Because, I'm Because, I’m<br>ZINEオンラインショップ店主 前編
Interview 18 / 野中モモさん

Because, I’m
ZINEオンラインショップ店主 前編

知れば知るほど、ZINEは「私だけの小宇宙」である。

「私はこうです」って誰でも言える場所、それがZINE。

いま、「ZINE(ジン)」という表現手法が注目を集めている。個人や小さなグループが自主的に出す非営利の出版物を指す言葉で、英語で言う雑誌「MAGAZINE」から派生した「FANZINE」が語源とされている。つまりは自費出版の出版物なのだが、デジタル全盛の今、なぜアナログな印刷物が取り沙汰されているのか。
学生時代からZINEの発行を行い、現在はZINEのオンラインショップを主宰する、ライターで翻訳者の野中モモさんはこう言う。「私はこうですって誰でも言えるのがZINE」──その知られざる魅力とは?

撮影協力:なぎ食堂

Q. ZINE」と言われても、一般的な日本人にとっては耳馴染みがありません。ZINEとは、どういうものなんでしょうか?

有志が自主制作する、非営利・少部数の出版物です。日本ではミニコミとか同人誌と か、自費出版とか、フリーペーパーもそうですね、いろんな呼び名と文化がありますけ ど、そういったものと重なる概念ですね。お値段がついている場合も、無料で配ったり 交換したりする場合もあります。コピーをホチキス止めした冊子のイメージが強いですけど、それだけには限らず、形態は自由です。

雑誌はMAGAZINE(マガジン)と言いますよね。かつて雑誌を作るには、ある程度まとまったお金と人の組織化が必要だったと思うんですけど、印刷技術が進化して、安く気軽に印刷物が作れるようになると、個人でもできることが広がっていきました。 

1920年代頃から、SF小説や映画などのファン(愛好者)たちがファン・マガジン、略して「ファンジン(FANZINE)」を作りはじめたと言われています。そこからさらに小さな規模で個人が出版活動をできるようになって、いつしかファンという言葉が抜け落ち、「ZINE」と呼ぶのがポピュラーになったものと理解しています。

本業はライター・翻訳者。ZINEオンラインショップ「Lilmag」は2007年に開店した。

Q. 歴史自体は古いんですか? いつ頃からZINEというのはあるのでしょう?

最初期のZINEとしては、アメリカのSF同好会が1920年代に創刊したものがよく引き合いに出されます。その後、70年代に沸き起こったパンクの文化も、ZINEがその発展に大きく関わっています。ですが、もっと遡って、19世紀以前の社会運動の場でやりとりされていたパンフレットやスクラップブックとの連続性を重視する研究者もいます。ビジネスとしての出版というものが成り立ち、成長していくのと同時に、そこに入りきら ないものを指す概念も必要とされるようになった、と考えるといいのかな。 一般に全盛期とされているのは80年代末から90年代ですね。簡易印刷やコピー機など、個人で制作できる技術が一般に広まり、かつまだインターネットが十分に普及していな い時代でした。

アメリカでは街角のニューススタンドでも売られ、ZINE愛好者のネットワークができ、毎月何千種類ものZINEを紹介する専門の情報誌も発行されるなど、まさにムーブメントとなっていたんです。私も大学生の頃に夢中になり、自分でZINEを作ったりもしましたよ。その頃にZINEを作っていた人たちが、やがてインターネット黎明期に個人サイトなどを作り、デジタルで発信していくようになりました。しかし、その一方で紙でしかできないことを追求できる個人メディアとして、ZINEは今にいたるまで脈々と続いて来たのです。

大学時代はZINEの魅力にとりこになり、自らZINEを作っていた。

Q.  長い歴史があることは分かりました。でも今やネット全盛です。印刷物であるZINEは時代遅れとも言えますが、なぜ今ZINEが注目されているのでしょうか?

ネットって完結しないじゃないですか。特にSNSは「いいね!」の数でどんどん周りの評価が入ってきて、いつ終わるんだ?ってなりがちです。だけどZINEは紙の印刷物として一旦完成されるので、それをじっくり噛みしめる時間や物質的な空間が生まれます。つまり周りの評価や順位から逃れ、それだけの価値を味わうことができるメディアなのです。 

さらにネットで不特定多数に向けて発信すると、ありがたくない関心を向けられてしまう危険も大きいんですね。いちいち容姿や年齢について言われたり、発言内容とはあまり関係のない誹謗中傷を受けたり。女性は特にその面倒くささを切実に感じていると思います。

ZINEではひとまずそういうものからは守られて、もっと好きなように、安心して語ることができるんです。 実は誰もが世界中にアピールしたいわけじゃなく、なるべく見つけられずに、手の届く 範囲内で表現したいという人もいるのだということを、ZINEは私たちに教えてくれます。もちろん、ZINEとネット、どちらが上か下かというのではなく、デジタルもアナログも両方活用するのが今の時代のやり方です。若い人は、例えばInstagramなどで日常的に発信しつつ、特にこれはじっくり見てもらいたいという写真や絵や文章をZINEにまとめるなど、柔軟に活用していますよ。とにかく、個人が自主的に、自由に作れるのがZINEの魅力。すなわち「私はこうです」って誰でも言える場所が、ZINEだと思うんです。

渋谷区鶯谷町にある、ビーガン御用達の「なぎ食堂」は野中さんに古くからお馴染みの店だ。

なぎ食堂の店内には、野中さんセレクトのZINEはじめ、本、アートブックなどを展示販売するコーナーが。

野中モモさんのお気に入りZINE

●カフェバクダッド・アンソロジー/カフェバクダッド
中東、特にアラブ世界の奥深い文化を日本に紹介する活動を続けている任意の民間団体が、ウェブに発表した記事の一部を冊子にまとめた。岩手産のヨーグルトで中東のチーズ作りに挑戦したりも。


●DIARY OF A LITTLE AVOCADO /多田玲子
プロのイラストレーターとして活躍する多田玲子さんが自主制作する漫画シリーズ。アボカドをモチーフにしたキャラクターと仲間たちの冒険は、自由な楽しさにあふれている。


●switch point 薄い冊子001  絶滅危惧種!?「杉並路上の金太郎」読本/金太郎ハンターズ
杉並区の暗渠に設置された車止めがなぜか金太郎のモチーフであることに着目。区内にどれくらい金太郎がいるのか、なぜそうなったのかを足を使って調査した路上観察系ZINE


(前編 了)

後編はこちら

写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店

野中モモさん

のなか・ももさん
ライター、翻訳者(英日)。訳書『イラストで学ぶジェンダーのはなし』(フィルムアート社)、『社会を変えた50人の女性アーティストたち』(創元社)他多数。著書『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)、『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)。ZINEのオンラインショップ「Lilmag」主宰。http://www.tigerlilyland.com/

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