Because, I’m
坊主バー店主・僧侶 後編
大丈夫、みんな救われますよ。
ユニークなコンセプトで、国内のみならず海外にも知られている「坊主バー」。店主の藤岡さんは開店当時、この店をいわば布教場として仏の教えをお客様に伝えて来た。仏教初心者にとっての水先案内人だ。身近なようで身近ではない、知っているようで知らないのが仏教の存在。興味はあるけれど、どこから入れば良いか分からないという人のために、その世界のトビラを藤岡さんに開いていただこう。
Q. 仏教は宗派がたくさんあって、普通は代々の家の墓の宗派ということになるのですが、自分自身で選んでもいいのでしょうか。
もちろんです。本来仏教に檀家制度というものはなく、江戸時代にキリシタンを排斥するためや戸籍を管理するために幕府がつくったものなのです。それ以来、人々はどこかのお寺に所属しなければならなくなり、また家の宗派を受け継ぐのが風習になったのですが、そうなるとお寺の側も檀家の葬式や法事などの儀式儀礼で忙しくなり、本来の心の拠り所的な機能を失っていきました。そのことがお寺に気軽に行けなくなってしまった背景にあるのかもしれません。
仏教ですが、大まかに「自力」と「他力」に分けることができます。
「自力」は自分の力で悟りを開くということ。煩悩を滅して悟りを開く。座禅を組んだり、荒行して滝に打たれたりするのが修行です。
「他力」は煩悩を捨てられないことをとことん自覚し、ブッダ、つまり仏様という大きな存在に身を委ねるというスタンスです。私の宗派である浄土真宗がこれになります。
やることは、とにかく南無阿弥陀仏と念仏を唱える。南無阿弥陀仏はサンスクリット語で、「ブッダに全てをお任せします」という意味です。
浄土真宗は他力の中でも“絶対他力”といって、念仏を自分の力でたくさん唱えれるわけではなく、「信」を得ることを大切にするのです。阿弥陀様が私たち罪業深重の凡夫を必ず救うと誓われたその願いを聞かせていただき、素直に「南無阿弥陀仏」と口からこぼれ落ちた瞬間が救われるときなのです。“信心を得る”っていうんですけどね。だから座禅などストイックなアプローチが好みであれば「自力」、自分の力ではどうにもならないと自覚するならば「他力」の道もあるのです。
Q. 坊主バーに飲みに来る以外に、おすすめの“入門”方法はありますか?
お坊さんの説法を聞いてみるとよいですよ。
お寺ごとに色々な行事を行っていますし、いまはたくさんのお坊さんが、You tubeなどに、説法の動画をアップしたりしてますから。あとはやはり本ですよね。中古になりますが昔の素晴らしい仏教書を手軽に買うことができます。私は仏教について学びたいというお客様にはいつも本を紹介しています。
おすすめは、坂村真民さんの「生きてゆく力がなくなる時」、柳宗悦さんの「妙好人集」、鈴木大拙さんの「妙好人」、この3冊です。坂村さんは詩人ですが、大変な苦労をして仏教に目を開いていった方なので、お坊さん以上に仏教感を持っているところに惹かれますね。何か悩んでいる方がいらしたら、これをすすめるようにしています。
柳宗悦さんの「妙好人集」と鈴木大拙さんの「妙好人」は、ともに教えによって信を得た〈妙好人〉という市井の人のことを記した伝記です。一般の人たちがどう仏教と向き合っていけばよいか、とても参考になると思います。民芸活動で知られる柳宗悦さんですが、ご自身が病気で倒れて苦しい時に、この妙好人たちの言葉に救われたとおっしゃっています。
Q. 自力にせよ、他力にせよ、仏教を学べば悩みは無くなるのでしょうか?
うーん、そうですね。一歩踏み込んでいうと“悩みは解決されない”ですよ。悩みは解決されなくても、「まあいいや」と言って生きていけるのが人間の本来のあるべき姿です。
わかりやすくいうと“あるがままの生活をあるがままに受け止めてられる境地に向かっていく”ということ。そこには自分を差し挟まない。
でも人間は色々思い煩いますからね。これは良いのか悪いのか、損なのか得なのか、いろいろ比べて……。でもそうではなくて、仕事でも日常でも何でも、今日頂いたものは今日頂いたものでありがたい、そのままを授かるという心境になることです。
人は死んだら阿弥陀仏の極楽浄土に行って仏になることだと言われますよね。しかし、親鸞は「平生業成(へいせいごうじょう)」といい、この日々の暮らしを捨てて、極楽浄土はなく、日々の暮らしこそ極楽浄土から照らされている、かけがえのないものだということです。もちろん、病気にかからないわけではないし毎日が幸せというわけでもない。でも「それでいいんだ」と思える境地にたどり着くことはできます。
つまりは、自分の心次第なのです。自分の行いは全て自分に返ってくるというのが仏教の教えですから、私がお伝えしたいのは、「大丈夫、誰もがみんな救われますよ」ということです。小難しく考えなくても、必ず救ってくれるものがあるのです。それに身をゆだねて一緒に救われていきましょうということです。
いまの世の中、人間関係でのストレスも多いですから。人にも自分にもやさしくなって、「もっと楽に生きましょう」というのが正直な思いです。
藤岡さんが坊主仲間と結成した、「坊主バンド」のライブから「煩悩ファンク」 VOWZBAND「BONNOU funk」
(後編了)
写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店
【坊主バー】
東京都新宿区荒木町6
営業時間 19:00~(変更あり)
定休日 日・祝祭日
TEL:03-3353-1032
WEB:http://vowz-bar.com/
Twitter:https://twitter.com/yotsuya_vowzbar