Because, I'm Because, I’m<br>温泉紀行ライター 後編
Interview 11 / 飯出敏夫さん

Because, I’m
温泉紀行ライター 後編

知れば知るほど、「温泉」は人生の悦びである。

山から降りた後に入る温泉は、格別なり。

年間100日以上の温泉取材を行い、これまで訪ねた温泉地は3000湯以上にのぼる、温泉紀行ライターの飯出敏夫さん。前編では温泉にも本物と怪しい温泉があること、泉質よりも温泉のある場所と湯使いが大事だということなどを、教わった。そんな飯出さんがいまライフワークとして取り組んでいるのが「山と温泉」。山に登った後の温泉は格別なのだとか。その魅力をたっぷりと語ってもらった。

撮影協力:前野原温泉「さやの湯処」(東京都板橋区)

Q. 最近は「山と温泉」というテーマに取り組んでいるそうですが、どういうものですか?

学生時代から僕は山登りをして来ましたが、山から降りてきた場所、あるいは中腹にある温泉は、ほとんどが「自然湧出泉」だと気づいたんです。旅館は1軒とか2軒とかしかないところが大半で、家族で守り続けている、いわゆる秘湯系です。もちろん値段は高くないですからコストパフォーマンスもいい。設備やアメニティなどは期待すべくもないですが、確実に〈本物の温泉〉があります。

それに山は日本人にとって精神的な支柱だと思っています。そして温泉がある山というのは信仰の対象になっている山が多いんです。温泉は山に登る時や降りてきた時に身を清める役目も担っていたはずです。
そうした山に登って、その山をどう感じるか。そしてそこから降りた時に、あるいは出発する前の日に、登山口に一番近い温泉宿に泊まって、そこの温泉に入った時にどう感じるかというのを、深田久弥さんの名著「日本百名山」にちなみ『温泉百名山』という名でまとめたいと思っているんです。

Q. そんなに山に登った後の温泉は格別ですか?

もう全然違いますね。なんというか、もう、本当に格別としか言いようがない。だからあまり山に興味がない人も一度登ってみて欲しい。そして登って降りて、温泉に入ってみて欲しいですね。絶対に「最高だ!」と思うはずです。

また、登山というのは内省的なスポーツで、苦しい思いをして登りながら、頭の中では自分の来し方行く末を考えたりする。忙しい現代人にとってそうした時間は貴重です。そうした過程を経て、ようやく登頂できたという達成感と疲労感を抱えながら、熱い湯に身を鎮める。その時の開放感たるや……うーん、やっぱり格別としか言えませんね(笑)。

温泉はそうした山の恵みでもあります。特に東北の山はブナ林がすごく美しくて、6月初めの新緑の季節に登ると、そのブナ林が地下に貯めた水が、温泉にそのまま流れているな、と実感しますね。

温泉とは山からの恵みだと語る。(さやの湯処にて)

Q. 初心者にもおすすめの「山と温泉」はありますか?

東北だと岩手と秋田をまたぐ「秋田駒ケ岳」ですね。この山は「花の百名山」とも呼ばれていて、高山植物がすごいんです。岩手側の登山口に「国見温泉」、秋田側に「乳頭温泉郷」と、どちらも日本屈指の名湯があります。国見温泉は僕が温泉にのめり込むきっかけになった鮮やかなグリーンの温泉です。乳頭温泉郷にはいろんな泉質の温泉が7湯あって、1湯1施設で全て自然湧出。乳頭温泉郷からは手前の田沢湖高原から秋田駒ヶ岳8合目までバスが通っているので、そこから2時間ぐらいで山頂まで登れます。乳頭温泉郷から直接登れる山としては「乳頭山」もあります。それぞれの温泉から登山ルートをとることができるので、好みの温泉に泊まって、頂上を目指すのも良いでしょう。

乳頭温泉郷「黒湯温泉」の露天風呂(撮影・飯出敏夫)

秋田駒ヶ岳(男岳)の山頂に立つ飯出さん。

関東だと、小諸市の高峰高原にある一軒宿「高峰温泉」ですね。標高2,000mのところにあって、そこからだと「東篭ノ登山」の山頂まですぐです。その山自体は「日本百名山」には選ばれていないんですが、超快晴の日には頂上から30座ぐらいの日本百名山を見渡せると言われています。高峰温泉をベースにすれば、日本百名山の浅間山を正面に見る「黒斑山」も簡単に登れます。高峰温泉には山岳ガイドの資格を持ったスタッフがいて、泊まると池の平湿原、黒斑山、高峯山などに案内してくれるプランもありますよ。そして、その宿の「雲上の野天風呂」はまさに絶景です。

高峰温泉の露天風呂。標高2000mの温泉は景色も最高。

西日本は、日本百名山が少なく、特に中国地方は大山しか入ってないので、「それじゃあちょっと寂しい」ということで「蒜山」と「三瓶山」を選ぼうと思っています。三瓶山の中腹には「三瓶温泉」や「小屋原温泉」という、非常に特色のある自然湧出の温泉があって、知る人ぞ知るというような、とてもいい温泉地です。三瓶温泉をベースにすれば、三瓶山は誰でも楽しめる山であり温泉なので、ここはおすすめですね。

三瓶温泉は個性的な茶色の湯。写真は共同浴場・鶴の湯(撮影・飯出敏夫)

Q. 最後に、自分にとって「最高の温泉」を見つける方法を教えてください。

やはり自分の肌に合った泉質の温泉を探して入るのが一番じゃないですかね。例えば美肌の湯の代表格といわれているのは「炭酸水素塩泉」。昔は重曹泉と呼ばれていて、肌の古い角質を溶かして肌を蘇生させる効果があります。入るとガツンと来るのは「硫黄泉」や「酸性泉」ですね。日本で一番多いのは「塩化物泉」で、保温効果が高く、湯冷めしないのが特徴です。

面白いもので、若い時と歳をとってからでは好みも変わるんです。私も若い時は硫黄泉や酸性泉などガツン系の温泉が好きでしたが、今は肌にやさしい単純温泉が好きです。単純温泉は源泉温度25℃以上で、温泉水1kg中に含まれる成分が1000mgに満たない温泉をいうのですが、成分が薄いから効能が低いということではなく、多様な成分がまんべんなく含まれているので、刺激が少なくデリケートな肌の人におすすめなんです。

中でも今一番好きな単純温泉は箱根の「姥子温泉・秀明館」。ここは金太郎の眼病を直したという伝説のある箱根八湯の番外の名湯で、箱根の関所から離れたところにあります。実は私、ここのお湯に助けられたことがあるんです。10年ほど前ですが、抗がん剤の影響で体中に湿疹ができて苦しんでいた時に、ここの温泉に通ったらすごく良くなったんです。少し酸性なので、殺菌力もあると思います。肌に刺激はないんですけどね。もちろん自然湧出。
不思議な温泉でしてね、雨が降ったり、雪解けの時は、岩盤から白糸の滝みたいにお湯が毎分3,000ℓぐらい溢れ出てくるんですが、雨が止んで晴れ間が続くとピタッと止まっちゃうんです。止まった時はしょうがないから、掘削した温泉の方を使うんですけどね。

神々しさが漂う箱根の姥子温泉・秀明館の浴場(撮影・飯出敏夫)

当然、自分の肌に合う温泉の方が健康効果もあると思いますよ。そして色々な温泉地に通っているうちに、常宿にしたい旅館ができてくるんです。温泉もいいし、場所としてもくつろげるという。後は宿代というコストパフォーマンスを考えながら、自分のお気に入りの温泉と温泉宿を探すというのが、温泉の究極の楽しみ方なんじゃなかなぁ。

温泉の特徴(泉質別)

  • 単純温泉(やさしい湯) 刺激が少なく、多様な成分がまんべんなく含まれる。
  • 塩化物泉(熱の湯)  海水の成分に近く、なめると塩味。保温効果が高く湯冷めしない。
  • 炭酸水素塩泉(美肌の湯) 皮膚表面をやわらかくし、肌をすべすべにする。
  • 硫酸塩泉(傷の湯)ケガ、かゆみに効果がある。肌を蘇生する作用がある。
  • 二酸化炭素泉(泡の湯) 血管の拡張作用で血流がよくなり、よく温まる。
  • 含鉄泉(赤褐色の湯) 貧血症、更年期障害、湿疹などに効果がある。
  • 硫黄泉(万病に効く湯) 硫化水素臭が鼻をつく温泉らしい温泉。万病に効く名湯といわれる。
  • 酸性泉(殺菌の湯) 殺菌作用で皮膚病に卓効があるが、刺激が強く長湯は禁物。
  • 放射線泉(鎮静の湯) 微量の放射能を含むラジウム温泉。痛風などの痛みをやわらげる。
  • 含よう素泉(モール泉の湯) 湧出時に植物性の腐食物質が多く含まれる、レアな温泉。

 

(後編 了)

写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店

<撮影協力>
前野原温泉 さやの湯処(東京都板橋区前野町3-41-1
板橋区前野町にある温泉施設。うぐいす色をしたにごり湯の、源泉かけ流し露天風呂が人気。泉質は、弱アルカリ性、塩分濃度の高いナトリウム塩化物強塩温泉。
温泉マニアたちお墨付きの湯で、東京にありながら本物の温泉が楽しめる。
https:// www.sayanoyudokoro.com.jp

飯出敏夫さん

いいで・としおさん/温泉紀行ライター
温泉と温泉宿に絞った取材・執筆・編集の活動を始め30年余。年間100日以上の温泉取材を行い、訪ねた温泉は3000湯以上にのぼる。著書に『名湯・秘湯の山旅』(JTBパブリッシング)、『旅の手帖mini 達人の秘湯宿』(交通新聞社) などがある。TV「秘湯ロマン」監修ほか、情報番組出演も多数。厳選した名温泉を紹介するウェブサイト
「温泉達人コレクション」(http://onsen-c.com/)を運営

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