多くの人がワインについてもっと知りたいと願っていますが、「ワイン文化」は自らを再発明する準備ができているでしょうか?
ワインメーカーやメディア関係者、小売業者、ソムリエたちは、Z世代やミレニアル世代がワインにあまり興味を示さない現状を解明しようと、会議や調査を行っています。
歴史を振り返ると、ワイン文化は約8000年もの間、常に若者の無関心を克服しながらも着実に売上を伸ばしてきました。しかし、その歩みはここ数十年で揺らぎ始めています。持続可能性、多様性、新しい容器、希少なブドウ品種などを取り入れるべきという研究や提案は的を射ていますが、今求められているのは、時代を超えた“新しい何か”です。
新しい手法を取り入れながらも、単なる流行や奇抜さに頼らず本質を追求する生産者が注目を集めています。今回は新しい変化に目を向けてみましょう。
ヴィンテージを再考する
ワインの品質、熟成の可能性、そして収集価値を考慮する際、購入者が最初に尋ねる質問は「良い年なのか、それとも悪い年なのか?」でしょう。ワイン収集家やカジュアルな愛好家は、世界各地のヴィンテージ評価について語るのが好きで、ヴィンテージが長期的な品質を決定すると熱心に信じています。最高のテロワールで育てられた最も価値あるブドウが、最も熟練した手によって造られた場合でもです。
しかし近年、ワイン生産者たちはこの通説に異議を唱えています。ヴィンテージを混ぜることで得られる結果が、定着した基準よりも微妙に、時にははっきりとした形で、より魅力的で最終的に楽しまれるものになることが多いと言います。
Early MountainのワインメーカーであるMaya Hoodは、バージニア州マディソンの自らのワイナリーで「永続的な澱 (パーペチュアル・リー)」システムを作ることが、シェリーのソレラシステムやNVシャンパーニュのリザーブワインの精神に則り、香りの深みや酵母の自己分解に由来する風味、そして新たな複雑さの層を加えることを発見しました。
「2017年のヴィンテージのプティ・マンサンを発酵したままの樽で保管し、そのワインを澱から取り出しながらも澱はそのまま樽に残し、2018年の果汁を直接2017年の澱に加えました」とHoodは説明します。その初期の実験で「非常に異なる反応速度を示し、動的な香りやテクスチャーの特性が現れた」ため、このプログラムの規模を拡大し、次のヴィンテージもブレンドに加えることにしました。
Hoodは、この方法がすべてのブドウに適しているわけではないと述べています。プティ・マンサンは酸度と糖度が高く、pHが低いため、他のブドウよりも自然に微生物の安定性が高いのです。
アルト・アディジェのオーガニックおよびビオディナミ生産者であるAlois Lagederにとって、限界を押し広げることは新しいことではありません。高地での農業が気候変動への解決策として受け入れられるずっと前から、彼らはぶどう畑をより高い場所(最大914m)に植え、冷涼な北イタリアでこれまで聞いたことのなかった、ルーサンヌ、マルサンヌ、ヴィオニエ、アシリティコといった暑い気候のブドウ品種を栽培し始めました。農業の実現可能性や地域のブドウ品種の慣習を超えた取り組みを決意したチームは、革新と実験に捧げられたCometsというラインを考案しました。
「Clemens Lageder は、実験と革新を行い、ワイン醸造の限界を探る方法としてCometsを創設しました。それによって、どこまで限界を押し広げられるかを学ぶことができるのです」とチーフ・エノロジストのJo Pfistererは説明します。「2015年にこのラインを立ち上げて以来、それはクラシックとなり、今では売り切れ続出です。それはワイン愛好家の好奇心を引き起こし、彼らが私たちのワインに感情的に繋がる手助けをするからです。」
「Tik」としてリリースされた1つのワインは、2つの「対照的な」アシリティコのヴィンテージで構成されています。
「2021年は涼しい年で、遅い熟成と低いpH値、2022年は暖かい年で、低い酸度でした。」
完成したワインは、彼の説明によれば、対照的な2つの年のエキサイティングな融合であり、地域でのこのブドウの潜在能力を完全に表現しています。
カリフォルニア州サンタ・リタ・ヒルズにあるThe Hilt EstateとJONATAでワインメーカーを務めるMatt Deesや他の生産者たちは、ブドウや地域の完全なポートレートを描くためには、複数のヴィンテージを通してよりニュアンスを持たせることができることに気づき始めています。
「私たちはクラシックなポートワインに情熱を注いでおり、ここで私たちが育てる素晴らしいブドウ、例えばプティ・シラーやシラーが、地域特有のポートスタイルの表現を生み出すことができることに気づきました。2018年にポートワインプロジェクトを始め、ソレラシステムも取り入れました。その結果は素晴らしく、今後1年以内にこれらのボトルをリリースする予定です。」とDeesは話します。
アンダーソン・ヴァレーのLichen Estateでは、ソレラ式のマルチヴィンテージ技法がピノ・ノワールに「複雑さと神秘」の要素を加えることが分かったといいます。
「新しいヴィンテージの4分の3を、2012年からのブレンドに追加しました。人々がそれをとても気に入ったので、再び同じ方法を取ったのです。」
12回目のマルチヴィンテージとなるこの150ケースのピノ・ノワールは、発売前にすでに予約販売で完売してしまいます。
テロワールの拡張
ワインの品質を一目で見極める際、テロワールはヴィンテージと同じくらい重要だと言われています。これは何世紀にもわたる厳重に守られた伝統によるものですが、Pangaea Estatesのチームはその考えを覆しています。
「Pangaeaは、ワインの世界で何か新しいものを作り出し、伝統に挑戦するという好奇心から生まれました。それはまた、私自身に挑戦し、境界のないワイン造りの新しい章を追い求めることでもありました。」創設者のTravis Braithwaiteはこう話します。
ボルドースタイルのブレンドに、グローバルなひねりを加えた形で、Braithwaiteは世界中からテロワールに最も適応したブドウを探し、そのブレンドがどんな味になるのかを見てみようと考えました。
彼は、マスター・ブレンダーでありワイン造りの伝説的存在であるMichel Rollandと共に、4大陸5か国からのボルドースタイルのブレンドを作り上げています。各地域にはコンサルタントとしてワインメーカーも携わり、ヴィンテージによってブレンド内容は変動します。
ナパからのカベルネ・ソーヴィニヨンが一般的に支配的である一方、2018年にはメンドーサの気候が特にマルベックを際立たせ、最終的なブレンドにおいて重要な役割を果たしました。他にも、ボルドーからのメルロー、南アフリカのヘルダー・バーグからのカベルネ・フラン、スペインのビノ・デ・パゴからのプティ・ヴェルドなど、多様なブドウとテロワールが含まれています。
伝統に根ざしたこの業界において、その斬新さは驚くべきことかもしれませんが、BraithwaiteによるとLisa Perotti-Brown, MWがWine Independent誌でこのワインに100点をつけたことが大きな反響を呼んだといいます。このワインを手に入れたいコレクターたちの熱狂的な反応を受け、2015年から今日までに3000本から8000本へと生産量を拡大することができたほどです。
海の要素を取り入れる
ワイン産地のテロワールは、しばしばその海からの距離によって定義されますが、いくつかのワインメーカーはその影響を次のレベルへと引き上げています。
オーストラリアのマーガレット・リバーは、先住民のワダンディ族の伝統的な土地であり、「塩水の人々」という意味だと、L.A.S. VinoのワインメーカーであるNicolas Peterkinは説明します。このワイン産地はインド洋に囲まれており、海からの風が生育期の温度を調整し、土壌の進化にも大いに寄与しています。
塩味の存在は、この地域のワインをテイスティングした際に批評家によってしばしば言及されます。そして、Peterkinは、この特性を強調するために、ヴェルメンティーノを製造する際に海水を使用することを試みました。ヴェルメンティーノはもともと塩味と関連付けられる品種です。
さらに彼は、塩や海水が食品や飲料の保存において、抗酸化物質や抗菌剤としての潜在能力を持っていることにも関心を持ち、海水がワインを保存できるかどうかを考えました。これにより、特定の人々が反応を示す(または誤った理由で避けることが多い)亜硫酸塩の添加を避けることができるのではないかと考えたのです。
Peterkinが実際に海の影響をワインに加えずに強調する方法は次の通りです。
2022年の収穫後、2トンのヴェルメンティーノの房を1トンサイズのビン4つを使い、5時間冷却しました。そのうち2つのビンはグレースタウンビーチに夕日を見ながら運び、海水で満たしました。すべてのビンは48時間冷却され、41時間後には海水を排水、各ビンを測定した結果、海水に浸かったヴェルメンティーノは1%重くなっていました。
圧搾後の他の違いとして、海水に浸したぶどうのジュースは鮮やかな緑色で、他のジュースは茶色く酸化していました。海水に浸したジュースは、味わいが明らかに塩辛く、さらにテストを行った結果、海水は一次発酵や二次発酵には影響しなかったものの、結果としてより塩味のあるワインに仕上がりました。そして、最終的なブレンドでは、海水に浸したヴェルメンティーノが30%使用されています。
そしてPeterkinが最も驚いたのは、市場の反応でした。
「これは非常にリスクのあるアイデアだと思っていて、実際には人々が購入するとは思っていませんでした。でも、1週間以内に完売したのです。約1年の間、これはオーストラリアで生産された最も人気のあるヴェルメンティーノでした。」
予期しない添加物
ワインはぶどう、酵母、亜硫酸塩で作られるものだと考えられがちです。
そして、何千もの工業的なスタイルの生産者たちは、ワインを「清澄化、安定化、保存、発酵、補正」のために使用するさまざまな(合法的な)「材料」を加えていますが、それらはInstagramで誇らしげに紹介されることはありません。しかし、その他の一部の生産者たちは、予期しない材料を使って発酵したぶどうジュースを操り、その結果には驚くべきものが現れることに興奮しています。
ニュージーランドのLoveblock Wineでは、ワインメーカーのErica Crawfordが、Loveblock Sauvignon Blanc Teeで亜硫酸塩の代わりに緑茶タンニンを使用し始めました。Crawfordは、亜硫酸塩不使用の製品に関心を持つ消費者が増えている中で、緑茶タンニンを加えることで亜硫酸塩なしのワインを作ろうとしたのですが、最終的にはそのテクスチャーと風味にどのように影響するかを試したいという好奇心に駆られたといいます。
「私たちは風味とテクスチャーの表現にしか興味がなく、S02(亜硫酸塩)を加えないことでワインがどう変化するかを見たかったんです」とCrawfordは語り、Sauvignon Blancで実験することにしたのは、その品種をよく知っていて、収穫から瓶詰めまでの微妙な変化を見逃さないからだと説明しています。
緑茶タンニンはボトリティス(貴腐)を受けたぶどうに使うことが推奨されています。それは、貴腐ブドウに多く含まれるラッカーゼ(酸化酵素)が活性化するのをブロックしてくれるからです。Crawfordは、ワインの製造過程全体で同じ効果が得られるだろうと予測し、ワインが酸素に触れるたびに緑茶タンニンを加えました。彼女は他の天然のタンニン、例えばルイボスやハニーブッシュ※(補足:南アフリカに自生するハーブ)、発酵ハニーブッシュティー、ぶどうのタンニンも試しましたが、最終的には緑茶から抽出したタンニンが風味とテクスチャーの面で最も優れており、色を加えないという追加の利点もあったと話します。
「消費者はこのワインを『気に入って』くれて、すぐに売り切れましたが、官僚的な課題も大きかった」と彼女は振り返ります。
「タンニンは承認されたワイン添加物なのでEU、UK、NZ、オーストラリア、IFOAM(国際有機関連団体)はすぐに承認しました。しかし、米国のTTB(アルコール・タバコ・火器・爆発物取締局)は少し時間がかかり、何度も往復しながら最終的に6ヶ月後に承認されました。オンタリオは本当に大変でした。」
オーストラリアにあるOchota Barrelsの共同創設者Amber Ochotaは、彼女の家族やワイナリーの精神を反映させるため、Botanicals of the Basket Rangeというリリースで新しい要素を取り入れました。
「私はアデレード・ヒルズで育ち、両親はガーデニングが大好きで、素晴らしい11haの敷地を作り上げました。両親から多くのことを学び、特に母から花々への大きな感謝の気持ちを得ました。それは幸いにも、今では子どもたちも共有しています。」
彼女とパートナーのTaras Ochotaは、何年にもわたりハーブや花の庭、野菜や果樹を植えてきました。彼らは生活する土地と遺産に敬意を表して、毎年異なるガーデンで育てられたハーブ、花、果物、葉を手摘みしてブレンドし、ぶどうが発酵する間にティーバッグ型の布袋に入れてブレンドに浸けることを取り入れ始めました。今年はゲヴュルツトラミネール、ピノ・ノワール、ムニエ、ガメイで取り入れています。
「子どもたちと私は、家やワイナリーを囲む庭からハーブや花、シトラスの皮を集めます。香りを嗅いだり、味見したりしながら収穫し、通常は猫、アヒル、鶏、犬、時にはアルパカも一緒です。庭は常に進化しているので、毎年収穫は異なります。ある年には花が多かったり、別の年にはシトラスや木のようなハーブが多かったりします。」
Ochotaは、その植物が浸されたワインの味を試し、満足いくところまで来たら樽に詰め、5ヶ月後に瓶詰めします。
このワインは2014年に初めてリリースされ、高級レストランやカジュアルな愛好者からカルト的な人気を得ており、リリースするとケースでの注文も入ると言います。
カリフォルニアのDeesは、自宅消費用に実験的なワインを作っており、その中には自家製のサイダーやビール、そしてマンゴーとソーヴィニヨン・ブランを共発酵させたものもあります。これは、ソーヴィニヨン・ブランが本当にマンゴーの味がするのかどうかを確かめるために作られましたが、Deesは市場が微妙なニュアンスを受け入れる準備ができていると考えています。
「世界は、より柔軟なスタイルに開かれています」とDeesは言います。「人々の好みは常に変わっています。クラシックな表現には常に市場があるでしょうが、消費者とコミュニケーションを取るために異なる方言を持つことは決して悪くありません。」
引用元:Wine Drinkers Thirsty for Change
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