ちょうど20年前、Willamette Valleyからシャルドネが姿を消しました。生産者たちはシャルドネがWillamette Valleyのテロワールに適していると考えていなかったので、シャルドネを他のブドウ品種に植え替えたのです。
そして今ではWillamette Valleyが世界で最も興味深いシャルドネの産地であることに疑いの余地はありません。Willamette Valleyの多くのトップ生産者に影響を与えており、毎年30倍以上ものシャルドネを生産しているブルゴーニュを考慮すると言い過ぎかもしれませんが。
また、Willamette Valley Wineries Associationのウェブサイトにアクセスするとまず目に入るのは『WE ARE PINOT NOIR』という大きなメッセージです。シャルドネへの関心が増えているものの、オレゴンではピノ・ノワールの栽培面積がシャルドネの9倍以上を誇っています。
オレゴン・シャルドネの歴史
変曲点は2007年で、ブルゴーニュのトップ生産者であるDominique LafonがオレゴンのワイナリーEvening Landのコンサルタントを務めた頃にありました。
Evening LandのCEOであるLarry Stoneは次のように語ります。「初めてのヴィンテージは約1.5ヘクタールのシャルドネから始まりましたが、Dominiqueは新世界で良質なシャルドネに出会ったことがないのでシャルドネを引き抜きたいと思っていました。しかし最初のヴィンテージの後、彼はもっとシャルドネを植樹すべきだと考えを変えたのです」
初期のEvening Landがリリースされるとたちまち生産者たちの注目を集めました。ワインの質だけではなく、Evening Landでは人々が予想していたよりも早い段階で収穫をしたからです。
ワイナリーWalter Scott Winesの創始者兼醸造家であるKen Pahlowは次のように語っています。「Dominique を含むEvening Landのチームによる2007年の成果は、Willamette Valleyで何を成し遂げられるかということを証明しました。私たちはこの地に高品質なシャルドネを造り出すポテンシャルがあると信じていました。クローンの選択が間違っていたのか、植樹の場所が悪かったのか、生産者のケアが足りなかったのか分かりませんが、ただ実現していなかっただけなのです」
オレゴンワインの初期段階では、冷涼で湿度のある気候を考慮して人々はピノ・ノワールと共にシャルドネを栽培しました。1994年にはシャルドネが栽培面積の22%を占め、植樹は一時期伸び悩んだものの1999年には2番目に多く植樹されていました。
しかし生産者たちはその出来に満足していなかったため、シャルドネを他の品種に植え替えました。2000年から2005年の間に州内では新たな畑の開墾が急速に進んでいたにもかかわらず、オレゴンのシャルドネの44%が消滅したのです。
マスターソムリエであるStoneは次のように述べています。「私が初めて飲んだオレゴンのシャルドネは、カリフォルニアのスタイルを真似たものでした。カリフォルニアで用いられる晩熟のクローンを栽培し、遅摘みを行っていました。特に60,70年代のオレゴンはシーズンが非常に短く、Eola-Amity HillsはブルゴーニュのBeauneよりも冷涼です。そのためブドウは完熟せず、リンゴ酸の比率が高くなりました。ワインにはカリフォルニアのような力強さもなければ、ブルゴーニュのエレガンスもありませんでした。すぐにシャルドネはピノ・グリに植え替えられてしまったのです」
功績を称える
シャルドネの栽培面積は2005年に底を打ち、そこから2014年にかけて非常に緩やかに増加しました。2014年から2019年にかけて、オレゴン州でのシャルドネの植樹量は2倍になりました。その功績を称えたいと思います。
Stoneによると、Evening Landがオレゴンにおけるシャルドネの可能性を示したあとも、生産者たちはDominiqueがしたように早摘みをすることに抵抗がありました。Walter Scott WinesのPahlowは、早摘みしたシャルドネは見た目が異なるので、それが人々の抵抗に繋がったと説明しています。
「人々は黄金色のシャルドネに馴染みがあります。私たちのブドウはどちらかというと透き通るような緑色をしています。シャルドネにとってエレヴァージュ(樽熟成)は魔法です。収穫後の果汁は黄色に近い緑色をしており、苦みなどはなくピンと張った緊張感があります。完成されたワインの味がするから収穫するのではなく、そこに可能性を感じて収穫しているのです」
栽培家たちの視点
醸造家だけではなく、オレゴンでの偉大なシャルドネの生産は栽培家たちの注目も集めています。現在Willamette Valleyで最高峰とされているシャルドネの2つの畑はX OmniとX Novoと呼ばれる畑ですが、これらはたった10年ほど前に開墾されたものです。ナパ・カベルネの熟練者であるCraig Williamsが、まだシャルドネの数が少ないからという理由でシャルドネを植樹することを決意しました。彼はワイナリーJoseph Phelps Vineyardsで32年もの時を過ごしていたので、ナパでのカベルネ栽培の経験から、オレゴンで実践したいこととそうでないことが明確でした。
例えば、Williamsはカリフォルニアでの経験から、1種のクローンを植樹することでブドウは完熟するものの、その質は平凡なものになってしまうことを知っていました。そこで彼はブドウのサイズと熟すタイミングがそれぞれ異なる複数のクローンを植樹し、それらを同時に収穫することでワインに見事な複雑性を造り出しました。
また彼は栽培家たちが”ミュスカ・セレクション”と呼んでいる、果実味と芳香の強いクローンを栽培するのを避け、代わりにこの畑で育つブドウに特徴的な塩味をもたらすクローンを植樹しました。
「人々はブルゴーニュの土壌については議論しますがクローンについては議論しません。多様なクローンは異なる形態に繋がります。畑の多様性は様々な利益をもたらすのです」とWilliamsは語っています。
またWilliamの畑が位置するEola-Amity Hills AVAは近隣に位置する市街Dundeeよりも10度ほど気温が下がるため、シャルドネにとっては非常に良いエリアです。地球温暖化の影響でオレゴンのテロワールは急速に変化しているため、Eola-Amity Hills AVAがシャルドネの中心地になる日も近いのかもしれません。
「シャルドネはオレゴン=ピノ・ノワールというイメージに一石を投じてくれると思います。シャルドネはフレッシュでエネルギーがありますが、ピノ・ノワールにシャルドネのようなエネルギーをもたらすのは難しいです。フレッシュさや溌溂さといった私たちがワインに求める要素は、オレゴンのシャルドネでは容易に実現することが出来ます。私はこれまでブルゴーニュの栽培面積の3分の2が白ブドウということを知りませんでした。オレゴンの地にはシャルドネの方が適しているということが徐々に分かってくるのかもしれません」と、オレゴンでシャルドネを造る生産者の一人であるTyson Crowleyはまとめています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/06/willamette-valley-the-new-burgundy
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