ここ数年の猛暑と山火事は、ピノ・ノワールの産地として有名なオレゴン北部よりも、より気温が高くなりがちなオレゴン南部に大きな被害をもたらしています。その結果、生産者たちはそのような過酷な環境下で収穫をしなければならなかった従業員と、ブドウを守るために様々な対策を講じています。
対策の具体例としては、新たな品種への注力、早い段階での収穫、灌漑の頻度と質を高めるなど多岐に渡ります。賢明な生産者たちはやり方を徐々に調整してきましたが、霧が多く冷涼な地域として知られていた大西洋岸北西部の暑さは止まることを知らないため、前進するためには抜本的な改革が必要です。
オレゴン南部のジャクソンヴィルに拠点を置くワイナリーQuady NorthのCEOであるHerb Quadyは次のように語っています。「ワイン造りの歴史において、ある程度気候は変動してきました。ブドウ栽培者や醸造家たちは、特定の品種がどのように成功したか、ワインが市場においてどれだけ良い評価を受けたかによって、時間をかけて変化を加えていく傾向があります。問題は、気候は従来であれば何十年もかけてゆっくりと変動していましたが、近年では非常に速いスピードで変動していることです。大きな課題は我々がその変化についていけるかどうか、ということです」
正しいブドウ品種の選択
多くの生産者たちは、オレゴン最南端の栽培地域でどの品種が最もよく育つかを試行錯誤しています。
「熱耐性が強い品種を植樹し、灌漑へアクセスしやすい畑は暑さに耐えやすいです」と、Quadyは述べていますが、オレゴン南部で最も栽培されている品種はピノ・ノワールであることを指摘します。国内だけでなく世界中での需要を考えれば当然のことですが、冷涼な地域向けの気難しいブドウを州の温暖な地域で栽培するのは稀なことかもしれません。
アップルゲート・ヴァレーのワイナリーTroon Vineyards でセールス・マネージャーを務めるNate Wintersは次のように語ります。「オレゴンのブドウ栽培の状況は早急な改革が必要です。オレゴン南部では多くのピノ・ノワールが栽培されており、これが多くの生産者にとって問題になるでしょう。ピノ・ノワールは他のどの品種よりも早く熟すので、非常に温暖な地域で栽培するとフレーバーよりも糖度が早く上がってしまうのです。つまり、冷涼な地域で育ったピノ・ノワールのような複雑性を生み出すことが出来ないということです。暑さが厳しくなるにつれ、ピノ・ノワールの栽培がより困難になっていくことは目に見えています」
栽培家の一部は、ピノ・ノワール以外の品種の変化にも注視しています。
イーグル・ポイントに位置するワイナリーCeltic Moon Vineyards のオーナーであるDennis O’Donoghueは次のように説明しています。「少し前では考えられなかったような品種が検討されており、今では優れたバルベーラやカベルネ・ソーヴィニョン、ジンファンデルといった品種が栽培されています。10年前は十分な暑さがなかったため、これらの品種が熟すのは困難でした」さらに、灌漑用水が不足しているため、生産者たちは乾燥に耐性のあるブドウ樹や品種を植樹する必要があるといいます。
幸いなことに、現在の急速な気候変動に基づいて多くの生産者たちが何を植樹するかについての決断は、正しい方向へ向かっているようです。ジャクソンヴィルを拠点とする団体” Southern Oregon Climate Action Now”のAlan Journetによると、テンプラニーリョやカベルネ・フラン、メルロ、そしてグルナッシュのような、2075年から2085年ころに予測される気候に適した品種を植樹している生産者もいるそうです。
暑さの始まり
熱波によって畑がどれ程の被害を受けるかは、気温が上昇する時期とブドウの収穫時期の関係性によって決まります。そしてこのアルゴリズムは、オレゴン南部の畑で成功するブドウ品種にも影響を与える可能性があります。
Quadyによると、早い時期よりも遅い時期の熱波がブドウに大きなストレスを与えるそうで、ピノ・ノワールのようにヴェレゾン後の熱に敏感な品種はより大きな影響を受けるといいます。また彼は、「畑に灌漑設備があり、収穫スケジュールが適切に組まれていれば、早い段階での熱波はさほど問題ではない」と付け加えています。
さらに、特定のブドウは気候が温暖な程よく育つといいます。「過去10年間、グルナッシュやムールヴェードルが熟すのは困難でしたが、ここ最近は最高のシーズンとなりました。他にもカリニャンやサンソー、クノワーズといった、温暖な気候向けのブドウを植樹する予定です。これらのブドウはオレゴン南部で造られているローヌ系ブレンドに最適です」と述べています。
水分補給への動き
オレゴン南部の生産者の大半が灌漑をしており、熱波の前に灌漑をすることでブドウ樹が熱波を乗り切ることが出来るといいます。「暑さが訪れる2~3日前に土壌に水分を与え、ブドウ樹の根に水が行き届くようにしておくと確実に効果があります」とオレゴンのリンフィールド大学でワイン教育のディレクターを務めていたGreg Jonesは述べています。オレゴン南部の生産者の大半が灌漑を行い、その効果を感じているようです。
幸いなことに、近年では熱波が生じる前に生産者たちは事前に警告をもらっています。「前回の熱波では精度の高い予測を事前に知らされていたので、熱波が来る前に畑を浸水させるように指示することが出来ました。そのおかげで、今のところ大きなストレスは見受けられません」と、Quadyは語っています。
Quadyが注目する別の予防策は夜間の収穫です。「基本的に夜9~10時頃に収穫を始め、気温が下がった夜間に収穫を行います。唯一の問題点は従業員のスケジュールを夜間向けに調整することですが、これは非常に有効な手段なので今年も行う予定です。特にピノ・ノワールやピノ・グリ、シャルドネなどの早熟品種に効果的です」
また、Quadyは別の問題も指摘しています。「水の分配方法も変えていく必要があります。オレゴンでは流域全体を統制しているのでカリフォルニアよりは優れたシステムを持っていますが、栽培する作物の種類や水やりの方法については区別していません。これでは非効率なので、(収量の)総量ベースで水を分配していくべきだと思います」
新たなアプローチ
多くの懸命な生産者はより熱効率の良いやり方を模索し、仕立てや栽培方法を変更しています。「ナパやセントラル・ヴァレーの温暖な地域では、ブドウに適度な日陰を与えてくれるオープン・キャノピーが主流なので、オレゴンでもこの方法を取り入れるべきでしょう」と、Quadyは説明します。
栽培家のO’Donoghueもキャノピーマネジメントの重要性に賛同し、次のように語っています。「同様に収穫量の管理も重要です。気温が高くなると、より多くの果実を落とすことになるので、1本の樹に対する房の数が少なくなり、(暑さにより)代謝活動が低下したブドウ樹の状況下でも、残された房が十分に熟すチャンスがあります」
「(オレゴン南部の)ワインのスタイルは確かに変わっていくでしょうし、今まで馴染みのあった品種にも変化があるかもしれませんが、それは必ずしも悪いことではありません。”ニュー・ノーマル”な気候において生き抜くことのできた特定の品種が世界的な知名度を得ることになる可能性もあります。ピンチとチャンスは常に隣りあわせなのです」と、O’Donoghueはまとめています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/08/changing-ways-for-oregon-wine
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