Because, I'm Because, I’m<br>コーヒーマイスター 後編
Interview 28 / 篠原惟真さん

Because, I’m
コーヒーマイスター 後編

知れば知るほど、ハンドドリップコーヒーは心を満たす。

前編はこちら

自分好みの1杯に巡り合うための旅を楽しむ。

自分の好きなコーヒーの味を見つけ、いつも美味しい一杯を飲むにはどうしたらいいのか。コーヒー豆の選び方も大きなテーマとなるだろう。コーヒー豆にはさまざまな産地があり、それぞれ違った特徴がある。さらにコーヒーの味を決定づける要素の一つに「焙煎」があり、浅煎りから深煎りまでの「焙煎度」によってコーヒーの風味も変わってくる。自分好みの味に出合うため、コーヒー豆選びに欠かせない知識を篠原さんに教えてもらおう。

Q. 淹れ方を学んだところで、豆についても教えていただけますか。産地の特徴ってありますか?

コーヒー豆は、主に赤道に沿った「コーヒーベルト」と呼ばれる地域で生産されているんです。地図でいうと北緯25度~南緯25度の間に拡がる熱帯エリアです。そのエリアで栽培される「コーヒーノキ」の赤い色をした果実を「コーヒーチェリー」といい、その種がコーヒーの生豆なんです。生豆を乾燥させて、焙煎(加熱して炒る)することで、ふだんよく目にする茶色のコーヒー豆になります。コーヒー独特の風味は、豆に含まれる成分が過熱されて化学反応を起こすことで生まれ、香ばしさや苦味・酸味が生成されるんですね。

<コーヒーベルトマップ>
コーヒー豆の産地は大きく3つのエリアになります。

[ 中南米 ]
ブラジル、コロンビア、グアテマラなどの産地。コーヒー豆の特徴としては、一般的にクセがなく、バランスの良い豆が多いと思います。
(銘柄・コロンビア、グアテマラ、ブルーマウンテンなど)

[ アフリカ・中東 ]
エチオピア、タンザニア、ケニアなどが知られています。フレーバーを楽しむことができ、ジューシーで華やかな味わいが特徴的です。タンザニアのキリマンジャロ、エチオピアのモカなどは日本でも人気がありますね。コーヒーが苦手な人も一度飲んでみたら、良い意味でコーヒーっぽくないコーヒー豆に出合えるかもしれません。
(銘柄・モカマタリ、キリマンジャロなど)

[ アジア・オセアニア ]
コーヒーの名産地として知られるのがインドネシア。有名なのはスマトラ島で栽培されているマンデリンです。インドネシアのコーヒーは濃厚な味わいの豆が多くて、深いコクがあります。ハーブっぽい、土っぽい、などとよく表現されるように、ひと癖あるコーヒーがアジアには多いような気がします。最近はベトナムのコーヒーも多く出回るようになっていて、ちょっと個性的なコーヒーを求めるのもいいでしょう。
(銘柄:マンデリン、トラジャなど)

産地をいろいろ飲み比べたいという人は、最初はクセがないブラジルあたりから始めるのがおすすめです。

また、豆を選ぶときに「スペシャルティコーヒー」の表示があれば、ぜひ試してみてください。スペシャルティコーヒーは、コーヒーの品質をカテゴライズする基準のうちの最上位にあるコーヒーを指します。品質が高いこと、トレサビリティが取れることがポイントです。ワインでいえばテイスティングのように、コーヒー業界ではカッピングという審査があり、生産国での栽培管理や収穫、品質管理などが適正に行われていること。生産地の特徴的なすばらしい風味特性が表現されること……といった厳密な基準があります。

100点満点中80点以上を取ったものがスペシャルティコーヒーに認定されます。
80点以上をクリアーするのはかなり厳しく、コーヒー生産量全体の約5%しか出回っていないんですよ。
その下には、プレミアムコーヒーがあって、これは生産地が限定されているが、カッピング評価が80点に満たないコーヒー豆。続いて全体の約50%を占めるコモディティコーヒーは、最も多く流通されているコーヒー豆。ローグレードコーヒーは、生産国内で消費されているコーヒー豆です。

実は、もともと僕はコーヒーが苦手だったんです(笑)。それがスペシャルティコーヒーに出合って、「なんだ、この美味しさは!?」と感動したのが、コーヒーにはまるきっかけでした。もちろんスペシャルティコーヒーに限らず、自分の好みに合うコーヒーとの出合いがあるはずです。豆選びは長旅になるかもしれませんが、コーヒーの豊かさを知るうえでも続けてほしいです。

カフェのバリスタさんやコーヒー豆販売店の方に聞いてみるのも手です。「どんな豆を使っているんですか?」とか。いまは焙煎も自前でされる店も多くて、その豆の個性に合わせて焙煎の度合いを調整しています。銘柄だけでなく、焙煎度についても訪ねてみるといいですよ。

スペシャルティコーヒーと出合ったことで、コーヒーにはまり、コーヒー関連の仕事に就いたという篠原さん

Q. 焙煎によっても変わるんですね。よく〇〇ローストといった商品が売られていますよね。それは焙煎度を表しているんですね。

コーヒー豆の焙煎は、浅煎りから深煎りまで8段階に分かれています。でもここは、大きく分けて浅煎り、中煎り、深煎りの3つと覚えておけばOKです。

ざっくりとした特徴は、焙煎度合いの浅いほど酸味が強くなり、焙煎度合いが深くなればなるほど、苦味が強くなっていきます。浅煎りは生豆に近いわけですから、豆本来のフルーティさ、酸味を感じやすいです。ちなみに、健康面で言うと、浅煎りの方が生豆に近いため、コーヒーポリフェノールが多いといわれているんですよ。
中煎りは酸味が少しずつ薄れ、甘味が出てくるのが特徴で、酸味と苦みが控えめになり飲みやすいコーヒーといえます。
深煎りになると、酸味がなくなっていき、甘味を残しつつ苦味がより強く出てきます。

コーヒーの甘味とは、糖分が入っているわけではなく、フレーバー(香り)で表現されるものです。焙煎前半では、フルーティな花のような香りが形成され、焙煎が深くなると独特のブラウンシュガーやチョコレートのような香ばしさやコクが形成されます。購入時にわからなければ、「フルーティな軽い感じ」とか自分の好みを伝えるといいです。

<コーヒーの焙煎度合い>

[ 浅煎り ]
「ライトロースト」=コーヒー豆にうっすらと焦げ目がついている状態
「シナモンロースト」=シナモン色になるまで焙煎した状態
「ミディアムロースト」=茶褐色で酸味がわりと強く、苦味は弱い。軽い味わい

[ 中煎り ]
「ハイロースト」=やや深い煎り方で、酸味とともに柔らかい苦味や甘味が感じられる
「シティロースト」=鮮やかなコーヒーブラウンで酸味と苦味のバランスが良い

[ 深煎り ]
「フルシティロースト」=色がダークブラウンで、香ばしさや苦味が感じられる
「フレンチロースト」=濃い焦げ茶となり、強い苦味とコク、独特の香りを楽しめる。カフェラテやウインナコーヒーなどのアレンジ向き
「イタリアンロースト」=強い苦味と濃厚な味わい。豆の色も黒に近い。エスプレッソ向き

カリタではさまざまコーヒー器具を製造している。時間をかけてゆっくり水で淹れるダッチコーヒーの器具もそのひとつ

Q. 篠原さんご自身は、日ごろどんな風にコーヒーを楽しんでいらっしゃいますか。

家では毎朝必ずペーパードリップで淹れて飲んでいます。器具はいろいろ試すのですが、一番好きなのは、実家にいた頃から親が使っていた、カリタのプラスチック製のドリッパーで、すごく愛着があるので今でもずっと使い続けています。

コーヒーは毎朝、必ず淹れてます。朝、ドリップをする時間をもつことでモードが切り替わるというか、逆にコーヒーを淹れないと、1日がスタートできないです(笑)。
休日にはコーヒー器具を持ち出して、散歩がてら自宅から多摩川が近いので自転車で河原まで出かけるんです。河原に着いたらガスバーナーでお湯を沸かして、ペーパードリップで淹れるんです。わざわざって思われるけれど、いつもに飲んでいるコーヒーもアウトドアで飲むとまた違う美味しさや楽しさがあるんです。

コーヒーの魅力を聞かれたら、個人的にはやはりコーヒーを飲むと、香りや味に癒され、気持ちが落ち着くことでしょうか。でもそれだけでなく、ハンドドリップの工程をふむことで一つの空間というか時間ができるでしょう。それが、朝の慌ただしい時でも、自分の気持ちを整えられる大切なひと時になっている。ハンドドリップは、コーヒーという飲料を楽しむだけでなく、一つの儀式を楽しむ感覚。コーヒーを淹れる時間、香りや音、味を楽しむ時間、それら空間のすべてが魅力だと思います。

株式会社カリタ

国内唯一のコーヒー器具専門メーカー。1958年の創業以来レギュラーコーヒーの文化を広めるための提案と挑戦を続けている。
https://www.kalita.co.jp/

各種デザイン賞を受賞したドリップケトルが並ぶショーケース。
「赤いチェックのカリタ」は創業当時からの象徴だ。

(後編 了)

撮影 sono
取材 歌代幸子
編集 徳間書店

篠原惟真さん

篠原惟真(しのはら・ゆうま)さん
1993年、北海道生まれ。札幌市内の自家焙煎のコーヒー店で働いていたとき、カリタのコーヒー器具を使ったことがきっかけで、ハンドドリップに興味を持つようになった。その後、2020年にカリタへ入社。本社で営業職に就く。2019年には、SCAJコーヒーマイスターを取得。コーヒーの美味しさや楽しさを伝え、豊かなコーヒー生活を提供する普及活動にも力を注ぐ。

Because, I’m<br>コーヒーマイスター 後編

Because, Interview