Because, I'm Because, I’m<br>サーフィン・ジャーナリスト 前編
Interview 05 / つのだゆきさん

Because, I’m
サーフィン・ジャーナリスト 前編

知れば知るほど、サーフィン競技は唯一無二だ。

誰に聞いてもわからなかった「サーフィン観戦」入門

人間が一枚の板だけで大きな波に乗って、海の上を自由に進んでいく姿には、つい見とれてしまう。でも、予備知識なくサーフィンの試合を見ても、ルールや採点基準は相当わかりにくい。ついにオリンピック競技にも採用されたサーフィンだが、試合はどう見ればいいのだろう。世界中の大会を追いかけ、「見りゃ分かるだろ」的なサーフィンの世界を、ひとつひとつ言葉と写真で伝えてきたサーフィン・ジャーナリスト、つのだゆきさんにお話を伺った。

Q. サーフィンの大会を見ていたのですが、採点基準がまったくわかりませんでした。

それが正しい印象です(笑) サーフィンは、基本的には加点法だと言われていますが、ただ、何をやったら何点増える、というはっきりした基準はないんです。テイクオフ(板の上で立ち上がる)してから、落ちるか演技をやめるまでの間を、ジャッジが総合的に、「いまのは何点だな」と評価して点数をつける(点数は10点満点)。
もちろん、クライテリア(評価基準)はあります。ただ、アイススケートでも体操でも、何をしたら○○点、何をしたら〇〇点減点とか、その基準はすごく明確ですよね。でも、サーフィンの場合にはそれがすごく曖昧で、ジャッジの感覚によっても判断は違ってくる。技の名前はあるけど難易度は指定されていないし、出来栄えも見られるけど、それがどの程度加点・減点に影響するかもはっきり決まっていません。

イタロ・フェレイラのビッグエアー

Q. なぜクライテリアをはっきりさせないのですか?

それは、はっきりとした評価基準を「決められないから」でもあると思います。例えば、初めてテニスをする人でも1万回やってる人でも、テニスコート自体は同じです。でも海には、「同じコンディションの場所」はひとつもない。そのうえ、天気や風や潮の状況も毎日、毎時間、刻一刻と変わるから、「同じ波」も二度とない。だから、評価基準も、どうしても抽象的にならざるを得ないわけです。
ちなみに、ワールドチャンピオンを年間のツアーで決めているワールドサーフリーグ(WSL)のルールブックに記された評価基準はこんな感じです:

★より難しいセクションでより難しいことをする
★革新的、先進的なマニューバー(波の上で描くライン≒技)をする
★マニューバとマニューバのコンビネーション
★バラエティに富んだマニューバ
★スピード、パワー、スムースな流れ

ダイナミックなマニューバーラインを描くキャロライン・マークス

Q. わかるような、わからないような 技ごとの具体的な点数などはないんですね。

そうなんです。この基準において、10メートルのチューブと3メートルの高さのエアー(空中技)はどっちが高得点なのかと言われれば、それはケース・バイ・ケースとしか言えない。場所とか波によります
そういう意味では、同じ条件で競うのが「スポーツ」なら、サーフィンは本当にスポーツとして成立するのか?ってことになる。冒頭から元も子もないんだけど(笑)
でも、というか、だからこそ、見方のコツを知っているだけでも、楽しめることが増える気がします。

Q. では、めげずに基礎から伺っていきます。まず、点数はどうカウントされるのですか?

2030分程度をそれぞれの持ち時間とします(これを「1ヒート」という)。そのなかでは、何本波に乗ってもいいし、どんなふうに乗っても自由。そのうちの高い点2つの合計がその人の点数になります。つまり、10点満点✕2で、20点満点で競う。もし5回乗って、「3点・3点・5点・1点・9点」だったら、「5914点」がその人の得点です。
だから最後の最後まで逆転する可能性があります。とはいえ、全部の合計点ではなくて、最高点2つなので、同じ10点でも、「5点・5点」と「3点・7点」だったら、7点持っているほうがどうしても有利。次に6点取るより4点取るほうが確実だし、高得点を取るにはいい波も選ばないといけないから、プレッシャーも高くなるから。

Q. 選手はそれをどう知るのですか?

点数はすぐに放送されて、海にいる選手たちにも伝えられます。みんな相手の得点と自分の得点の差を計算しながら、波に乗ってるんです。だから20点までの計算ができないと競技サーフィンはできません(笑)
もちろん、満点に近い9点ライドを持っていても、残りの2点がどうしても取れなくて「5点・6点」の人に負けることもよくある。どの波でいくかの駆け引きとか、精神的プレッシャーの掛け合いとか、海の上でいろんなことが起こっているので、そういう目で試合を見てみるのもおもしろいですよ。

Q. 海上とは放送でコミュニケーションをとっているんですね。

そうです。海上の選手がハンドサインを出して、それに放送で答えるというかたちで、ビーチとコミュニケーションが取れるようになっています。早く点数を出せとか、残り時間は何分かとか、そんなサインもよく出てます。

Q. 波に乗る順番はどう決まるんですか?

波を選ぶ優先権のことを「プライオリティ」といいます。いまはワン・オン・ワン(11)の試合が多いから、たいてい交互に、ということになってるけど、本来最初はどちらもプライオリティを持っていなくて、一人が最初に乗ってビーチまで行ったら(あるいはボードから落ちたら)、沖にいる方の人にプライオリティが移る、という仕組みです。プライオリティを持っている人は、来ている波の中から好きな波に乗ることができます。持っていない人はそれを邪魔してはいけない、というのがルールです。
いい波を待っていても来ないときもあるから、「どこまで波を待つか」というのも駆け引きのひとつ。相手が見送った波には乗っていいので、ずっと待ち続けている間に相手はどんどん競技をしていくかもしれない。ただ、世界上位の選手になると、ずっと沖の、波の「線」を見ただけで、その波でどういうマニューバーができて、何点くらいになるかというのはわかるらしいから、いい波が来たらみんな絶対逃さないけどね。

Q. 何が高得点とするかはケース・バイ・ケースということでしたが、どうやってその日の「ケース」を決めるのでしょうか?

まず、場所によって、向いているマニューバが違います。だから、ここはこれ、みたいなのが暗黙の評価基準になります。
例えば、パイプライン(ハワイ・ノースショアのポイント)ならチューブライディング(大きな波をくぐるライディング)がメインで、エアーにほとんど点数がつかない。一方で、カリフォルニアのロウアー・トラッセルズという、マニューバー勝負みたいなところでは、チューブよりエアーにつきやすい。
しかも、その日の海の状況によっても、高い点数がつく技は変わります。この波でこのコンディションだったら、今日はこれ、みたいな感じ。それは、ジャッジが決めるわけだけど、選手にも暗黙のうちに共有されています。
でも、それが公表されるわけではないから、ギャラリーにはわかりません。なんでこの間はエアーをやって高得点だったのに、今回は違うの?ってことになる。
だから評価は、あくまで、そのポイントで、そのときのコンディションにおいて、ってことなんです。これは、見ながら、「なんとなく」わかっていくしかないですが、私ですら、ときどきなんで?っていう判定はあります。

Q. ジャッジの役割も重要ですね。何人で判定しているのですか?

ジャッジは5人、いちばん高い点といちばん低い点をつけた人が外されて、残り3つの合計点の平均が点数になる、という方式です。すべてのライドに対して点を出さないといけないので、ジャッジは結構忙しいです。最近はビデオ判定も導入されているけど、点が出るのが遅いと、選手からは早く出せというサインが海から出たりします。
ひと昔前まではサーファーの個性やかっこよさを指す「スタイル」が重視されていましたが、現状ではクライテリアに入っていません。なぜスタイルを入れないのか、いちどジャッジに聞いてみたことがあるんですが、スタイルまで入れてしまったら、煩雑になりすぎて見きれないからだと言っていました。波がどんどん来て、サーファーも次々に乗っていくので、1回の演技が終わってからみんなで相談して、という時間もないですから。

Q. サーフィンのルールは、知れば知るほど「なんとなく」?

評価基準だけでなくて、じつは1ヒートの時間も毎回違うんです。さきほど、1ヒートの時間は2030分と言いましたが、1ヒートの時間は、その日にジャッジが決めます。だいたい20分、短くて15分、波があまりない日には30分、35分に延ばしたりします。
だから、よく「サーフィンてどういうルールなの?」って聞かれるんですが、一口では言えない。「誰が強いの?」っていうのも、その日その場所によって変わってくるから、今日はこの人かな、というふうにしか言えない。……うーん、やっぱりオリンピックには向いてないよなあ(笑)

(前半 了)

写真 間部百合
インタビュー 今岡雅依子(μ.

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つのだゆきさん

サーフ・カルチャーの総合情報誌『F+(エフプラス)SURF CULTURE MAGAZINE』編集長。サーフィン・ジャーナリスト。長年にわたり、世界中で開催されるサーフィン大会WSL(旧ASP)を取材。サーフィンへの愛と豊富な知識に根ざした独自の視点で、世界中のトッププロから信頼も篤い。 F+DIGITAL http://www.fplussurf.com/

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