7月14日にドイツのワイン生産地アールを襲った洪水の被害は計り知れないものです。
この地域では約130名もの人が命を落とし、74名が行方不明となっています。水位が6メートル以上まで上昇した地域もあり、川に架かる61か所の橋が破壊され、町の一部が流されてしまったエリアもあります。
生き延びていくための当面の課題もあれば、被害の後始末と正常な生活を取り戻すための短期的な課題、そして地域のインフラを再興していくための長期的な課題も存在します。そんな中、アールを拠点とする65ものワイナリーは生計を立てていくために2か月後には収穫をしなければなりません。
アールに位置するワイナリー、Meyer-NäkelのMeikeとDorteの姉妹が洪水によって流されたという悲劇も報告されています。姉妹は洪水の被害から機材を救出するために町の郊外にあるワイナリーへ向かいましたが、急激な増水に巻き込まれてビルの中に閉じ込められてしまいました。屋上へ逃げようとしたところ大きなガスタンクが流されてきたためすぐに脱出する必要があると悟りました。そのためには水の中に飛び込み、セラーにある樽の下を泳ぎ、窓を蹴破り、水に流されていくしかなかったのです。下流に流された彼女たちは木の下に避難し、翌朝に救出されるまで7時間を耐え忍びました。そして避難場所となったその木は、彼女たちの祖父が植えたものだろうと母親は信じています。
我々は、彼女たちの友人であり、Meyer-Näkelの復旧作業を手伝ったCaro Maurerマスター・オブ・ワインに話を聞きました。このワイナリーの苦境はこの地域に位置する多くのワイナリーに共通しています。彼らは醸造設備をすべて失い、更には瓶詰め前の2020ヴィンテージのワインをも失いました。
Meyer-Näkelではほとんどの樽を失いましたが、1つは4キロ下流にあるワイナリーAdenauerの従業員が川から回収しました。デルナウ市中心部に位置する一家のワイナリーは1階部分とセラーが浸水し、ヘドロに覆われた床や壁、ワインボトルのストックなどの全てを清掃しなければなりませんでした。
復旧作業をより困難にしているのは、十分なコミュニケーションが取れないことです。携帯電話が復旧するまでの4日間、遠く離れた施設で復旧作業を行うチームと連携を取るためにMeike Näkelは車で移動していたそうです。
最初にワイナリーが必要としたのは、浸水したセラーから除水することでした。復旧作業を手伝った、ラインヘッセンのワイナリーWeingut KellerのKlaus Peter Kellerによると、ポンプとパイプ、そして発電機がまず必要だったそうです。洪水によって発生した水は汚染されているために迅速な対応が求められます。復旧作業が遅れれば遅れるほど在庫のワインを販売する機会が失われます。ドイツの一部スーパーマーケットにおいて、洪水の被害で泥に覆われたワインを販売し始めたという報道もありましたが、当局は汚染の有無を調査しない限りはそのようなボトルは販売できないと述べています。
二つ目に必要だったのは清掃支援です。ありがたいことに穏やかな雨が降り続いているのでヘドロの一部を分散させるのに役立っていますが、シャベルやホウキでヘドロを移動させる必要があります。Caro Maurerマスター・オブ・ワインによるとアールの清掃支援のために多くのボランティアが集っているといいます。
次に必要なのは2021ヴィンテージの救済です。斜面に位置する畑は大きな被害を受けていませんが、9月には収穫を控えているため、ブドウはヴェレゾン(色づき)の真っ最中であり、雨と湿気の影響を受けやすくなっています。そのためヘリコプターによる防腐剤の散布を可能にするために、葉を摘んで樹冠を薄くする必要があります。他の策がないため地域全体に防腐剤が散布される予定です。生産者はオーガニック栽培のステータスを失うかもしれませんが、ヴィンテージの収穫全体を失うよりはマシでしょう。
各方面からの支援
ドイツ国内の多くのワイン生産者たちがアールのワイナリーに助けの手を差し伸べました。ワイナリーSt. Urbans-HofのNik Weisはポンプを動かすための発電機を搬入し、モーゼルのワイナリーVan VolxemのチームはNäkelの貯蔵施設の清掃を手伝いました。
また、この地域の大半が壊滅的な被害を受けているため、どこで醸造を行うかという問題もあります。モーゼル地方の複数ワイナリーがブドウの加工を申し出ていますが、Meyer-Näkelのように異なる畑と品種から複数のキュヴェを造っている生産者には物流の面で大きな課題があります。ただでさえ複雑な過程を遠隔で処理するのは非常に困難です。
長期的な観点でいえば、この地域は橋や道路、鉄道、ガス管などを全て交換する必要があります。住宅や商店も再建し、新しい設備と交換しなければなりません。現実的には復興までに数年かかるでしょうし、地域が完全に復興するまでには10年かかるかもしれません。
ワイン消費者たちはどのように支援できるでしょうか?直接的な支援以外にも、アールの生産者によるワインを探して購入することで支援になります。
被災したワイナリーはMeyer-Näkelだけではありませんが、彼女たちの話はこの地域が被ったトラウマ的な悲劇を物語っています。彼女たちの父親であるWernerが被災のストレスで入院したと聞き、一日でも早い回復を祈っています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/07/german-winemakers-underwater-escape
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