フィラディスワインニュース

新しいヴィンテージのパラダイム

地球が暖かくなるにつれ、ワインメーカーはブドウの生育期間の短縮に頭を悩ませています。


ワイン造りは非常に時間がかかるプロセスですが、ある重要な分野ではそのスピードが加速しています。

 

気温の上昇や異常気象など、気候変動の影響は数十年に渡りブドウ畑を荒廃させており、その結果、世界的に栽培期間が短くなるという一貫したパターンが見られるようになりました。

 

では、ブドウ畑とセラーにおいて、ヴィンテージの前倒しはワインメーカーにとって何を意味するのでしょうか?ボルドーからパソ・ロブレスまで、9人のワインメーカーがブドウ栽培と醸造の両面で、生育期間の短縮がどのように彼らの決断を変えたかを語ってくれました。

 

統計

Pichon Comtesseのワインメーカー、Nicolas Glumineauは、ボルドーの平均的な開花から収穫までの日数について、以前は100~110日でしたが、現在は90日程度になっていると語ります。

 

ブルゴーニュでは、Bret Brothers & La SoufrandièreのJean Philippeが、以前に比べ萌芽の時期が1~3週間早まっていると話します。「開花から収穫までの期間は100日から90~93日に短縮された」と明かし、この地域は理論的には四季がある温暖な気候パターンを享受すべきであるにもかかわらず、現在では夏が4ヶ月以上に渡って続く状態なので、春と秋の時期が短くなっていると話します。

 

ローヌ・ヴァレーのDelas Frèresでワインメーカーを務めるJacques Grangeも平均的な生育期間は全体的に短くなっていると同意します。ただし、その短縮はほとんどが生育シーズンの後半で起こっています。Grangeは、ヴェレゾン半ばから物事が加速し始めヴィンテージが10~15日前倒しになると指摘します。「この傾向はブドウが理想的な成熟に達するまで続き、20年前より15~20日前倒しになっています。」

 

イタリアでは、トレンティーノを拠点とするワインメーカー、Maurizio Mauriziと、Mezzacoronaの栽培家Michele Bonettiが以下のように伝えてくれました。
「シャルドネの収穫時期は1980年代には9月10~12日だったのが、現在は8月25日前後にシフトしています。最も大きな影響は、春の気温が高くなったことでブドウの成長が早まり、その結果最終的な収穫期も早まった事です。以前と比べ7~10日程度短縮されています。」

 

ドイツのラインガウでは、Schloss Johannisbergのマネジング・ディレクター、Stefan Doktorもシーズンの開始が早まった事で、ブドウ樹の生育期間が以前に対し2週間短くなったことを上げています。

 

マイナスの影響

シチリアを拠点とするTenuta Tasca d’AlmeritaのAlberto Tascaは、生長期間の短縮が、特に土着品種と国際品種が共存する畑において、その運営や管理に様々な困難を引き起こしていると話します。
「主な難点はフェノールと糖度の成熟度を合わせることで、赤の晩熟品種では複雑さに欠け、早熟品種では過熟になるという問題があります。」

 

Pichon Comtesseのワインメーカー、Glumineau は、灌漑が必要となる不便さを経験しており、Tascaと同様に、特定の品種が希望する収穫日より前に高い濃縮度に達してしまった事もあると語ります。

 

パソ・ロブレスでは、McPrice Myersもまた、糖度上昇のバランスを取る必要性と、フェノール成熟を達成するための十分なハンギングタイムの確保、そして理想的な収穫時期を調整してフェノール成熟を達成する必要性に駆られています。

 

ブルゴーニュのBretは、全体的に生育サイクルが短くなればなるほど、畑での対応力が求められるようになると語ります。
「剪定や収穫の準備など、あらゆる作業をより迅速に行う必要があります。そしてもう一つの大きなマイナス点は、このような急激な変化に対してブドウ樹が適応する可能性は限られている事です」
Bretはその主な例として、早い萌芽による霜害のリスクを上げます。ローヌのGrangeもこれに同意し、現在では各区画を別々に、さらにより定期的に確認にいくことが不可欠だと述べています。
「以前は週1回のチェックで十分でしたが、今では収穫のタイミングを確実にはかるために、週に3回はサンプルを取らなければなりません。」

 

プラスの面

ブドウの生育期が短くなることによるマイナス面がプラス面を大きく上回る一方で、ワイン生産者たちは異口同音に全体的なメリットとして病害の減少を上げています。サントネのDavid Moreauによると、彼が所有するブルゴーニュの畑では、べと病やボトリティスの被害を受ける事が少なくなり、さらに前の世代とは逆に、果実が最適な熟度に達するか心配することもなくなったと話します。

 

ボルドーのGlumineauは、生育期間が短くなった結果、収穫が早くなり、現在では寒さと雨季の前に収穫が終わるため、腐敗の発生が緩和されていることも明かしています。Moreauと同様、ローヌのGrangeもまた、生育サイクルの後半に成熟が早まる事で、30~40年前のように成熟不足のヴィンテージに悩まされる事がなくなったと話します。

 

ブドウの生育期間が短くなったことで、ワインメーカーは畑とセラーの両方で決断を変えなければいけなくなりました。

 

ラインガウのDoktorは、Schloss Johannisbergでは適切なキャノピー・マネジメントを実施することでブドウの生育期間を延ばすことが出来たと語り、それはパソ・ロブレスとトレンティーノでも同様のようです。

 

「近年では、強い日差しからブドウの房を守ることが非常に重要です。」
トレンティーノのMauriziとBonettiはそのように語ります。ブドウが早熟で生育期間が短くなると、酸が減少しpHが上昇するためスパークリングワインのベースには理想的ではないからです。そのため、2人はブドウのフェノロジー※を注意深く観察し、ペルゴラ仕立て以外の畝では、日焼けリスクが最も少ない箇所を中心に徐葉しています。
(※注釈:フェノロジー・・生物季節学の事。植物の発芽・開花・落葉など、生物の活動周期と季節との関係を研究する学問)

 

シチリアのTascaは、島は日差しが非常に強いため、徐葉を全く行わないか、制限することに最善を尽くしていると話します。
トスカーナのCastello di MonsantoのLaura Bianchiもこの意見に同意します。
「以前は8月末から9月初めにかけて行っていた全体的な徐葉を今では行わず、日陰の多い北向きの畝の一部だけ徐葉しています」

 

サントネのMoreauも、剪定時期を遅らせたり、剪定作業を2回に分ける方向にシフトしていると話します。1回目は事前の軽い剪定、2回目となる本格的な剪定は3月初めに開始し、4月中旬に終了させます。同様にローヌのGrangeは冬の剪定を遅めに行うことで、萌芽を出来るだけ遅らせていると言います。

 

醸造

セラーでは、アルコール度数とマセラシオンの時間をより意識することが鍵であり、タンニンを注意深く管理し、抽出全体の過程に最大限の注意を払うことが重要だとパソ・ロブレスのMyersは指摘します。

 

同様にサントネのMoreauは、生育期間が以前に比べ短く暑いため、より凝縮度の高くなったワインにアロマの新鮮さを与えるため、区画によって5~30%の全房を取り入れる事にしています。ローヌのGrangeもより短く暑いヴィンテージの結果、果梗が完全に熟すようになったのでマセラシオンのために全房を残すようになってきたと同意しています。「こうすることで、ワインにフレッシュさと緊張感を保つことができるのです」と彼は説明します。

 

短い生育サイクルへの対応

パソ・ロブレスのMyersは、季節が短く暑くなるにつれ、以前はブドウ栽培に適さないとされていた涼しい地域にもすでに進出しているといいます。

 

「天候の変化に対応できる品種を探し、さらに、温暖なエリアではより北や東向きの区画にブドウを植えています」
シチリアのTascaもまた、新しいブドウ畑は北向きの区画を好んでいますが、この国のテリトリーやDOC制度による品種基準の伝統が強いため、新しい品種を試すのは必ずしも容易ではないといいます。

 

「標高の高さを求める動きも出てきています。」
そうTascaは指摘し、生育期間の短縮による変化に対処する手段として、同じ品種であっても彼のワイナリーでは異なる収穫技術を使っています。
これは他の人にとっては、それほど簡単なことではありません。

 

「残念ながら、私たちの畑は拡張不可能で、マコネやブルゴーニュではそう簡単に植樹地を変えることはできません」
そう語るのはブルゴーニュのBretです。そこで彼と彼の家族は、他のテロワールに転向するのではなく、既存のシャルドネの樹の耐性を向上させようとしています。
「ブドウの木は地中海の植物なので、他の多くの植物に比べこの暑い条件により耐性があります。私たちは急進的な方法に取り組む前に、まずは既存のブドウ樹を助ける必要があります」

 

パソ・ロブレスのMyers、シチリアのTascaと同じように、Bretもまた、東向きや北向きの丘の斜面の区画が40年前には問題視されていたにも関わらず、今では興味深いものになりつつあると感じています。

 

一方で、自身の地域の伝統に熱意を持ち続ける生産者もいます。トスカーナのBianchiはCastello di Monsantoの3つの主要な土壌タイプはサンジョヴェーゼの栽培に理想的であり、ドメーヌは新しいエリアを探すつもりはありません。

 

ラインガウのDoktorも同意します。
「私たちは地球上で最も古いテロワールの一つを栽培し、守り続けています。リースリングは私たちが直面している変化に適応できると信じていますし、これまでの環境や天候の変化への適応も目の当たりにしてきました。他の場所に移動するつもりはありません。」

 

ブルゴーニュのBretは、シャルドネよりもアルコール度数が低く、酸が高いアリゴテを植えている事を明かしました。

 

「アリゴテは良い代替品ですが、これをいつまで続けられるかは分かりません。20年先?それとも40年先まででしょうか?」

 

ローヌのGrangeはこう言い切ります。「テロワールは、その土壌、日照条件、伝統的なブドウ品種、そしてそこに携わるワイン生産者のノウハウによって定義されます。」そして、何らかの介入をするのは常に最後の手段であるべきと断言します。

 

「私たちは基本を尊重しながら、この変化に対応する義務があるのです。」

 

 

引用元: Short and Sweet: The New Vintage Paradigm
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