ボルドーの生産者にとっては、火災や猛暑に対する不安が、収穫が進むにつれて幸福感へと変わっていきました。
森林火災や干ばつなど、記憶にないほど暑い夏を乗り越えたばかりの生産者にとって、ボルドーの人々は驚くほど楽観的です。喜んでいるというか、いやむしろ驚いていると言えるでしょう。
2022年のボルドーは、酸味が少なく、タンニンがドライで、アルコール度数が高く、少しスモークティント(焦げ臭)がする、というのが一般的な予想です。灌漑なしで作物を栽培することができたら素晴らしい夏だなんて思うこと。これは大きな間違いです。
森林火災の煙は、最終的には大きな問題にはならなかったようです。海岸沿いの広大なピラ砂丘(砂ではなく、ランド松林が燃えていた)付近と、グラーヴ南部のランディラ付近の2カ所で火災がありました。煙はボルドー市の上に重くのしかかり、どのブドウ畑も何らかの煙の影響を受けなかったとは考えにくいのですが、例えばナパではブドウ畑に煙が接近した年もありましたが、ここでは煙が接近した畑は少なかったのです。火災に最も近かったLiber PaterのLoïc Pasquetについて、Wine-Searcherで将来の不幸を予言するようにその心境が引用されていますが、火災が収まった後、CIVCが全地域で行ったテストでは、煙による汚染の兆候は見つかりませんでした。(何千haもの森林が破壊されたこととは別問題です)
火災が起こるまでの数カ月間、まったく乾燥していなかったわけではありません。確かに冬は雨が少なく、4月、5月、6月は晴天が続きましたが、6月に110mmの雨が降り、6月23日から2ヶ月間干ばつになったとChâteau BrownのJean-Christophe Mauは言います。この雨は、ブドウ木を維持するのに非常に重要だったのでしょう。この時期の終わりには少しストレスがかかりましたが、テロワールや樹齢によって差がありました。砂利の上のカベルネ・ソーヴィニヨンは少し苦労したかもしれませんが、粘土の上のメルローはもっとうまくいったようです。
Le Pinの醸造責任者、Diana Berrouetは、粘土質の上に深い砂利が敷かれた畑では、古木は全く問題なく、他もほとんど問題なかったが「8月末の若木は別でした。あれは恐ろしかったですね」と言います。
そして、心配だったのはブドウ木だけではなかったようです。「8月の初めは私のストレスがひどかったですね」とMau。
ちょうどBerrouetが休暇に入った頃でした。「まだすべてが青々としていて、うまくいっていたのです。8月末になると、若いブドウの木が苦しみ始め、葉が閉じ始め、ブドウの周りの葉がなくなってしまいました」しかし、一般的には、「畑の方が私たちよりも適応力があるのかもしれません」
Mauは「Brownでは除草剤を使わず、毎年9月にトラクターで畑に入り、表層の根を切るのです」と指摘します。そうすることで、ブドウ木はより深い根に集中し、干ばつから身を守ることができるのです。「ストレスは樹齢3年から8年のブドウの木にのみ見られました」
1959年以来最も乾燥した7月の後、ペサック・レオニャン、ポムロール、サンテミリオンの若木に今年灌漑が許可されたことは特筆に値します。どれだけの生産者が臨時の水を利用したかは不明です。それは簡単ではありませんでした。通常の水道水ではなく、生産者自身の井戸などから水を供給しなければならなかったからです。ボルドーのブドウ畑は灌漑設備が整っていないためです。8月の初めには、ペサック・レオニャンで80haほどしか水が供給されなかったとMauは推測します。
4月には霜も降り、生産者は恐怖を感じたようです。しかし、その影響は限定的でした。AXA MillèsimesのChristian Seelyによると、「ひどい被害を受けたところもありましたが、Pichon Baronではほとんど損失はありませんでした。Suduirautはもっと影響を受けましたが、2021年のようなことはありませんでした」そしてBerrouetは、「剪定が3月と非常に遅かったので、ブドウの木はまだ成長し始めたばかりでした」と語ります。Brownでもブドウ木が成長し始めたばかりで、-2℃や-3℃の気温の影響はわずかでした。
しかし、春の雨の後、カビ病が発生する危険性がありました。Seelyは言います。「春の太陽と雨の組み合わせはとてもよかったのですが、6月になるとカビ病のリスクが深刻になりました。みんな必死で戦わなければなりませんでした。葉の生育が旺盛で、葉を間引くことが重要で、畑の仕事は苦労が多く大変でした」
収穫の勝者
9月8日、Pichon Baronで始まった収穫は、意外に早く、「とても静かに行われました」とSeelyは説明します。「一カ所ずつのタイミングを待って収穫するような時間がありました」とMauは付け加えます。今年は収量がかなり少ないのですが、霜のせいではありません。暑くて乾燥した天候のせいです。房はたくさんあったのですが、実が小さく、皮が厚く、果汁があまり入っていませんでした。「今年はタンク内の果汁と果皮の割合が全く違いました」とMauは言います。「非常に目新しい現象で、果皮と種が多く、果汁はごくわずかでした」Brownでは、カベルネ・ソーヴィニヨンの収量は約25hl/haとなりました。メルロはそれとは異なり、41hl/haでした。Seelyは、果実の大きさが小さかったため、果汁の量は予想していたよりも少なかったと言います。「でも、この年の特徴を表すものの一つです」
その特徴とは?と尋ねると「とても幸せな気分です」と彼は答えました。「Pichon Baronのカベルネも素晴らしいですが、このような年であれば当然でしょう。メルローも素晴らしいですし、両方が傑出しているのは素晴らしい年の特徴です。メルローはカベルネになりそうなくらい、骨格がしっかりしていて、フレッシュです。両方がこんなに良かったのは、2010年以来です。『10年はもっと涼しかった』ので、2010年のようにはいきません。でも、カベルネもメルローもリッチで複雑、繊細でアロマティックでフレッシュという点では10年のような感じです」
そうそう、フレッシュさです。酸味は問題なさそうです。Brownではメルローが3~3.2(総酸度として)、カベルネ・ソーヴィニヨンが3.4、pHは3.5です。Le Pinでは、pHは3.7〜3.8です。「暑い年なら普通です」とBerrouetは言います。「サンテミリオンの石灰質土壌では、3.5〜3.6くらいです。でも、ポムロールではpHが4くらいになると思っていました。分析結果ではとても4に近い値でした。リンゴ酸は非常に低く、1に近いです。マロラクティック発酵の後もあまり失われないので、今のpHを維持するつもりです。ワインを味わうと、フレッシュで複雑な味わいに驚かされます」
タンニンは豊富です。「種がおいしいです」とBerrouet。「よく熟れています。アルコール度数は14〜15%とボルドーとしてはかなり高いのですが、最近はそれが普通になりつつあるので、これは重要なことです。アルコールはタンニンの豊かさとのバランスが取れるでしょう。バランスがとてもいいのです」 Brownでは、プティ・ヴェルドは16%になったこともあります。「でも、酸はちゃんとありますよ」とMauは言います。穏やかな抽出をした年になったか?との質問に対して「毎年が穏やかな抽出の年です」とBerrouetは答えました。「発酵終了後のマセラシオンは短時間になると思っていましたが、ワインが非常によく変化して柔らかくなったので、特に短時間にはしませんでした」
セカンドワインについては、「今年はすべてが順調なので、セカンドワインの比率は非常に小さくなるだろう」というMauの見解に注目したいところです。
10月初旬にMauと話した時、降水量が例年の半分しかなかった年というのは悪くないのだと言っていました。通常の年間降水量800mmから、今年は400mmとなりました。
赤ワインについては万々歳ですが、白ワインはどうでしょう?
Mauにとって、ロワールやブルゴーニュの白はもっと酸が高いものでしょう。「ボルドーではバランスが異なります。新しいスタイルの白になるでしょう」アルコール度数はセミヨンが12.2%、ソーヴィニヨン・ブランが13.5〜14.5%です。「ソーヴィニヨン・ブランは房に果汁がありませんでした」酸は下がって、ソーヴィニヨン・ブランで3(通常は4〜4.2)、セミヨンで-2、そう、マイナス2です。酒石酸の添加が必要かもしれませんが、この話をした時はアルコール発酵がちょうど終わったばかりでまだ何も決定されていませんでした。その時に彼が言えた事は、今年は白ワインにマロラクティック発酵は施さないという事だけでした。
しかし、Seelyにとってセミヨンは「傑出した、非常に熟した、辛口白ワインに最適な年」です。ソーテルヌでは、暑くて乾燥していて、ボトリティスが10月初めに遅れてやってきて、定着しました」私たちが話したとき、彼はセカンドワインのテロワールでの収穫をし、グラン・ヴァンのテロワールには着手し始めたばかりで、「素晴らしい、非常に熟した、ボトリティスが付着したブドウがたくさんある」というような様子でした。
というわけです。驚きというより、Mauの言葉を借りれば「奇妙」な年となりました。しかし、良い意味でです。
引用元: Bordeaux Dodges Weather Bullet to Shine
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