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特別なシラー、高貴なセリーヌ

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数あるシラーのクローンの中で、ひときわ異彩を放っているものがあります。


人気のあるブドウ品種では、全てのクローンが同じように作られているわけではなく、セリーヌのように独自の差別化を図っているものもあります。

コート・ロティの代名詞ともいえるセリーヌ。ワインメーカーのStefano Amerighiが「シラーの中で最も希少で貴重なマサル・セレクションによる」と位置づけているこの歴史的クローンは、その複雑さ、スパイシーさ、そしてシラーとのユニークな差別化で注目を集めており、この品種のファンもそれに気づき始めています。

4人のワイン業界のエキスパートが、この有名なクローンの背景、畑とグラスの中での違い、そしてその特徴が最終的にどのようにワインに反映されるのかを解説します。

 

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ローヌのワイン造りの大御所、M.Chapoutier のMaxime Chapoutierは、セリーヌをコート・ロティに古くから植えられているシラーのマサル・セレクションによるものだと説明します。

 

「厳密な意味では、セリーヌは品種ではなく、シラーの品種内変異である」と彼は言い、エルミタージュやサン・ジョセフにもその痕跡が見られると述べています。しかし、その区別が曖昧な人もいるのです。

 

Gracie Events(ワインイベントLa PauléeとLa Fête du Champagneに特化したLa Tabléeを運営する組織)の運営ディレクターRaj Vaidyaは、セリーヌをシラーの古い遺伝子のいとこだと述べ、「両者が近縁なのか、同じなのか、論争が続いている」と強調します。

 

チャールストンにあるThe Tippling Houseのオーナー兼ソムリエのMatthew Conwayは、セリーヌvsシラーの議論は北ローヌのワインメーカーたちの間で繰り返される議論であり、彼自身はセリーヌを「伝統的シラー」と呼ぶことにしたと言います。

 

房の違いについて

ブドウ木について、セリーヌとシラーの最大の違いはブドウの房の構造です。

 

「セリーヌはシラーの原種、特に北ローヌの品種に遺伝子を遡り、意図的に苗木を交配していません」とConwayは言い、前者はよりコンパクトな房と円形の実をつける傾向があるのに対し、シラーはより大きく楕円形の実をつけると説明します。

 

Chapoutierもこれに同意し、セリーヌのブドウは小粒であることが多く、その結果、標準的なシラーよりも凝縮していると言います。

 

「セリーヌは収量も低いので、剪定や樹勢の管理により注意を払う必要があります」と彼は言います。同様に、Chapoutierによれば、セリーヌはフェノールの成熟が遅く、不均等であることが多いので、ブドウが過度に凝縮するのを避けるために収穫日を厳密に監視する必要があるということです。

 

セラーからグラスへ

Chapoutierは、セリーヌはブドウの粒が小さく凝縮した実になるため、タンニンとアロマがより凝縮したワインができ、ストラクチャーもしっかりすると説明します。醸造面では入念にコントロールされた抽出と熟成が必要だと言います。

 

「これは特に暑いヴィンテージに当てはまることで、過剰なタンニンを避けるためだ」と彼は言い、セリーヌにとって好ましい醸造法として、果帽(果皮、種子、時には梗を含むブドウの固形物)を沈める技術を挙げます。

 

では、セリーヌとシラーの味わいの違いをテイスティングで理解するのは可能なのでしょうか?

 

「なんとかかろうじて」と、アトランタにあるThe Oenophile Instituteの創設者Chelsea Youngは言います。Youngは、セリーヌの方が果実味は少なく、フローラルでミネラリーなアロマが特徴的だと感じています。しかし、やっぱりシラーと同じ伝統的なロタンドン(胡椒のようなスパイシーな風味を与える化合物)と肉の風味が特徴となっています。

 

「ストラクチャーという点では、セリーヌの酸はより正確で、タンニンのレベルは常に高いが、テクスチャーは生産者や醸造方法によって異なる」と彼女は言い、「極めて微妙な違いだ」と説明します。

 

Conwayは、セリーヌ主体のワインはより濃く、より紫がかっており、よりナチュラルに果汁とタンニンのバランスを保っていることが多いと言います。同様にChapoutierも、セリーヌに見られる際立ったアロマとフローラルでスパイシーなニュアンスを強調し、Vaidyaもまたよりアロマが強いと表現します。

 

Youngと同様、Vaidyaもまた、2つの違いはテイスティングでわかるが、ニュアンスは比較テイスティングをすればもっと明らかになると指摘します。VaidyaもConwayも、セリーヌのフローラルな特徴を強調しています。

 

「コート・ロティでは、アロマを出すため多くのキュヴェがヴィオニエをブレンドしているとされているが、実際はシラーにセリーヌを何パーセントかブレンドしているのだ」とVaidyaは明かし、セリーヌの深い芳香とフローラルな性質(ジャスミン、スミレ)を強調します。

 

市場でのセリーヌ

しかし、消費者にとっては、セリーヌとシラーのニュアンスの違いは、参考になるどころか、かえって混乱を招くことになりかねないのです。

 

Conwayは、生産者がラベルにセリーヌと明記しているワインは必ずセリーヌと表示するが、そうでない場合はわざわざ顧客にセリーヌだとは紹介しないそうです。これは、ピノ・ノワールなどの品種で、わざわざクローンの違いに注意を向けさせないのと同じことです。

 

「セリーヌを瓶詰めしていることを認めない、あるいは知らない生産者はたくさんいるので、正確に識別するのは難しい」と彼は言います。「しかし、セリーヌには、ラベルにセリーヌであることを明記していない生産者が実はセリーヌをボトリングしていると推測できるほど、明確な特徴があると思います」。

 

Conwayと同様、Vaidya もセリーヌだと強調するのは、生産者が元々そうしている場合だけです。

 

「セリーヌは特徴的ですが、シラーの境界・特徴の範囲内に収まっているので、顧客が興味を示さない限り、あまり詳細には触れない」と彼は言います。

 

The Oenophile Instituteでは、セリーヌについて生徒から質問を受けたことはあるが、まだ授業で取り上げたことはないとYoungは明かします。「セリーヌは単なるシラーのクローンなのか、それとも独自の品種と言えるほど変異しているのか、という話題・論争がある」と彼女は言います。彼女の見解は?「AOCの規制が変わるまでは、シラーのクローンのままだろう」ということです。

 

セリーヌの現在

シラーの植え付けは一般的にコート・ロティが中心ですが、ヴァン・ド・フランスやコート・デュ・ローヌのワインは北ローヌ全体のブドウを使っているとYoungは指摘します。

 

「教育者としての私の現在の立場では、AOC、特にコート・ロティの “伝統的 “あるいは “古典的 “な例としてセリーヌを選ぶことはないと思います」と彼女は明かします。

 

同様にVaidya も、セリーヌとシラーのどちらかが本質的に優れているとは考えていません。しかし、強いて言えばセリーヌは、南部にあるエルミタージュやコルナスよりも、北部のサン・ジョセフやコート・ロティのワインのような、自然なアロマがあり、前者より骨格も控えめなワインに適していると考えています。

 

「私は南部のモダンなシラーが好きだ。より力強く骨格がしっかりしていて、フローラルなアロマが少ないもの」と彼は言います。

 

とはいえ、すべてのシラー愛好家がそう思っているわけではありません。「完熟したつる付きトマトと伝統的な品種のトマトのどちらかを選べと言われたら、私は必ず伝統的な品種を選ぶ」とConwayは言います。「つまり、同じ条件なら、私は必ずセリーヌを選ぶということだ」。

 

引用元:The Serine Highness of a Special Syrah

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