カヴァのワイン生産者たちが守護聖人の祝祭日を祝う一方で、彼らの業界の未来はますます揺らいでいます。
カタルーニャの守護聖人、サン・ジョルディを祝う4月23日は、毎年カヴァがあちこちで楽しまれ、通りでは本とバラの交換※が華やかに行われます。
(※注釈:バルセロナを中心とするカタルーニャ地方では、大切な人に美と教養、愛と知性のシンボルとして、1本の薔薇と1冊の本を贈りこの日を祝う。男性は女性に花を、女性は男性に本を贈るのが一般的)
ですが、4月後半にこの地に降った雨(1週間で地域によっては最大15リットル)は、旱魃の危機の緩和には不十分であり、カヴァの新しい旱魃への規則や大手生産者の失業見通しに対する怒りを和らげるには至っていません。
サン・ジョルディの日の前夜、世界最大のスパークリングワイン生産者であるヘンケル・フレシネはカタルーニャ地方の従業員のほぼ80%(778人の従業員のうち615人)を一時解雇すると発表しました。
これは2021年以来この地方を襲っている旱魃に起因するとし、カヴァDOアペラシオンのブドウ収量は2億9000万~3億2000万キロから2億1300万キロに減少し、2023年の収穫では6000万本のカヴァが失われる事態となっています。
旱魃特例措置への怒り
一方、カヴァ規制委員会(カヴァDO)にて4月18日の投票で採択された新しい“旱魃規則”は、カヴァDOでは認可されていないボバル、メルロー、テンプラニーリョを含む黒ブドウ品種の使用を許可し、Cava de Guardaと呼ばれるエントリーレベルの若いスタイルのワインを生産するという前例のない動きを含んでいます。
カヴァDOはペネデスの大手生産者によって管理されており、この新しい規則は例外的な時期のための一時的な措置だと述べています。しかしこの動きは、長期熟成のカヴァに重点を置く高名なカヴァ生産者たちの怒りを買いました。
「ブラン・ド・ノワールを造るために無認可の黒ブドウ品種の使用を許可するなんて、まったく異常でずれていると思います。フレシネやコドルニウのような大手生産者を除く、無視されてきた多くの小規模生産者は、この措置に怒り、不満を漏らしています。」
そう話すのはカヴァ生産者Vilarnauのディレクターで、カヴァ生産者協会Aecavaの前会長を務めたDamià Deàsです。
カヴァの生産者は通常、伝統的な3つの白ブドウ品種、チャレッロ、マカベオ、パレリャーダを使用します。
「生産者は収量が低いためにブラン・ド・ノワールを造り、活性炭※を使用して香りを減らし、低品質のワインを生産するでしょう。これは消費者を混乱させるものです。私たちの業界の “より良い品質のカヴァをより高く販売する”、という戦略計画にも矛盾します。」
Wine-Searcherに独占的に語ったDeàsはこのように述べました。
(※注釈:活性炭は香気成分、色素を良く吸着することから、ワインの安定化処理として褐色や有害な臭いの除去などに使用されている)
生産者たちは、昨年3月に採択されたものより更に極端な規則が、より広域なセクターの変更に繋がることも恐れています。
水が不足している場合、大手生産者は灌漑されたブドウ木を1haあたり15,000キロまで増やすことができるようになりました。Deàsによれば一平方メートルあたり50リットルの水は、1haあたり100万リットルの水に相当すると述べます。
カヴァのベースワインを生産し、それを他の生産者に販売する生産者や栽培者は、カヴァDOに登録されていないブドウ畑を、ベースワインの生産の15%まで使用することもできるようになりました。またヘンケル・フレシネは、カタルーニャでカヴァを瓶詰めするだけでなく、ベースワインをドイツに送り、そこでスパークリングワインを生産しています。
未承認のブドウ品種の使用に関する特例措置はスペイン政府の承認を必要としますが、スペイン政府はカヴァDOの決定を受け入れる傾向にあります。フレシネのライバルであるコドルニウ(米国のプライベート・エクイティ企業Carlyleが所有)は、無認可ブドウの使用を許可する免除を推進していないと述べました。
サバイバルモードに突入する生産者
カタルーニャの一部の生産者は、旱魃の影響を避けるために、水の再利用や、ブドウ栽培による解決策を取り入れています。しかし、”サバイバルモード “に入っているというペネデスのある生産者は、Wine-Searcherの取材に対し、旱魃の影響により、ブドウ木1本につき2つの芽しか使わないようにしていると話しました。
「通常このエリアでは春までに350~400リットルの雨が降ることが多いのに、今年は200リットルにも及びません。昨年は、カタルーニャ地方では気温が21℃を下回らなかった夜が60日もあり、ブドウ木は休むことができませんでした。」とDeàsは語ります。
彼によると、旱魃と高温のため、2023年の多くの小規模生産者の収量は、約7-8000kg/haから約3000kg/haと半分以下にまで激減したといいます。過去3年間の持続的な旱魃は、ブドウを萎ませ、木自体を破壊し、ブドウ木は水不足の影響を受けました。その結果、一部の生産者は栽培家に支払うブドウの価格とカヴァのボトル価格を引き上げています。
また、ブドウ不足の中で有機栽培の生産が伸びているため、生産者の中期的な経済的持続性には深刻な懸念があり、その多くはワインの種類を減らしています。フレシネは現在、カヴァ枠外であるシャルマ製法のスパークリングワインを生産しています。
スペインのカタルーニャ政府が2月1日に非常事態を宣言した後、新しいカヴァDOの旱魃対策が発表され、沿岸の海水淡水化プラントの建設計画が発表されました。
一時解雇を否定するコドルニウ
一方、旱魃の危機の中、スペインの労働組合CCOOは、5月に発効が予定されているヘンケル・フレシネ社の一時的な雇用停止を拒否しました。
ヘンケル・フレシネは声明の中で次のように述べています。
『不測の事態による一時的な雇用停止は、2021年以来このセクターに影響を与えている厳しい旱魃による原材料不足によってもたらされた危機、そして2023年には特にペネデスに大きな打撃を与えた危機という現状の下で採られた特別な措置です。』
ヘンケル・フレシネの雇用を削減する決定は、2023年の年間純収益が4%増の12億3000万ユーロに増加したことを発表したにもかかわらず行われました。
一方、フレシネのライバルであるコドルニウは、人員削減を否定しました。
「スペイン国内および国際市場における将来の供給、カヴァの生産量、市場での流通に関する当社の予測は今後数年確実なものです。これは、事業全般の良好な内部管理、ブドウの購入に関する適切な計画、およびペネデスの300以上の家族との何世代にもわたって維持してきた安定した契約によるものです。売上高が前年比1桁成長、EBITDA※が2桁成長という現在のポジティブな状況は、当社が企業としていかに良好な状態にあるかを示しています。」
(※注釈:EBITDA・・「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略で、税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益を指す)
引用元: Rain Can’t Dampen Cava Crisis
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