Because, I'm Because, I’m<br>紅型作家 後編
Interview 27 / 道家良典さん、由利子さん

Because, I’m
紅型作家 後編

知れば知るほど、“チャンプルー”な紅型の魅力。

前編はこちら

沖縄の伝統文化を子どもたちに伝えたい。

「やんばる」と呼ばれる沖縄本島北部、本部半島の北側に位置する今帰仁村。青く透き通った海と緑の生い茂る山々に囲まれたこの地に紅型工房「ひがしや」がある。紅型作家として独立した良典さんと由利子さんは二人の夢に向かって、やんばるの土地へ移り住んだ。オリジナルの紅型作品に取り組む由利子さんと、琉球藍の栽培から染色まで工房で一貫する仕組みを目指す良典さん。創作活動に賭けるそれぞれの思いを聞いた。

Q. 紅型工房「ひがしや」ではどのような作品を手がけているのですか。

由利子 独立して初めて受けた注文が踊り衣装でした。踊り衣装とは琉球舞踊の踊り手が着る舞台衣装で、もともと王朝時代の琉装です。古くは男性官吏やその子弟によって踊られていましたが、明治以降は多くの名だたる女流舞踊家が誕生し、今では若手舞踏家も活躍しています。実はそれまで制作したことがなかったのですが、若手の踊り手さんが手染めの衣装を使いたいということで、私たちもバックアップしたいという思いがありました。

演目は主に古典舞踊なので、踊り衣装も古典柄をベースに染めています。ただ難しいのは、今の踊り手さんには当時のサイズでは小さくて合わないということ。古典柄は何百年という歳月の中で研ぎ澄まされてきた柄なので、完璧なバランスになっています。それを今の人たちのサイズに合わせるには柄を足さなければならず、バランスを崩さないように表現する難しさがあります。それでも一緒に相談しながら制作していくうちに、舞踏家さんが注文をくださるようになりました。

踊り衣装の白地紅型打掛で、多彩な柄は大小合わせて15枚の型紙を彫って染めた。

さらに興味が広がり、修業時代の工房で見てきた和装の着物や帯、小物なども制作したいと考え、オリジナルの紅型作品に取り組むようになったのです。着物や帯は和装で、主に内地(本州)のお客さまからオーダーをいただいて制作しています。私は古典柄をベースにしながら、沖縄らしいモチーフをアレンジして楽しんでいます。やんばるに住んでいるので、自然の風景をモチーフにしたり、身近な花を取り入れたり。例えば、「イジュの花」というポイント帯には、うりずん(春分から梅雨入りまでの時期)に咲くイジュの白い花をモチーフにしました。その季節になると、やんばるの森は可愛らしいイジュの花で白く染まるときがあるのです。

うりずんの頃、深緑の森に所々白い色どりを添える「イジュの花」をがモチーフにした帯

季節の風物といえば、「月桃」をデザインした帯もあります。工房の庭に生い茂る月桃は沖縄県民にとって昔から馴染みのある植物の一つ。毎年、旧暦の128日には、「ムーチー」といって月桃の葉に餅を包んで蒸したものを、無病息災と健康を祈願して食べる風習があります。月桃の葉は蒸すとすごくいい香りがして、あぁ、ムーチー食べたいなと頭の中がいっぱいになるくらい(笑)。うりずんの頃に咲く白い花もきれいです。

また「琉球手毬に団扇」という六通帯も古典柄をベースに、牡丹の花をハイビスカスに変えて、首里城の姿も描きました。まだ首里城が燃える前にデザインしたのですが、それから2ヶ月後、焼失したときの衝撃は大きかったですね。今は再建が進んでいますが、私の中では失われつつある沖縄の文化も紅型を通して伝えていけたらと思っているのです。

上の型紙は踊り衣装の上半身の柄で、下の型紙は下半身の裾柄を彫ったもの。

型紙は、耐水性に優れた渋紙を使って彫っている。

あやめ、桐、下り藤、縁起の良いこうもりなどをモチーフに染めた踊り衣装

枝垂れ桜、牡丹、牡丹など、四季折々の花もチャンプルーな紅型

Q. 良典さんは、琉球藍の栽培から染色まで手がけることを目指しているそうですが、藍染めにどのような魅力を感じているのでしょうか。

良典 藍の濃淡で染める藍型は、白と藍のコントラストで表現する染物です。シンプルであるがゆえに奥が深いところに惹かれます。藍の成分を含む植物は世界中に数種類あって、ヨーロッパやアジア各国で藍染めの文化が受け継がれています。日本でも各地で藍染めが行われていて、主な品種の「たで藍」は透明感のある藍色ですが、琉球藍は少し赤味があって温かみのある藍色が特徴です。

僕は草木染めが好きでこの道へ進んだので、自分たちが暮らす土地で藍を育て、収穫した藍を建てた染料で染めることをしたかった。いわば藍型は庭で完結できる染物ですね。うちの畑は200坪の広さで、それでも最低限まかなうくらいの生葉しか取れません。台風の塩害で枯れてしまうという苦労もあります。藍を育てることはコストも手間もかかりますが、化学染料とは違って、毎年違う色や味わいを出せることも魅力なのです。

藍型は漬け染めといって、染液に何度か漬けることで色が変化していくので、人の手ではなかなか思い通りにいかないところもあります。発酵状態によって望むような濃度にならなかったり、藍の調子が悪いと風合いが変わってしまったり。その都度、藍の調子を見守りながら、変わりゆく布の表情と対峙しているという感覚が好きなのかもしれません。

琉球藍で染めた藍型の生地を手にする良典さん。今帰仁の夜空に群れる星をデザインした。

もともと人が布を染めるという行為は何かということを、僕はよく考えます。藍は人に優しいというか、身体に良いんです。寒色ではあるけれど、藍染めの服を着ると温かさを感じる。防虫や抗菌性もあって、昔は赤ちゃんのオムツにも使われました。天然の素材だからこそ、人に優しい染物であり、自分の手で生み出せることがものすごく嬉しいですね。

藍染めは、藍の濃淡だけでもきれいな染物です。だから、その美しさを生かしながら、白く小さな花をぽつぽつと散りばめたり、夜空にまたたく星を表現したり、紺地の反物の中に生地の白が映えるような作品を目指しています。紅型は華やかなので着るシーンを選ぶけれど、藍はどんな装いにも溶けこむので日常使いのストールなどもいいかなと。藍染めは水洗いできるので、洗うほどにきれいな水色に変わっていく過程も楽しめますよ。

藍型の作品:古典牡丹模様

藍型の作品:蝶々

藍型の作品:古典柄アレンジ

工房の庭で栽培している琉球藍は、5、6月と11,12月の年2回収穫できる。

Q. 琉球藍染めで仕立てた子どもさんの着物はお二人の共同制作ですね。

由利子 娘の七五三に合わせて、夫婦で着物を染めてあげるのが夢でした。着物は琉装仕立てで、紅型の部分は私がデザインして、地色の水色地は夫が育てた琉球藍で染めました。沖縄の花々をモチーフにして、サンダカンにハイビスカス、ブーゲンビリア、デイゴと、華やかな人生になりますようにと。魔除けの稲妻模様も入れています。沖縄には雪が降らないけれど、子どもには知らない世界を見て欲しいと思い、白い水玉で雪を表現しました。

娘さんの七五三に合わせて夫婦で染めた着物。白いドットは雪の舞を表している。

雪が降らない沖縄に育った娘さんに雪を見せたかったという。

七五三を琉装で祝ってもらいたいという思いから生まれた、七五三の衣装、古典柄の黄色地枝垂れ桜文様。本物の紅型に小さい頃から触れてほしいと言う思いから生まれたフォトサービス企画「花色(はないる)」を立ち上げた。

良典 実は沖縄ではプリントの紅型と手染めの紅型の違いがあまり浸透していません。プリントの紅型が普及していて県民の多くが手染めの紅型との違いがわからなくなっているのが現状。そこで僕たちが力を入れてやっていこうと思っているのは、七五三を本物の紅型衣装で祝うという企画です。沖縄で生まれ育った子どもたちなのだから、晴れの日には本物の紅型衣装がふさわしいと思ったからです。

沖縄には素晴らしい染織がいっぱいありますが、身近でふれる機会はなかなかありません。県民の皆さんが本物の紅型を知らなかったり、着られる場所がない、選択肢がないという事はとても悲しいこと。だから、小さい頃から着物に袖を通すことがきっかけになり、伝統工芸の紅型にふれてほしい。それが子どもたちの記憶に残っていれば、大人になったときに、沖縄の文化に興味を持ってくれるのではないかと思うのです。

Q. 創作活動が広がるなか、今年はビコーズワインのエチケット制作でもコラボレーションされるそうですね。

由利子 沖縄で「LIBERTY FORCE(リバティーフォース)」というブランドを立ち上げた照屋健太郎さんからいただいたお話でした。照屋さんには「自由の力を享受しながら、未来ある子どもたちに好きなことに挑戦してほしい」という思いがあって、私たちもとても共感できたので、これまでにもタペストリーなどの商品をコラボしてきました。さらに今回はビコーズワインとのコラボ企画があるということで、エチケット制作をお手伝いすることになったのです。

実際に何種類か飲ませていただくと、それぞれ香りも味わいも違い、いろんなワインを楽しむことができました。それは紅型と似ていて、紅型も古典柄から創作柄までさまざまありますし、一つの型紙でも配色を変えればいろんなパターンを楽しめます。だから、紅型でいろいろなワインの香りを表現できたらいいなと思いながら、デザインしています。

沖縄で「LIBERTY FORCE」のブランドを立ち上げた照屋健太郎さん(中央)とコラボして、新商品のビコーズワインのエチケットを制作中。

良典 モノづくりをしていると、やりたいことはどんどん湧いてきます。僕らとしては、伝統を受け継ぎたい、守っていきたいという思いがあり、一方では、どこかで伝統から抜け出したいという志もある。伝統工芸をやっている人は誰しもそうだと思いますが、古典の技法をただ引き継ぐだけではなく、そこから飛び出して新たな表現をしたいという意気込みですね。手仕事の良さは大事にしながら、創作することを楽しんでやっていく。そして僕らが作るものを通して、少しでも沖縄の染織に興味を持ってもらえたり、沖縄の文化を大切に思ってくれたりする人が増えたらいいですね。

(後編 了)

撮影 sono
インタビュー 歌代幸子
編集 徳間書店

道家良典さん、由利子さん

道家良典(どうけ・よしのり)さん。
1982年生まれ、北海道で育つ。20歳頃、型染めの技法や、草木による染色に感動し独学で技法を学ぶ。22歳の頃に紅型職人を志し、沖縄に移住する。城間びんがた工房にて2年間修行し戦後先人たちが尽力し、復興に至った紅型、琉球藍染めによる沖縄独特の藍型を学ぶ。第65回沖展奨励賞受賞。

道家由利子(どうけ・ゆりこ)さん
1985年沖縄県那覇市に生まれる。首里高校染織デザイン科卒、工芸技術支援センター(紅型研修)修了。びんがた工房くんやにて6年勤務後、独立。首里織をしている母の影響で手仕事や沖縄の伝統工芸に憧れる。修行時代の工房では紅型の技術の他にも制作の姿勢を学ぶ。県内の琉球舞踊家との出会いにより琉球舞踊の踊り衣裳を手がけるようになる。古典が色濃く残る踊り衣裳の世界に惹かれる。

紅型工房ひがしや https://www.bingata-higashiya.com/

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