Because, I'm Because, I’m<br>地理人 後編
Interview 07 / 今和泉隆行さん

Because, I’m
地理人 後編

知れば知るほど、日常トリップはやめられない。

地理人的、地球の歩き方。

ここではない、未だ見ぬ日常にあこがれ、空想で地図を描き始めたのは7歳のころ。いまや空想地図作家として本を出版したり、展示会を開いたり、ワークショップを行ったりと大活躍だ。通称地理人、今和泉さんの活動領域は空想の中だけにとどまらない。国内だけでなく世界中の都市を自分の足でめぐるトラベラーでもある。地理人はどんな旅スタイルを好むのか。その歩き方を聞いてみたら……やっぱりちょっと普通じゃない。地理人的こだわりの旅行スタイルとは?

Q. 国内外300都市以上を旅されていますが、地図好きとしてはどんな旅をするのですか?

まずは行く場所について地図で徹底的に下調べをしますね。むしろ現地に滞在する時間より時間をさいています。路線バスでここと、ここと、ここを回ろうと計画して、予定した時間内に回れるかという「パズル」を解いている時が、一番テンションが上がってるかもしれないですね。現地に行ってからは、脳裏で答え合わせをしつつ、ただただ地元住民になった気持ちでその場所の日常を味わうのが楽しみです。

地図で周到に下調べし、シュミレーションしてから現地へ。旅はその答え合わせのようなもの。

現地に着いたら、人が一番多く集まる場所、例えば大型商業施設や商店街などを歩きます。大型商業施設なら上のフロアから下のフロアまで全部回って、地元民の生活の実態を探ります。地下の食品フロアだけ賑わっていて上は全然人がいないなんて所もありますから。そこから路線バスなどを使って郊外に向かいます。地下鉄は景色が見えないのでなるべく使わないようにしています。
あれを見よう、これを見ようという気持ちは、一旦頭から抜いて、フラットな状態で歩きます。あれ、なんかあの街と違うぞとか、なんでここはこうなってるの? みたいな率直な疑問を感じられるようにするためです。だからなるべく現地の人に擬態して、さも名所なんかには興味なさそうな感じでササササって歩きます。よく言われますよ、歩くのが速いって(笑)。観光スポットにも基本的には行きません。

旅の下調べでは徹底して地図を確認。旅はパズルを解くようなもの。現地を歩くのはその答え合わせのためだ。

Q. 今まで行った場所で一番思い出に残っているのはどこですか?

一番は決められません。ひとつはアメリカのサンフランシスコ。本当はかなりの起伏があるんですけど、その起伏に沿わずに全部縦横で道を引いてるので、地図だけ見るとどこが山か平地かわからないんです。えー、地図じゃ全然分からないじゃんみたいな。後は家の造りや店構えですね。最初にアメリカに移住してきた人達はイギリスなど寒い国の人たちなので、基本的に建築物は壁が厚くて窓が小さいのですが、サンフランシスコのリトルイタリーの建物は窓が大きく、建物と道路の境目が曖昧で、テラスになっていて開放的です。チャイナタウンは、建物は強固なんですけど、品物が道路にわーっとはみ出している。品物が外にはみ出さないヨーロッパ系の店とは、全く違います。そんな風に地図ではわからない部分が面白かったりします。

サンフランシスコにて。堅牢な建物が並ぶ市街地(撮影:今和泉隆行)

商品が道路にはみだすチャイナタウンの店(撮影:今和泉隆行)

開放的なリトルイタリー。地図には記されない情報と空気感を楽しむ。(撮影:今和泉隆行)

ロシアのウラジオストクも印象的でしたね。新潟とは海を挟んで向かい側、成田からたった2時間くらいの所にあるのに、街の雰囲気は完全にヨーロッパ。ヨーロッパ風の町並みに、行き交うのは金髪の白い肌の人々だけ。さらに中国との国境が面白い。ロシアの沿海地方は、人口密度が日本の1/30くらいで、国境近くは牧草地に酪農家がポツポツと点在しているくらい。だけどバスに乗って中国に入った瞬間、風景は一変。人口密度がロシアより10倍弱高いので、牧草地ではなく一面畑になるんです。それまではどこかのヨーロッパの国の田舎と思っていたのが、突然アジア、中国でしかない風景になるんです。土地の雰囲気って、自然環境ではなく住んでいる人々や国家が作りだす部分も大きいと実感しました。

豊かな牧草地から広大な農地へ。ロシアから国境を隔てて中国へ入った瞬間、風景は一変する。(撮影:今和泉隆行)

「同じ自然環境下で国や住む人が変わると、どんな風に変わるのか」今和泉さんが一番印象に残っている風景だという。(撮影:今和泉隆行)

Q. 旅をした経験は空想地図づくりに活かされているのですか?

それが、空想地図に役立てようとは思ってないんです。役に立ったらいいなとは思ってますけど。だってそのための投資だと思うと割に合わないですから。行きたくて行っているだけなんです。
日本は国と民族、言語が一致するとても稀有な環境。日本人がいるのも、日本語を話す人々がいるのも、日本列島1地域のみで、1つの国で統一されている。世界はこうとは限らない。この固定観念を崩すには、海外旅行は凄く刺激になります。例えばマニラの空港でフィリピン人に意思を伝えるとき、手元のスマホでタガログ語に翻訳したら、文字をひとつひとつ音読して理解していました。すんなり理解しないなぁと疑問が残りましたが、街に行ってわかりましたよ。タガログ語の表記なんてどこにもないんです。見かける文字は全部英語。タガログ語は話し言葉で、日本における方言と似た立ち位置なのだろうと。あとは中国の新疆ウイグル自治区も、漢字とアラビア語という離れた世界の文字が併記されるので、複数の文化の重なりを体感する手がかりにもなります。

どんな便利な世の中になっても、現地に行かないと分からないことは多い。

いまはGoogle Earthのストリートビューで世界中のどこでも見ることができますが、やはり現地に行かないとわからないってことの方が多いと思います。私は空想して地図を描くことはするけど、地図を見て実在の土地を空想することはしません。早く自由に旅が出来る日が来るのを楽しみにしています。

(後編 了)

写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店

今和泉隆行さん

いまいずみ・たかゆきさん
1985年生まれ。7歳から実在しない都市の地図「空想地図」を描き、大学時代に47都道府県300都市を周り、土地勘を身につける。IT企業勤務を経て独立。通称「地理人」として、都市や地図の読み解き方を中心に執筆、展示、ワークショップ、研修指導、ドラマの地理監修・地図制作等を行う。著書に『みんなの空想地図』(白水社)、『「地図感覚」から都市を読み解く』(晶文社)、『どんな方向オンチでも地図が読めるようになる本』(大和書房)がある。
公式サイト:https://www.chirijin.com/

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