フィラディスワインニュース

Noloワイン:ワイン最後のフロンティア

凄い勢いで拡大している、決して人々を酔わせない新しいワイン。世界中のワインメーカーやブランドがNolo()の世界に参入しています。


ノンアルコール、または低アルコール(Nolo)ワインの台頭は、より健康的な生活を求める人々の増加と密接に関係しています。

 

アルコールを含まない伝統的なアルコール飲料の利点は大きいです。依存症の問題を抱えている人や、単にアルコールから離れている人にとって、関連する健康リスクを伴わずにアルコール飲料のプラシーボのような大人の味わいを心理的に提供することができるからです。

 

また、甘さが強く、砂糖や化学物質、その他添加物で満ちていることも時にある果物ジュースやソーダのような古典的なアルコールフリードリンクに代わる選択肢を提供することもできます。

 

そして、特に2020年のコロナ以降、ミレニアル世代やZ世代といった若い世代は、健康やウェルネスを重視し、禁酒や禁欲に向かう傾向があることも明らかになっています。

 

Noloへようこそ (Hello to Nolo)

世界中のワイナリーやワインメーカーがこの呼びかけに答えています。

 

ニュージーランド随一のワイン生産地、マールボロにあるForest Winesのワインメーカー、Beth Forest。彼女は両親とともに、現在ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ロゼ、ピノ・ノワールで構成されるDoctorsシリーズの開発を進めています。

 

「10年前、低アルコールワインには誰も興味を示しませんでした。今、人々は“ロゼの夜とバラ色の朝”というアイディアに目覚めつつあるようです。それは素晴らしい夜を楽しみながらも翌朝酷い二日酔いなどから解放された状態です。誰もが皆、自分にとってより良いものを求めており、同時に何かを諦めたくないのです。」

 

ドイツのモーゼル・ヴァレーでは、Schmitt Söhne WinesがノンアルコールのRelax Zero Chardonnayを発売しました。CEOのJuliane Schmittは、この新しいポートフォリオのインスピレーションについてこう語ります。
「これは若く成長中のカテゴリーで、私たちの市場における競争力はその品質です。ドイツでは1900年代初頭から脱アルコールワインを造ってきました。」

 

Thomson & Scott、および非アルコールワインブランドNoughtyのCEO兼創設者であるAmanda Thomsonは、アルコールフリードリンクの世界に飛び込んだのは、彼女自身の個人的な嗜好からだったと語ります。
「生涯のベジタリアンとして、人々にとって食べ物が健康と幸福のために信じられないほど強力な助けとなる事を常に感じてきましたが、ほとんどの人が自分のワイングラスに入っているものは意識していないと気付いたのです。」
この考えを踏まえ、Thomsonはアルコールフリーへの関心の高まりを調査し始めました。

 

アルコールフリーの商品を一通り調べた彼女は、砂糖や化学物質が大量に使われていることに失望し、“除草剤や農薬を避け、できるだけ純粋に生産されたエレガントなワイン”を作ろうと決意しました。こうしてNoughtyという非アルコールワインブランドが誕生したのです。

 

手法①自然のままに

低アルコールやノンアルコールワインを製造する際には様々な手法があります。

 

最も自然な手法の1つは、Doctorsシリーズで示されているような低アルコールの動きで、糖度の低いブドウを自然に育むことに重点を置いています。

 

Forrestは、最初のコンセプトは彼女の父親であるDoctors John ForrestとDr. LoosenのErnst Loosenに親交があったことに端を発すると説明します。「父はいつもErniのリースリングが大好きでした。父はまた、マールボロの川の砂利がモーゼルの片岩の斜面に似ていると感じていました。」

 

これにインスピレーションを得たForrest親子は、美しいカビネットスタイルのリースリングをアルコール度数9%で造り上げました。「当時、このようなワインはニュージーランドでは珍しいものでした。」

 

リースリングはもともと低アルコールに適していますが、ソーヴィニヨン・ブランは別物です。例えば発酵を早めに止めると、最初の一口目は素晴らしいですが、その後にべたつくような甘さが残ります。一方、早く収穫すると“10,000リットルもの希硫酸”が生成され、ワインとして全く楽しめるものではありませんでした。

 

最終的な彼らの答えは、ドイツ、ラインガウで行われたリースリング会議の際、キャノピー管理と気候変動のプレゼンテーション中に見出されました。

 

Forrest親子が得たものは、彼らのブドウ栽培を劇的に発展させることになります。Forrestはこう説明します。「キャノピーの上部三分の一を、活発な幼児と想像してください。鮮やかな緑色の若葉はCO2を集め、日光を浴び、可能な限りの速さであらゆる仕事をこなします。キャノピーの真ん中は30~40歳の働き者で、彼らは生理学的な風味の熟度と酸の発育についてより専門的な仕事をしますが、その仕事しか行いません。キャノピーの一番下にある濃い緑色の大きな葉は、かなり古く、硬い葉で、70歳の定年退職者です。果実に日陰をつくるためにあります。」

 

親子が発見したのは、活発過ぎる幼児を取り除くことで、中年の労働者や一部の定年退職者に不足分を強制して補わせますが、彼らは幼児のような速度や効率では働けない、という事でした。

 

したがって、幼児の時は糖が凄い速さで生成・蓄積されていたのが、そのスピードでの蓄積ができなくなったことで、ブドウの糖度は自然に少なくなりアルコール度数も低くなりました。Forrestは、以前までの定説とは裏腹に、植物が糖を作る能力は酸や風味の発達とは関係ない事を学んだとし「植物の糖の生成能力を単に遅らせる事ができるのです」と話します。しかし、糖と色は依然として密接に関連しています。

 

自然な方法での低アルコールワイン生産では、葉が多いブドウ品種が最良の結果をもたらす傾向があり、ソーヴィニヨン・ブランは特にその典型だと話します。「ソーヴィニヨン・ブランは大きな葉が多く茂ったキャノピーを持っており、多くの実を熟成させようとしています。だからキャノピーの1/3を取り除くと大きなショックを受けるのです」

 

ですが、ピノ・ノワールのようなブドウ品種は全くの別物です。こちらは控えめなキャノピーで果実も少ないため、葉を刈り込むことは色を止める以外にほとんど効果がない事をForrestは見つけました。「私たちは実際に白いピノ・ノワールを収穫したのです」

 

今後ですが、親子はピノ・ノワールの葉の刈込をヴェレゾンの70%が経過するまで待てば、アルコールを低く抑えながら十分な色が保たれると考えています。

 

手法②スピンアウト

先ほどは低アルコールワインについてでしたが、ノンアルコールワインとなると話は別で、テクノロジーに大きく依存しています。

 

Australian VintageのSaintは、フラッシュ・デタント、電気透析、スピニングコーン・カラムなどの最新の技術革新に精通しています。

 

アルコール除去のプロセスについて、Saintは生産には3つの重要な段階があると言います。1つ目はアルコール除去工程に適した高品質のベースワインの製造です。

 

2つ目は高度なスピニングコーン・カラム減圧蒸留システム※(低温アルコール抽出システム)によるアルコール除去です。これは、ワインからアルコールを取り除きながら、アロマとフレーバーを保持します。
(※注釈:スピニングコーン・カラム法・・通称SCC法。ノンアルコール化装置を使用。タンク内を減圧状態にし、液体の沸点を下げた状態でタンク内のワインに遠心力をかけ、香りとアルコール成分を除去(揮発)する。取り除かれた成分をガスに吸着させ、分離させたアロマ成分だけをワインに戻す)

 

最後に、アルコール除去後に調整のためのブレンディングがあり、これにより“消費者の期待に応えるワイン”が生産されます。各段階には相当な専門知識が必要であり、Saintが指摘するように、多くの人は意識していませんが、そのプロセスはアルコールありのワイン製造よりも長いプロセスを経ています。

 

マールボロにあるThe Giesen Groupのチーフ・ワインメーカーを務めるShoulerは、ニュージーランドの果実の結晶のような力強さが、ニュージーランドがこの成長カテゴリーに適していると信じる理由の1つだと話します。「アルコールが除去されると、一部のフレーバーやアロマが失われるのは避けられません。元のベースワインにより多くのものがあればあるほど、アルコール除去後の味わいは良くなると感じています。」

 

ベースワインは適度な酸度とソフトなタンニンを持つのが理想的です。アルコールを取り除くと甘みも抜けてしまい、タンニンと酸味が厳しくなる可能性があるからです。

 

Shoulerはこう説明します。
「私たちはスピニングコーン技術を用いて、それぞれ要素が強いワインをアロマ、アルコール、ボディの3つに分けて蒸留します。ワインのボディとアロマに、ほんの少し高級ブドウ果汁を加える事で、バランスの取れた風味のノンアルコールワインを造っています。」

 

このプロセスは、工程で出る廃アルコールを技術の動力源となる燃料として利用する画期的なシステムももたらすため、持続可能性への取り組みにも大きく貢献しています。

 

Giesen Groupが新しいものを全面的に取り入れる一方で、モーゼルのSchmitt Söhne Winesは古きに目を向けています。

 

SchmittはRelaxシリーズについて、自然なアルコール含有量を0.5%未満になるよう穏やかに抽出していると説明します。

 

「このワインの製造工程では、アルコールを除去するために最先端の技術が使われますが、本当の差別化要因は、ノンアルコールワインが他の市場よりも早くから採用されていたヨーロッパに私たちのルーツがあることです。ドイツでは1907年にワインを脱アルコール化する減圧蒸留法※が特許を取得しました。我々には長い実験の歴史があるのです。」

 

ですがSchmittは、将来の技術がさらに洗練された結果をもたらすことを期待しています。
(※注釈:・・SCC法から遠心力を抜いた、より古典的な方法。減圧状態にし、沸点を30度程度に下げた状態で蒸留することで、風味をある程度保ったままアルコール成分を除去する方法)

 

ThomsonはNoughtyシリーズを生産するために「製造プロセスから可能な限り不要な糖分を削減することを目指していましたが、ワインを本当に輝かせるには甘み、骨格、酸味の絶妙なバランスが必要です」と話します。そして、脱アルコールプロセスについては、減圧蒸留とスピニングコーンの2つの主要な方法を採用しています。脱アルコール工程でしばしば取り除かれてしまうアロマは、瓶詰前に再び加える事で補完しています。

 

違いを味わう

技術的な観点から見ると、脱アルコールにはいくつかの欠点があります。Forrestにとって最大の問題は、「事実上、全ての要素を分離していることで、アルコールは除去できるが、アルコールは他の分子とも結合している。分離されたフレーバーをワインに戻し再構築しても、いつも通りのワインにはならない」という点です。

 

Forrestが言うように、ワインをバラバラにして元に戻せば戻すほど、より糖分、酸、タンニンのバランスはちぐはぐになっていき、それを再構築しバランスを取り戻すのは簡単ではありません。

 

GiesenのShoulerも同意見です。「アルコールはワインの香り、甘味、重さ、温かみに大きな影響を与えるため、完全な置き換えはできません。ゼロ・アルコールワインを造る事は可能な限りクラシックなワイン体験に近づけることであり、品種や地域の特徴を提供することです」と話します。

 

Thomsonが指摘する別の欠点は、以前アルコールフリーのワインで失望した経験を持つ人々の先入観を克服することです。彼女は、ノンアルコールワインは、ほとんど全く知らない商品として消費者にアプローチしなければならない、と考えています。ノンアルコールワインは、アルコールワインという本来の形からインスピレーションを得ていますが、別の新しいものを提供するからです。

 

Saintも同意します。「最大の課題は、消費者に対して、ゼロアルコールワインが実際にはアルコールが除去されたワインであり、ジュースではないという事実を消費者に知ってもらう事です」

 

Noloワインの消費者は?

伝統的なワインの最大消費者層は50歳から80歳の間に集中していますが、若い世代には異なる傾向が見られます。

 

Schmittはこう言います。「ミレニアル世代はアメリカの低アルコールおよび非アルコール市場の43%を占めており、これはNoloカテゴリーにとって重要な市場です。Noloカテゴリーは、アルコール摂取量が以前の世代よりも少ない法定飲酒年齢のZ世代消費者にとっても魅力的な入口となるでしょう。」

 

Forrestは、彼らはワインにあまり興味がなく、蒸留酒やミキサー、その他色々なものを飲んでいると指摘します。ですが、20年後に彼らが何を飲んでいるかは誰にも分からず、適切な商品を見つける事が重要だと考えています。「高品質で興味を引くような選択肢を提供したいのです。彼らを引き付ける事を諦めたら、彼らを失うことになります。」

 

Giesenにとっては、オーストラリアとニュージーランドは大きな成功を収めている主要市場ですが、現時点で最も大きいのは米国です。彼の調査によると、アメリカ人の3分の2が健康とウェルビーイングを向上させたいと考えており、46%がアルコール摂取量を調整したいと考えています。

 

Thomsonは、イギリスが最初に非アルコール飲料がアルコールと並んで提供できると考えを受け入れた国の一つで、特にロンドンは、革新とトレンドの信じられないほどの拠点であり、アメリカも大いに受け入れてくれたと話します。

 

Forrestはこう話します。「若い飲み手が興味を持っているのは、このファンキーでアルコール度数の低いカテゴリーです。そして年配の飲み手は、老化によってアルコール処理が難しくなり、それでも素晴らしいワインを飲みたがっています。Noloワインにはこの両極端を可能にするポートフォリオがあり、両方の願いを叶える機会となるでしょう。」

 


引用元: Nolo: Wine’s Final Frontier
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