世界で最も有名なスパークリングワイン産地であるシャンパーニュ。現状は明るいように見えますが、その前途には困難が見え隠れしています。
2022年のバレンタインデー、シャンパーニュ委員会(CIVC)の共同会長であるJean-Marie BarillèreとMaxime Toubartの2名は、記者会見を開きこの地域の将来ビジョンを発表しました。
通常であれば、1月22日に行われる聖ヴァンサン大兄弟会(※毎年シャンパーニュ地方で行われるブドウ農家とメゾンによる集い)のタイミングで発表がなされるため、1月第3週に大まかな2021年のシャンパーニュ総出荷量がリリースされていたとはいえ、これが2021年のシャンパン地方の業績の初の公式発表であり、通常より1ヶ月遅れで行われました。
2021年シャンパーニュの総出荷量3億2000万本という数字は非常に印象的であり、実際に2011年以来の最高の数字となりました。しかし、この数字は、2021.11月時点でCIVCが発表していた予測に対しては500万本足りず、過去2年間(2020~2021)の売上実績を平均した年間2億8200万本という数字は、2019年の出荷量(2億9700万本)より1500万本も下回っています。
この会見の中で、ToubartとBarillèreの両会長が地域の団結の絵を描こうとしたこと、そしてそのメッセージを世界に発信しようとしていることは冒頭から明らかでした。そのためか、地元や国内だけではなく、海外のプレスも招待され、同時通訳も用意されていました。
勇敢な面
この会見を端的にまとめると、両会長が強調したのは、2020/2021年の経済危機やエコロジー危機からいかにこの地方が復活したか、そして、この回復力を活かした今後の投資がいかに重要かの2点でした。
2人は、これまでの2年間を詳細に説明し、ポジティブな点、ネガティブな点を等しく会見で共有しました。
Barillèreはまず、”第二次世界大戦以来“として、最悪の経済危機の概要を説明しました。しかし印象的なキャッチフレーズとは裏腹に、悲惨なスタートを切った後、年末にかけて再び販売が急ピッチで回復し、春に想定していた最悪のシナリオ、―そして価格維持のための収量制限ー は実現しなかったと語りました。その後、交代したToubartは、2020ヴィンテージの素晴らしい品質について詳しく説明しました。2020年の栽培シーズンは比較的問題が少なく、記録的にも早い収穫となりましたが、それでも「質・量ともに豊かな収穫を実現した」と言います。更に、このポジティブな発表に続けて、2021年の例外的な景気回復を強調しました。彼は、3月から6月にかけての2021年の売上と2020年の売上を比較し、そこで急上昇する棒グラフを示しながら、6月の売上が前年比48%増でピークに達したことを紹介しました。
ここで指摘しておきたいのは、2020年のまさにこの時期、コロナによるシャットダウンで、世界中で売上が暴落したという点です。翌7月の記録はグラフに表示されませんでしたが、これは前年比と比較した際の増加率が大幅に低下したためだと思われます。例えば、12月を前年比で比較すると、僅か¬10%の上昇にとどまっています。全体として、シャンパーニュの2021年出荷数量は、2020年比24%増(7600万本に相当)、2019年比で7%の増加(2280万本)を記録しています。
販売金額について言うと、2021年は約9%増の57億ユーロとなり、輸出比率の継続的な上昇に後押しされ新記録を達成しました。しかし、フランス国内の売上高は43.9%にあたる1億4060万本と減少を続けており、2020年と比較してさらに2.7%、2019年(1億4140万本)と比較して3.6%減少しています。2016年のフランス市場のシェアはまだ51.5パーセント(1億5770万本)はあったため、過去5年間で最大市場であるフランス内のシャンパーニュ需要が7.6パーセント(1710万本)減少していることは、興味深い点だと言えます。
輸出市場
記者会見で示された暫定値から推測すると、最も成長している市場は米国で、販売本数は3,400万本と売上本数・金額ともにシャンパーニュ最大の輸出市場となりました(2019年比24.5%増)。しかし、米国は2020年に20%の市場シェアを失ったため、2020/2021年の平均増加率は9.5%にとどまりますが、それでも重要な市場であることに変わりはありません。
イギリスも同様の伸び(9.3%)を示し、2019年の2700万本から2021年には2900万本となり、ドイツとベルギーはそれぞれ22%、16%の売上増となりました。 オーストラリアの売上も、2019年の770万本から2021年には1200万本と、36%も急増しました。
最も売上を落としたのは日本のようです。Barillèreによれば、日本市場は2020年に失った20%のシェアを2021年も取り戻すことはできなかったようですが、この市場に関する数値は開示されていません。CIVCがこれまでに発表した数字は概算値であるため、何らかの工夫をした四捨五入が行われている可能性があることは心に留めておく必要があります。
シャンパーニュの“奇跡的な”景気回復について、BarillèreとToubartの両氏は、シャンパーニュが祝賀や特別な機会に選ばれる飲料であることに加え、ここ数年、生活の単調さを解消したり、小さなことを祝うために自宅でボトルを開ける人が増えていることに起因すると話しました。家庭でのシャンパン消費は今後も続く習慣となり、将来的には年間売上が過去10年間の平均3億本から3億2500万本へと増加する可能性があると見ています。
ポジティブな経済ニュースの後、Toubartは、2021年の栽培シーズンを「記憶に残る最悪の年」と名付け、その苦境を語りました。遅霜に見舞われたシャンパーニュ地方は、栽培シーズンの初期段階で潜在的な収穫量の30%を失い、夏の絶え間ない雨と雹によって潜在的な収穫量をさらに25~30%減らし、ここ数十年で最も少ない収穫量(7,300kg/ha)となったことを説明しました。
そしてToubartの説明は、シャンパーニュのRI(Reserve Individuelle=リザーヴ・インディヴィデユアル)制度の絶賛で締め括られました。これは、生産量を満たせない年に使用できるよう、より収量の多い年に認められた最大8,000kg/haのリザーブのことで、これにより産地は”市場の需要に応えるために必要“な10,000kg/haのボトリングを可能にします。
彼は、この短い概要の中で、品質が懸念される2021年のブドウ(アペラシオン外で収穫された余剰分や前年に収穫したリザーヴ分を含む)の話や、現在この地方に眠る膨大な数のボトル在庫(12億5000万本弱)についての話題を慎重に避けていました。
環境問題への挑戦
Toubardは、2021年の収穫という破滅的な出来事を引用し、シャンパーニュ地方が将来にわたって強固であり続けるためには、気候変動対策にさらなる投資が必要であることを指摘しました。この投資は、
- 二酸化炭素排出の大幅削減を目指す2050年に向けての準備
- 現在のアペラシオン規則の改善
- シャンパーニュの遺産の保護と啓蒙
という3つのアプローチを中心に行われる予定です。
この3点をよく見てみると、1と3については、2025年に向けた環境目標を諦め、代わりに2050年に焦点を当てることを決めたと思われる以外は、あまり変化がないことにすぐ気がつくでしょう。実際、BarillèreとToubartの両氏は、CIVCはこのエリアの環境に対する取り組みを世界に伝え続けるべきだとしていますが、同時に2025年までにこの地域で除草剤が根絶される可能性は非常に低いことを認めています。
また、2025年までに達成することになっているCO2の25%削減についても同様の立場をとり、たとえ現実が遅れているとしても、シャンパーニュの「グリーン」なイメージを訴え続けることが重要であることを主張しました。この2つの問題の正確な数値に関する質問は、明らかに両会長のどちらもが報道陣に注目してほしくない内容であったため、規制されました。
3.シャンパーニュの遺産の保護と啓蒙についていうと、このエリアはシャンパーニュという言葉の使用に関する法的規制を粛々と進めています。Barillèreは、特にアメリカとロシアにおいて、シャンパーニュ産のスパークリングワイン以外をシャンパーニュと呼ぶことを禁止することで、これを前進させる必要性を訴えました。
最後に、2点目の“現在のアペラシオン規則の改善”については記者会見ではあまり触れられませんでしたが、この地域が強く実現しようとするハイブリッド化と機械化に関するもので、唯一興味を引く内容でした。
Toubartは、シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ、アルバンヌ、プティ・メリエ、ピノ・ブラン、ピノ・グリに続く公式品種として、カビ病への耐性を持つヴォルティス(白ブドウ)を新しく認めたほか、CIVCの技術チームは、今後数年のうちにさらなる可能性を見極めるために350種以上の交配種をテスト中だと誇らしげに語りました。このように交配種に力を入れる理由は、うどんこ病やべと病に耐性を持ち、成熟が遅い品種を見つけることで、「昔と同様に晩夏の収穫を維持し、シャンパーニュの伝統的な風味と品質を保つ」ためと言われています。
INAOがアペラシオンワインに交配種を使用することを制限していることを考慮すると、これらのブドウがシャンパーニュ地方の人々が熱心に主張するような素晴らしい品質的可能性を持っているとは、誰もが確信しているわけではないようです。さらに、披露された2050年のシャンパーニュのイメージでは、ブドウ樹の植樹間隔が広く、畝間には除草剤の跡がある畑が描かれていました。灌漑を必要とする可能性が高い交配種を植え、畝間に除草剤を散布するー 非常に機械化されたブドウ畑が、気候変動対策や高品質のブドウを生み出すのにどう役立つのかと考えさせられます。
最後に。確かにシャンパーニュ地方は、回復力があり、コロナ禍からも好ましい復活を見せたのは事実でしょう。しかし、年間3億2500万本の販売という目標を達成するためには、グリーンウォッシング(※環境配慮をしているように装いごまかすこと)を超えた環境保護の実践を見直し、その遺産が単に法廷でシャンパーニュ・ブランドを守ることよりも包括的であることを認識する必要があるのかもしれません。
引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/02/champagnes-hopeful-vision-of-the-future
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