Because, I'm Because, I’m<br>ZINEオンラインショップ店主 後編
Interview 18 / 野中モモさん

Because, I’m
ZINEオンラインショップ店主 後編

知れば知るほど、ZINEは「私だけの小宇宙」である。

前編はこちら

ZINEを読むと、「人って生きてるんだなぁ」って感じられる。

誰もが思ったことを自由に発信できる世界最小のメディア「ZINE(ジン)」。歴史は意外と古く、1920年代にはSFファンによるZINEが創刊された記録が残っている。ネットで世界中のどこにでも発信できる時代に、印刷物であるZINEは伝達範囲が限られる不便なメディアだ。しかしその不便さこそがむしろ新鮮だと、デジタルネイティブの若者からも熱い視線を浴びている。では、どんなZINEがあるのか。どんな人が作るのに向いているのか。思い立ったらZINE日和。アナタも、ZINEを作ってみませんか?

撮影協力:なぎ食堂

Q. ZINEにはどんな種類があるのですか? もちろん十人十色だというのはわかりますが、入門の指針として、ジャンル的なものを教えてもらえると嬉しいです。

「パーソナルZINE」というのが、私的な経験を形にするもので、いちばんZINEらしいZINEと言えますね。日記やお手紙に近いような。他には「作品集」としてのZINEもあります。写真とかイラストとか、漫画とか文芸作品とか。文芸には詩や小説がありますけど、そうした既存のスタイルに収まりにくい表現ができるのも自主制作ならではですよね。フィクションとノンフィクションの境目があいまいな文章とか。
あとは「ファンジン」も定番ですよね。映画ファン、スポーツファンなど、様々な分野の同好の士が作って読むZINEです。私は20年ぐらい前にロンドンに住んでいたのですが、サッカーの試合に行くとスタジアムの外でZINEを手売りしている人がいました。レコード屋さん、CD屋さん、ライブ会場などに行くと音楽のファンジンがありましたしね。そうしたファン同士のコミュニティを作る手段として自然発生して来たのがZINE だったのです。

日記でも漫画でも、自主的に出版したものは全てZINEになり得る。

ちなみに、ZINEと重なるものに「フリーペーパー」がありますが、ZINEは無料の場合も有料の場合もあります。フリーペーパーは文字通り無料の出版物のことで、90年代には個人が作るものを街でよく見かけました。それが2000年代以降、企業や地方自治体が作る広報誌が「フリーペーパー」として広く認知されるようになったので、もっと個人がささやかに作るものを指す言葉が求められるようになって、「ZINE」の名称が日本で広まったのかもしれません。

Q. ZINEは世界中で出版されていると思います。世界のトレンド的なものはありますか? やはり本場は欧米ということになるのでしょうか?

そうですね、私が日本語と英語ぐらいしかわからないので何とも言い難いのですが、アジアでも活発だと思いますよ。特にこのジャンルが熱いということはないのですが、BlackLivesMatterMeToo運動などの流れもあり、個人の視点を打ち出して社会への異議申し立てをする人は増えている気がしますね。

そういえばZINEを作る高校生が主人公の青春映画『モキシー~私たちのムーブメント~』が今年の3月からNetflixで配信されています。アメリカのヤングアダルト小説が原作で、10代の女の子が学校内の身近な性差別を告発するZINEを作って、仲間ができる物語です。面白いのは、主人公のお母さんもかつてZINEを作っていたという設定。ZINE90年代の草の根のフェミニズム運動に大きな役割を果たしていたことが、エピソードとして出てきます。先にも言いましたが、ZINEの全盛期は90年代。当時を知らない若い世代にはかえって新鮮なのかもしれませんね。

「世代を超えてZINEは作り続けられている」という野中さん。

Q. ちょっとZINEを作ってみたい、という人もいると思いますが、どういう人がZINEに向いていると思いますか?

誰でも作れるというのがZINEの魅力であり基本ですが、そもそも発信したいことがなければ作れません。ただし、そんな大げさである必要はなくて、すごく手軽でハードルの低い自己表現として、あるいは友達とおしゃべりするよう感覚で、作ることを楽しめばよいと思います。 あとは、手作業を面倒だと思わない人ですよね。小さいけれど一つ形のあるを完成させて、リアクションも得て、じゃあ今度はこうしてみようと試行錯誤する作業はワクワクしますよ。やっぱりそこはネットと違って、実在する紙の重みがあるのかなと思いますね。

ZINEを作るなら、まずは友達とおしゃべりするよう感覚でやってみては?

Q. クオリティ抜きにして、まずは作ってみればいい、ということですか?

どうなんでしょう。手放しでおすすめできない気持ちもあります。誰でもやっていいし、それが存在意義でもあるのだけど、一から十まで個人で制作するので、センスや技能の差が残酷なほど明確に出てきます。さらに、自分の意見を自分の責任で発信し続けていくことは、基本的に面白いけれど、辛くなることもあるかもしれない。それでもZINEは必要だと思います。自分がここにいて、生きているということを誰にも邪魔されず主張できるツール、それがZINEです。もしそうした発信の場がなければ、どんどん今羽振りのいい人たちにだけ都合のいい世の中になってしまいます。それを防ぐために、商業的なものさしでは価値を測れないメッセージを発信していって欲しいですね。だからそうですね、まずはZINEを作ってみて下さい。 

たとえ拙くても、やってみると見えてくることがたくさんあります。新しい情報や人との出会いもきっと生まれてきます。そして、あとからそのZINEを読み返して、「ああ、あの時はこんなこと考えてたんだ」って振り返ることもできます。 もちろん、他人が作ったZINEを読んでみることから始めても構いません。「人って生きてるんだなぁ」って感じられると思いますよ。

野中モモさんのお気に入りZINE

スプーンからの手紙/BOOKSOUNDS
「何者からかの手紙」と銘打った「手紙小説」シリーズの一篇。他には、「火星人からの手紙」、「ひつじからの手紙」、「消しゴムからの手紙」など、有機物に無機物、概念も含むさまざまな架空の存在からのメッセージが茶封筒に収められている。

●trailer zine Vol.1/金相佑/キム・サンウ
韓国出身で東京に暮らすゲイ男性のキム・サンウさんが、日本で出会った国籍もセクシュアリティもさまざまなクィアの友人たちの声とポートレートを記録。当初は韓国で書籍にする予定で制作をはじめたが、海外渡航が制限される状況下で、今の「わたしたち」を残したいという思いから急遽ZINEとして出版した。

●自分ひとりとだれかの部屋読書会/ayaaana
アフリカ系アメリカ人作家ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーの短編小説集『フライデー・ブラック』の誌上読書会ZINE。作者のayaaaanaさんが感想を綴るのに加えて、作者と翻訳者へのインタビューや、海外の読書系インスタグラマーの紹介も。蛍光インクで印刷されたちょっとしたコメントも親密な雰囲気だ。


●PUNK Girl Diaries / Lene Cortina,Vim Renault
作者のふたりはイギリス在住で、90年代にはPO!およびPopinjaysというバンドで活動していた女性たち。パンクの女性をテーマにした内容充実のブログを運営しつつ、折々にZINEも発行している。


(後編 了)

写真 sono
インタビュー いからしひろき
編集 徳間書店

野中モモさん

のなか・ももさん
ライター、翻訳者(英日)。訳書『イラストで学ぶジェンダーのはなし』(フィルムアート社)、『社会を変えた50人の女性アーティストたち』(創元社)他多数。著書『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)、『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)。ZINEのオンラインショップ「Lilmag」主宰。http://www.tigerlilyland.com/

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