フィラディスワインニュース

イタリアワインに巻き起こるアンフォラ革命

アンフォラは何千年も前から使われてきましたが、今イタリアで新たな息吹を吹き込んでいます。


イタリア各地のワイナリーのセラーで、静かな革命が起きています。

 

8000年以上前、最初のワインが造られたときに使用されたアンフォラという容器を、現代の数十にも及ぶ生産者が使用しているのです。イタリアワインを語る上で伝統や遺産は常に重要な位置を占めていますが、今回のアンフォラの使用は特に相応しいといえるでしょう。

 

多くの歴史家は、ワイン造りはコーカサス地方のジョージアで始まったと信じており、この時代、ワインメーカーはクヴェヴリと呼ばれるアンフォラでワインを保管したと言われています。アンフォラは地元の粘土で造られたものが最も一般的で、50L以下から2000Lまで様々なサイズが造られました。クヴェヴリは地中に埋められており、中のワインは何年もかけて熟成されました。

 

このようなワイン造りは、イタリアの幾つかの生産者の気を引きました。とりわけ注目を集めるフリウリの醸造家  Josko Gravner  はスロヴェニアとの国境近くにある小さな村オスラヴィアにセラーを構えます。Gravner  は1970年代前半に、当時伝統的であった設備でワイン造りを開始しました。しかし、1980年代後半に歴史の本でアンフォラの存在を知り、アンフォラを用いたワイン醸造に徐々に魅了されていったと娘の  Mateja  は語ります。「その時の父は、まだどこかでアンフォラを使ってワイン造りをしている人がいるのかを知りたかったのだと思います」と振り返ります。

 

2001年、Gravner  は初めてクヴェヴリで仕込んだワインを市場に出しました。現在彼は、500リットルから2500リットルまで、様々なサイズの47のアンフォラを所有しています。クヴェヴリは薄く、中に入った液体の圧力で割れてしまう可能性がある事から、ジョージアの習慣に倣い地下に埋め、これらの容器から白ワインと赤ワインを生産しています。この方法で造られる彼の最高級ワインには、メルロとカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドした「Gravner Rosso」や、土着品種を使った「Ribolla」などがあり、現在  Gravner Ribolla  はイタリアを代表するワインの1つとなっています。

 

テラコッタか否か?

イタリアの多くの生産者がトスカーナの粘土で造ったテラコッタ(焼いた土)を使っているのに対し、イタリアの有名なワイナリーの中には「ティナハ」と呼ばれるスペインのアンフォラを使用している先もあります。シチリア島ヴィットリアのCOSや、トレンティーノ、メッツォロンバルドの  Foradori  などは、ティナハによる高品質なワインに満足している先の1つです。COSのセラーで働く Biagio Danilo Destefano  はこう語ります。「クヴェヴリと比べ、ティナハは粘土の種類が異なり、細孔の数が少ないため、特徴は異なります。よりコンパクトな粘土なので、酸素の透過が少ないのです」

 

Foradori  では、オーナー  Elisabetta Foradori  の息子で2013年からワインメーカーを務めるEmilio Zierockがこうコメントしています。「私にとって、Juan Padilla(使用しているティナハの製造元)の粘土の質はとにかく素晴らしいの一言です。そのため、スペインのアンフォラを使っています」

 

Zierock  にとって、アンフォラを造るための粘土の違いは重要です。「私たちが考えるティナハでのワイン造りは、ニュートラルなアプローチであり、それは粘土によってもたらされます。Padilla  のティナハには、他のアンフォラにはないクリーンさと明るさがあり、中にはワインにハーブのような味わいを与えるものもありました。」

 

ZierockはForadori  の単一畑のワインにのみティナハを使用し、他のワインはより伝統的な方法で醸造しています。「ジョージアのような長期マセラシオンを行っています。発酵はティナハで行い、発酵後、果皮とともに容器ごと封を閉じ、ワインはそのまま4月までティナハの中で過ごします。その後コンクリートタンクに移し7月に瓶詰を行います」 このプロセスは  Foradori  で造られるノジオーラやピノ・グリージョといった白ワイン、テロルデゴといった赤ワインでも同様です。

 

最近使用されるアンフォラには他にも種類がありますが、中でもユニークなものはトスカーナのDrunk Turtle社が製造する  Cocciopesto  です。アブルッツォの  Fattoria Nicodemi  の  Elena Nicodemi  によると、彼女と彼女の父がテラコッタで造ったワインを沢山試飲したところ、これらのワインはテラコッタの味がした、とし「私たちはアンフォラの影響がないワインを飲みたかった」と語ります。

 

Nicodemi  の説明によると  Cocciopesto  は粘土と砂、砂利を組み合わせた素材で、数千年前には複数の文明でワイン醸造に使われ、用水路や温泉のコーティングにも使用された素材だといいます。「中の液体に影響を与えない特殊な素材で、これこそが私たちの求めていたものでした」

 

Nicodemi  の  Cocciopesto  を使ったワインで現在市場で購入可能なものは、Trebbiano d’Abruzzo Cocciopesto  の1種類のみで、2022年後半から2023年にリリースされる見込みです。Nicodemi  はステンレスタンクで仕込んだトレッビアーノも生産していますが、どのような違いがあるのでしょうか?「どちらも澱と共に熟成させますが、Cocciopesto  で仕込んだトレッビアーノはよりエレガントで繊細なワインとなります」と  Elena  は語ります。

 

生産者がどのようなアンフォラを使っても、最終的なゴールは似ています。アブルッツォの  Francesco Cirelli  は、現在トレッビアーノ、モンテプルチアーノ、チェラスオーロ(ロザートに使用される土着品種)をテラコッタのアンフォラで造っていますが、アンフォラの使用についてこう語ります。「アンフォラは何も足さないし、何も省かないからこそ素晴らしいのです。液体への影響が最低限のニュートラルな容器であり、そのヴィンテージのその土地ならではのブドウ本来の味を表現することが出来るんです。それが私にとって、アンフォラと他のワイン容器の大きな違いです。」

 

「さらに、20hlの木樽とほぼ同程度の割合でワインが酸素と触れ合うので、非常にバランスの良い酸素量となります。そして、他の容器に比べ、より早い時期から楽しめる味わいのモンテプルチアーノとなるのです。もし同じモンテプルチアーノをアンフォラと木樽に仕込んだ場合、アンフォラで熟成させた方は、よりタンニンが柔らかくなり、短い熟成期間で飲み頃を迎えます。」

 

アンフォラと他の容器の併用

アブルッツォ州ペスカーラ県で家族経営のワイナリーを営む  Chiara Ciavolich  は、Fosso Cancelli  と呼ばれるラインを生産しており、トレッビアーノ、ペコリーノ、チェラスオーロなどのワインの一部またはすべてをテラコッタ製のアンフォラで仕込んでいます。ニュートラルという点に加え、彼女はもう一つのアンフォラの利点として「酸素の透過性が非常に高く、木樽を上回る」と語ります。しかし、同時に、アンフォラと木樽を併用することで、より優れた複雑さと深みを見せると信じています。

 

ピエモンテのロエロ地区では、Bajajのワインメーカー  Adriano Moretti  がアルネイズ、ネッビオーロ、バルベーラをアンフォラを用いて生産しています。”とても飲みやすいネッビオーロのワインを造りたい”という思いが彼の動機であり、この熟成を必要とする品種に対し、アンフォラで9ヶ月熟成+瓶で6ヶ月ほどの熟成期間を設けています。「このような醸造を行う目的は、ロエロの本物の土壌を理解してもらう事にあります」

 

セッラルンガ・ダルバの  Paolo Manzone  は、バローロの醸造にアンフォラを使用する数少ない生産者の1人であり、彼の場合は  Riserva Barolo  に使用しています。「私のアンフォラの使用方法は変わっています。アンフォラといってもコンクリート的ではなく、テラコッタのアンフォラに特殊な塗料を塗って、セラミックのようにオーブンで焼くのです。このタイプのアンフォラは、空気を通す気孔がほぼありません。オーブンでは1200度まで加熱し、強度が高まりますが、同時に内部には僅かな細孔が維持されます」と説明します。

 

Manzone は  Riserva Barolo  を大樽で3年間熟成させ、その後アンフォラでワインを寝かせます。「樽の中でワインの個性を高め、アンフォラの中でワインの進化を継続させるのです。樽の間は酸化や熟成は少なくなりますが、アンフォラの中でワインの進化は下降ではなく上昇を続け、前進する形で続きます。ステンレスタンクに入れたときのような還元作用はありません。」

 

ピエモンテの土着品種、ナシェッタの生産者にもアンフォラを導入しているワインメーカーがいます。セッラルンガの  Enrico Rivetto  は、以前はアンフォラだけで造ったナシェッタを生産していましたが、何度かリリースするうちに、アンフォラとコンクリートタンクの組み合わせで、より良い結果が出ると考えるようになりました。現在では、彼のランゲ・ナシェッタはアンフォラ30%とコンクリートタンク70%のブレンドで造っています。「ナシェッタにアンフォラだけを使うと、ワインの酸化的性質が強すぎると気づきました。そのためアンフォラとコンクリートタンクをブレンドしています。しかし、アンフォラでの醸造は、ワインによりボディと凝縮感が出るんです。」(Rivetto 彼の単一畑のネッビオーロ・ダルバにもアンフォラを使用しています)

 

セッラルンガにあるワイナリー、Ettore Germano  の  Sergio Germano  は、ナシェッタをステンレスタンクで発酵させ、澱引き後、アンフォラにワインを詰めて8~10ヶ月熟成させます。「ナシェッタはアロマのポテンシャルがそれほど高くなく、非常に繊細なので、果皮の上で熟成させることでナシェッタに個性を与える事が出来ると考えています。アンフォラで数ヶ月熟成させることで、微量の酸素が供給され、ワインはオープンな状態となり、還元状態にはなりません。アロマは常に開いており、瓶詰後はスクリューキャップで酸素を遮断しています。」

 

そしてSergioはこう続けます。「アンフォラが今トレンドとなっているので、私は今使うのをやめていますが、この特別なワインを造るためには良い道具だと考えています。」

 

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/02/italian-wines-amphora-revolution

この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。