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2021年のシャンパーニュ:予想外にクラシックなヴィンテージ

2021年のシャンパーニュの栽培シーズンは例年になく厳しいものでしたが、物語は意外な結末を迎えました。


シャンパーニュでは春は瓶詰の時期を意味します。生産者達は、この春迎えた瓶詰の段階でようやく2021年について初めて笑顔を見せる事が出来ました。

 

収穫時にこのような事を断言する生産者はほとんどいませんでしたが、どうやら2021年のシャンパーニュは苦難の末に「クラシック」なヴィンテージに落ち着いたようです。

 

2021年は、最も困難な栽培シーズンの一つとして記憶されるでしょう。雨の多い冬の後、春は例年に比べてもかなり涼しく、4月には厳しい霜の期間が続きました。シャンパーニュ委員会(CIVC)によれば、4月6日から5月3日の間、霜が降りた日が12日もあり気温はマイナス8度まで下がったといいます。この霜は湿度を伴う事が多かったため、様々なダメージが畑を襲い、栽培シーズンの開始早々から潜在的な収穫量の30%が失われました。

 

そして、5月初旬から夏の間にかけては雨が降り続けました。5月は主に小雨が続きましたが、6月には雷雨が増え、しばしば河川の氾濫も見られました。7月は非常に雨が多く、7月13日~15日にかけての集中豪雨だけで平年の2か月分の降水量を記録し、この大雨により、畑では地表と地下の両方で様々な病害がもたらされました。土壌に蓄えられた必要量を大幅に上回る水分は、ブドウの根の窒息を引き起こし、すでに「一生に一度」と言われるほどのべと病の大発生に襲われていたブドウ樹はさらなるダメージを受けました。このべと病は6月末までにはこの地域のブドウ畑の60%以上に影響を与えましたが、7月に入るとさらに状況が悪化し、Vallé de la Marne  の一部のムニエの畑はすでに病害に侵され、葉が落ち始め、かろうじて残ったブドウも灰色カビ病の被害を受けました。

 

うどん粉病も発生し、ピノ・ノワールの畑では被害が見られましたが、シャルドネでは生育早期の気温が涼しかったためそこまで大きな被害はありませんでした。ところが、9月に入ると、気温は暖かくなったものの湿度も高かったため、収穫直前に2度目のうどん粉病が発生し、今回はシャルドネに大きな被害を与えました。ムニエ、ピノ・ノワールの2品種はどちらかというと貴腐菌の影響を受け、べと病の影響が少なかった地域で特に被害が見られました。

 

長く困難な生育期間の後、多くの生産者は、腐敗の選別に手間をかけるよりも、残っているものは何でも摘み取ろうとしました。その結果、様々な品質のブドウがプレス機にかけられたのです。しかし2020年の  DPLC (Dépassement du Plafond Limite de Classement) ※   がたくさん眠っており、品質が満たない2021年のジュースと交換できることを知っていたからこそ、ほとんどのプレスセンターとシャンパーニュハウスはできるだけ多くのブドウを収穫することを好んだようです。

(※DPLC補足 : 後述のRIとともに難しい年でも一定の品質を維持するためにアペラシオンで認められた緩和策。品質が基準以下のジュースを前年の高品質のワインと交換したり、基準以下のワインをより高品質のジュースと交換できるようにするもの)

2021年の収穫量は1985年以来最も少ない平均7,300kg/ha弱となり、7月に設定されたアペラシオン規定の10,000kg/haより25%以上も少ない結果となりました。

 

2021年の収穫の時点では、誰もが量を重要視し、ヴィンテージの品質に大きな期待を寄せている生産者はほとんどいませんでした。しかし、2022年の春先にブレンド用のワインを試飲すると、多くのシェフ・ド・カーヴは喜ばしい驚きを覚え、ミレジムの生産を決めた先も幾つかあったほどでした。Ay村を拠点とする  Champagne Lallier  のセラー・マスター  Dominique Demarvile  は、特にシャルドネの品質に感銘を受け、2021ヴィンテージをボトリングしました。彼は  Wine-Searcher  に「ここ数年見たことがないほどの精密さとフレッシュさがあり、クラシックなヴィンテージを彷彿とさせる」と語っています。

 

Louis Roederer  のシェフ・ド・カーヴを務める  Jean-Baptiste Lécaillon  は、地球温暖化以前のクラシックなヴィンテージという点に同意し、2021ヴィンテージの  Cristal  と  Blanc de Blancs  をボトリングしたことを認めています。それにも関わらず2021年はロゼの瓶詰は取りやめました。
「7月の長雨と豪雨の後、通常ロゼに使用している畑でべと病が発生しているのを見つけました。そこで夏の早い時点でロゼの生産取りやめを決定し、その代わりに最高の  Blanc de Blancs  を造る事に全力を注ぐことにしたのです」

 

グラン・クリュのヴィンテージ

Roederer  はほとんどの畑で有機認証を取得しているため、病気との闘いはさらに厳しいものでした。しかし、  Lécaillon  は収穫時からすでに2021年の可能性を確信していた数少ないワインメーカーの1人です。その時点では特にシャルドネの品質に満足していましたが、今では  Montagne de Reims  からのピノ・ノワールにも同じような感銘を受けていると言います。

 

「2021年はグラン・クリュのヴィンテージです。グラン・クリュの村々は6月の雷雨を免れ、7月も少ない雨で済んだので、この点は最初から明らかでした。チョークの土壌は水分吸収にも優れ、またカビ対策のスプレー塗布も円滑に進んだため、病気のリスクを減らすことができたのです」

 

グラン・クリュの村の1つ、Ambonnay  に畑を持つ  Champagne Eric Rodez  のワインメーカー  Eric Rodez  は、2021年のグラン・クリュの優位性について  Lécaillon  と意見を同じくしています。
「我々の畑は  Vallé de la Marne  に比べて降雨量がかなり少なく済みました。また、雨が降ったとしても、表土が浅い土壌のおかげで他の村に比べても直ぐに対応がしやすかったのです」

 

Louis Roederer  と同様、Rodez  も有機栽培とビオディナミを実践しているため、カビ病へのリスクに対し銅と硫黄(=ボルドー液)しか使用できませんが、どちらも雨ですぐに洗い流されてしまいます。そのため、少量の処置で継続的に作物を守ることを重要視したと言います。その結果、彼の畑ではシャンパーニュ地方の平均である7,300kg/haを上回る収穫量を確保できました。しかし、Rodez  が絶賛したのはブドウの量ではなく品質についてでした。
「2021年のワインは、酸度とテンションが素晴らしく、単独でもヴィンテージを美しく表現することが出来ます。しかし、素晴らしいリザーヴワインにもなり、数年後にはブレンドにおいてテンションを与える役割を担ってくれるでしょう」

 

Demarville、Lécaillon  のどちらも2021年のワインがリザーヴワインのポテンシャルを持っている点に同意しますが、バランスを取るためには収穫時期が重要であったことも付け加えます。「2021年も、特にシャルドネについては糖と酸度のバランスを取るために収穫を待つ必要がありました。収穫を数日遅らせることで、テンションのある傑出した“ヴィンテージ”ワインとなり、より市場にありふれている酸が印象的なワインとの違いを生み出しました」と  Lécaillon  は言います。

 

シャンパーニュ地方の最南端に位置する  Côte des Bar  では、土壌が粘土や石灰岩に富む傾向があり、雨の後の迅速な処置は少し大変です。しかし、Champagne Drappier  のワインメーカー、Hugo Drappier  は、厳しい闘いを強いられた難しいシーズンの最終結果に非常に満足していると語ります。彼は収穫をとても慎重に行いましたが、ブドウが十分に成熟していない可能性を恐れていました。ですが、ヴァン・クレール(瓶内2次発酵前のベースワイン)の試飲を経て考えを改めたといいます。
「ピノ・ノワールは特に有望です。前のヴィンテージのものよりもテンションとエレガンスに溢れ、ヴィンテージワインでは輝き、数年後にはリザーヴワインとして、ブレンドにフレッシュさをもたらしてくれるでしょう」

 

しかし、Drappier  では霜、雹、病害の影響を受けており、他の多くの生産者と同様、Reserve Individuelle  (RI) 制度を活用しなければ、市場に求められる10,000kg/haもの瓶詰は不可能でしょう。RIは生産量を満たせない年に使用できるよう、より収量の多い年に認められた最大8,000kg/haのリザーブのことを指します。

 

現在、RI制度の見直しが行われており、農家と生産者の双方から、上限を 8,000kg/ha から 10,000kg/ha に戻すよう要望が出されています。その理由を  Demarville  は次のように説明します。
「気候変動により、商業的に必要な収量を安定的に確保することがより難しくなっています。だから、2021年のような厳しい年に備えて、ブドウが豊富な年に多く収穫しておくことは非常に理に適っているのです。現在の制度も我々を守ってくれますが、それは悪い年が連続して続かない場合に限ります」
過去10年間を振り返ると、シャンパーニュ全体で商業的な需要を満たすためにRIに頼らざるを得なかったヴィンテージは2012年と2016年の2回だけです。しかし、生産者単位となるとより重要な意味を持ちます。なぜなら同じエリアとは言え、畑が違えば状況は変わるからです。

 

総括すると、2021年は、収穫量が少なかったためにほとんどのワインがノン・ヴィンテージ・ブレンドの一部となってしまった2012年とよく似ています。そして、ミレジムになったワインが期待を裏切ることはほぼなく、入手困難になるのは必至です。したがって、小さな収量ですが美しい年であり、困難な栽培シーズンがしばしば高品質のワインをもたらすことを認識させてくれる年だと言えるでしょう。

 

 

引用元: https://www.wine-searcher.com/m/2022/05/champagne-vintage-an-unlikely-classic

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