フィラディスワインニュース

ボルドー、初のハイブリッド・ヴィンテージに備える

この夏、ボルドーのワイン業界にフィロキセラ以来の大きな変化が訪れ、ハイブリッド品種に白羽の矢が立ちました。


シャンパーニュ地方はすでにそれを行っています。そして今夏、ボルドーとボルドー・シュペリュールのアペラシオンは、新しい耐病性ハイブリッド品種の栽培とワイン醸造の認可を受ける予定です。

 

ボルドーワイン評議会(CIVB)は、白ブドウのソーヴィニャック、スーヴィニエ・グリ、フロレアルに加え、黒ブドウのハイブリッド品種ヴィドック・ノワールを認可する予定です。メドックとオー・メドックでは、これと同じ耐病性品種を選びましたが、シャンパーニュで認可された白のハイブリッド品種であるヴォルティスも加えた、とCIVBは語ります。

 

これは、典型的なボルドーワインの終焉へと向かう、ブドウ栽培革命の静かなる始まりなのでしょうか?

 

ボルドーは、化学物質の散布を減らすことへのプレッシャーと有機栽培のコスト問題、さらに気候変動がブドウ畑に与える影響に直面しています。プリムールで試飲されたボルドー2022年ヴィンテージの高いアルコール度数と低い酸度が証明しているように、ボルドーでは社会情勢や消費者ニーズの激しい変化に対応するため、気候変動への適応策を講じており、それが生産者への商業的なプレッシャーとなっています。ロンドン、ニューヨーク、フランクフルトのスーパーマーケットに新世代のハイブリッドワインが並び、スカンジナビアの酒販専売公社が環境対策の証明書を重要視するようになり、これまでハイブリッドワインを知らなかった消費者が、その味を知る可能性がますます高まっています。

 

ボルドーでハイブリッド品種を取り入れる動きが出ていることについて、フランスの農業管理機関であるINAO(Institut National de l’Origine et de la Qualité)により、昨年フランスにおけるハイブリッド品種の作付けが46.7%アップし、また2021年8月から2022年8月にかけては552haから1732haに急増していることが発表されました。同期間中、フランスの新しいハイブリッドのひとつであるフロレアルの作付けは、250haから452haへとほぼ倍増しました。スーヴィニエ・グリは、依然として最も多く植えられたハイブリッドブドウ(495ha)です。

 

影響は限定的か?

フランスのAOC(PDO)であるボルドー、・スーペリュール、メドック、オー・メドックは、気候変動に適応したブドウ品種を開発するフランスのVIFA(Variétés d’intérêt à fin d’adaptation) プログラムを通じてINAOにハイブリッド品種の認可を求めており、その規定ではハイブリッド品種は、生産者の栽培面積において作付け最大5%、醸造はブレンドの10%以下となっています。

 

フランスでは、耐病性品種の栽培がどんどん認められていますが、AOC(PDO)アペラシオンでは、その使用が厳しく制限されています。もちろん、より規則が柔軟なヴァン・ド・フランスの分類には登録できます。

 

ドイツとイタリアでは、ハイブリッドブドウの植樹に関しては地域委員会の認可が必要です。しかし、ハイブリッド品種の協会であるPiwi Internationalによれば、一度許可されれば、生産者は病気に強いブドウ木を好きなだけ植えることができるのです。

 

INAOの環境担当責任者であるJacques Gautierは、VIFAプログラムが制限的すぎるという意見には同意していません。「規則は厳しすぎず、VIFAを大きく発展させることができるものだ。むしろ問題は、新しい品種の供給サイドにある」と彼は語ります。ボルドー、ボルドー・シュペリュール、シャンパーニュは、INAOの国内委員会から正式な認定(耐病性ブドウを含めること)を受けていると述べています。

 

「シャンパーニュはすでに「Cahier de Charges」(アペラシオン仕様書)を修正し、新しい耐病性ブドウをAOCで許可しています。ボルドーについては、INAOの決議に反対する人たちが落ち着いたところです」とGautierは言います。

 

一方CIVBは、INAOによる長い検証プロセスの最終承認が今夏に終了し、ボルドーとメドックのアペラシオンが認定ブドウ品種に関する「Cahier de Charges」の仕様を変更できるようになると予想しています。

 

INAOによると、フランスのAOCであるコート・ド・プロヴァンスとコニャックもこのプロセスを開始したとのことです。

 

新世代のハイブリッドワイン

世界最大級のブドウの苗木農園であるMercierの広大で湿度の高い温室には、赤い蝋で留められた接ぎ木の海が広がっています。

 

ボルドーの北、フランスのヴァンデ地方の中心に位置するメルシエに並ぶ鉢植えの苗木の列は、現代の病気に強い多様なハイブリッド品種(ヴィティス・ヴィニフェラ品種とアメリカまたはアジアの野生品種の交雑)で構成されるようになってきています。例えば、ドイツではPioneer Wines(Piwis)、フランスではResDur(Résistances Durables:2000年に開始されたプログラムですが、長い検証プロセスのため、新しい「フランス」ブドウが登場したのはごく最近のこと)が有名です。

 

Mercierの年間1,200万本の苗木販売に占める耐病性ハイブリッドの割合はまだ少ないのですが、需要と生産は拡大しており、南仏からボルドー、北はブルターニュ、ノルマンディーまで栽培が進んでいます。需要が増えると、供給が追いつかなくなるのは常です。

 

Mercierは2020年から、スイスの遺伝学者、ブリーダー、生産者であるValentin Blattnerが生み出したハイブリッド品種「ソーヴィニャック」の独占販売代理店となっており、徐々に供給力を高めています。ドイツ、スイス、フランス(国・地域レベルで)、イタリアがハイブリッドの生産・育成を強化しており、官僚的な障壁や規則があるにもかかわらず、ヨーロッパの気候に合わせたハイブリッドをさらに開発する競争が始まっています。

 

そこでMercierは、地域の気候に合わせてハイブリッドを設計するBlattner 社と共同開発契約を結び、新しいハイブリッドを開発することにしました。同社によると、22種類の新しいハイブリッド品種が選ばれ、さらなる研究が進められているということです。

 

ボルドーの6つのアペラシオンにまたがる480haのエステートを所有するDucourt社で行われた、2018年、2019年、2020年ヴィンテージのハイブリッドワインの垂直テイスティングは、ソーヴィニャックの熟成能力を明らかにしました。

 

ボルドーにおけるハイブリッド品種生産のパイオニアであるDucourtは、2014年に初めて耐病性品種のブドウ木を植えました。現在はボルドーの複数のアペラシオンに14.7ha植えられており、毎年10万本生産されるようになり、生産量を増やしています。ボルドーのAOCではまだ認められていないため、ワインはヴァン・ド・フランスに分類されています。

 

DucourtのMetissage Blanc というワイン(ステンレス醸造)は、ソーヴィニャックのようなブドウは、比較的低いアルコールと現在のボルドーの平均的な酸度よりも高いレベルでワインが造れることを示しています。明るいトーンのアロマティックなワインで、パイナップルなどの陽気なトロピカルフルーツが感じられます。確かに、一部の人にとって、最も若いMetissage Blanc はアロマの複雑さのないシンプルなワインかもしれませんが、肉厚な 2018 年と 2019 年は、このブドウ品種が瓶内熟成によってレイヤーとテクスチャーを備えられることを示しています。

 

Metissage Blancはステンレスで発酵させました。ドイツのノイシュタットにあるDLR研究所ですでに行われているように、異なる方法で造られた、ソーヴィニャックのような新しいブドウ品種をテイスティングすることができれば、どこでどのように生産するのが効果的かを示せるようになります。
キャノピー・マネジメントと発酵温度がソーヴィニャックのスタイルを形成する一方で、酵母はこの品種の多様性を示す重要な役割を担っています。Blattnerによると、ソーヴィニャックは、発酵に使用する酵母によって、リースリングやソーヴィニヨン・ブランに近くなるそうです。

 

ソーヴィニャックを作ってから、Blattnerはその抵抗力を向上させたと言います。ある種のハイブリッドは1つの菌に対する耐性遺伝子を持ちますが、ソーヴィニャックはベト病に対する耐性遺伝子を2つ持っており、抵抗力を強化しています。1つの耐性遺伝子で作られたハイブリッドには弱点があります。つまり、菌類は変異して、その耐性遺伝子を回避してしまうようになるのです。

 

「次世代の耐性ブドウは、ベト病とウドンコ病に対する3つの耐性遺伝子をもつようになる」と、ドイツのFreytag 苗木農園のオーナー、Volker Freytagは言います。

 

Mercierのスーヴィニエ・グリ(ステンレス発酵)を試飲すると、この品種の構造的な品質、つまり、余韻が長く、香り高く、肉付きが良いことがわかります。一方、フロレアルは、Mercierで試飲したスーヴィニエ・グリに比べ、植樹数が増えているにもかかわらず、ストラクチャーやアロマの複雑さ、余韻の長さが劣っていることがわかりました。

 

新しいブレンド、新しい解決法

ボルドーでは、ボルドーワインの生産量の約5%を占める格付けワインの生産者は、一般的に、耐病性ブドウの栽培に意欲を示さず(少なくとも公には)、関心も示していません。しかし、Château de Fieuzalの広報担当者は、ハイブリッドブドウに興味はあるが、ペサック・レオニャンのアペラシオン規則ではハイブリッドブドウの栽培が許可されていないと憂いていました。

 

地位が確立されたワイン産地の生産者は、自分たちのアイデンティティを脅かす可能性のある変化に対しては消極的な場合があります。

 

一方、破天荒なChâteau Cazebonneの生産者Jean-Baptiste Duquesneは、『Bordeaux, Une Histoire de Cépages』(ボルドー、ブドウの物語)の著者として、ハイブリッド品種に魅了されてはいないものの、「未来」であることを認めています。Duquesneは、ハイブリッドではなく、ボルドーの失われた土着品種を呼び戻しブレンドワインを造ることに没頭しています。そのうちのいくつかは、現代のブドウ栽培の気候条件下で栽培すれば、それぞれが重要な役割を果たすであろうと思われます。

 

とはいえ、Ducourtは、ハイブリッドと土着品種のブレンドによるワイン造りに取り組んでおり、その成果は現れているようです。DucourtのLe Chants des Sirènesは、スーヴィニエ・グリとボルドーの土着品種ソーヴィニヨン・グリを使った淡いピンク色のブレンドで、輝きがあり、いくつものレイヤーを備え、バランスの良いワインに仕上がっています。

 

「ソーヴィニヨン・グリは酸味が控えめで、甘みがあり、白い花や柑橘系果実のアロマ・風味があります。このワインと、酸度が高く、トロピカルフルーツの風味をもつスーヴィニエ・グリとのブレンドはよく調和します」と、ワイナリーのディレクターの一人であるJonathan Ducourtは言います。Ducourtは、ハイブリッド品種と土着品種のブレンドは、流通業者や消費者にハイブリッド品種への興味を持たせる方法であり、ハイブリッドの単一品種ワインだと敬遠されるかもしれないと言います。耐性品種と土着品種を交配することは、ワインの典型的な特徴を維持する一つの方法とも言えます。例えば、Blattnerは完成したワインの特徴を変えることなく、カタルーニャ地方のカヴァの土着品種と耐性品種の交配に成功しました。

 

Ducourtは現在、ソーヴィニヨン・ブランにハイブリッド品種のソーヴィニャックとミュスカリスをブレンドしたLe Chant des Sirènes Sauvignon & Coという新しい白ワインを開発中です。

 

一方、Le Chant des Sirènes Duo de Cabernetという赤ワインは、来年、カベルネ・ソーヴィニヨンとカベルネ・ジュラから造られる予定です。カベルネ・ソーヴィニヨンはタンニンによる骨格をもたらし、より複雑な味わいになりますが、カベルネ・ジュラは低めのアルコール度数と高い酸度を備えています。「2018年のカベルネ・ジュラのアルコールレベルは13%でしたが、私たちのサンテミリオン・ボルドー・ブレンドは15%でした」とDucourtは説明します。「私たちのサンテミリオン2022のブレンドはまだ終わっていませんが、アルコール度数14〜15.2%のタンクがあります。最終的なブレンドは14.5~14.8%の間になる可能性が高いです」。

 

白ワインのような特徴を持つ赤ワイン

Metissage Rouge 2020は赤ワインですが、Ducourtが指摘するように、テイスティングしても産地がわからないと思います。赤ワインですが、それは見た目だけです。飲んでみると、果実味が前面に出た丸みのある赤で、タンニンはほとんどありません。しかし、香りは白ワインのようで、オレンジピール、白い花、ストーンフルーツが感じられます。「奇妙だ!」とDucourtは笑います。確かに奇妙です。しかし、同じワインの3つのヴィンテージをテイスティングすることで、Blattnerが生み出したハイブリッドワインであるカベルネ・ジュラが、瓶内で驚くほどよく熟成することがわかります。2019年のMetissage Rougeは、香りにスモーキーな輪郭があり、甘草の風味があります。Ducourtによると、ボルドーの古典的な黒ブドウの4倍ものアントシアニンを含んでいるそうです。

 

現代のハイブリッド耐病性品種は、古典的なヴィティス・ヴィニフェラのブドウよりも、ベト病やウドンコ病に強く、場合によっては黒腐病にも強い耐性を示します。

 

「耐病性ブドウであれば、まったく農薬散布をしないことも可能です。2014年に植樹して以来、まったく農薬散布をしていないカベルネ・ジュラとソーヴィニャックという品種の2つの畝があります。今のところ、この2つの畝はよく病害に抵抗しており、他の畑の区画と比べて問題が起きる気配はありません」とJonathan Ducourtは語ります。

 

「無散布は、IFV(フランスワイン・ブドウ研究所)と共同で設定した実験仕様の一部です。残りのブドウ畑は、年に1~2回、やはりIFVの勧告に従って散布しています」とDucourtは述べます。

 

耐病性ハイブリッドのブドウ木には、Ducourtは有機スプレー(銅と硫黄)を使用しますが、ハイブリッドのブドウ木には、従来のブドウ品種のブドウ木に比べて、スプレーを80%少なくしています。

 

カベルネ・ブランのハイブリッドを生み出したドイツのFreytag苗木農園によると、若い消費者は年配の人たちよりも新しいハイブリッドに興味を持ち、また、英国、スカンジナビア、オランダなどの新しい冷涼気候のブドウ栽培地域は、ボルドーなどの確立したワイン地域よりもはるかにハイブリッドに対してオープンだということです。

 

「ハイブリッドブドウは、今日の環境、政治、社会的な問題に対する答えを提供しています」とオーナーのVolker Freytagは述べています。「ワイン業界は、前進するための新たな原動力を必要としているのです。常に同じストーリーを語れるわけではないのです」。

 

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2023/05/bordeaux-braces-for-its-first-hybrid-vintage

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