Because, I'm Because, I’m<br>猟師 前編
Interview 25 / 元満真道さん

Because, I’m
猟師 前編

知れば知るほど、ジビエは滋味深い。

命をいただくありがたさを伝えたい。

岐阜県郡上市明宝地区。明宝高原の山々がそびえる緑豊かな地区だ。ここで、野生動物の捕獲から解体、加工、商品開発までを行う「ジビエ工房めいほう」の工房長を務める元滿真道さん。彼女は女性としては珍しい罠猟の猟師でもある。生まれも育ちも福岡県だが、約8年前、遠い親戚の介護で訪れたのをきっかけに、豊かな自然に魅かれてそのまま居着いたという。「まさか自分が猟師になるとは思ってもいなかった」と当時を振り返る元満さん。この地でジビエに出会うまでは、なんとベジタリアンだったとか。今では毎日山へ出かけ、野生動物を見回る日々を送る元滿さんのライフスタイルに迫る。

Q. まずは罠猟について教えてください。

まず山に罠を仕掛けるのですが、山に入り、まずあちこち歩きまわります。私が行くのは里山より少し奥深いところ。動物の足跡や木につけた爪や角の傷跡、草を噛んだ跡などを巡って、絶好の場所を探していきます。山ごとの地形や谷の様子も大切な要素になります。仕掛ける場所を決めたら、だいたい直径が12センチほどの穴を掘って、括り罠という底板がついた罠を隠します。
括り罠には、ワイヤー紐の輪が仕掛けてあり、その一方を2メートルほど離れた木に結びつける。すると鹿が底板を踏み込んだ瞬間に輪が締まって足が抜けなくなり、木につながれた状態になります。

岐阜県郡上市では、現在、ハンターの減少などにより、二ホンジカやイノシシが増えて山の生態系や農林業への被害も拡大している。そのため市では捕獲を推進している。(写真提供/ジビエ工房めいほう)

罠はひとつの地域で20基ほど設置します。罠の見回りは一年中ほぼ毎日。年間の工房での処理頭数は鹿だけで200頭くらい。天候や食べ物の状況によっても違いますが何頭も罠にかかっている日もあるんです。大変なのは運搬。基本的に生け捕りだから、暴れたりもします。抱えて山を降りてから軽トラックにのせて運ぶのですが3頭くらいが限界で、ぎゅうぎゅうに乗せて工房で降ろしたら、スタッフに任せてまた山へ戻ることの繰り返しです。

“括り罠”。この板を動物が踏むと木につながれたロープが足をギュッと締める仕組み

体力的に辛いのは、100キロ級の獲物がかかったときですね。縛ってソリに乗せて引っ張っても重くてなかなか動かず、一歩進むのも20センチくらい。林道まで100メートルほど距離がある時は、1、2時間かけて運び出しました。

それでも私は、罠猟にはこだわっていきたいです。理由はやはり食肉を目的にしているから。鉄砲猟だと、弾が当たった箇所は焼けてしまうので、周りの肉が固くなってしまい、食肉には使えません。体内で血が肉に沁み、味が落ちてしまうからです。
動物たちをただ捕獲するだけではなく、決して無駄にすることなく、本当に美味しいジビエにして皆さんに提供するのが私の仕事。彼らの尊い命をいただくのですから。

足が罠にかかった状態の鹿と対峙する元満さん。すぐに罠を外して落ち着かせ、生きた状態で工房に連れて行く。(写真提供/百穀レンズ 田中佳奈)

Q. 山や自然への恐怖はありませんか? 

山道は慣れていても、さすがに恐怖を感じるのは雪が積もっているときです。山林の中には倒れている木があって、倒木が重なり合っている下に深さが23メートルの空洞ができていることがある。雪が積もっていると足場がよく見えなくて、その空洞に片足だけズボッとはまってしまうことがあるのです。あるとき、自分のあばら骨くらいまで右足が落ちて、どうにも動けなくなったことがありました。腰には鉈やナイフを携えているのですが、それを取ろうにも手を入れるスペースもなかったのです。

上からは雪が降ってくるし、周りの雪はカチカチに凍っているので叩いて削ることもできない。山中では携帯の電波も届かないので助けも呼べません。このままでは死んでしまうと思い、手を伸ばして枝をかき集めると、自分がはまっているところの隙間を少しずつ削って拡げていったんです。2時間くらいかけて、なんとか抜けだし、命拾いしました。
自然のもとではそうした危険とは常に隣合わせです。

でも、動物に遭遇することは楽しいですね。ウサギやタヌキ、リス、モモンガ、熊、アナグマなどいろいろな動物に出合います。私の姿を見つけて、びっくりしたリスが木の枝に昇ってクルンと一回転したり、生まれたての可愛らしいウリ坊たちがワーッと逃げていったり。アナグマが巣穴に潜ろうとするけれど焦って入ることができず、あちこちグルグル回って逃げていたり。もちろん彼らからすれば必死なのですが。

野生動物のパワーを感じることもあります。雪が降る中山奥に入った時に、山脈を超えていくイノシシのたくさんの群れを見たことがありますが、それこそ私が仕留められるよう個体ではなく、体がとても大きく郡上の獣らしい凄まじい迫力がありました。ここはそんな野生動物たちが暮らす地なのです。

獲物の確認はほぼ毎日。雪や雨などの山の悪天候にも関わらず、山をくまなく歩き回る。

Q. もともとアウトドアライフや自然の中で過ごすことが好きだったのですか?

九州にいた頃は子どものキャンプのボランティアをずっとやっていたのです。郡上へ移住した当初は、自然体験プログラムのインストラクターの仕事に就きました。その施設にはキャンプ場があって、子どもたちの林間学習を受け入れていました。

ある日、キャンプ場と山の境に置いてあった箱罠にイノシシがかかり、「解体してみたい人はいるか」と施設長に聞かれたのです。私はつい好奇心から「やってみたい!」と答えたら、他に誰も手をあげなくて、まさか一人でやる羽目になるとは! ほとんどを勘に頼って、血まみれになりながら6時間ほどかけて、何とか解体を終えたらもう夜中。へとへとに疲れきって寮の部屋へ戻りましたが、おなかも空いていたので、持ち帰ったお肉を焼いて食べたんです。するともう、味がどうこうというより、何だかすごく元気が出てきたのです。動物を自分でさばいて、内臓や血、骨や生肉を目の当たりにしたことで、「残さず大切に食べな、いかん!」と痛感。命の尊さを体感し、子どもたちにも伝えなければと思いました。

都会から訪れる子どもたちは、鳥や豚、牛などの肉といえばスーパーにパックで並んでいるものと思い、リアルな姿と結びつきません。だから、私たちが山で獲った獲物をさばいて食べてもらうことで、命のありがたさを身近に感じてほしい。そうした食育も重要なんじゃないかと思ったのです。

私が子どもに伝えるためにはあまりにも知識がなく、自分の感想ばかりになりそうだったので、もっと理論的に話したかった。ならば、狩猟免許を取るための勉強をすれば知識が深まるのではと考え、2ヶ月後の試験を目指して免許を取得。それが私の狩猟への第一歩でした。

こちらは箱罠猟と呼ばれるゲージを使った猟。鹿、イノシシ、アナグマなど、100キロ級の動物がかかることもある。

Q. 狩猟免許を取ったことで、ジビエ工房めいほうをつくる目標も見えてきたのでしょうか。

最初は、本業として猟師をするつもりはなかったのです。私はその施設を一年で辞めると、自然の中でゆっくり自分の生活を楽しみたくて、もう少し田舎の集落で一軒家を借りました。その家の横には川が流れ、近くに山があります。春には山菜を摘んで、夏は川で魚を獲り、秋にはキノコ狩りを。11月から狩猟期に入るので、山で鹿を獲って、自分で捌いて食べるという暮らしをしていました。

数十人しかいない小さな集落なので、女一人で暮らしている私の様子はすぐ知られてしまいます。庭先で解体した鹿を吊るしていると人の目を感じました。「あいつは何者だ?」と何かと噂になっていたのでしょう。その冬を越したとき、地域の人から声をかけられました。

当時、過疎地域で野生動物の被害が深刻になるなか、国から獣害対策への提示がありました。食肉として提供する取り組みに補助金が出ることになったのです。全国各地でいろいろなジビエの解体処理施設が立ち上がり、その中のひとつに「明宝ジビエ」というブランドがありました。
2014年に地域の住人と猟友会の人たちが「明宝ジビエ研究会」を設立。私も「ちょっと解体を手伝ってくれないか?」と頼まれ、「じゃあ、ちょっとくらいならいいですよ」と引き受けたのが始まりでした。「ジビエ工房めいほう」も最初は開設にも携わっただけだったのですが、最終的には工房長として私がやることになってしまって(笑)。

郡上の自然に魅せられ、狩猟の道へ入ったことで、自分の生き方も大きく変わりました。地域の方々と協力し合いながら、明宝ジビエは安全な処理で安心な美味しい肉であることを広く知ってもらい、どうしたらもっと食べてもらえるか、日々、奮闘する毎日が始まったのです。

(前編 了)

後編はこちら

撮影 藤田晃史
インタビュー 歌代幸子
編集 徳間書店

元満真道さん

元満真道(もとみつ・しんどう)さん
福岡県生まれ。岐阜市内に住む親戚の介護のために訪れたのがきっかけで、郡上を旅するなかで山や川の自然の美しさに魅了され移住。年間通して郡上の山に入り、獣害対策を含めた狩猟、加工による「明宝ジビエ」を発信。衛生面を徹底管理したHACCP認定施設として、安全な処理で安心な質の高い明宝ジビエブランドを提供している。また夏のハイピークには子ども向けの自然体験プログラムも主催。「狩猟体験」プログラムでは、郡上の人の魅力と自然の素晴らしさ、持続可能な里山の未来(SDGs)と猟師について子どもたちに伝えている。

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