赤ワインによる頭痛を避けるには、あまり有名でないブドウ、そしてあまり有名でないワインを選ぶのが良いかもしれません。
あなたも“赤ワインによる頭痛の原因が判明した“というニュース記事を目にしたことがあるかもしれません。研究を率先した教授によれば、その発見について既に何千ものメディアが報じたからです。
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※本記事の前提となるニュース記事はこちら
ダイヤモンド・オンライン 2023年12月10日
赤ワインを飲むと頭が痛くなる人が、白ワインなら大丈夫な理由
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研究結果の内容に飛び込む前に、私たちWine-Searcherは、頭痛を起こさせにくい赤ワインを見つける方法を皆さんに伝えるため、より話を深堀りしたいと考えました。そして過去の特集によりその分野でのアドバイスを持っていますが、まずは研究の陣頭指揮を執ったカリフォルニア大学Davis校(以降UC Davis)の名誉教授Andy Waterhouseによる注意書きから今回の記事を始めましょう。それは、「疑われる原因はまだ仮説にすぎない」というものです。
実は今、UC DavisはUCサンフランシスコ校(以降UCSF)の医学部と協力して、必要ではありますが、非常に不愉快な響きを持つちょっとした研究を立ち上げようとしています。赤ワインを飲むと頭痛になりやすい人にワインを飲んでもらい、その頭痛のひどさを報告してもらうというものです。医学の進歩は苦しみの上に成り立っています。
(少なくとも、Walter Reed博士の研究である、人々に黄熱を与えることによって、蚊が黄熱病を媒介することを証明した方法とは違います)
頭痛の原因として疑われているのは、ケルセチンという化合物で、ブドウの皮など多くの植物に自然に含まれています。ケルセチンは抗酸化物質であり、栄養補助食品として濃縮されたものを購入できますが、米国食品医薬品局は、ケルセチンに医学的な効果は証明されていないとし、効果があると主張する幾つかの企業に警告書を出しています。
頭痛持ちの友人に注意喚起したいのであれば、ウィキペディアによるとケーパーはケルセチンを最も多く含んでいます。新鮮なディル、コリアンダー、紫玉ねぎ、ラディッキオ(注釈:イタリア原産のチコリの一種)、クレソンにもケルセチンが多く含まれています。
さて、ケルセチン説はまだ仮説に過ぎないことを念頭に置きながら、ワインの話に戻りましょう。最もケルセチンの値が低い赤ワインは何になるでしょうか?
その答えは、オレゴン州大学に勤める科学者でありブドウ栽培家でもあるSteven Priceによって、1990年代に初めて調査されました。基礎研究を行ったPriceは、太陽光がピノ・ノワールのケルセチン濃度を大幅に高めることを示したのです。
「私は修士論文を書いていて、テーマを探していたのですが、ブドウの中に日焼け止めとして働くフェノールがあるのではないかと疑っていました。葉にも果実にも、他の多くの植物にも含まれています」
PriceはWine-Searcherの取材にこのように語ります。
ワシントン・ポスト紙は、赤ワインに含まれるケルセチンを避ける最善の方法は、“安いワインを買う事だ”と報じました。私は、それは単純化しすぎだと感じましたが、Waterhouse教授は“価格の問題ではなく全ては日照の問題だ”と断言しました。そして、平均してより高価なワインのブドウはより日光を浴びています。
「ノース・コーストの素晴らしいブドウ畑に行くとブドウがよく見えます。ブドウが見えれば太陽もブドウを見ているということです。ですがセントラル・コーストにある1エーカーあたり15トンものブドウを生産する巨大なブドウ畑に行くと、ブドウは日中の光を見ていません」
Waterhouse教授はそう言うと、ケルセチンのレベルに関するヨーロッパの2つの研究論文を読んだと続けます。そのうちの1つ、イタリアの論文は複数の化合物に関するもので、どちらもケルセチンが非常に重要であるかもしれないと誰もが気付く前に発表されたものであることは注目に値します。イタリアの研究では、50のブドウ品種のリストを発表し、ケルセチンレベルでランク付けが行われました。
「ブドウは日光に非常によく反応するので、この研究には若干の懸念があります。これは研究用のブドウ畑での結果です。300ドルのカベルネを栽培しているブドウ畑ほど注意深くつるの管理はされていなかったかもしません」そうWaterhouseは付け加えます。
ヴィラン(悪役)の品種
さて、ケルセチンの含有量が最も低い品種は我々にとって意外なものでした。なんとサグランティーノとタナだったのです。どちらも非常にタンニンの多いワインを造る事で有名ですが、勿論ケルセチンとタンニンは違います。
ワイン愛好家にとっては残念なことに、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、ネッビオーロはケルセチンの含有量が非常に高いと言う結果でした。タナに比べて「マイルドで軽やかな」印象のピノ・ノワールは、まさに頭痛持ちの友人にお勧めしたくなるようなワインだっただけに残念です。
もう一方のスペインの論文は特定のワインを対象としていたためWaterhouseにとってあまり有益ではありませんでしたが、興味深い事実が一つ明らかになりました。複数のカベルネ・ソーヴィニヨンが試されましたが、その結果には一貫性がなかったのです。Priceの研究を踏まえると、これは恐らくそれぞれのブドウが浴びた日照量の差によるものであるという事が考えられます。なのでカベルネ・ソーヴィニヨンは今後の研究に有望な品種です。
より良いカベルネを生産するために行われるブドウ栽培の選択の多くは、ケルセチンの増加にも繋がると言えます。例えば、房の中にあるブドウの実は一般的に日光に当たらないため、ケルセチンの含有量は低くなります。しかし、高価なカベルネを生産しようとする農家の場合、可能であれば房をより日光に当てようとするでしょう。
Priceはこう話します。
「ブドウにケルセチンが多く含まれる要因は、フルボディの赤ワインに関係するようなこと、つまり小さな実、(適度に葉を間引いた)日照を浴びやすい樹冠、ブドウ房を照らす豊富な日照量などが挙げられます。これらは全てブドウ栽培において一般的に望ましいと考えられています」
Waterhouseは、今後のUCSFの実験では、ケルセチンをほとんど含まないカベルネを使い、その半分にケルセチンを加える事で、ケルセチンのレベル以外は全て同じワインを準備できないか考えていると語りました。頭痛の研究で最も難しい問題の一つは、赤ワインには多くの天然由来化合物が含まれており、それらを単離するのが難しいという点です。しかしWaterhouseによれば、ケルセチンはほとんど不溶性のため、添加するのは難しいそうです。そこで代わりに、ケルセチンのレベルが大きく異なる2種類のカベルネを使用する計画を考えています。参加者にはどちらがどちらかを告げずにワインを飲んでもらい、頭痛の程度を報告してもらうのです。これは誰もがやりたい仕事ではありません。
私たちWine-Searcherは農家がブドウに遮光布をかけることで、低ケルセチンのワインをつくる事ができないかと考えました。熱波の影響で一部のブドウ畑はいずれにせよそのような投資をしています。Priceはこの取り組みは上手くいくかもしれないと話しました。
しかし、WaterhouseもPriceも、この研究は非常に興味深いものであるが、決定的というには早すぎると注意を促しています。
「私はワインと健康に関する化合物が生まれては消えていくのを見てきました。実際に何が起こっているかを知るには時間がかかります。勿論やってみることは出来ますが、まだブドウ畑に遮光布をかけることは勧められません。ブドウのケルセチンを含むフラボノールに影響を与えるものは沢山存在するのです。」
そして、Priceは更に続けます。
「赤ワインによる頭痛を避けたいですか?ならば白ワインを飲めばよいのです。これは間違いありません。なぜならケルセチンはブドウの皮に含まれていますから。それに白ワインには融解度の観点もあります。しかし、ケルセチン含有量が少ないワインを造るにはどうすればよいかという事になれば、私は幾らか手助けすることが出来るでしょう。」
引用元: Red Wines without the Headache
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