Because, I'm Because, I’m<br>歴史領域起業家 後編
Interview 19 / 深井龍之介さん

Because, I’m
歴史領域起業家 後編

知れば知るほど、歴史は生きるヒントである。

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歴史から何をどう学ぶかが大切。

歴史は、決して将来を予測するものではないと深井さんは言う。とはいえ、膨大な情報の宝庫である歴史を知ることで、そこから得るヒントは大いにある。そのためにも普段から歴史に慣れ親しんでいきたいところである。そして、歴史から何を学び、どんな風に生きるヒントを拾っていくべきなのか。歴史という広大な森への一歩の踏み出し方を訊いた。

Q. 歴史といえば一般的に身近で人気なのが大河ドラマですが、ドラマの筋書きはどうでしょう、美化され過ぎているのでは?

大河ドラマはあまり見ないんです。たまにしか。あ、でも『龍馬伝』は最後まで通して見ました。
そうですねー、確かに美化され過ぎだなとは思います。主人公がこれ全部やりました、みたいに描かれてるけど、本当は全部はやってないんだよな~とか(笑)。

でも、ネタバレしていてもなお面白いのが歴史なんです。
結果を知っているスポーツの試合を録画再生してもあまり面白くないでしょう。でも、歴史はちがう。たとえば、「イイクニつくろう」と覚えた鎌倉幕府の成立が、実は1192年ではなかったとか。すりこまれていた事実が一夜にして真実ではなかったとわかっても面白いんですよ。
だから、史実のまま伝えても、十分面白いと思うんですけどね。

COTEN RADIO』で気をつけているのもそこです。歴史を勉強していると、どんなに英雄と言われる人でも絶対に弱い部分があって、例えば性格が超悪いとか、つまり完璧な人間は存在しないことがわかるし、それが人間の本当の姿だと思うからです。
たとえば、歴史的なカリスマリーダー織田信長は現代の社会におきかえると、ダメ上司の典型です。パワハラ、モラハラ全開ですから。中国の戦国時代に中華統一を果たした偉人、秦の始皇帝も猜疑心から気に入った部下としか話ができず、他の部下たちをどんどん抹殺してしまう。まごうことなきクソ上司と言えます。
歴史上の優れたリーダーを見渡してみても、部下の視点に立てば名君なんて1%以下です。いい上司なんて数えるほどしかいません。

それでも最近は、史実に基づいた歴史ドラマや映画、ドキュメンタリーが増えてきているな、とは思います。
例えば、オスマン帝国の皇帝・メフメト2世を描いたNetflixオリジナルのドキュメンタリードラマ(編注・『オスマン帝国 皇帝たちの夜明け』)なんかは、特に英雄視もしてなくて、結構史実にのっとってますね。
言語が英語なのだけは違うなと思いましたけど(笑)。

歴史という長い時間軸を全体感でとらえる思考を手に入れると、自分も含めた現実を相対化して理解できるようになる。

Q. もし深井さんが大河ドラマを創るとしたら誰を主人公にしますか?

長宗我部 盛親(ちょうそかべ もりちか)ですね。戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した土佐国の大名、長宗我部元親(もとちか)の四男です。

元親は名武将としてブイブイ言わせてた人で、四国平定という偉業を成し遂げたし、誰からも尊敬されていました。そんな元親が望みを託していたのが長男の信親(のぶちか)。やはり誰からも尊敬されていて、父親以上に何かを成し遂げると将来を嘱望されていましたが、若くして戦死してしまうんです。
その代わりに跡目を継ぐことになったのが四男の盛親。全く準備もしていなかった上、父の元親が死んだ瞬間に、関ヶ原の合戦が起こってしまうんです。
当然ながら、大名として軍団を率いるスキルもマインドも持っていませんでした。そこに日本史上最大の決戦が起こったわけですから、当然のごとくめちゃくちゃ失敗するんです。戦闘にすら参加出来ずに敗走して、所領も全部奪われて、大大名だったのに、寺子屋の先生になっちゃうんですよ。
だけどその15年後、大阪冬の陣、夏の陣で華々しく戦うも、最期は捕らえられて散るんです。それまでの間に何があったかは明らかではないのですが、関ケ原の戦いでズタボロになった状態から、解散させられた家臣たちと再び一致団結し、武将にとっての檜舞台である戦場に上がることになったのですから、すごいドラマがあるはずなんです。

そのドラマのテーマは、「自尊心」や「自己肯定感」ということになると思います。
ドン底まで落ちた状態から、いかに自尊心を回復させていって、生きる目標を見つけ、そして再起するのか。その経緯をたどることは、現代人の悩みを解決するためのヒントになると思うんですよね。

もし自分が大河ドラマを創るとしたら、長宗我部盛親の生きざまを描きたい。テーマは「自尊心」や「自己肯定感」になると思う。

Q. そんな大河ドラマ、ぜひ見てみたいですね。さらにお聞きしたいんですが、日本の首相で歴代最も素晴らしかった人って誰ですか?

答えづらい内容ですが、そもそも現代の民主制って西洋の発明なんですよ。だから、それをそのまま日本に持ってきて機能するのかっていう疑問が前提としてあります。
結論としては、西洋ほどうまく機能してない、と個人的には思います。だから明治以降の日本の首相たちが、イギリスやアメリカのような西洋の民主制国家の元首らしくふるまえたかというと、僕は微妙だと思います。

そもそも、近代以降の政治家には必須の条件があって、それは「スピーチが上手くないとだめ」ということなんですが、典型的なのがヒトラーです。彼には、軍師としての才能も、政治家としての才能もなかった。彼が突出していたのは演説の才能だけです。
スピーチが上手いことで活躍した近代以降の日本の首相は、僕が知る限りいません。つまり、日本の首相で歴代最も素晴らしかった人は「いない」という答えになります。

Q. となると、日本にとって一番合う政治形態の時代はいつだったのでしょう? やはり一番長く続いた江戸時代でしょうか。

時代というか、日本人が集団で最もパフォーマンスを発揮できるのは〈トップのリーダーシップが全く機能しない状況〉に置かれた時だと思います。
例えば戦後の荒廃した土地で、自分たちで何としなきゃいけないとそれぞれが思って立ち上がったとき、あるいは東日本大震災の被災地で、それぞれが相互扶助しなきゃと助け合ったときが、まさにそれです。
どちらも、既得権益を超えた、社会に利する動きを民衆がしたわけですが、その時に全体を指揮するリーダーはいませんでした。ということは、何をしなければいけないかという課題認識が完全に一致していれば、日本人に政治形態はおろか、リーダーすら必要ないと言えるかもしれません。

歴史から学ぼうとするときに、一定の時代から何かの具体的な方法を学ぶということでなく、歴史を通じていろいろな時代やいろいろな社会を見ることによって、今の僕たちの社会はどんな特徴を持っていて、なぜ今こういうことが起こっているのか、ということを類推することができるようになることが重要です。現代との価値観の違いを知って、「比べる」ことが大事なのです。

なので歴史を勉強したいと思ったら、ドラマからでも、映画からでも、それこそ『COTEN RADIO』からでもいいので、一つ好きな時代や人物を見つけ、そこから横方向に広げていくのがいいと思いますね。
具体的には同じ時代の異なった社会を比べてみること。例えば日本社会と中世ヨーロッパ社会、中国といった感じです。

実は徳川家康と、イギリスのエリザベス一世ってほぼ同時代の人なんです。
だから家康が関ヶ原の戦いをやっている時、エリザベス一世は何をやっていたのか? なんてことを調べるだけでも十分勉強になります。そういうことを繰り返していくと、さらにいろいろな疑問が湧いてきて、知識が体系的につながっていき、結果それまで見えていなかった景色が見えてくると思います。

まあ、そこまでたどり着くにはだいぶ勉強しなければならなくて、だからデータベースを作ろうとしているわけですが。
歴史を学ぶこと自体は本当におすすめです。自分の生き方を考えるヒントをくれ、未来を切り拓いていく上での道しるべに必ずなってくれるはずですから。

キング・オブ・日本史 織田信長 ~本当のとこ、どうやったん?~【COTEN RADIO #185

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(後編 了)

写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店

深井龍之介さん

ふかい・りゅうのすけさん
歴史領域起業家。島根県出雲市出身。九州大学文学部社会学研究室を卒業。新卒で入社した大手電機メーカーの経営企画を2年で退社し独立。新規事業立ち上げコンサルタントとして3年働く。その後福岡でベンチャー企業取締役を2社経験し、株式会社COTENを起業。現在も複数社のスタートアップ・ベンチャー企業の取締役を兼任しながらCOTENの代表を務める。人文学・歴史・社会科学が大好き。3,500年分の世界史情報を体系的に整理し、200〜300冊の本を読んで初めてわかるような社会や人間の傾向やパターンを誰でも抽出できるよう、世界史の一大データベースを作成するプロジェクトを進行中。また会社の広報活動として、Podcastで「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO」を放送中。2018年末から開始し、2019年にはJapan Podcast Awards大賞とSpotify賞をダブル受賞、Apple Podcast総合ランキング過去最高1位を獲得した。
株式会社COTEN https://coten.co.jp/

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