フィラディスワインニュース

米国、欧州ワインに関税の脅威をもたらす

USA and EU Flags Merged: Transatlantic Relations and International Partnership Concept

EU産ワインに対する200%の米国関税は、ボルドーやキャンティが米国の消費者にとって懐かしい過去の産物となる可能性を秘めています。


ヨーロッパ中のワイナリー、そして米国中のレストランは、3月中旬、恐れていたニュースで目を覚ましました。ドナルド・トランプ米大統領は、EUのワインとアルコールに200%の関税をかけると脅したのです。

 

この動きは、EUが米国産ウイスキーに50%の関税を課すと脅したことに呼応したものでした。理論的に言うなら、米国の関税はEUワインの価格を3倍にするでしょう。$25のキャンティ・クラシコが$75になるのです。実際には、ほとんどのEU産ワインと蒸留酒の米国での販売が、ほぼ停止されることになるでしょう。

 

それが実現すれば、の話でありますが。この1ヵ月間、アメリカのニュースを見なかった人は幸運です。我々は関税に脅かされ、そしてそれが延期され、そしてまた脅かされ、などなど。トランプ大統領の言動は真剣に受け止めつつも、文字通りに受け止めないことを忘れないでいただきたいです(あるいはその逆か)。

 

米国はトランプ大統領の最初の任期中に、ヨーロッパのワインに25%の関税をかけました。これは米国のレストラン経営者には不人気な政策であることが判明しました。彼らは、もし人々が望むワインを注文できないなら、単にワインを注文しないだろうと言ったのです。多くのレストランにとって、アルコール飲料は主な利益源です。

 

「EUのワインと蒸留酒に200%の関税をかければ、米国のアルコール業界のビジネスコストは大幅に上昇する」と、Wine & Spirits Wholesalers of America (WSWA)の副社長のMichael Bilelloは言います。「SipSource社によれば、プロセッコは最近シャンパンを抜いて最も人気のある輸入スパークリングワインとなった。プロセッコの人気は、その品質の高さと、消費者と小売業者双方へのコスパの良さによるものだ。輸入コストが高騰すれば、その優位性は損なわれる」。

 

「関税は、米国にとってより公平な貿易取引を実現するためのツールとして意図されたものだが、今回のケースでは、米国の企業や消費者に負担を強いる可能性が高い」とBilelloは語ります。「我々は政権に対し、このような予期せぬ結果を考慮し、特に業界で重要な役割を果たしている単一産地のワインやスピリッツ製品については、適切な場合には適用除外を認めるよう強く求める。自動車やチップの製造とは異なり、ワインや蒸留酒の生産を米国に移すことはできない」。

 

米国産ワイン

2024年に多くのブドウが収穫されなかったカリフォルニアのサンホアキン・ヴァレーのブドウ栽培者は、前述の意見に異論を唱えるかもしれません。Wine Instituteによれば、カリフォルニアは2023年に米国で販売されたワインの54%を生産しました。他の州で生産されたワインを加えると、アメリカ人が飲むワインの約2/3は国産ワインです。

 

しかし、この数字は下がり続けています。2009年には、カリフォルニア州だけで米国で消費されるワインの66%を生産していました。この数字減少を見て喜ぶアメリカ人はいないだろうが、ある産業に対して保護主義的な政策を取ろうとするなら、このような統計は良い理由となるでしょう。(トランプ一族がヴァージニアにワイナリーを所有しており、市場の競争力減少から利益を得る可能性があることに言及するのに良いタイミングだろう)。

 

Silicon Valley銀行のワイン部門担当のRob McMillan副社長は、「米国へのワイン輸入における関税は輸入品の価格を引き上げ、米国人を雇用している国内の輸入業者に打撃を与えるだろう」と語ります。「相互関税に対するよりユニークなアプローチは、カナダが行っているもので、米国産アルコールに関税をかけるのではなく、その販売を一切認めないというものだ。カナダは米国のワイン産業にとって最大の輸出市場で、この措置は、年間売上のかなりの部分をカナダ市場から得ている米国のワイン&アルコールビジネスに大きな影響を与える」。

 

Azur Associatesのマネージング・ディレクターであるDanny Bragerは、貿易戦争は米国内産ワインの販売にとってプラスに働くかもしれないとしながらも、実際に関税が課されるかどうかは誰にもわからないと注意を促しました。

 

「少なくともワインの場合、消費者は買おうと思っていたワインが買えなくなった場合、結局は他のワインで代替するだろう」とBrager は言います。「テキーラならそれが成り立つかもしれない。でもおそらくウイスキーではそうはいかない。スコッチウイスキーだって、カナダ産、アメリカ産、日本産…と、世界中のウイスキーがあるので。でもワインは、それほどブランドに対する忠誠心が強いカテゴリーではありません」。

 

筆者である私は、EU は米国産アルコール飲料に関税を課すべきではない、なぜならその市場では米国よりも EU のほうが失うものが大きいからだ、と以前から思っており、その考えは現在も変わりません。

 

アメリカは世界最大のワイン市場です。オーストラリア、アルゼンチン、チリなど、まだ関税化に着手していない主要輸出国を含め、どの国も米国市場に参入したがっています。

 

対照的に、EUは米国のワイン生産者にとって大きな市場ではありません。しかし、蒸留酒生産者にとっては大きな市場であり、それゆえEUはウイスキーに焦点を当てているのです。bw166社の業界アナリストJon Moramarcoによると、2024年には米国の蒸留酒輸出量の50%をEUが占めています。EUの蒸留酒関税は、Brown Forman(Jack Daniel’sを製造)のような米国の大企業に打撃を与えるでしょう。しかし、蒸留酒業界は非常に国際的で、Bacardiのような米国企業もメキシコでラムを製造しており、そこからEUに輸出することができるのです。

 

ワインはまったく異なるものです。米国は自国生産ワインのほとんどを国内で販売しており、輸出は10%程度です。Moramarcoによれば、そのうちEUに輸出されるのはわずか13.5%、つまり全生産量の1.5%にも満たないのです。

 

ヨーロッパ人が米国のビールを買うことはさらに少なく、アメリカのビール輸出量のわずか3.8%しかヨーロッパに輸出されていないとMoramarcoは言います。

 

アメリカのワインやビール生産者にとって、カナダはより重要な市場です。ブリティッシュコロンビア州とオンタリオ州が、米国産アルコールの販売をすべて停止するという動きに出たことは、大きな痛手となるでしょう。カナダは米国産ワイン輸出量の40%近く、アメリカ産ビール輸出量の10%以上を購入しています。

 

「カナダ人にしたら、これはもっと尾を引く可能性があるぞと忠告したいところだ」とBrager は語ります。「人々は他のものを試すでしょう。そして、その試しているものを今後選び続けるかもしれませんよ」。

 

ここで言っておきたいことがあります。私はアメリカ人であることを誇りに思うし、米国産ワインも大好きだが、他国のワインを飲む時ほどは国際的な気分に浸れないのです。$25あれば、トスカーナ、ローヌ・ヴァレー、パタゴニアをグラス1杯で訪れることができるのだから。アメリカのワインは素晴らしいが、他の産地で造られたワインの味とは異なるものです。ワインは鋼鉄のようなものではなく、完全に交換可能なものではないのです。

 

トランプ大統領の最初の任期中に学んだこともあります。フランスのワインや蒸留酒に関税をかけても、ハンドバッグや香水にかける関税に比べたら微々たるものです。

 

「シャンパーニュに関税をかければ、大々的に報道されるが、製品への影響は実は大したことない」とAzur Associatesのマネージング・ディレクターDale Strattonは言います。「つまり、経済効果を求めるか、報道でインパクトを打ち出したいかの問題だ」。

 

引用元:US Tariff Threat to European Wine

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