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気候変動により、再考されるワインへの加水

Winery workers treading red wine

違法行為ですが、フランスの生産者の中には、アルコール度数の上昇に対抗するためにワインに加水する人もいます。


フランスでは“un secret de Polichinelle”(公然の秘密)として知られています。
南ヨーロッパの生産者は、世界でマストへの加水が行われている事実を知ってはいるものの、依然としてタブーとされている加水を認める生産者はほとんどいません。発酵を促進するための加水が認められているアメリカとは異なり、EUでは食品添加物やベントナイトなどの加工助剤を溶かす目的以外での加水は禁止されています。

 

フランスでは1907年、生産過剰の時代に規制されていない混ぜ物の入ったワインに反対するワイン生産者Marcelin Albertが率いる数十万のラングドック地方の生産者たちによる反乱を受け、加水が禁止されました。
しかし今、気候変動危機の最中、南フランスではアルコール度数を下げ、一次発酵の停滞を防ぐために加水を合法化しようという声が高まっています。OIV(国際ぶどう・ぶどう酒機構)によれば、発酵が止まることはよくあることで、それは高いアルコールレベルが多くの酵母株の活動を阻害するためだということです。現在使われている酵母は、潜在的なアルコールレベルを下げ、栄養素欠乏を防ぐように設計されているため、最終的なワインのアルコール度数に対しては限定的な影響しか与えません。

 

「私は、生産者がマストに3~5%の水を加えることを許可するようなヨーロッパの法改正を、慎重かつ管理された方法で検討すべきだと思います」と、ローヌ渓谷のリュベロンに位置するChâteau de Clapierのオーナー・ワイン生産者であり、CEVI(欧州独立ワイン生産者連盟)の前会長のThomas Montagneは述べます。

 

「間もなく、マストに水を加える以外の選択肢はなくなるでしょう」ボルドー・グラーヴ地区の有名生産者は言います。「ブドウが縮んで、収量が減りアルコール度数が16%になったら、どうしたら良いでしょう。私のワインは売れなくなります」。

 

OIVのワイン醸造学担当会長であるFernando Zamoraは、アルコール度数を下げるために、加水ではなく、スピニング・コーンや逆浸透膜装置を合法的に使用することを提唱しています。このような装置は大手のワイン会社では使用されていますが、EUのほとんどの生産者にとっては金銭的に手が届かないものです。そのため、気候の変化による地球温暖化の影響に悩む多くのヨーロッパのワイン生産者にとっては、解決策にはならないのです。

 

フランスとEUでは、気候変動に対して時間がかかり面倒なアプローチばかり(PDOのアペラシオンで許可される代替品種の使用に関する制限を含む)を国が採用していると非難する生産者が増えている中、2022年、一部の生産者は法律を無視してマストに水を加えたという事実が、Wine-Searcherの調査で明らかになりました。
「ボルドーと南フランスの一部生産者は、2022年には7%の加水を行い、アルコール度数を16%から13.5%まで下げています。確かに違法だが、理解もできる」と、ボルドーのある生産者は匿名で語りました。

 

加水ワインと世界の流通

フランスでは、一部の生産者が発酵前や発酵中にルモンタージュ(ポンピング・オーバー)やワイナリーの設備を洗浄する際に加水していることが公然の秘密となっています。

 

切実な問題であるEUの規則変更ですが、緊迫感を持って進められているわけではありません。高濃度の糖分を含むマストに水を加えると浸透圧が下がり、より安定した発酵が可能になりますが、ワインの規則についてEUに助言を与えるOIVは、マストへの加水を規定することに断固反対しています。Zamoraによれば、ワインを薄め、色を弱め、収量を増やす可能性があるということです。

 

しかしフランスでは、一部の生産者がマストへの加水管理を認めるよう求めており、EU域外での異なる法的アプローチが注目されています。

 

オーストラリアでは、ブラック・スネーク・ファイニングと言われるものがあります。つまりブラック・スネークとは水道のホースのことです。アメリカでは発酵を促進するための加水が認められていますが、法制の違いが貿易問題になっています。例えば、EUに輸入されるアメリカ産ワインは、ワインボトルのラベルに合法的な加水については記載する必要がありません。

 

「ナパ・ヴァレーでは、生産時に3〜4%の水を加える生産者がいますが、ボトルのラベルには書かれていません。完全に合法です。でもここでは、気候変動の影響にもかかわらず、そんなことはできません」と、ボルドーのアペラシオン、ポムロールの高品質ワイン生産者は言います。2022年のヴィンテージでは、収量の低下と小さく縮れた果実について報告されました。

 

2021年のOIVによる『ワイン醸造学の水に関する報告書』には、水の添加は「より多くの国が加水されていないという証明書を求めているため、現実的な問題である。OIVがこの問題に取り組み始めたのはそのためである」と書かれています。2019年にWTOでこの問題が提起された後、水の問題に取り組むためにOIV緊急協議会が設置されました。水の添加に関する各国の法律の違いは、貿易の障壁を引き起こす可能性があります。

 

OIVは、ワインに含まれる水の出所を特定するための新たな技術的解決策に着手しています。特に、外来性(ブドウ由来ではない)の不正添加、雨水、灌漑に由来する可能性のある、容量に対するわずかな割合の水添加についてです。

 

ローヌ地方の著名な生産者であるMichel Chapoutierが、マストへの加水の合法化、あるいは彼が言うところの「マストの水分補給」を公に提唱した後、マストへの加水規定を求める声が再燃しています。2021年3月にボルドーで開催された会議で、Chapoutierは語りました。 「私の畑は1haあたり40hlの生産が可能です。しかし、熟したタンニンを得るためには、蒸発によって体積が減り、収量が34hl/haに落ちるまで待たなければならないのです。なぜ、蒸発によって失われる分をセラーに戻すことが許されないのか?」

 

「そして、アルコール濃度がさらに上昇していくのをいつまで黙って見ているのか」と彼は尋ねます。

 

アルコール度数の懸念

アルコール度数が最も高いのは南フランスの地中海沿岸のブドウ畑とされてきましたが、最近のヴィンテージでは、ボルドーの青々とした大西洋沿岸のブドウ畑でも、アルコール度数14~14.5%が新たな常識となっています。ブドウ栽培の技術を取り入れ、収穫を早め、マスト中の糖分を減らすために厳選された酵母や野生酵母を使用したにもかかわらず、サンテミリオンの生産者であるChâteau Valandraudのように、2022年にアルコール度数が15.5%に達した例もあります。

 

ブドウの成熟が高温下で行われる南ヨーロッパの暑い地中海性気候では、糖分のレベルがポリフェノールの成熟レベルよりも速く上昇します。高温になるとこれらのフェノール化合物の蓄積が阻害され、ワインはアルコール度数が高くなり、場合によっては品質レベルが低下します。

 

生産者は、ブドウがフェノール類やアロマの成熟には至っていないが糖度とpHが適切なレベルに達した時に収穫するか、もしくは最適な成熟を待って高アルコール・低酸度(高pH)のワインを造るかのどちらかです。

 

地球温暖化の影響を受けているヨーロッパのワイン産地のひとつであるポルトガルのアレンテージョでは、取材に応じた複数の生産者が、最近の乾燥した暑いヴィンテージにマストへの加水が行われたと述べています。とはいえ、全ての生産者が加水することに納得しているわけではなく、加水が規制されなければ、収量が許容限度を超えて増加する可能性があります。

 

「加水は魔法の解決策ではありません。水を加えると収量とワインのpHレベルが変化します。つまり、生産者はpHレベルを修正する必要があることになります」と、José de Sousaの生産者Paulo Amaralは言います。
Amaralは今年初めての試みとして、テンプラニーリョのブドウから酒石酸を除去して、陽イオン交換システムを使ってテンプラニーリョのpHを調整する革新的な実験を計画しており、このことは現在pHレベルがアルコール度数よりも懸念されている問題であることを示唆しています。

 

「酸味を増すために酒石酸を添加することにもまた特有の問題があります。添加量が多すぎるとワインに金属的な味を与え、風味の特徴を変えてしまいます」とAmaralは指摘します。

 

Amaralは、トリンカデイラのようなブドウ品種はフェノールが完全に成熟してから収穫するが、アリカンテ・ブーシェは潜在的なアルコール度数が約10%以下のときに早めに収穫すると言います。2022年、彼のブレンドワインの平均アルコール度数は13.7%でした。

 

同様に、生産者Rocimの醸造家であるPedro Ribeiroは、アルコール度数については大げさに心配することはなく、むしろpHの低さを気にしていると言います。

 

「フェノール類の熟度は私にとって致命的に大事なことではない。アルコール度数も問題ではない。私はpHが低く酸味がありフレッシュなワインが好きなのです。私はブドウをとても早く収穫するので、青っぽさがあってもあまり気にしません。早い時期に収穫をすることは、私が造りたいワインのスタイルに役立っています。人々は数年前ほど青っぽいアロマや風味を気にしていません」と、Ribeiroは語りました。

 

ワインの酸度が低すぎるという懸念から、共同事業体LowpHwine (www.lowpHwine.es) が活動を開始しました。スペインの著名なワイン生産者であるPago de Carraovejas、Barbadillo、Roda、Hoyada de los Lobos、ワイン業界企業、科学研究センターで結成された共同企業体で、ワインのpHレベルを下げる乳酸を生成する酵母を開発しました。生産者が補酸する必要がなくなるように設計されています。

 

スペインの日刊紙『Diario de Jerez』が最近伝えたところによると、スペインのCDTI(産業技術開発センター)を通じて資金提供された€580万(約$630万)の4年間の研究プログラムは、2020年に開始され、開発の最終実用段階に入ったということです。

 

化学薬品からの脱却

北に目を向ければ、南ヨーロッパの生産者にも選択肢が生まれるかもしれません。Niepoortとのコラボレーションで知られる生産者Rocimは、今年初めて、生産者Gusbournと共同で、スティルとスパークリングの英国シャルドネワインを、アンフォラを用いて英国で生産しました。

 

ボルドーに戻ると、生産者の間でアルコール度数の高さに対する懸念があまりないことが見て取れます。

 

「ワインボトルのラベルに書かれているアルコール度数は、ワインの味を示すものではありません」と、Château Larrivet Haut-Brionの開発ディレクターCharlotte Mignonは主張します。彼女は、2022年ヴィンテージは、アルコール度数が高いにもかかわらず、樹齢の高いブドウの木と、メルローの25%に全房発酵を採用したことが、ワインにフレッシュさをもたらしたと言います。

 

アルコール度数14.5%にもかかわらず、プリムールで試飲したChâteau Dassault 2022は驚くほどフレッシュでした。

 

一方、サンテミリオンの生産者で、Château Grand Corbin DespagneのオーナーであるFrançois Despagneは、オーガニックとビオディナミによるブドウ栽培が、3.6という適切なpHレベルをもたらし、彼のアルコール度数14.5%の2022年ワインにフレッシュさをもたらしたと語りました。

 

「有機栽培のブドウはpHが低く、従って亜流酸の添加量も少なくなります。2022年には、アルコール度数14.5%にもかかわらず、フレッシュさのあるpH3.6のワインを造ることができました」とDespagneは指摘し、もしもpHが3.7や3.8であれば、必要な亜硫酸の量は急激に増加すると付け加えました。

 

「ブドウ畑に化学物質を投入することは、おそらくブドウ畑を刺激し、酸度を低下させるため、オーガニックやビオディナミではない生産者は、ワインをバクテリアから守るために亜硫酸の量を増やさなければならないでしょう。地球温暖化は、ボルドーの夏が非常に暑く乾燥することを意味し、そのため光合成が盛んになり、ブドウの“糖分”濃度が高くなる」と、6月のドメーヌ訪問時にDespagneは語りました。

 

「気温が30℃や32℃になる9月初旬に収穫すると、ブドウの果皮は薄いため蒸発量が多くなり、1日ごとに1%ずつ体積が減っていきます。だから、待てば待つほど凝縮されていきます。私は低いpHを求めるので、これは私がオーガニックを重要視する理由の一つとなっているのです」。

 

サンテミリオンのオーガニック生産者、Château Bellefont-Belcierの醸造家で、以前はChâteau Angélusでも醸造をしていた、Emmanuelle Fulchiは、ワインの熟成中にpHレベルが適切なレベルに保たれるよう、大きなフードル桶を使用していると言います。「私たちのワインの3分の1はフードルで熟成させているのですが、フードルでは酒石酸の減少が少ないのです」と、Fulchiは語っています。

 

アンフォラの使用はアレンテージョでは有名ですが、ボルドーでもますます一般的になっており、生産者はフレッシュさを示すワインを造るために樽の使用を減らしています。

 

ボルドーやヨーロッパの他の地域でも、2022年のヴィンテージについては称賛すべき点が多いですが、生産者の中には、地球温暖化や気候の変化が、彼らの農業の生き残りを支援するために必要な環境適応法の採択よりもはるかに速いスピードで、彼らの農業に影響を与えていると嘆く者もいます。

 

灌漑、ブドウ栽培の実践、ブドウ品種の選択と開発に関する柔軟性向上は、地域によっては何らかの解決策をもたらすかもしれません。アルコール度数を下げるためにマストへの加水が規定される可能性についてDespagneに尋ねると、彼はこう答えました。「気候変動に適応するための規則については、オープンマインドでいる必要があります」。

 

 

引用元: Climate Sparks Rethink on Watering Wine

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