フィラディスワインニュース

ヨーロッパの2022年:将来訪れるであろうヴィンテージ

ヨーロッパの2022ヴィンテージは、厳しい暑さと降雨不足のため、早い段階で収穫が始まり、将来のヴィンテージを予感させる厳しい結果となっています。


南ローヌの生産者が8月11日に白ブドウの収穫を開始したというニュースを知りました。西ヨーロッパの厳しい暑さを考えると、4月中旬の方が安全な賭けだったと思わざるを得ません。

 

……それは勿論冗談です。しかし、2022ヴィンテージは、間違いなく、気温の上昇、長引く干ばつ、森林火災といった記録更新の物語となっています。イタリアの一部の地域では、8月初旬までに収穫を終え、ラングドックの Fitou では7月24日に収穫を開始したといいます。多くの生産者は、将来訪れるであろうヴィンテージのためのリハーサルのようなものだと話しています。過去5年間(冷涼だった2021年を除く)を基準にすれば、それは間違っていないでしょう。

 

この新しいパラダイムは必然的にワインメーカーの頭痛の種となり、特にワインは過熟でボリュームのあるスタイルになる危険性があります。Torbreck の元オーナー、David Powell はかつてこう言いました。「フェノール類の成熟度と凝縮感は確かに必要です。しかし、私にとって最も困難なヴィンテージのいくつかは、干ばつに見舞われた低収量のヴィンテージでした。高pH、煮詰まった果実、そして”焦げたタンニン”では素晴らしいワインは生まれないのです」

 

実際、2022年のような年は、生産者の判断力が試されます。過剰な糖分を避けるために早く収穫するのが良いのか(そして酸を少し残す)、それとも季節が遅くなるまで待つのが良いのか。多くのグリーンで「痩せた」ワインは前者の方法で造られ、後者のアプローチは2018年によく見られたアルコール度数の高いワインに繋がりました。

 

2022年で疑いようのない事実を1つ挙げるとすると、タンニンと糖分の成熟度が一致しないため、醸造家は大変な苦労を強いられる年になるという点です。“出来るだけ手をかけない“というアプローチを行うのは、今年は難しそうです。彼らは、現在のトレンドとは逆行しますが、今年は醸造のありとあらゆる段階に立ち会う必要があるでしょう。このヴィンテージのワインは、畑ではなくセラーで造られると言えるかもしれません。それでは各主要エリアのレポートを見ていきましょう。

 

Dom Perignon の元シェフ・ド・カーヴ、Richard Geoffroy は、”私たちはヴィンテージを目撃する必要がある“という格言を特に好んでいました。雹が降ろうが、雨が降ろうが、核爆発が起ころうが、Geoffroyは懸命にヴァンクレールをブレンドして Dom Perignon を造ってきました。しかし、その最高の才能も、この猛暑の前では挫折してしまうかもしれません。

 

「地球温暖化が進んでいるので、今年の収穫はかなり早いでしょう」と Charles Philipponnat は話します。 最後に彼に話を聞いたとき、彼は8月24日に収穫を開始するかどうかを迷っていました。 「旱魃の影響でブドウの樹勢が弱まり、フェノールが熟すのが遅れ、酸が損なわれています。2018年、2019年、2020年といった他の乾燥したヴィンテージとは異なり、2022年は、糖分、酸、そして多少の「べっとり感」のリスクのバランスを適切に保つことがワインメーカーにとっての課題となるでしょう」

 

こう Philipponnat が認めているように、地球温暖化はシャンパーニュ地方で1世紀以上続いてきたワイン造りの伝統を破壊しています。1990年代を振り返ると、シャプタリザシオン(補糖)を必要としないヴィンテージはほとんどなく、マロラクティック発酵を控えることは狂気の沙汰としか思えませんでした。しかし、この地域では、酸が穏やかな乳酸は好ましくないという見方が年々強くなっています。Philipponnat は、夏を過ぎた時点で酸のレベルがかなり低くなったため、今年は特定のキュヴェでマロラクティック発酵を行わない予定だと言います。しかし、明るい兆しもあります。「歓迎すべき点は、真菌の病気が全くないことです」

 

腐敗、希釈に悩まされた2013年は、多くのボルドーのワインメーカーにとって、懐かしく振り返るには凄まじい忍耐力が必要なヴィンテージだったでしょう。しかし、この夏の地獄のような大火災と猛暑の後では、あの悪名高い年を不幸中の幸いだったと考えるかもしれません。

 

既に広く報道されているように、ボルドーで発生した山火事により、2万ヘクタール以上の森林が焼失し、8月には Liber Pater のオーナー、Loïc Pasquet は避難を余儀なくされました。一方、いくつかのアペラシオンでは、乾燥したブドウ木に灌漑を行う許可が下りましたが、これは20世紀には考えられないことでした。今月初め、Pessac-Léognan 理事会の理事長 Jacques Lurton はジャーナリストに対し、「これは間違いなく我々にとって最も早い収穫だ」と語りました。

 

では、2022年のボルドーに私達は何を期待できるでしょうか?これまでの暑い年に基づいて考えると、崇高なものとばかげたものが混在する年となるでしょう。ナパのような凝縮感と余韻の長いものから、フェノールの成熟度が糖度にまったく追いつかないワインまで、あらゆるものがリリースされ、そこにはもちろんアルコール度数の高いドロドロなワインも含まれます。

 

しかし、CIVBはこのヴィンテージにおける煙害のリスクを断固として否定しています。さらに、Medoc の多くのワインメーカーは、今年がメルローの年であるかどうかは分からないものの、2022年のカベルネ・ソーヴィニヨンの品質については依然として自信を持っています。

 

「地球温暖化の影響をどのように食い止めるか、我々は長い事思案してきました。そして2022年新しいキャノピー・マネジメントの手段を取ることとしました。1つはブドウの列の片側だけを除葉すること。さらに、水資源を守るために、いくつかの区画では、通常1年中あるカバークロップを取り除くことにしました」
Saint-Julien にある Château Lagrange のディレクター、Matthieu Bordes はこう説明します。

「収穫時期については、白ワインは8月末、赤ワインは9月中旬と、今年はこれまでで最も早い収穫時期のトップ5に入る可能性があります。ですが、カベルネ・ソーヴィニヨンの品質には非常に自信があります。私は15年以上前から(早熟な)メルローのことを心配しており、だからこそ計画的にカベルネに置き換えてきたのです!」

 

2022VTの Lagrange は100%カベルネ・ソーヴィニヨンのワインになっているのでしょうか?まったくもって奇妙な事が起こっています。

 

ブルゴーニュのワイン生産者は2022年について慎重ではあるが楽観的に見ているようです。
「今年も非常に暖かい夏でしたが、2018年と2020年のレベルには達していません」
ワイン評論家であり作家でもある Jasper Morris MW はこう説明します。

 

暑かった2018年は、アルコール度数が15%の赤のブルゴーニュが比較的多くあり、もちろん区画によりますが、時にはアンバランスなワインも見られます。

 

では、今年は何が違うのでしょうか?
「生産者たちは、いくつかの理由から、このヴィンテージを楽観視しています。確かに暖かい夏となりましたが、気温はボルドーやイギリスのように40℃を超える日が続くようなことはありません。夜は涼しく、8月は心地よい暖かさで、暑すぎない晴天の日が続いています」」と Morris は言います。

 

とはいえ、夏の干ばつによりコート・ドールで実ったブドウの房や果粒は小さくなったため、生産者は一般に豊作を期待してはいません。「すべての結果はテロワールと収穫のタイミングに左右されます。今年もフェノールの成熟度に対する知的なアプローチが必要な収穫になりそうです。長く待ちすぎると、その代償を払うことになるでしょう」

 

7月にモーヴ色のパジャマを着たまま外に出て、朝5時からシラーを収穫していたら、あなたは何かが間違っていると感じるでしょう。今年の南仏は、モンペリエというよりサウジアラビアを思わせるような気温で、信じられないほど乾燥した暑い夏を”満喫”しました。2022年にフレッシュで熟成に適したワインを生産できるのは、最も熟練したワインメーカーと恵まれた立地条件の畑からのみでしょう。収穫の大部分は8月上旬までに完了しました。

 

とはいえ、例外は常にあるものです。
「私たちの敷地内には、幸運にも川から引いた貯水池があります。6-7月はほとんど雨が降らず、気温は35~40度を連日超えていたので、今年は特に助けられました」
ラングドックにある Domaine de Sainte Rose の共同設立者である Ruth Simpson はこう語ります。

 

「ブドウの木の活動が止まってしまわないように、そしてブドウが十分に成熟するのに必要な最低限の水のみ使用しています。今のところ、果実の品質と健康状態には非常に満足です」

 

イタリアの主要なワイン産地のいくつかでは、無灌漑農法が過去のものとなるかもしれません。
少なくとも、今年のように暑くて雨不足のヴィンテージがまた訪れたときに対応できるよう、検討がなされています。
「バローロでは現在灌漑は違法ですが、将来的には農業に利用できる集水区域を作ることが必要になるかもしれません」
Domenico Clerico のワインメーカー兼ディレクターを務める Oscar Arrivabene はそう語ります。

 

Tenuta Mazzolino の3代目オーナー、Francesca Seralvo からのレポートも紹介しましょう。
「Oltrepò(ロンバルディア州)では点滴灌漑は使えませんが、将来のために計画を立てているところです。とはいえ、私たちはこれまで、気候が変化し温暖化していることを常に念頭に置きながら、長年にわたってブドウ畑で作業を行ってきました」
そして、温暖化の悪影響に対抗するため、Mazzolino は畝に緑肥をまき、下層土にできるだけ水分を保つようにしています。

 

イタリアの他のエリアでは、猛烈なアルコールと行き過ぎた抽出を避けるために、伝統に手を加えることを計画しているオーナーが多々います。ヴェネト州にある Tedeschi Wines の Sabirna Tedeschi はこう話します。
「私たちは Valpolicella に居を構え、常に他のスタイルに比べてアルコール度数の高いアマローネワインを生産してきました。しかし、2022年は乾燥工程をできる限り管理し、ワインに複雑さを与える成分の凝縮をある程度抑えようと考えています」

 

全体として、2022年は北イタリアでは一貫して温暖な気候で雨も少なく、ワインメーカー達にとって手間のかかる難しい年となりました。ワインがどのような仕上がりになるかは、まだ分かりません。

 

トスカーナ州/イタリア中部

トスカーナのワインメーカーたちは、2022年の見通しについてかなり強気です。中央イタリアの生産者にとって、暑くて乾燥したヴィンテージはいまさら大したニュースでもなく、既に何年もかけて適応してきたと言います。

 

「私たちはこのような状況に慣れつつあり、そのため植物も対応できるようになりつつあります。これは非常に重要なポイントです。私たちは、問題が目の前にあるときに、ただ解決策を探すだけではありません。植物がこの新しい環境に適応できるよう、あらゆる手段を講じているのです」と、Monteverro のワインメーカー、Matthieu Taunay は説明します。

 

また、Ornellaia の Axel Heinz にも2022年の数々のチャレンジについてじっくりと話を聞きました。
「2022年は3年連続の暑いヴィンテージですが、その中でも最も暑く、最も乾燥したヴィンテージです。このようなコンディションに対応するために最も重要なのは、土壌とキャノピーの管理を正しく行うことです」

 

さらに Heinz はこう付け加えます。
「キャノピーについては、ブドウを日光からできるだけ守りつつ、(葉からの蒸散による)水分の消費を抑える適度な量のキャノピーを残すことを目標としています。以前よりも果実の周りに葉を多く残し、収穫間際にのみ葉を落とす事が増えてきています。土壌の有機成分と生命力を維持するために多大な努力を払ってきたことと、私達の畑のブドウの樹齢が上がっていることが、異常気象に強いブドウの樹を作るために大いに役立っています」
Ornellaia は8月上旬に白ブドウの収穫を開始し、おそらく9月上旬にはメルローの収穫を終える予定です。

 

とはいえ、この地域のブドウ木の多く、特に若い株は、灌漑なしでは、まともな収穫ができるレベルまで成熟するのに苦労したことでしょう。
「確かに収穫はやや早い年となりました。7月と8月の間は、点滴灌漑が植物のストレスを最小限に抑えるために重要であったことは明らかで、利用できる人は毎日利用していました」
マレンマ協会の会長、Francesco Mazzei  はこう語ります。

 

Heinz によると、Ornellaia は6月下旬から7月中旬にかけて、最も乾燥した場所と最も若いブドウの木に緊急灌漑を行うことを余儀なくされたと言います。

 

隣のウンブリア州では Chiara Lungarotti がこう話してくれました。
「2022年は Lungarotti にとって、これまでで一番早い収穫となりました。8月10日にスパークリングワイン用のブドウから始めて、8月16日からはピノ・グリージョやシャルドネなど早熟な白品種の収穫に切り替えました」

 

また、イタリアのこの地域では一般的ではなかった“救助灌漑”を白ワインだけでなく赤ワインにも行う時が来たと多くの生産者が考えているはずだと Chiara は言います。「バランスのとれたブドウを収穫するためには、これは不可欠なことでしょう」

 

2022年のヴィンテージは、イタリア中部の特定のワイナリーにとってはリトマス試験紙のようなものでしょう。彼らはサハラ砂漠以南のような暑さから、バランスのとれた新鮮なワインを造ることができるのでしょうか?それとも、そろそろ荷物をまとめて北へ向かう時期なのでしょうか?

 

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/08/europes-2022-vintage-a-taste-of-things-to-come

この記事は引用元からの許諾をいただき、Firadisが翻案しています。
文責はFiradisに帰属します。