の準備していた最新展覧会のテーマは中二病だったんです。中二は、適当で見解の狭い意見を全身でわめき立てるけど、それは全てのモデルケースの一番最初の案になりうるし、正義と悪がしっかり存在する。実際のところは、そんなに簡単に正義と悪は分けられないのにね。なんだか今、僕はそんな中二をものすごくロマンチックに感じていて、自分がその頃に聞いていた音楽を聴き始めたりして当時の感じがワッと戻ってきてるんです。たとえば僕らの世代なら、ブルーハーツが流れていて、そこでワインなんかを飲んでいたら完全に中二に帰れる。
まあ、帰れるといいつつも僕は今も中二のままで、それを許されているという幸せな立場なんですよね。なかなか普通の大人は中二のままでいさせてもらえないですけどね。
話は、中二病の肯定へと展開していきます。コロナで世界がガラッと変わることを実感する直前と言えるようなタイミングで伺ったお話ですが、今、「普通の大人は中二のままでいさせてもらえない」という言葉が刺さります。逆に不安に包まれる今、人は正義と悪がしっかり存在する中二に戻っているのかもしれません。音の話題からかなり飛躍していきますが、その真意は後編にて。
(前半 了)
写真 河内露
インタビュー・校正 土本真紀(µ.)