シャンパーニュ地方は教科書通りの収穫を楽しみましたが、それは必ずしもヴィンテージの品質を保証するものではありません。
Champagne Lallierのディレクター・ジェネラル兼セラー・マスターのDominique Demarvilleによると、今年のシャンパーニュの収穫は「至福(Blissful)」と言えるものだったそうです。では品質についても良いと言えるのでしょうか?
8月20日から9月中旬にかけて収穫・破砕された健康で収量も十分なブドウは、まさに「至福」という表現がぴったりです。晴天続きの春と夏のおかげでカビ病などの病害も起きず、ブドウはほぼ完璧な成熟度に達し、過去を顧みても最も楽な生育期の1つとなりました。
夏は暑かったのですが、2019年や2020年に比べると穏やかで、熱波や雹の被害の減少に繋がりました。さらに、昼夜の気温差も大きかったため、酸度が急激に減少することもありませんでした。それでも、雨が少なかったことでブドウの皮が硬くなり、完熟するまでには時間がかかりました。
しかし、困難な2021年の後、多くの生産者はできるだけ早くブドウを収穫したいと考えたため、シャンパーニュ委員会(CIVC)と、シャンパーニュ地方ブドウ生産者協会(AVC)の技術陣は、収穫開始日と成熟条件を合わせる事に苦労しました。CIVCの技術委員会は、シャルドネとピノ・ノワールの収穫は少なくとも潜在アルコール度数が10.5%に至るまで、ムニエは10%に至るまで待つように生産者に提案していましたが、この要求は多くの生産者には聞き流されてしまいました。
この理由の1つは、複数の大手メゾンが、潜在アルコール度数を最大10%にして全てのブドウを収穫するよう要請していたことに起因するのは間違いないでしょう。Wine-SearcherはMoët & Chandonから送られたそのようなメールを確認しました。その中で彼らは供給元のブドウ栽培家に“ハウスが知られている新鮮な柑橘類のノートを維持するための低いアルコール度数”を要求しています。
これらの背後にある公式な理由は、リンゴ酸レベルの低下を懸念したものとして正当化されていますが、潜在アルコール度数10%で収穫をした場合、足りない1%を補うために補糖する必要があり、特に大きなメゾンにとっては、ワインのボリューム感を出すための安価な方法であることは指摘しないといけません。
しかし、潜在アルコール度数10%(またはそれ以下)での収穫は、非常に乾燥した夏の後、(水分不足により)果実の重量が予想より少なくなったため、潜在収量の減少に繋がりました。さらに、必要量の果汁(4,000kgのブドウに対して2,550L)を抽出するためのプレスサイクルにかなりの時間がかけられることとなりました。
そのため、“至福(Blissful)”は必ずしも”至高(Excellent)”と一致するわけではありません。
常に慎重であるLalierのセラー・マスターDemarvilleは、2022年は”良い“、もしくは”非常に良い”かもしれないが、おそらく”例外的(Exceptional)“ではないだろう、と考えています。
「その年のポテンシャルを見極めるには、収穫翌年の春のスティルワインの試飲を待つ必要があります。その時にやっと私たちは、2022年が”良い“のか、はたまた”非常に良い”のかが分かるのです」
そう言うとDemarvilleは、彼の第一印象では2022年をグレートヴィンテージと断言するほどではない、と認めました。
Charles Heidsieckのセラー・マスター、Cyril Brunもヴィンテージのポテンシャルについては、Demarvilleと意見を同じくしています。
「これだけ健康なブドウがあれば、ヴィンテージは“良い”はずです」
Brunはそう言いますが、少なくともワイン造りの現時点では2022年がグレートヴィンテージであることを想像するのに苦労しているといいます。むしろ彼は、2022年は、同じく健康なブドウが多く、少し希薄で平坦ではあるものの、堅実なヴィンテージであることが証明された2018年により近くなるだろうと考えています。
そして実際、8月末から9月初めの数日間にプレス機にかけられ流れ出たジュースの多くは、深みと風味に欠け、ブドウジュースというよりはキュウリジュースのような味わいでした。AvizeにあるChampagne AgrapartのPascal AgrapartはWine-Searcherに、「もし2011ヴィンテージの悪評の一因となったような葉っぱを思わせるグリーンなノートを避けたいのであれば、今年は成熟度を待って収穫することが非常に重要だ」と語っています。
この比較について公平に見ると、2022年のブドウの全体的な衛生状態は、早すぎる収穫とともに腐敗でも知られる2011年よりはずっと良いものでした。
それでも、収穫日は2022年ヴィンテージの偉大さを判断する際の決定的な要因になるでしょう。
Champagne Roedererのシェフ・ド・カーブ、Jean-Baptiste LécaillonはWine-Searcherに対し、こう語っています。
「2022年はワインメーカーの年になるでしょう。自然は偉大なワインを造るための理想的な条件を与えてくれました。ここからは私たちがそのポテンシャルを最大限に引き出せるかどうかにかかっています」
そしてLécaillonは最大まで成熟を待つことを選択しました。シャンパーニュには(1970年代に状況が変わる前までは)成熟を最大限まで待つという長い歴史があった事を思い出したのです。
「収穫日は伝統的に、“熟度”と“ブドウの健康状態”という2つの条件に基づいて決められ、最適な熟度を得るために可能な限り延期される事が多かったのです。今回は天候もブドウの健康状態も良く、潜在アルコール度数11%以上の成熟度を待つことが出来ました。さらに9月上旬の雨は、果実をふっくらとさせ、風味を凝縮させるのに役立ちました」
結果として、Lécaillonは彼のセラーにあるジュースにとても満足しています。特にCristalのヴィンテージのポテンシャルに期待しており、現段階では彼にとって過去30年間で最高のものだと言います。
Champagne PouillonのFabrice Pouillonも、Lécaillonと同じく、収穫を急ぐ必要はなかった、と話します。実際、彼は自身の村で最後に収穫を行ったワイン生産者の一人であり、Wine-Searcherに「待っていて本当に良かった」と語っています。「風味のバランスが非常に良いだけでなく、完熟を待ったことで少なくとも25%の収量ボリュームを得る事が出来ました」
Champagne René GeoffroyのJean-Baptiste Geoffroyは、最初の畑で低収量のシャルドネを潜在アルコール度数11.5%で収穫した後、3日間収穫を止めることで、収穫量の多いムニエとピノ・ノワールの畑をより成熟させるように調整したといいます。
「収穫を途中で止めるのは常に非常に複雑ですが、私たちの黒ブドウと白ブドウの成熟度の差は大きすぎました。完璧な成熟度を求める事は常にリスクを伴いますが、偉大なワインを造るには成熟したブドウが必要なのです」
量を取るか質を取るか?
CIVCは収穫後のプレスリリースで、2022年の収穫を「ソーラー・ヴィンテージ」と呼び、大満足しているようです。全体的にブドウは潜在アルコール度数10%強で収穫され、十分な酸があり、非常に良い品質の可能性を予感させる、と説明されています。
ですが、プレスリリースのほとんどは、これまでで最も高く設定された収穫量に焦点が当てられていました。夏の初め、CIVCは商業的な需要を踏まえたアペラシオン収量規定を2008年以来最高の12,000kg/haに設定していたのです。
シャンパーニュでは伝統的に、アペラシオン収量規定は販売予測に基づいて設定されています。2022年の1~8月の販売量は前年と比較して9%増となり、コロナ禍からの回復も相まって世界的な売上増が期待されるために高い収量が決定されました。
そして、収量規定を設定する際、販売予測量を満たせない年に生産者が利用できる公式制度であるRéserve Individuelle(=以下RI, 上限8,000kg/ha)に対しても、CIVCはさらに3,500kg/haの追加を認めました。結果、アペラシオンのルール・ブックであるCahier des Chargesに則ると、最大許容量は15,500kg/haとなりました。
収穫直前、シャンパーニュ地方ぶどう栽培・醸造業者組合(SGV)は、INAOに、Cahier des Chargesに記載された最大収穫量をさらに”例外的に“1,000kg/ha上回る事を認めるよう要請しました。CIVCとINAOは、シャンパーニュ地方でこのような要求が出されたのは初めてだと認めています。
この要請の背後にはどのような理由があるのでしょうか。SGVの会長でCIVCの共同会長でもあるMaxime Toubartの言葉を借りれば、「RIに追加できる量を4,500kg/haに拡大し、RIが著しく枯渇した生産者に可能な限り充填する機会を与えること」となります。
またCIVCがRIにクレジット制度を導入し、過去3年間のアペラシオン規定に満たなかった赤字分をRIから補填できるようにしたことも、RIの増量を望む背景にあったと考えられます。
どちらにしろ、これらすべての恩恵を受けるには16,500kg/haもの収穫が必要であり、この地域のどこにおいてもここまで収穫した生産者はいないでしょう。実際、CIVCの技術陣は夏の初めに全体の平均収穫量を14,500kg/haと見積もっており、それ以降、新たな平均収穫量の見積もりは行われていません。
これらの収量規定について、明白で論理的な理由はなかなか見つかりませんが、噂では今年の”例外的な”要求は、SGVが今後、ほぼ永久的に最大アペラシオン収穫量の延長を求めるための最初のステップであると理解されています。この噂を正当化する理由として、将来の需要に対応するためにアペラシオン生産量の拡大を求める声が上がっている点や、SGVがアペラシオン面積自体を拡大させるための調査の進展を拒んでいる点などが挙げられています。
とはいえ、恒久的な大規模アペラシオン構想は、経済的には容易に正当化できますが、シャンパーニュの品質志向がさらに希薄になると考え、多くの生産者は反対しています。
結論として、量と質の二項対立は今年ほど明白になった事はなく、この溝は今後数年でさらに広がる可能性があります。シャンパーニュメゾン組合(UMC)の前会長、Jean-Marie Barillèrは、これら2つを軸とした成長モデルが今後も上手く嚙み合わない状況が長く続いた場合どうなってしまうのかを警告してきました。今日では、この二項対立は、地域が自身で選んだ道であることをもう否定できません。さらに、このギャップはアペラシオンのあらゆる階層に存在しており、どちらの陣営にも、ブドウ栽培者、協同組合、メゾンが存在しています。
ポジティブに捉えると、どちらの側であっても2022年の収穫は至福であり、健康なブドウが豊富に収穫できました。さらに収穫を急がなかった生産者にとっては、素晴らしいヴィンテージのポテンシャルを秘めています。
引用元: Champagne Enjoys a Blissful Vintage
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