Because, I'm Because, I’m<br>犬語を話す獣医師 前編
Interview 13 / 鈴木隆之さん

Because, I’m
犬語を話す獣医師 前編

知れば知るほど、間違いだらけな犬とのカンケイ。

犬はペットではなくパートナー

来客に吠える、モノを遊んで壊す、飼い主がいないと鳴き続ける……そんな愛犬にまつわる飼い主の悩みを独自の経験と研究から体形化させたハンドリングメソッドを用いて、解決へと導いている獣医師・鈴木隆之さん。犬の気持ちがわかる獣医さんとして評判なのだとか。子どものころから無類の犬好き。獣医師として犬の治療に当たるだけでなく、ハンドラーとして警察犬の日本チャンピオンを育て上げたり、犬の競技「アジリティ」の世界大会では銀メダルを獲得。プライベートでも6匹のワンちゃんに囲まれて暮らす、まさに犬づくしの人生を送っている。そんな鈴木さんに、犬と人がよりよいカンケイを保つためのお話を伺った。

Q. 犬のしつけというと、「おすわり」や「お手」が基本のように思われていますが。

お手やお座りができるようになると、犬が人の言葉を理解しているととらえがちですが、そもそもこれは大きな間違いなんです。犬が言葉を理解しているわけじゃないんです。なぜなら、犬が行うコミュニケーションツールは95%が視覚信号で、音声はたった5%しかありません。我々は言語という音声で何かを教えようとするけれど、実は犬には伝わっていないのです。でも、多くの人は、犬に対して人の言葉を理解させようとしています。そして言葉で犬に要求ばかりしている。私の開催しているセミナーでは、逆に人が犬のコトバを理解する方法を教えているんです。

小さな頃から無類の動物好きがこうじて、獣医師になった鈴木さん

そこでよく話すのは、ワンちゃんは「犬の国からの留学生」だということ。犬には犬の国のコトバ(コミュニケーション方法)があるんですよ。
だからまず、飼い主が犬語を理解したうえで、犬語で語ってあげましょうというのが、私の考え方。トレーニングを始めるとき、飼い主の方にお願いするのは、犬を「ペット」としてではなく、「パートナー」として接していただきたいということ。単なる愛玩の対象では、かわいがり、健康を心配するまではできます。でも、犬が抱えている気持ちやストレスまでは思いがめぐりません。パートナーという意識をもってワンちゃんを観察する。これが犬語を理解して犬と良好なコミュニケーションをとる第一歩です。

犬に人の言葉を覚えさせようとしないで、人が犬のコトバを覚えて、犬語で語りかけましょうと説く鈴木先生

Q. 人の言葉が理解できない犬からしたら毎回、「お座り!」とか言われて大変だったんですね。犬の苦労がわかります。

でも言葉かけ自体は重要なんですよ。何か言葉を発するときって、感情も入りますよね。たとえば、「かわいい!」「大好き!」とか。それらの言葉の意味はわからないけれど、人の感情の抑揚やニュアンスは伝わっているんです。

ひとつ大切なことがあって、犬の世界での基本的な愛情表現は、「注目」なんです。犬は注目されることで「愛情」を感じとってくれます。犬とのコミュニケーションで欠かせないのが愛情です。私はこれを「愛情タンク」と呼んでいます。これは、どの犬にも備わっていて、蛇口があるけれど、漏れを止めるコックが付いていない。だから入れたものが流れてしまう。子犬は愛情タンクが空になるとどうするか。すぐにいたずらをします。いたずらすることで注目されたいからなんですね。だから愛情タンクを満タンにキープしてあげるのが、飼い主の役目なのです。良いことをしたときは、それとわかる方法で明確にほめる。でも、ほめ過ぎは禁物です。何か学習させるときにほめ過ぎると、覚えようとしない。いっぱい注目されると、愛情タンクがあふれて興奮するので集中できなくなるのです。

鈴木さんの愛犬、ミニチュアプードルのシロ公様と。シロ公様は鈴木さんの指先の動きを見て従順に行動。

犬の世界では自分の行動が注目されることを「イエス」だと受けとめる。つまり「いいね、今の行動を繰り返して」という意味にとるのです。
例えば子犬がシーツを破る音がして、あなたが振り返ったら、犬語では「いいね、もう1回やって」と伝わってしまう。そこで「ダメ!」と叱っても、子犬はまたやるでしょう。

Q. そういうとき犬語で「やめろ」と伝えるにはどうしたら?

音を立てたり、おもちゃを転がしたりして、別のところへ誘導するんです。子犬は目の前にあるものしか反応しないので、シーツをびりびり破いていてもそっちへ行ってしまう。飼い主もその行動に注目すると、それが「いいね」ということになります。
少なくとも生後6か月まではいっさい叱ってはいけません。なぜかというと、小さい時期に叱る行為をすると、これも「イエス」の意味だと覚えてしまうおそれがあるからです。ワンちゃんを「見る、話しかける、さわる」ことで注目し、まずは愛情を与えることが肝心です。一方で、しつけは厳しくしなければいけないと考える人もいます。でも犬を叱ったり、まして叩いたりなどは全く必要ないのです。

外に出ても飼い主の側にいるシロ公様。犬との関係性ができていれば、リードはいらないという。

あと、日常的に犬の気持ちを逆にとらえているケースもありますね。たとえば、犬が投げたボールを取ってくる遊びがあるでしょう。犬がこの遊びを好きかというと別。犬には動くモノを追う習性があるから、何かを放り投げたら、そっち向かって反射的に走ってしまうのです。ボールを追うけれど、ボールを取って来ない子がいるでしょう。それはボールを投げて欲しくないからです。そもそも犬が投げたボールを取ってくるのは、飼い主に自分がくわえているモノを見せに来ているのです。そうすれば飼い主に注目してもらえるでしょう。でも、せっかく見せたボールをまた投げちゃうと、犬は「もう、いいや」と思って、取りに行くのを止めてしまう。そんな犬の気持ちも理解してあげましょう。

(了)

写真 sono
インタビュー 歌代幸子
編集 徳間書店

鈴木隆之さん

すずき・たかゆきさん
1967年東京生まれ。日本大学農獣医学部卒業。日本大学付属家畜病院、日本アニマルメディカルセンターなどを経て、1996年にベルヴェット動物病院開院。警察犬協会・日本チャンピオン、アジリティ―IFCS世界大会2008・銀メダリストなどを受賞。獣医として治療に当たる一方、犬と飼い主のコミュニケーション力を高める「鈴木式ハンドリングメソッド(Sメソッド)」によるセミナーを開催。「イヌの整体屋さん」も務める。ラジオ番組『ワンダフル・ワン・ライフ』(エフエム世田谷)にもラジオパーソナリティーとして出演中。
ベルヴェット動物病院(http://bellvet.jp/)
世田谷区上用賀3-14-21

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