過酷な 2020 年の後、多くのシャンパーニュ人は 2021 年に大きな期待を寄せていました。そしてもし売り上げが 2019 年のレベルまで回復したとしても、ブドウ畑にとっては過酷な 1 年となりました。
雨が多く湿った冬が例年よりも長く続いた後、発芽の遅いブドウ樹は 4 月中旬に厳しい春の霜に襲われました。この時期のシャンパーニュにしては寒さが若干穏やかだったかもしれませんが、湿度と水分の多い気候条件のために、ブドウの成長期の初期段階で 3 分の 1 の作物が枯れてしまいました。オーブ県が最も大きな被害を受け、コート・デ・バールの生産者の中には本格的なシーズンが始まる前に全ての作物を失ってしまった生産者もいました。
霜が降りたあと再び降雨が発生し、春の間に激しい降雨が続いたことでブドウ樹の成長が遅れ、開花前にベト病が大量に発生してしまう気候条件となりました。6 月末になってようやく暑くなり始めたので、生産者たちは開花時にはベト病から逃れられるはずだと信じていましたが、今度はモンスーンの雨に見舞われ、一部の地域では激しい雷雨によって雹の被害が生じました。また、これらの嵐によって引き起こされた竜巻がランス周辺からマルヌにかけてのブドウ畑を破壊し、ブドウ畑を真っさらにしてしまいました。ほとんどの生産者は畑の一部を辛うじて復旧させることができましたが、多くのブドウ樹、特に春の霜害をかろうじて耐え忍んだブドウ樹は、増大するベト病に抵抗するほどの余力が残っていませんでした。7 月初旬にはそれらのブドウ樹の大半が葉を落とし、シーズンが終わってしまいました。
7 月中も雨は降り続き、わずかに吹く乾いた風では対処できませんでした。事態が最終局面を迎えたのは 7 月 14 日のパリ祭の頃で、祝日の花火に代わって 72 時間も絶え間なく雨が降り続き、地域によっては 150 ml（ 約 23 cm ）もの水が溜まってしまいました。月末になってようやく太陽が戻ってきた頃には、多くのブドウがカビに侵され、収穫量の減少に拍車がかかりました。降雨量は減少したものの、8 月は湿度が高く、灰色カビ病の発生が繁殖しやすい気候条件となってしまいました。特にコート・デ・ブランでは、今シーズンの災害の影響をほとんど受けずに済んだため収量は増えたものの、気温が比較的低かったため成熟が遅くなりました。とはいえ、8 月と 9 月の湿度が 100 ％ に近かったため、多くのシャルドネの畑ではウドンコ病と灰色カビ病が発生しました。
シャンパーニュ・メゾン Lallier でシェフ・ド・カーヴを務める Dominique Demarville によると、90 年代半ばまでは 9 月下旬の収穫が一般的で、それが複雑な状況であったと指摘しています。「 秋に近づくにつれてブドウは十分な熟度に達するため全力を尽くしますが、同時にブドウ樹上で ( カビや病害による ) 腐敗が始まり、収穫をより厄介なものにしていたのです 」
物語のねじれ
生育期と同様に、2021 年のシャンパーニュの収穫も実に複雑なものとなりました。最も早い収穫日は 9 月 6 日で、コート・デ・バールのいくつかの村のピノ・ノワールとムニエでした。そして最も遅い収穫日は 9 月 27 日で、コート・デ・ブランのグローヴ村のシャルドネとなりましたが、その差は 21 日間でした。収穫がわずか数日間で終わる人もいれば、何週間も続く人もいます。これは、ブドウ樹がどこに位置しているか、また目標とするゴールが何なのかによります。理論的には健康でよく熟したブドウを収穫することが求められますが、質より量を重視する場合には当てはまりません。特にシャンパーニュでは 1 ヘクタールあたり 10,000 kg 以内の収穫が規定されていますが、実際にはその数値が高すぎると感じる人も多いようです。
シャンパーニュのシステムがユニークなのは、販売予測に合わせて最大収穫量を設定することです。シャンパーニュでは年末までに販売本数が 3 億本に伸びることを期待しているため、収穫可能（ 販売可能 ）である収量をこの基準に基づいて設定しています。多くの生産者を悩ませたのは、豊作だった 2020 年にこの収量上限が 8,000 kg/ha と低く設定され、そして 2021 年は収量が低いにもかかわらず、 10,000 kg/ha に設定されたことです。
ヴィンテージ・シャンパーニュの年？
多くのシェフ・ド・カーヴが 2021 年は良い年だと感じていますが、かといって傑出した年ではなく、彼らのほとんどがヴィンテージ・シャンパーニュを生産することに消極的です。シャンパーニュ・メゾン Charles Heidsieck の Cyril Brun によると、2021 年の果汁はバランスが良く、またリンゴ酸の高さに満足しているといいます。しかしヴィンテージ・シャンパーニュを生産することはないだろうと語ります。「 シェフ・ド・カーヴとしての私の使命は、可能な限り最高のノン・ヴィンテージ・キュヴェを造ることです。質の高いワインをヴィンテージ・キュヴェの生産に費やしてしまったらその使命が果たせなくなってしまうかもしれません 」
Demarville も、ノン・ヴィンテージ・キュヴェについて同様の見解を持っていますが、スタイルや味わいの特徴を継続していくために、個性的である 2021 年のワインの一部をメゾンのリザーブ・ワインとして保存していくことが重要だとも考えています。さらに彼にとって 2021 年は、品質と収量の両方の面で、世紀最高の（ あるいは過去 10 年の ）ヴィンテージとは言えませんが、同時に最悪のヴィンテージでは決してないと指摘しています。そして Brun と Demarville は、彼らのメゾンが自社畑のみでアペラシオンの収量を満たすことはないと認めています。
量の不足、つまりアペラシオンの規定を満たすことができないことが、2021 年の収穫において一貫している点でしょう。全体的な平均収量は 10,000 kg/ha を大きく下回っていますが、一部の地域では他の地域よりもさらに大きな打撃を受けています。一方で品質については、このヴィンテージが良いベースワインを生み出すことに多くの人が賛同しているにもかかわらず、多様な意見が飛び交っています。
シャンパーニュ・メゾン Bruno Paillard の Alice Paillard は今年の収穫に満足しているといいます。「 もちろん収量には満足していません。しかしブドウと果汁の品質は非常に有望なものです。厳しかった夏の後には嬉しいサプライズでした 」
シャンパーニュ・メゾン Louis Roederer のシェフ・ド・カーヴである Jean-Baptiste Lecaillon は、さらに大胆な発言をしています。「 平均的な潜在アルコール度数は 10.7 %、酸度は 7 ～ 8 g/l、そして pH 度数は 3.07 です。つまり、2021 年は素晴らしいヴィンテージ・ワインを造るのに十分なポテンシャルがあると感じています 」彼はメゾンのヴィンテージ・キュヴェに加えて、上級キュヴェである Cristal を生産する可能性が高いことも認めています。
また Lecaillon は、今年の収穫量に満足している数少ない生産者の一人で、彼は「 1 ヘクタールあたり 8,000 キロの収穫量 」と見積もっており、また Louis Roederer は今年、所有畑の 110 ha で有機認証を取得しました。「 非常に複雑な年においても、シャンパーニュ地方での有機栽培が可能であることを私たちは証明しています 」と、彼は語っています。
今年の収穫量は、何よりもブドウ畑の位置が決め手となりました。今回の収穫では、多くのシェフ・ドゥ・カーヴがグラン・クリュの村々を称賛していましたが、それはグラン・クリュの村々が他の地域よりも比較的災害の影響が少なったためです。 Lecaillon の説明によると、グラン・クリュの価値は、テロワールが優れているというだけではなく、年間の収穫量が保証されていることも意味しているといいます。偉大なワインを毎年生産するためには、常にブドウの供給が保証される必要があるということです。
引用元：https://www.wine-searcher.com/m/2021/10/champagne-triumphs-through-adversity
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