オーガニックワインは環境に優しいですが、私たちの味覚にとっても良いものでしょうか?
通常、有機農法やビオディナミ農法について語るとき、私たちはそれが環境や農場で働く人々の健康、そして農場がある地域社会にとっていかに良いことかを話してきました。
長年に渡り、合成農薬が環境と人間の健康の両方に有害な影響を及ぼすとして、モンサント社※のような企業に対して何万件もの訴訟が起こされてきました。
(※注釈:世界中で広く使われる除草剤ラウンドアップを販売する農薬大手。発がん性があるとして使用を禁止する国が増えている)
現在、モンサント社が製造するラウンドアップのような特定の化学物質を禁止する国が増えています。そして、有機農法やビオディナミ農法で作られた食品や飲料は、従来の農法で作られたものに比べて抗酸化物質や栄養、ポリフェノールが多く含まれており、より健康的であることが研究によって証明されています。
ですが、私たちの多くが、社会奉仕の行為として、あるいは体質を改善する万能薬としてワインを飲んでいるわけではないでしょう。私たちがワインを飲むのは美味しいからです。そして、有機農法やビオディナミ農法で作られたワインは、より美味しく感じられることが分かってきたのです。
オーガニックワインが美味しい証拠
ロバート・パーカー、ワイン・エンスージアスト、ワイン・スペクテーターのスコアの複数の研究により、オーガニックワインが慣行農法のワインよりも優れたパフォーマンスを示すことが示されています。
2016年、UCLAとボルドーのKEDGEビジネススクールの教授であるMagali DelmasとOlivier Gergaudは、カリフォルニアで生産された74,000点のワインへの上記評価3誌のスコアを調べました。その結果、有機および/またはビオディナミ認証を受けたワインが他の銘柄よりも4.1%高いスコアを獲得していたと分かりました。
2021年には、フランスのトップガイドであるゴーミヨ、ジルベール・ガイヤール、ベタンヌ・ドゥソーヴが採点した128,000本のワインの調査結果を発表し、有機認証ワインは他のワインよりも平均6.2%高いスコアを獲得したことを示しました。さらにビオディナミ認証ワインは、単に化学薬品を使わないだけでなく、特定の時期に植え付けと収穫を行い、動物や自生植物を統合し、包括的で完結型の農業システムを構築することを生産者に求めていますが、11.8%高いスコアを獲得しています。
では、なぜこれらのワインはより良い味わいなのでしょうか?Wine-Searcherは生産者、評論家、専門家に話を聞きました。
科学的優位性
サンタ・ローザ・ジュニア・カレッジ(米)とカブリロ・カレッジ(米)のワイン学科准教授で、スローワインガイドUSAのナショナルエディターを務めるDeborah Parker Wongは、異なる方法で生産されたワインのフェノール化合物を比較した2つの研究を例に、「味が良いだけでなく、有機ワインとビオディナミワインは化学的に優れていることが研究で示されている」と話します。ですが、化学組成で分かることは限られている、とも付け加えます。
2021年の白書では、統合農法、有機農法、ビオディナミ農法によるワインの品質を分析し、ブドウの栽培方法がワインの味に直接影響することを示しました。
「異なる農法は、品質において明確なヒエラルキーを示しました。有機農法とビオディナミ農法は、より表現力が豊かで酸化に強いワインを生み出します。さらにビオディナミ農法で造られたワインは、香りの強さが最も高かったのです」とParker Wongは言います。
こうした学術的な観測結果は、ラングドックのGérard Bertrandのチームが、彼らの所有する2200エーカー以上のブドウ畑で目にしていることを映し出しています。この畑は2002年から100%ビオディナミ認証取得を目指しており、来年には100%認証取得の見込みです。
「ビオディナミ農法は環境に多くの影響を与えます。私たちの第一目標はより持続可能な環境を作ることです。しかし、同時にこの農法がワインの味に与える影響も実感するようになりました。酸味も良くなり、気候変動にも負けない、より強いブドウができました」ドメーヌの共同ワイン・ディレクターであるGuillame Barraudはこのように語ります。
「ビオディナミ農法は魔法ではありませんが、私たちは長年この農法でワインをテストしてきて、気候が温暖化しても、pHレベルが低下し、酸のレベルが上昇していることが確認できました。このような状況下で酸を維持できることは、勝利だと考えています」
しかし、結局のところ、化学分析ではなく、証明はグラスの中にあるのです。
「私たちはワインの垂直試飲を行い、数十年の違いを味わっています。私にとっては、化学分析よりも味の方が重要なのです」そうBarraudは言います。
エミリア・ロマーニャ州のPoderi dal NespoliのヘッドワインメーカーであるMaria Soledadは、450エーカー近くの有機農法の畑からワインを作っており、そのうちの約30%が認証を受けていますが、彼女は健康的な農法であればあるほど、ブドウ木はより良いパフォーマンスを発揮すると言います。
「(有機農法により)土壌はより健康になり、植物は病気や環境ストレスに対する抵抗力が高まります。ブドウ木は、栄養の吸収や水分の管理がより効率的になり、気候変動の影響で続く干ばつに打ち勝つことができるようになります。これらの要素はすべて、原料であるブドウの健康や品質に貢献し、より優れたワインを生み出します」とMariaは話します。
テロワールを呼び起こす
メンドーサのBodega Argentoのワインメーカー、Juan Pablo Murgiaは、有機農法がより純粋で豊かな味わいをもたらすと確信しています。Bodega Argentoでは、962エーカーの有機認証を受けたブドウ木を所有しています。
「私たちは土壌の手入れを重要視しています。有機土壌の持つ生命力は、ブドウ木が根を伸ばすのを助け、ブドウ木と土壌を結びつけるのに役立ちます。これは、深い個性や風味、ブドウのエッセンスを持つテロワール主導のワインを造る上で、最も重要な要素のひとつです」
このメタ分析を含むいくつかの研究によると、オーガニック農法は、32から84%も微生物活動率が高い土壌をもたらすと示しています。
Nate Wallは約6年前にTroon Vineyardのワイン製造チームに加わり、畑とグラスの両方で、従来型からオーガニック(バイオダイナミックの要素を含む)への移行を観察することを目標にしたと言います。
「2006年、ワシントンDCのフランス大使館で開催された世界初の国際ビオディナミワイン会議において、ハッとさせられた経験があります。これほどまでに高品質な世界中のワインを一挙に味わったことはなく、とにかく驚きの体験でした。その時から10年以上かかりましたが、ようやく私にも、その土地、私たちの場合はオレゴンのApplegate Valleyを語るようなワインを自分でつくる機会を得ました」
Wallは、メンドーサのMurgiaと同様、健康的で生き生きとした土壌が、「何かを語る」ワインを生み出すと信じています。「風味が弱かったり、ベールに包まれたりすることはありません。オーガニックでないワインは、より一般的で、産地について明確でないことがわかります」
そして彼は、シラーで最も大きな影響を受けたと言います。
「Troonでは、4つの土壌タイプすべてにシラーを植えていますが、その違いを比較するのはとても興味深く、ヴィンテージが上がるごとにその差は大きくなっています」とWallは言います。「また、途中から有機農法に切り替えた古い畑と、最初から化学肥料を使わずに栽培した新しい畑を比較すると、大きな違いがあることがわかります。新しい畑のブドウには、より凝縮されたフレーバーと密度があり、全くの別物です」
思慮深い農業
ワインの栽培や醸造は、科学と芸術の境界線上にあることが多々あります。自分たちの作業についてこの境界線上で考えている農家や生産者たちは、結果として平均以上の時間を畑作業に費やしているため、必然的に良いジュースを作ることができます。
有機認証を取得したばかりのト・カロンの畑からブドウを調達しているナパのロバート・モンダヴィのワイン醸造ディレクター、Kurtis Ogasawaraは、有機栽培にはより実践的な行動が必要で、それが自然に良いブドウにつながるという実用的な視点をもっています。
「有機栽培は、季節を通してブドウの成長をサポートするための区画ごとの綿密な計画が必要です。そして細やかな作業がより良い品質に繋がるのです」とOgasawaraは言います。
オレゴン州ウィラメット・ヴァレーに450エーカーのブドウ畑とオーガニック認証を持つKing EstateでCOO兼ワインメーカーを務めるBrent Stoneは、ワインの画一的な時代を終わらせ、優れた農法を組み合わせることが、特別なワインを生み出すと信じています。
「19世紀半ば、社会は基本的なレシピがあれば何でも再現できると考え、農業だけでなく、他の多くの分野でもアプローチを狭めようとしました。ですが、農薬や人工肥料を減らし、ビオディナミ、有機栽培の体制へと進化することで、私たちのワインはより複雑化し、より優れた個性を示すようになりました。私たちは、畑の生態系が、何世紀も前のように、ブドウが進化しクローンや交配種が選ばれたときの状態に戻っていくのを見守っているのです」
心地よさの構成要素
製品の持つ分かりやすい魅力が味わいに与える影響力を過小評価してはいけません。
オーガニックやビオディナミワインが、慣行栽培のワインより高得点を取ったスコアの多くはブラインドテイスティングによるものなので、評論家は農法云々を把握しておらず、味わい自体が評価されています。とはいえ、環境破壊や癌の原因となる化学物質が混入していないものを飲むことで、人々の気分が良くなることを否定するのは愚かなことでしょう。
ワシントン・ポストのワインコラムニスト、Dave McIntyreは、2016年に行われた研究を参照して書いたコラムにて 「オーガニックやビオディナミワインは、しばしば他のワインよりも生き生きとした味わいや、心が掴まれるような味わいを見せる 」 と記しています。
しかし、それは味覚と同じくらい知覚の問題かもしれないと、McIntyreは付け加えます。
「気候変動に対する認識と関心が高まっています。家にソーラーパネルを置いたり、庭にレインガーデンを作ったり、電気自動車を運転したり、プラスチックの使用を控えたり、今や私たちは皆、環境保護主義者です。私たちが何かを購入する時、特に体に入るものには、同じ優先順位を反映させたいと思うものです」
ですが、味覚は「主観的で個人的なもの」であることもMcIntyreは指摘します。
「でも、たとえ味に違いがなくても、私はオーガニックワインを選びます。なぜなら、認証はそのワインがどのように作られたかを教えてくれるからです。それは、そのワインを作った人たちが、自分たちのコミュニティや私たちが共有する地球を十分に気遣い、自身が大事にする生き方を反映するような方法でビジネスを行うことを約束してくれているということです。」
ワイン&スピリッツの編集・発行人であるJoshua Greeneは、有機農法やビオディナミ農法が必ずしもワインの味を良くするとは思っていません。
「それは幻想です。有機農法やビオディナミ農法がワインを美味しくしているのではなく、有機農法やビオディナミ農法を採用しているハイレベルなブドウ畑が増えただけだと思います。1980年にFreyが米国初のオーガニック&ビオディナミワイナリーになったときは、彼らは異端と捉えられていました。しかし、今では完全に主流となり、素晴らしいワインを作るための基準とさえ考えられています」
Greeneはまた、オーガニックやビオディナミワインへの動きに「決して反対しているわけではない」とも付け加えます。「気候変動が私たちの日常的な現実となりつつある今、持続可能な農業を行うことは責任あることです」と話します。
オーガニックワインは、地球環境と私達の健康に良いものです。そして多くの評論家や生産者は、より美味しいとも信じています。そして、人々、特に生産者たちが熱望する40代以下の消費者は、それを望むだけでなく、より多くのお金を喜んで支払うのです。
しかし、「(どちらが良いか)結果は明白なので、誰もが有機農法/ビオディナミに切り替えましょう」というのは少し短絡的です。なぜなら習慣は消えにくく、切り替えは容易に行えるものではなく、特定のテロワールでは有機農法は非常に困難だからです。ですが、生産者達が有機農法やビオディナミ農法の長期的で多岐に渡るメリットを考慮しないというのも同様に短絡的なのです。
引用元: Why Organic Wine Tastes Better
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