Because, I'm Because, I’m<br>コーヒーマイスター 前編
Interview 28 / 篠原惟真さん

Because, I’m
コーヒーマイスター 前編

知れば知るほど、ハンドドリップコーヒーは心を満たす。

時代はハンドドリップコーヒーに

コーヒーの流行を振り返ると、過去に大きな波が3つあった。ここ数年は、サードウェーブの最中になる。ファーストウェーブはコーヒーの大量生産・大量消費によってコーヒーが大衆化した時代。インスタントコーヒーが登場したのもこの時代だ。セカンドウェーブは、スタバやタリーズなどのシアトル系ショップが次々にオープンした時代。豆にこだわり焙煎技術も進み、アレンジを施した深煎りコーヒーが人気となる。そしてサードウェーブの主役になったのがハンドドリップである。カフェではバリスタがコーヒーを11杯淹れる姿が珍しくなくなった。

ハンドドリップといえば、思い浮かぶのが、あのコーヒー器具メーカー……1958年の創業時、国内で初めてペーパーフィルターとドリッパーを製造し、日本にレギュラーコーヒー文化を広めたといわれるカリタである。そこで、カリタに勤務し、コーヒーマイスターでもある篠原惟真さんにお会いし、ハンドドリップコーヒーの魅力を抽出させていただこう。

Q. 最近は、ハンドドリップコーヒーが注目されているようですね。

そうですね。街中のカフェでいえば、サードウェーブ系とされるお店では、高品質の豆や自家焙煎にこだわっていて、バリスタがペーパードリップで1杯ずつ丁寧に淹れてくれる。
そういうお店が多くなり、ハンドドリップコーヒーの美味しさを知る人が増えてきたのではないでしょうか。また、日本には昔から喫茶店文化があって、ハンドドリップにこだわってきた歴史もありますし親しみやすさもあります。

ハンドドリップといっても器具はいろいろあるのですが、まずは皆さん、ご家庭では、シンプルなペーパードリップから始める方が多いです。弊社は、器具メーカーとして誰が淹れても安定した美味しさになる器具であるよう開発すると同時に、調整がしやすい自由度も大切にしているんです。たとえば、同じ豆を使っても、その日の気分によって濃厚にしたり、すっきりさせたり、ドリップの仕方でいろいろな味わいが出せます。さらに豆や焙煎方法を組み合わせれば十人十色の楽しみ方があるわけです。そのあたりがハンドドリップコーヒーの魅力だと思います。

カリタのショールームで語る篠原惟真さん。手にしたプラスチック製の透明なドリッパーが、昔もいまもお気に入りだと話す。

Q. ハンドドリップビギナーの私もぜひ美味しい一杯を淹れたくなりました。器具は何を揃えればいいのでしょう。

器具はいたってシンプルです。まずは、コーヒーを抽出するための「ドリッパー」と「ペーパーフィルター」が基本になります。それと、豆の量を計る「メジャーカップ」。もしコーヒー豆を自分で挽くなら「コーヒーミル」も用意します。
後はお湯を注ぐ「ケトル」と、抽出したコーヒーを受ける「サーバー」ですが、できればドリップ用に口の細くなっている「ドリップケトル」があるとお湯の量を調整しやすいですね。サーバーは、なければカップに直接コーヒーを受けてもOKです。

まずドリッパーですが、抽出口といって底にコーヒーが抜ける穴が開いています。カリタの場合は穴が3つあり、1つ穴のものに比べると、お湯を注いだときの抜けが良く、抽出スピードが速いんです。その分、お湯のスピードや量を調整しやすいので、慣れてくると自分好みにコーヒーの味をコントロールできるようになります。

コーヒーを抽出する基本セット、ドリッパーとペーパーフィルター。左側にあるのはウェーブ型、右は台形のベーシック型。どちらも美しい形状だが、決してデザイン優先ではなく、機能を追求した結果、この機能美が生まれた。

カリタのドリッパーとフィルターは、創業時からあるベーシック型とウェーブ型があります。
ドリッパーですが、内側を見るとリブといって溝があります。リブがあることで、お湯を注いだとき、ドリッパーとフィルターの間が密着せず、空気の抜け道ができ、抽出がスムーズに行われるんです。たまに、デザインを優先してリブを付けていないドリッパーもありますが、それだといつまでたってもコーヒーが落ちてきません。

ペーパーフィルターですが、実は紙の役割ってすごいんです。触っていただくとわかりますが、キメが細かいのに、目詰まりせずにお湯がよく通る繊維なんです。カリタでは、「命の紙」と呼んでいるぐらいフィルターにはこだわっています。
コーヒーって実は微量の油分を含んでいるんですが、油分はペーパーフィルターに吸収されるんです。油分と一緒に微粉といってコーヒー豆をミルで挽いたときにでる細かい粉も拾ってくれる。だから雑味のない、豆のもつ長所が際立ったすっきりとした味わいになります。

ウェーブ型はベーシック型の後で開発されたものですが、フィルターには20個のヒダがあり、ベーシック型よりもさらに速やかにドリップされます。加えて底が平らなので、粉に対して均一にお湯がなじみやすい。誰でも味ブレがなく、より均一な味のコーヒーが淹れられるよう設計されています。つまり、淹れ手が何人いても味があまり変わらないので、最近はカフェでもこのシリーズを使っていただくことが多いです。

ペーパードリップの特徴をお話ししましたが、コーヒーは嗜好品なのでいろいろな味わい方があっていいと思っています。例えば、浸漬法といってフレンチプレスなどの器具でお湯全体にコーヒーの粉を漬けて成分を引き出す方法では、油分も微粉も溶けだすので、その分、重みも出て複雑な味わいになります。お好みで器具も使い分けるといいと思います。

Q. 形状はシンプルなのに機能の塊なんですね。早速淹れ方を教えていただけますか。

ベーシック型のもので淹れてみましょうか。各プロセスでのポイントも説明しますね。

<豆を挽く>
コーヒーを淹れる前に、まずはコーヒー豆を挽きます。豆の挽き加減は、細かく挽くほど濃い味になり、粗く挽くほどあっさりした味わいになります。好みによりますが、最初は写真のような中挽きからスタートすることをお勧めします。

<お湯の温度>
細かいことを言ってすみません。カリタでは92℃がオススメです。
お湯は他のケトルで沸騰するまで沸かしてから、コーヒーケトルに移し替えましょう。こうして移し替えるとちょうど92℃くらいになるんです。また、沸かしたお湯で、ドリッパーとサーバー、カップも温めておきましょう。ここからは実際に淹れ方を説明します。

<フィルターのセット>
フィルターは、最初に底部を折り、折り目が逆になるようサイドを折り、ドリッパーにセットします・フィルターは交互に折るのがポイントです。

<粉を入れる>
一杯分のコーヒー豆は約10g。コーヒー用メジャーカップ一杯分です。今回は三杯分をドリップするので約30g。メジャーカップ三杯分の豆を使用しています。フィルターにコーヒー粉を入れ、軽くゆらして平らにならします。

<蒸らし>
まず粉全体が湿る程度にお湯を注ぎます。30㏄ほどの少量のお湯を注いで、2030秒待ちます。この「蒸らし」という工程、とっても重要です。

<第1回>
コーヒーを抽出していきます。お湯は注ぐというより“のせる”イメージで。中心から「の」の字を描くように注ぎます。お湯を注ぐと粉に含まれるガスがブクブクと泡のように膨らんでいきます。この膨らみのことをコーヒードームと呼ぶんですが、ドリッパーの7~8分目までドームが上がってくるのが目安です。

<第2回>
1回目のお湯が全部落ち切る前に注ぐことが大切です。また、周りにできるコーヒーの壁を崩さないように注ぎましょう。ドリッパーのフチにお湯をかけてしまうとコーヒー粉を通らないでお湯だけがサーバーに落ちてしまいます。

<第3回&第4回>
同じように3回、4回とお湯を注ぎます。トータルの抽出時間の目安は2分半~3分です。
ちなみに、粉とお湯の分量比は1:12(メジャーカップ1杯10gに対してお湯は120㏄)。サーバーの目盛りを目安にするとよいです。目安まで抽出が完了したらドリッパーにお湯が残っていてもドリッパーを外してください。

<完成>
コーヒーの濃度を均一にするためにサーバーを軽く揺らして攪拌します。これで完成、あとはカップに注ぎましょう。

Q. ハンドドリップならではのコーヒーのいい香りがしますね。基本の淹れ方を教えていただいたところで、自分好みの味に調整をするときのポイントも教えていただけますか。

よく聞かれるのは、「苦い」あるいは「酸味が強い」けれど、どうしたらいいかということですね。苦味や酸味は豆本来が持っている特性や焙煎によるところが大きいのですが、ドリップの仕方でも調整はできるんです。

苦みを抑えるときは、お湯の線を太めにしたり、湯温を少し下げるといい。酸味を抑えたいときは、お湯の線を細目に注いだり、湯温を上げるといいんです。
味が濃いときと薄いときは、調整方法も想像しやすいかと思います。調整する際は、一度に全部変えるのではなく、一項目ずつ変えてその都度試してみると、目標の味わいにたどりつきやすいと思いますよ。

あとは、飲み方によっても調整が必要です。カフェラテはぐっと濃い目に淹れると、牛乳と合わせてもしっかりコーヒー感が残って、美味しくなります。粉を多くしたり、豆を細かく挽いてみたり、調整してみてください。アイスコーヒーも氷で薄まるので濃い目ですね。また、ペーパードリップでも、エスプレッソ風コーヒーを淹れることもできます。その場合は、粉がパウダー状になるまで超極細挽きにしてみてください。

ハンドドリップコーヒーはハードルが高いと思っている人が多いようですが、技術的にも難しくありませんし、いろいろやってみると、楽しくなる要素の方が多いです。まだ未経験という方はぜひトライして、自分だけの美味しい1杯に巡りあっていただきたいです。

<ハンドドリップ・味の調整法>

株式会社カリタ

国内唯一のコーヒー器具専門メーカー。1958年の創業以来レギュラーコーヒーの文化を広めるための提案と挑戦を続けている。
https://www.kalita.co.jp/

各種デザイン賞を受賞したドリップケトルが並ぶショーケース。
「赤いチェックのカリタ」は創業当時からの象徴だ。

(前編 了)

撮影 sono
取材 歌代幸子
編集 徳間書店

篠原惟真さん

篠原惟真(しのはら・ゆうま)さん
1993年、北海道生まれ。札幌市内の自家焙煎のコーヒー店で働いていたとき、カリタのコーヒー器具を使ったことがきっかけで、ハンドドリップに興味を持つようになった。その後、2020年にカリタへ入社。本社で営業職に就く。2019年には、SCAJコーヒーマイスターを取得。コーヒーの美味しさや楽しさを伝え、豊かなコーヒー生活を提供する普及活動にも力を注ぐ。

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