マルスランの原産地はフランスかもしれないが、地球の裏側で新たな高みに到達している。
アルゼンチンといえばマルベック、ニュージーランドといえばソーヴィニヨン・ブラン。では、中国といえば…マルスラン?
高品質なワイン生産国としての中国の台頭は目を見張るものがあるが、慢性的に低迷し飽和状態にある市場において、商業的な成功を収めるのは難しい。
そこで登場したのが、フランス生まれの比較的無名なブドウ品種「マルスラン」だ。生産者、プロモーター、そして政策立案者たちは、この品種が中国ワインの存在感を高めると考えている。
今問われているのは、このブドウが重要かどうかではなく、このブドウがワイン産業をどこまで押し上げられるか、である。
フランスから中国へ
Paul Truelは1961年、フランス国立農学研究所のブドウコレクションであるDomaine de Vassalにおいて、カベルネ・ソーヴィニヨンの厚い果皮と骨格、そしてグルナッシュの耐病性と耐暑性を掛け合わせてマルスランを生み出した。
小粒で果汁量が少ないため、当初は見過ごされていたマルスランだが、生産者が量より質を重視するようになるにつれて支持を集めていった。現在、マルスランはセルビア、スペイン、南アフリカからメキシコ、ウルグアイ、レバノンに至るまで、20カ国以上で栽培されているが、最も劇的なストーリーは中国にある。
マルスランは2001年、北京郊外にあった中仏共同の実験的ブドウ畑(後のDomaine Franco Chinois)に持ち込まれた。そこでの急速な成功を皮切りに、沿岸部の山東省から最西端の新疆ウイグル自治区まで、約2500kmにわたって栽培が拡大した。現在、中国国内のブドウ畑の大部分はカベルネ・ソーヴィニヨンが占めているものの、マルスランの生産者は約150にのぼり、栽培面積は最大4000 haと推定され、フランスに次いで世界第2位となっている。
中国の生産者たちは、マルスランの生命力の強さ、汎用性、そして品質の可能性を高く評価している。
「マルスランは他の多くの品種よりも適応力が高く、干ばつや暑さに強く、病害虫への耐性もあります」と語るのは、寧夏(ネイカ)回族自治区で5つの顧客のためにこの品種を管理しているワインメーカー、鄧鍾翔(デン・ジョンシャン)だ。
「日照不足の年でも、カベルネ・ソーヴィニヨンに見られるような未熟な青臭さが出ないのです。」
中国農業大学(北京)の馬会勤(マー・フイチン)教授によると、マルスランは北西部の高温乾燥した気候から東海岸のモンスーン気候まで、極端な環境にも対応できるという。
「沿岸の山東省でさえ深い色合いになるため、栽培者のニーズに合致しているのです」と彼女は語る。
味わいの魅力
果皮と果汁の比率が高い小さな果粒は、ワイン初心者が大半を占める市場に最適なスタイルを生み出す。深い色合い、フレッシュなアロマ、完熟した果実味、そしてカベルネ・ソーヴィニヨンに比べて渋みが少ないのが一般的な特徴である。
また、マルスランは本来ブレンド用に使われるという見方があったにもかかわらず、単一品種ワインも数多く造られている。
「カベルネ・ソーヴィニヨンの骨格と、グルナッシュのジューシーで香り高い側面をすでに兼ね備えているため、私は単一品種のワインが好きです」と、Douyin(中国版TikTok)で200万人以上のフォロワーを持つVloggerの朱麗麗(ジュー・リーリー)は言う。「マルスランはそれだけでバランスが取れているのです。」
このような風味の特性は、中国の消費者トレンドにも合致している。ステータスのために飲む、つまり有名ブランドや高価格を目的とした飲酒は減少している。一方で、純粋な喜びや味わいを楽しむために飲む傾向は増えており、マルスランはその変化の波に乗る絶好の位置につけている。
しかし、だからといってマルスランを中国の「フラッグシップ品種」として位置づけてよいのだろうか?少なくとも、マルスランは多くの条件をクリアしている。
一つには、アルゼンチンにとってのマルベックのように、マルスランを自国の代表品種として確固たるものにしている国は他にない。
寧夏の銀川市ワイン産業協会の張軒(ジャン・シュエン)によれば、この事実が同協会の何十人ものメンバーにこのブドウの栽培を促し、さらには政府からの支援(ブリュッセル国際ワインコンクールと共催する年3回のマルスランコンクールへの後援など)を引き出しているという。
「マルスランは私たちにとっても、地域全体にとっても重要です」と張は語る。「もっともっとマルスランを増やしたいです。」
品質の基準
マルスランはまた、馬会勤教授が挙げる2つの重要な基準、すなわち品質と量を満たしているように見える。
フラッグシップ品種は「偉大なワイン」を生み出すべきである、と彼女は主張する。
「非常に高い複雑性と独自の個性を持ち合わせ、ハイエンドの消費者や伝統的なワイン愛好家に向けてアピールできるものでなければなりません」と彼女は言う。
その基準で見れば、中国のマルスランは健闘している。2017年にGrace Vineyardがデキャンター・アジア・ワイン・アワードでプラチナ・ベスト・イン・ショーを獲得して以来、過去10年間にわたりメダルを獲得し続けている。昨年には、インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティションで中国の地元ワイン3銘柄が95点以上を獲得した。
2024年にマカオで初開催されたウィン・シグネチャー・チャイニーズ・ワイン・アワードでは、Fei Tswei(フェイ・ツイ)のマルスランが、約200の生産者から出品された700以上のワインを打ち破り、「ベスト・ワイン・オブ・チャイナ」に輝いた。
評論家たちも注目している。ジェームズ・サックリングによる「Top 100 China Wine List」には、2023と2024年にそれぞれ16銘柄、2025年には18銘柄のマルスランがランクインし、中国の「新たなシグネチャー赤ワイン品種」と評されている。
また、2019年にボルドーでの栽培が認可されたことや、DBRラフィットの中国ワイナリーである山東省のLongdaiがフラッグシップのブレンドにこのブドウを使用していることなど、マルスランにとって予想外の箔がつくような出来事も起きている。
生産量の飛躍
馬会勤教授が挙げる第二の基準は「量」である。つまり、フラッグシップ品種は幅広い市場に浸透しなければならない。
「多数の消費者に受け入れられるワインを造る必要があります」と彼女は言う。「彼らこそが真の収益を生むのですから。」
それはすなわち、栽培面積を拡大し、スタイルを多様化させることを意味する。生産者たちはその両面で前進しており、面積を増やしながら地域ごとの個性を表現している。
私は毎年、北京、上海、深圳で「ワールド・マルスラン・デー」のフェスティバルを共同開催し、最大50種類のワインを提供しているが、消費者は日常的に異なる地域のマルスランのスタイルの違いを識別している。生産者側も、スティルワインの赤だけでなく、ロゼ、スパークリング、そしてブラン・ド・ノワールをリリースするなど、新たな展開を見せている。Grace、立蘭酒荘(Lige Yuanshan)、金宇雲嵐(Jinyu Yunlai)といったブランドは、後者(ブラン・ド・ノワール)を利用して高まる白ワインの需要に便乗している。
もちろん、特定の品種をフラッグシップにすることには潜在的なデメリットもある。単一品種への依存は、単一栽培の弊害を招くリスクがあり、人々の嗜好が変化した場合には売上の暴落につながる可能性もある。
マルスランには栽培上の課題もある。収量の管理、比較的遅い熟成時期、そして中国北部のブドウ樹全般と同様に、極寒で乾燥した冬から守るための秋の土埋め作業が必要となる点である。
また、中国はまだワイン産地として若く、マルスランは未知の要素が多すぎるため、フラッグシップとするには時期尚早だと言う見方もある。とりわけ、他に有力な候補品種がある場合はなおさらである。
遺伝子検査によってカルメネールであることが判明したカベルネ・ゲルニシュト(Cabernet Gernischt)ほど、その存在感が大きいブドウはない。このブドウは、1892年に設立された歴史的なワイナリー、張裕(Changyu)と結びついているため、国家主義的な魅力を持っている。その長い歴史は、「中国らしさ」を獲得し、マルスランよりもさらに土着化するための十分な時間があったことを意味する。
出発点
それでもなお、ワインの生産量と消費量が10年にわたり減少している現状において、マルスランの存在を無視することはできない。生産者にとって扱いやすく、親しみやすいワインから本格的なワインまで造ることができ、中国ワインの世界的信用を高めるような賞やスコアを獲得している。(輸出量は控えめだが、中国産マルスランは現在数十カ国で見つけることができる。4月には、米国で初めて中国ワインのみのメニューを提供したとされるニューヨークのレストラン「Ninhao」にも登場した。)
そして最終的に、マルスランの無名さはそれほど大きな問題ではないのかもしれない。
「マルスランは間違いなく、今もっとも人気が上昇している品種です」とVloggerの朱は言う。「多くの消費者はブドウの品種についてそもそも知識がないため、マルスランが彼らにとって初めて出会う品種になることがよくあるのです。」
馬会勤教授も、自身の「ワイン鑑賞」の授業を受ける大学生たちに同じ構図を見ている。
「学生たちは、いわゆる高貴品種について何も知りません」と彼女は説明する。「彼らにとっては、カベルネ・ソーヴィニヨンも、ピノ・ノワールも、マルスランも、すべて同じスタートラインにあるのです。」
ワインを飲む人が不足している現状を鑑みると、一人でも多くの人をそのスタート地点に連れていくことが、何よりも必要なのである。
引用元:Marselan Finds a Happy Home in China
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