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ブドウ木の引き抜き計画を阻止するボルドーの新しいリーダー

ボルドーの誰もが、この地域が販売可能な量以上のワインを生産していることを知っています。そして、指導者の交代と収穫期を目前に控えた今、その対策が大きな課題となっています。


ボルドーワイン業界団体の新しいトップとなったAllan Sichel氏は、7月下旬、前任者が計画したこの地域のブドウ木引き抜き計画を撤回する意向を示しました。ボルドーの大手ワイン商 Maison Sichel を率いるSichel氏は、7月11日にボルドーのワイン業界団体CIVB(Conseil Interprofessionel du Vin de Bordeaux)のトップに選出されましたが、就任演説では引き抜きプロジェクトについて一切触れず、この計画を実行しないことを示唆するに十分であった、と解説者は述べています。

 

前任者の Bernard Farges 氏は、退任前の数ヶ月で引き抜き計画に向けて動き出していました。

 

「Allan Sichel は演説の中で一度も『uprooting=伐根』という言葉を発していません」地元紙の Sud Ouest は Sichel 氏の演説を受けそう述べています。「2016年から2019年まで CIVB の会長を務めた Allan は、前任者の Farges と同じように経済状況を見ていますが、同じ解決策を提唱していません」

 

この姿勢は伝統との決別であると言えます。
現地メディアの La Tribune de Bordeaux によると、Sichel氏は「確立されたルールを破ったと言えるでしょう。一般的に、新会長は前任者のものと同じプログラムを、ほぼ文書レベルで発表することを保証しているのですから」

 

しかし伝統を破るとはいえ、Sichel の立場は予想外ではありませんでした。

 

「この問題解決のために、ネゴスレベルでは他の解決案が話されている事は事実です。例えばPDO(アペラシオン表示)をやめて、IGP や VSIG(Vins Sans Indication Géographique、地理的表示のないワイン)など、現在の需要を満たす他の表示の方向へ進むことで、この問題を解決できるのでは、と語っている人もいます」
Sichel氏は5月にフランスのワインニュースサイト Vitisphere.com にそう語っていました。

 

Sichel 氏は、マーケティングや販売促進ツールを使って売り上げを伸ばすことに賛成していますが、これは全ての人が支持している立場ではありません。

 

ジロンド農業組合(Confédération Paysanne de la Gironde)の広報担当者、Dominique Techer は、La Tribune de Bordeaux 紙に、「ネゴスは低価格の量を求め、市場が再び活気を取り戻した時には、すぐに植え替えてたくさん生産できるようにしたいと考えています」と語っています。「でもね、食事を作るのは食卓ではなく、冷蔵庫なんです。(食事とともにワインを飲む)伝統的な食習慣は消えつつあり、それは昔ながらのワインを飲む人たち、つまり団塊の世代にとっても同じことです」

 

「ネゴシアンは、もはや存在しない社会学的派閥を支持しています」
Pomerol でオーガニック栽培を行う  Château Gombaude-Guillot  の共同経営者でもある Techerはさらにこう付け加えます。「ワインセクターの大きな支援者である地方議会の食堂にさえ、ワインは置いていないのです。本当はそこで彼らにワインはどこにあるのか?と問い詰めるべきかもしれません!これは、人々が一種の精神分裂症の中で生きているようなものです」

 

ボルドーの一流シャトーが世界のワイン愛飲家の心を捉え続ける一方で、ジェネリックボルドーの販売量は減少傾向にあります。1991年以降最低の販売量となった2018年の470万hlから始まり、2019年は410万hl、2020年は390万hlと販売量が減少し続けています。

 

現地メディアの  La Tribune  は「コロナを始めとする多くの要因が市場を押し下げたのは事実です。 しかし、この傾向を例外だと判断する市場通は少ないでしょう」

 

ブドウ木引き抜き計画

ボルドーにとって抜根計画は全くの未知の経験という訳ではありません。最後の大きな試みは2005年で、CIVBがフランス政府から融資を受けて、1万ヘクタール(2万5000エーカー)のブドウの木を抜根するプロジェクトを実施した時です。当時は、売れ残ったワインの在庫を減らすために、蒸留プロジェクトも立ち上げられていました。

 

「現在の危機は、外国との競争というよりも、フランスの過度に中央集権的で非効率的な規制制度に起因しています」
当時のCIVBのディレクターを務めた  Roland Feredj  は  Decanter.com  にそのように語り、彼の見解はSichelのそれと同じであるとしています。
「ボルドーには、海外でワインを販売してきた長い歴史があります。今、私たちが困っているのは、ワインの売り方を知らないからではなく、私たちの製品を国際的な需要に適合させることができないからです」

 

とはいえ、CIVBの前リーダー、Farguesは、以前から幾度となく伐根計画を持ち出していました。Fargues はワイン生産者で、CIVBではブドウ栽培者とネゴシアンの間で会長を交代させる方法を取っています。

 

実際、多くの生産者(特にワイン産地の中でも人気のない地域において)は、生産性の低いブドウの木を伐採することに賛成しています。特に、高齢の生産者が体力的にブドウ木の手入れができなくなった場合や、ブドウ畑の手入れが行き届かなくなった場合などです。

 

「生産的なブドウ畑の面積を減らすかどうかは問題ではありません」
2022年頭、Fargues 氏はこのように話していました。「今、問題なのは、これを組織化し、加速させ、誰にとっても有益なものにするために行動することです。しかし、EUは、公的資金を伐根のために使うのを禁じていることを忘れてはなりません」。

 

報道によると、Fargues 氏は、中央集権的な資金調達とはいえ、地域レベルで予備的な資金調達の話し合いを設けていたようです。

 

しかし、この問題は一筋縄ではいきません。1つ目に、フランスで生産過剰に苦しんでいるのはボルドーだけではありません。ボルドーだけでなく、他の地域でも同じような対策がとられていないのに、なぜボルドーだけがブドウ畑の引き抜きをしなければならないのか、疑問に思う人が多くいるのです。この問題は、国家的な計画の一部として取り組むのがより公平ではないでしょうか?

 

第二に、ブドウ木を引き抜くのにかかる費用は、1ヘクタールあたり約2000ユーロと決して安くはないため、ブドウの木を抜こうとする人たちでさえ、その余裕がない場合が多いのです。

 

第三に、ブドウ木の抜き取りは短期的な経済的解決策でしかないからです。ボルドーのワイン産業が今後どうなるかは分かりませんが、数十年前に非生産的で利益の上がらないブドウ木を根こそぎ引き抜くために初期のEU補助金が使用されたことがあります。現在、古いブドウ木にプレミア価値がある地域では、このことが広く後悔されています。

 

「またいずれ、ボルドーワインの売上が成長軌道に戻る日が来るでしょう」
とSichel 氏は楽観視しています。「その時に、我々の成長ポテンシャルが途絶えてしまっている事ほど残念な事はありません」

 

しかし、現場では暗い雰囲気が漂っています。地方紙 Sud Ouest によると、収穫を間近に控えているものの、多くのワイナリーはまだ売り切っていないバック・ヴィンテージをタンクで保管しているため、状況は悪化の一途をたどっていると言います。

 

Gironde 県庁の Renaud Laheurte 長官は、「県庁内で怒りが高まっているのを感じる」と話しています。

 

引用元: New Bordeaux Boss Quashes Vine-pull Scheme

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