Because, I'm Because, I’m<br>犬語を話す獣医師 後編
Interview 13 / 鈴木隆之さん

Because, I’m
犬語を話す獣医師 後編

知れば知るほど、間違いだらけな犬とのカンケイ。

犬には犬のルールがある

前編ではペットの犬への飼い主の接し方には間違いが多いと教えていただいた。と、そもそもペットという考え方自体が間違いであった(!)。後編では、散歩の途中で出会う初対面のワンちゃんたちへの接し方にもルールがある、というお話。そして犬と飼い主のためのコミュニケーション方法を教える、「鈴木式ハンドリングメソッド」のビフォアアフターについても語っていただく。

Q. 犬に近寄って行くと避けられたり、よく吠えられたりする人っていますよね。何か理由があるのでしょうか?

犬には「挨拶」という儀式があるんです。僕は「チェックタイムコントロール」と呼んでいて、犬はそこで瞬間的に相手を品定めする習性があるんです。
これに気づいたのはある経験が最初です。昔、アジリティの大会に出場するために訪れたオランダでのこと。犬を連れて街角に立っていると、60代くらいの女性が僕のところへ歩いてきた。何かまずいことでもしたのかと思ったら、「私、同じ犬を飼っているの。挨拶させてほしい」と言います。僕の犬はミニチュアプードルなのですが、その方はさっとしゃがんで横を向くと、左手を出して犬に匂いを嗅がせます。ちらちら横目で犬の様子をうかがい、しばらくして私の犬がプイと横を向いてOKのサインを示してから、ゆっくり犬の方を見て「ハロー」と挨拶しました。
ヨーロッパでは犬をパートナーとして暮らす文化が根づいている。彼らには犬への接し方が自然と身についているんですね。

「日本では犬は『ペット』だからと、所有物のように間違って扱ってしまう」と鈴木さん

犬にとって正面から向き合うのは威嚇行為。横向きに挨拶するのが正しいんです。
なぜなら、人と犬では身体のつくりが違います。戦いなどで急所を隠すとき、人はふつう横を向きますが(ボクシングの構えのように)、犬は正面を向いて急所を隠します。初対面の犬に人がいきなり正対すると警戒されてしまいます。
犬に挨拶するときは、身体の側面を犬に見せて接します。アイコンタクトのタイミングも大切ですが、こちらから無理に目を合わせることもしません。犬が注意をこちらに向けたときに、それに答えるように視線を合わせることで、はじめて信頼が生まれます。

犬の気持ちが落ち着くのが鈴木さんのハンドリングメソッド。診察や整体にも応用されるのでどの犬もおとなしく治療を受けている。

人にはそれ以上近づかれると不快感をもつ「パーソナル・スペース」がありますが、「犬のサークル」といい、犬にも適切な距離感覚があるのです。サークルの大きさは、犬種ごとに異なります。例えば、ビーグルは大勢のグループで狩りをしてきました。だから、常に近くに仲間がいる環境。この生い立ちから、ビーグルのサークルは小さいのです。同じ猟犬でも、テリア種は単独で行動するので、サークルが広くなります。犬種に合わせた距離感で接することが、警戒心を解くカギにもなります。

ルールと言えば、犬の頭をいきなり撫でてはいけません。犬は動くモノに反応するので、見知らぬ人に手を出されると警戒モードになってしまう。もし犬を撫でるのであれば、からだがいいです。散歩の途中で出会った犬に、いくらかわいいからといって、正面から駆け寄っていきなり頭をなぜたりなどはご法度。犬からしたら「宣戦布告」されたも同然です。

「アジリティ」とは犬と指導者が一体となり、コース上の障害物を乗り越える競技。鈴木さんは国内外の多くの大会で好成績を残している。

Q. 初対面では、犬の方も人の品定めをしているということですね。

もともとイヌ科の動物たちは、群れでハンティングをしていたので、リーダーを決める習性があります。といっても猿山のボスのように絶対的な存在ではなく、犬の場合、日々ころころと入れ替えられる班長みたいなもの。その習性があるので、人も品定めされているわけです。そこでどちらがリーダーなのか上下関係を決めている。
飼い主の場合は、日々、犬より上のリーダーポジションを取ることが必要なんです。ポジションを取らないと、犬はストレスフルになってしまう。
飼い主が出かけるとずっと鳴いている犬がいますね。これは寂しくて鳴いているのではない。飼い主のポジションが下だからなんです。本来、犬の世界では留守番は下の者がするのがルール。だから、自分がハンティングに行く役割なのに、下の者が外へ出かけてしまって、心配でたまらないから騒いでいるんですよ

飼い主がリーダーになるためにはいくつか方法がありますが、決め手の一つとなるのが挨拶の仕方です。この挨拶の仕方を私のメソッドでは『チェックタイムコントロール』と言っています。リーダーポジションを取るには、犬との日々のファーストコミュニケーションのとき、先に挨拶をしたらダメなんです。先に挨拶するのは犬の世界では相手に媚びていることになるので、「あなたにリーダーをお願いします」ということになる。犬は責任感が強いので、それを実行しようとするのです。挨拶は、初対面のときと同様、犬からのアプローチを待ってから、視線をあわせたり、声をかけたりするんですが、チェックタイムコントロールの方法、ポジションの取り方については、犬種によっても違いがありますし、コツもあり、練習も必要です。「鈴木式ハンドリングメソッド(Sメソッド)」では、飼い主とワンちゃんと一緒にレッスンに参加していただき、きちんと習得できるようお教えしています。

人と犬の整体師でもある鈴木さん。鈴木さんにかかるとどんなワンちゃんもおとなしく整体を受けてくれる。腰のマッサージを堪能するチワワのマメ様と。

Q. 犬が飼い主を下だと思ってしまうことで、実際にどんなトラブルがありますか?

実際のケースですと、宅急便のクロネコヤマトに吠えるので困るという相談がありました。クロネコヤマトのスタッフや車が家に来ると、狂ったように騒ぎ続けるというのです。そのケースではまず、飼い主のポジションを下から上に取り直しました。さらに一緒に犬を連れて、近くのヤマト運輸へ行き、駐車場の中でしばらく「伏せ」をして帰ってきたのです。その間、犬は一回も吠えませんでした。
私がやったことは一つだけ、その間ずっと、ひたすら飼い主の方とおしゃべりしたのです。質問責めにしましたので、その間飼い主の方は答えに集中して、犬には話しかけませんでした。そもそも犬がクロネコヤマトを判別できるはずないんです。つまり飼い主の方は、「うちの子はクロネコヤマトが嫌い」だと思い込み、気にし過ぎていたんです。犬はそんな飼い主の行動から察知して、飼い主の敵が来たと勘違いして吠えていたわけです。

また、車に乗せると対向車に向かっていつも吠えている犬がいました。他県から来られたのですが病院までの道中もずっと吠えていたそうです。犬はリーダーですから、自分が飼い主を守らなければと思い、向かってくる対向車に、「こっちへ来るな!」と吠えていたんです。飼い主を守ろうと必死だったのですね。このケースもポジションを取り直してあげると、帰りの車では吠えることなくスヤスヤと寝ていたそうです。自分が下になったことで、気持ちが落ち着いて、安心できたのでしょう。

これらのケースを見ると、いかに犬が従順で愛情をもった動物だということがわかりますね。犬と人がより良いパートナーシップを築くためにも、人のほうが、彼らの世界のルールを理解してあげることが大切なのです。

(了)

写真 sono
インタビュー 歌代幸子
編集 徳間書店

鈴木隆之さん

すずき・たかゆきさん
1967年東京生まれ。日本大学農獣医学部卒業。日本大学付属家畜病院、日本アニマルメディカルセンターなどを経て、1996年にベルヴェット動物病院開院。警察犬協会・日本チャンピオン、アジリティ―IFCS世界大会2008・銀メダリストなどを受賞。獣医として治療に当たる一方、犬と飼い主のコミュニケーション力を高める「鈴木式ハンドリングメソッド(Sメソッド)」によるセミナーを開催。「イヌの整体屋さん」も務める。ラジオ番組『ワンダフル・ワン・ライフ』(エフエム世田谷)にもラジオパーソナリティーとして出演中。
ベルヴェット動物病院(http://bellvet.jp/)
世田谷区上用賀3-14-21

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