ロワール渓谷は変わりつつあり、ブドウも変化しています。特に地元のヒーローが。
「現在のロワールの気候は、40年前のボルドーの気候に似ています」。そう語るのは、Langlois-Châteauの醸造長、François-Régis de Fougerouxです。そして、彼はそのことを不満に思ってはいないのです。
気候変動によるものです。ロワールのシュナン・ブランをはじめ、多くのワインが気候変動によって快適な環境に置かれるようになりました。しかし、それは終点に到着して停車する列車のようなものではありません。望む、望まざるにかかわらず、それは続いていくのです。シュナン・ブランの生産者に、今後ロワールのシュナン・ブランが快適な環境ゾーンから抜け出るまでの期間を尋ねると、10年、15年、20年と答えるのが普通です。
しかし、もちろん変化は不規則です。2020年と2022年は暑かったのですが、2021年は涼しくて雨が多かったのです。一貫したパターンはありません。しかし、確実に言えることは、ロワールのシュナン・ブランは、以前よりもずっとずっと素晴らしいという事です。記憶にある限り、より熟し、よりクリーンで、より良く造られ、より凝縮感があり、より精密で、よりテロワールを反映したワインになっています。「記憶にある限り」と言ったのは、シュナン・ブランは少なくとも15世紀から、ロワール地方で栽培されており、当時がどうだったかを知る事はできないからです。ただ、生産者や消費者が求めるには十分な品質だったことは間違いありません。だから、おそらくはちゃんと美味しかったのでしょう。
しかし、1980年代から1990年代にかけては、高貴なブドウと認知される一方で、課題もありました。高収量はそのひとつであり、未熟なブドウもその一つでした。補糖は日常茶飯事で、SO2のレベルは高く、ワインは線が細く厳しい感じか、あまり欲しくもないような残糖感と、SO2に伴う濡れた犬の香りを含んでいました。ワインが丸くなるには時間が必要でした。特にサヴニエールは、開花するまでに10年程かかることもありました。しかし、その時間を経て得られる素晴らしい蜂蜜のようなトーンには、それだけの価値があると思われました。
今は若いうちに飲むことができます。2020年のClau de Nellは、美しく熟し、細部に至るまで繊細で緊張感があります。ワインらしい、優美な味わいです(畑の密植度が高くなった事をアペラシオン当局が認めたので、来年はAOPアンジューになる予定です)。 Domaine CadyのCheninsolite 2021は、骨格があり、しっかりしていて、素晴らしいワインです。サヴニエール産Château Pierre-BiseのClos de Coulaine 2020は、ソフトでフレッシュです。同じくサヴニエールのDomaine des Deux Vallées 2020は、しなやかで、響きがあります。しかも、みんなとても若いワインです。
サヴニエールは、繊細そして緻密で、また骨格と余韻のある味わいになっています。ヴーヴレイはより重厚で、最近は少なくなりましたが、しばしばほんの少しの残糖があります。しかし、ロワールのシュナンは果実味を重視するようになったわけではなく、ほら見てください、ワインは何も変わっていません。それは、この地域のビオディナミの量と、優れた生産者が商業的な酵母ではなく、土着酵母を使用していることと関係があるかもしれません。非常に繊細な事なのです。ワインはワインらしく、テロワール重視です。そして、この雑多なワイン界で最も注目すべきは、他には似たようなものがない独自の空間を、彼らは作り出しているという事です。南アフリカのシュナンは、ロワールよりも酸度が低いため、テクスチャーを注意深く見なければならない傾向があるのですが、ロワールのシュナンの酸味は、今でも不足することなく、完璧なバランスを保っています。
このように、様々な疑問が湧いてきます、特に、どうやって?なぜ?そして、いつ?と。
Clau de NellのSylvain Potinに、収量、気候、ワイン造りとブドウ栽培のどれが最も重要か尋ねると、彼は考えた末に収量に行き着きます。しかし、もちろん、これらは全て連動しています。収穫量が少なければ熟成も進みますし、夏の暑さも同様です。しかし、より良いブドウ栽培とは、特にブドウの木が与えてくれるものから何でも作るのではなく、造りたいワインのために植え、栽培することが、より良いワインを生み出すのです。
「昔は、生産者は日和見主義でした」とFougerouxは言います。「畑があれば、その年の収穫に応じて、同じ区画からスパークリングやスティル、甘口ワインを造っていました。今では、生産者はよりこだわるようになりました。特定のワインを造るために、台木を植えるのです」
早いスタート
ブドウがより熟した結果、収穫日は大きく変化しました。モンルイのDomaine de la Taille aux LoupsのJacky Blotによると、1962年には11月2日にワイナリーでの収穫が始まったという事です。1978年はまだそんなに早く収穫されていませんでした。10月30日です。以前は10月より前に収穫することはありませんでした。しかし、今では9月上旬に収穫しています。Fougerouxによると「今世紀では、1年毎に成熟が1日ずつ早まっています」という事です。2003年と2009年は、ご存知のように非常に暑かったので、8月に収穫を開始しました。「過去3回の収穫のうち、2回は8月、1回は9月に収穫しています」と彼は言います。
「8月は日が長いので、熟成が早く進むのです。2020年、9月の第1週は気温が35℃まで上がり、糖度も1週間で1.5度上がりました。収穫の期間が短くなっているのです」
アルコール度数も当然上がっています。Blotは過熟をアルコール度数13.5%と定義していますが、すでに14%以上になっているものもたくさんあります。Fougerouxは、13%以下では適切な成熟は望めないと考えています(辛口ワインのブドウが貴腐になっているかどうかは、生産者それぞれの問題です。貴腐ブドウによる、より豊かで複雑な味わいを好む人もいます) 。生産者はアルコール度数を下げるために、剪定のタイミングを調整するなどの対策をしています。例えば、春にブドウ木の成長を抑える等です。しかし、これはブドウの成熟のためというよりも、春の霜の危険性を考えた上での事です。
今、とても危険なのは春先の霜です。春の暖かさと早い訪れは、芽吹きの早さを意味し、4月から5月にかけてはひどい霜に襲われる可能性があります。ブドウ木の生育がかなり進んでいる場合、収穫はおあずけです。
イギリスの輸入業者Charles Sydney WineのChris Hardyは、「霜対策が非常に盛んに行われています」と言います。「温熱ワイヤー、キャンドル、藁俵、そしてほとんどの畑には車輪付きの風力発電機が設置されています。1台€40,000(約$42,000)もするので、大きな投資ですが、近隣の人たちと協力してやっています。
そして、旱魃です。2021年を除けば、最近の夏はかなり乾燥しています。石灰質もしくは石灰質粘土土壌のブドウの木はよく育ちます。石灰質土壌がもつあの有名な干ばつに耐える能力はとても役に立ちます。しかし、シストに植えられたブドウの木は、防御力が弱いのです。
ワイン造りは、より繊細なタッチで行われるようになりました。生産者はオークの使用量を減らして、スパイスの付加として利用しています。樽のトーストを減らし、古いオークを使用する等です。2006年にAnne-Claude Leflaiveとその夫Christian Jacquesが購入し、2015年にLeflaiveが亡くなった後、現在もJacquesが経営するドメーヌClau de Nellでは、樽が必要になったら、Puligny-Montrachetの知り合いのドメーヌから持ってくると冗談を言っています。「品質には自信があるんだ」と彼らは言います。
ステンレスタンク、コンクリートタンク、素焼きの壺、大樽……現代のワイン造りに必要なものは一通り揃っています。でも、オークの風味は?ノーです。
市場でも、さまざまなワインを目にするようになりました。貴腐の甘口シュナンは古典的なワインスタイルですが、私たちが買わなくなったので、生産者は甘口ワインから遠ざかっています。Hardyは言います。「ヴーヴレイも以前はドゥミ・セックがたくさん売られていましたが、今はヴーヴレイの残糖分が少なくなり、1ℓあたり約18g/ℓから約12g/ℓに減少しているのです。最近人気なのは、8~10g/ℓのヴーヴレイのsec tendreというスタイルです」
クレマン・ド・ロワール、ヴーヴレイ、ソミュールなど、スパークリングのシュナンが増えています。フランスではシャンパンの代替品として定番です。そして、それは良い選択です。 やや素朴なところもありますが、フレッシュでバランスが取れています。しかし、スパークリングワインがシャンパーニュのコピー以外のニッチな道を切り開くのは常に難しく、価格が大きな要素となっています。
サヴニエールはまだ辛口ですが、これまで見てきたように、40年前のワインとはまったく違います。同じように長く熟成するのでしょうか?それは誰にもわかりません。多くの人が様々な意見を持っていますが、最も正直な意見は「おそらく違う」と思われます。 それは残念な事なのでしょうか? 確かに、どんなに素晴らしいワインであっても、若いワインを飲むのは、とても古いワインを飲むよりもスリリングな事とは言えません。先日、友人が1956年のHuetのボトルを持ってきたのですが、それは並外れた素晴らしいものでした。若々しくエネルギッシュで、極辛口でまだ荒々しさがありますが、花火のような華やかさに満ちていました。1971年のMarc Brédif Vouvray Grande Annéeは、イギリスの輸入代理店Fellsの試飲会で飲みました。ドゥミ・セックで力強いフレッシュさと調和があり、水仙のような、繊細でありえないというほどの香りがありました。
昔は2、3年に一度、未成熟なヴィンテージがありました。現在は?ロワール地方で最後に未成熟なヴィンテージができたのはいつでしょうか?
霜害が今の問題です。そして、ある日突然ブドウが熟しすぎてしまう日が来るのでしょう。しかし、まだ大丈夫、今のうちにチャンスを掴みましょう。
引用元: The Changing Face of Chenin Blanc
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