ワインメーカー達は、ワインが飲み頃を迎えるまで待ちたがらない消費者達のため、試行錯誤を続けています。
何ということでしょうか。ワイン消費者の90%は、購入後2週間以内にワインを消費しており、飲み頃を待つ忍耐力が減少傾向にあるようです。ナパのカベルネやボルドー右岸のブレンドでさえ、最低でも10年から20年のセラー熟成期間を経ずに消費されているなんて信じられますか?
「考えてみれば、それは理解できる行動です」
マスターソムリエであり、ワインのマーケティング会社 Full Circle Wine Solutions の社長を務める Evan Goldstein はそう語ります。「一般的な人は、自宅で夕食と一緒に飲むことを想定してボトルを購入するか、あるいはレストランで購入しています。最近は、一般の人はワインセラーを持っていないのです」
そして、目まぐるしいスピードで進化するワイン文化に対して、生産者たちは、セラーで熟成しても、市場にリリースされた直後であっても楽しめる一流のワインを造るためにベストを尽くしています。
「ボルドーでも、消費者たちが赤ワインを20年も寝かせておかないことを生産者は認識しています。しかし、実際に人々が飲んでいるということは、生産者にとっては、早く開けても飲めるワインをリリースできたということの裏返しでもあり、これはある意味で嬉しいことのようです。生産者たちの本心では、開けるのをもっと待って欲しいと思っていますが、実際に早く飲まれているということは、早く飲まれることを予想してワインを作ったワインメーカーの予想にも合致しているのです。」と Goldstein は言います。
日常消費者のためにリリース時から「準備万端」でありながら、伝統的なワイン愛好家のためにセラーに保存しておく価値のあるワイン。これを実現するためにワインメーカーがどのように注力しているのか、見ていきましょう。
早い成長
早く育つワインのための舞台作りは、まずブドウ畑から始まります。
ボルドーに72ヘクタールの敷地を持つ Château Malartic-Lagravière の共同経営者、Jean-Jacques Bonnie は、手作業で行われる細かな点まで配慮した丁寧な農法が、若く飲む場合でも熟成させる場合でも、どちらにおいても素晴らしいワインの土台を作ると言います。
「我々はさらに、剪定をできるだけ遅らせることで、芽吹きも遅くさせ霜からブドウを守っています。春から夏にかけては、完璧に熟した健康なブドウを収穫することを目標に、天候を見ながら適切なキャノピー・マネジメントを行います。有機肥料は控えめにしか使用しないので、ブドウの木は常に栄養不足に近い状態です」と彼は言います。
生産者のこだわりはブドウ木の選択や根にまで及びます。
リオハの Bodegas Montecillo のワインメーカー、Mercedes Garcia Repérez はこう言います。「樹勢が強く、成熟サイクルが長くなるような台木が望ましいと考えています。こういった台木の場合、生育期間が長いので、糖分の蓄積がゆっくり進んでいくのです。寒い地域ではブドウが熟しきれなくなるので理想的ではありませんが」
栽培期間中にゆっくりと糖分を蓄積することは、固い牛肉をじっくりと調理することに似ています。このプロセスを急ぐと、最終的なワインはニュアンスに欠け、テクスチャーはちぐはぐで、風味やアロマも貧弱になってしまいます。
発酵技術の進化
近年、発酵の技術と科学は大きく進化し、ワインメーカーはまったく新しい方法でブドウをマイクロマネジメントすることができるようになりました。
「私たちは数年間ガニメデ社の発酵タンクの技術をテストし、2005年に正式に導入しました。ガニメデタンクは果汁が発酵する際に発生するCO2をタンク内で循環させて、ピジャージュのような効果を生み出します。この方法で成熟したタンニン、アロマ、多くの色を抽出することで、脈動ポンプが不要になるのです。また、ブドウを過度に壊してしまうという問題も解消されます」と Repérez は語ります。
ワシントン州サニーサイドに18ヘクタールの敷地を持つ Cote Bonneville のワインメーカー、Kerry Shiels は、プレミアムとセカンドラベルワインの基礎となる重要な要素として、フレッシュさに基づいた適切な収穫期の判断を挙げます。また、低価格帯のラインにおいてもセラーで早期に飲み頃を迎えるよう手間暇をかけていると言います。
「タンニンを適切に管理することで、若くても攻撃的ではないワインに仕上げることが出来ます。理想的な方法としては、これらのワイン用に畑のプロットを指定し、タンニンを管理するために発酵温度、パンチダウンの回数を調整することです。さらに樽に入れた後、澱引きをすると酸素と接触するので、求める味わいに合わせ必要であればさらに澱引きを追加します」
マイポ・ヴァレーに本社を置き、チリの主要なブドウ栽培地域全てに畑を持つ Ventisquero のワインメーカー、Felipe Tosso は、樽に入った期間中にワインに多くの調整を行うことができる、と言います。
「骨格があり、かつ親しみやすいブドウのブレンドを選ぶことが、私たちの最初のステップです。そして、発酵中にタンニンの構造を柔らかくし、若いうちから飲めるようにワインをデザインします。さらに、樽の澱引きを繰り返すことで、よりワインの飲み頃を早めることができることが分かってきました。ラック&リターン(=デレスタージュ)の場合よりも少ない酸素との接触にとどめたい時は、タンク内に微量の酸素を供給するマイクロオキシジェネーターも用意しています」
彼は、卵型のコンクリートタンクでの熟成の実験も始めており、2年間の熟成期間中、卵型タンクは一定の割合で酸素を安定供給し、他の方法よりも早くアロマやフレーバーの複雑さを引き出すことを発見しています。
「とはいえ、もし私たちのワインをリリースしてすぐに飲むのであれば、デカンタージュはしてください」とTossoは付け加えます。
追加の瓶内熟成
ナパの Belle Glos でオーナー・ワインメーカーを務める Joe Wagner は、ワイン開栓のタイミングが早まっている傾向があるとはいえ、すぐに楽しめる状態になっているワインだけを市場にリリースすることがワインメーカーの義務であると考えています。たとえワイナリーセラーでの熟成期間を長く設けたとしてもです。
「ワインに熟成が必要なら、それは生産者の責任であるべきです」と Wagner は言います。「私たち Belle Glos のポートフォリオは、タンニンを和らげるためにもっと樽と瓶で過ごす時間が必要です」。
この方針のもと、2011年のピノ・ノワールは、樽で2年、瓶で8年近く熟成させました。
「大容量のボトルで熟成させることで、ワインへの酸素の供給が少なくなり、果実味を劣化させないことがわかりました。3~6ヶ月ごとにマグナムから試飲し、2019年にリリースしました。ピークを迎えておらず、まだ何年も熟成可能で、かつ個性が出始めたタイミングのボトルをリリースしています」
ピノ・ノワールは通常これほど長い熟成期間をおくことはなく、カリフォルニアでは尚更だと Wagner は認めています。彼の場合、順番にあまり捉われず飲み頃を迎えたヴィンテージからリリースするアルザスからヒントを得ているようです。
「2013年の方が2012年よりも市場へのリリースが早いです。2013は今後12ヶ月のどこかでリリースする予定ですが、2012はもっと時間が必要でしょう」
単一畑、単一品種の表現に特化し、年間6300ケースをリリースするナパの Mira Winery のワインメーカー、Gustavo Gonzalez も同意見です。
「ブドウの収穫をできるだけ長く待ち、タンニンを抽出しすぎないよう注意深く扱うことで、最初のステージを整えます。そして、ワイナリーでできるだけ長く、最低でも1年間はワインを寝かせるようにしています」
現在、Mira がリリースしているのは、2014年のピノ・ノワールと2015年のシャルドネです。ワイン愛好家にとっては、リリースと同時に完成した Mira Winery のワインを楽しめるのは喜ばしいことですが、レビューを得るという点では問題が生じます。
「ワインの評論家たちは、私たちが気持ちよく提供できるワインよりずっと新しいヴィンテージを要求してきます。しかし、ワインに糖分を加えたり、他の方法で操作して、早くから飲める状態にしたくはないのです。時間をかけて、私たちのスケジュールでリリースしたいのです。」
手を差し伸べる母なる自然
ワインメーカーの中には、気候変動が実際に大仕事をしてくれていると言う人もいます。
Château Malartic-Lagravière の Bonnie はこう話します。「ボルドーは、少なくとも10年以上はセラーで寝かせるワインとして昔から知られてきました。現在では、消費者は、これらのワインを早く飲む傾向があります。購入後すぐに飲む事が多く、セラーに保管して後で飲むことは少なくなっているのです。」
しかし、農業の変化と継続的な生育期の温暖化により、早くからアプローチでき、なおかつ熟成可能なワインにとって最適な条件が整ったといいます。
「根を深く張らせる、オーガニックに転換する、土壌の微生物を育てるなど、私たちが畑にもたらすあらゆるケアと、地球温暖化により、ほぼすべてのヴィンテージで適切な熟度を管理することができるようになっており、ワインのスタイルも早くからアプローチできるようにしています。だからといって長持ちしないわけではありません。Malartic-Lagravière のブドウの木は根が深くまで伸びているので、日々の天候の変化に左右されにくく、バランスのとれたブドウができるのです」
最後に。より早くワインを優雅に熟成させるための、どのワイナリーにも共通する A-Z ガイドは存在しないと言えるでしょう。異なるテロワール、ブドウ品種、セラー設備、醸造技術、キャッシュフローにいたるまでの複数の要因が、収穫からリリース時期まで生産者が行うすべての決定に必然的に影響を与えるのですから。
しかし、ワイン文化は早送りで進んでいっているというのは事実です。現在の消費者とつながりを持ちたいと願うワインメーカーは、スピードアップを図らなければならないでしょう。
引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/02/helping-wine-to-grow-old-gracefully
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