熱波に襲われるカリフォルニア州では、冷涼気候のブドウについてワインメーカー達は難しい問いを突き付けられています。
9月上旬、カリフォルニアを襲った熱波により州内各地は最高気温の記録を更新しました。
例えば、冷涼な気候を好むピノ・ノワールの産地として知られるRussian River Valleyでは、46.1度を記録。Mendocino Countyでは、9月6日に47.2度を記録し、まさにデス・ヴァレーと同様の気候となりました。
それでも今年もブドウ収穫は行われており、特に夜間に行う事で、ブドウ栽培者達はこれらの気候変動に適応しようとしています。この暑さは恐らく収穫量の減少に繋がり、単一畑のワイン生産者にとっては難しい選択を迫られることとなりそうです。
「こういった気候変動はカリフォルニアのヴィンテージを変えていくでしょう。全ての大手企業にとって、これは予測できなかったことですが、今年のように43度もの太陽の下に何日も晒された果実は、レーズン状になり、地面に落ちてしまうのです」
Sonoma CountyにあるNotre Vue Estate Wineryのブドウ栽培者であるPatrick Hamiltonはこう語ります。
しかしここで朗報もあります。カリフォルニア大学Davis校のブドウ栽培専門家のKaan Kurturalによると、9月上旬の熱波により多くのブドウがさまざまな細胞死の段階を経てしまいましたが、ワイン愛好家は2022年のカリフォルニアワイン全体の品質について心配する必要はないといいます。
「生産者はこのような事態に対処する準備が出来ています。ブドウ房を覆う遮光布を使うなど様々な工夫をしており、熱波の前には灌漑を行い、ブドウ樹に水分を与えるなどの対策も行っています」
KurturalはWine-Searcherの取材にこう答えています。
しかし、今年はカリフォルニアの単一畑のワインが少なくなる可能性があります。単一畑にこだわらないワイナリーであれば、酸が高く潜在アルコール度数の低い早摘みのブドウと、濃厚な風味を持つ遅摘みのブドウをブレンドすることでワインにバランスを与えられるかもしれません。
Barra of MendocinoのオーナーであるMartha Barraは、ワイナリーで初めて記録した47.2度(華氏117度)を示す温度計のスナップショットを送ってくれました。
「これまで43度を超えたことは記憶にありません。47度まで暑くなると、ブドウ樹は活動を止めてしまいます。9月上旬の時点でシャルドネの糖度検査をしたところ、数値で見るpHは問題ないようですが、(果粒を食べてみると)酸がまだかなり高く感じました。栽培担当者は、ブドウはまだ収穫の準備は出来ていないようだ、と話しています」
Barraは、自社畑から(風味が発達した)高アルコール度数のピノ・ノワールを収穫予定ですが、先に収穫を終えているピノ・ノワールとブレンドする予定だといいます。さらに、これまで夜間にブドウ収穫をしたことはありませんでしたが、今年は畝3列を照らし出す大きな照明を畑に準備したので可能になりました。
彼女は33年間オーガニック栽培でブドウを育ててきましたが、最近はブドウ樹の病気を媒介する害虫であるヨコバイに悩まされているといいます。これも気候変動による影響の1つです。
「畑の管理者は“寒い冬がなくなったからだ”と話しています。夜であってもそれ程寒くなくなったので、小さな虫も一緒に越冬できてしまうのです。私たちにとってそれが地球温暖化による一番の問題でしょう」
Sonoma Countyの醸造家、Kathleen Inmanは通常早摘みを行っています。Endless Crush roséなどの彼女のワインは、抑制のきいたスタイルが人気の理由です。しかし、今年の彼女の収穫は通常よりも遅れて行われました。それはカリフォルニアの現代的な課題の1つ、人手不足が原因でした。
「8月下旬ころ、ようやく収穫の手はずを整えました。今私は収穫者の手配が整っていない不慣れな生産者たちとの新規プロジェクトを行っています。9日前、私はある生産者に“この日に収穫を行いたい”と伝えました。しかしその後、彼から“収穫者に予定を伝えた所、週末にかけて皆にキャンセルされたため、希望日に収穫できる人が誰もいない”と伝えられました。全ては予定通り進まないため、我々は経験に基づき、何が必要で何が不要かを判断し、予想出来うるリスクを負わなければなりません」
最終的に彼女は、Mount Edenクローンのピノ・ノワールの一部を収穫し、同じ畑に植わる他のクローンはそのまま残すという選択をしました。
「あのクローンは収穫しないと萎んでしまっていました。小さな実をたくさんつける傾向にあるので、他のクローンに比べ簡単に果粒が萎んでしまうのです。また、糖度も高いため、このクローンを残りの果汁とともに醸すと糖度が上がりすぎてしまいます」
冒頭のDavis校のブドウ栽培専門家Kurturalは、9月上旬、太陽の下にあったブドウの表面温度は60度にも達したと話します。
「ワイン用ブドウに必要な化合物は全て果皮に含まれています。こういった熱は、様々なステージの細胞死を引き起こしてしまいます。(熱ダメージを受けると)植物は水分を保つためにより多くの水を必要とし、また熱をクールダウンさせるために蒸散しますが、今年は水不足で始まったので、水分が追いついていません」
遮光布は一時的な対策ですが、カリフォルニアの生産者達は将来に向けて栽培戦略を適応させる必要があり、すでに多くの生産者が様々な方法を実践しています。
生産者達が気候変動にどのように適応しているかを見るには、ナパ・ヴァレーのメインストリートである州道29号を今度車で走ってみると良い、とKurturalは言います。歴史的には、ブドウ樹はより多くの日光を取り込むためにこの道路と平行に並んでいました。「今は日射によるダメージを減らすために、道路に対し垂直に並んでいます」とKurturalは説明します。
Hamiltonによると、彼の働くNotre Vue Estate Wineryの最も収益性の高いブドウはピノ・ノワールですが、地球温暖化によりこれ以上この品種を植えないようオーナーに伝えていると言います。
「私が少し危惧しているのは、将来的に夜の気温が今の平均から8度ほど上がるのでは、という点です。これはブドウの酸を変化させます。栽培する品種を変える必要も出てくるでしょう。私はオーナーに、今あるものは良いとして、もうブルゴーニュ品種は植えない方が良いと伝えました。これからはローヌ品種を植えるべきで、20年後には、スペインや南ギリシャの品種、グルナッシュ・ブランを植えるのが現実的です」
しかし、ピノ・ノワールやシャルドネのような冷涼気候のブドウにて高い名声を誇ってきたワイナリーは、今のところは身を潜めて熱波が収まるのを待つしかないでしょう。
ソノマにあるSosie Winesのオーナー、Scott MacFigganは“たった3日間で糖分が急速に蓄積している様を目撃している“と話します。
「これは決断の時です。暑さが厳しくなる前にブドウを収穫してしまうのか、あるいは厳しい暑さを乗り越えた先に何が出てくるのかを見るのか、どちらかを選ぶ必要があります。通常であれば、この時期はまだブドウが収穫できる時期ではないですが、我々のピノは、もう少し待つことで、過度にならないかどうかを少し心配しています」
そう語るMacFigganですが、異なる畑のブドウを一緒にブレンドすることは考えていません。
「我々は単一区画とヴィンテージの表現にこだわります。なのでそれに従い、その結果がどのようなものであれ受け入れるつもりです」
引用元: California’s Cool-loving Grapes Swelter
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