シャンパーニュ、難しいヴィンテージに直面。それは単に成長期の厳しい気候条件だけのせいではありません。
2023年のシャンパーニュの収穫は、史上最悪のものとなりました。収穫されたブドウの品質に問題があっただけでなく、収穫期間中に5人が死亡し、4つの搾取工場(非人道的な環境で労働者を収容する)が警察と地方当局によって摘発されました。
とはいえ、シャンパーニュ地方で劣悪な労働環境と住居環境の詳細が明らかになるのは、今回が初めてではありません。2018年8月には、コート・デ・ブランのオワリーにある老朽化したホテルで、120人のブドウ収穫のための労働者(その一部は不法移民)がひどい環境で暮らしているのが発見されました。
労働者派遣の会社を経営していたスリランカ人夫婦は昨年、実刑判決と罰金を受けました。しかし、マルヌ県労働組合(CGT)のSabine Dumenil書記長によれば、この夫婦に収穫作業を依頼したブドウ栽培農家やシャンパーニュ・メゾンは、すべての法的訴追を免れたということです。
彼女は、ブドウ栽培農家やシャンパーニュ・メゾンが、彼らの下請け業者による劣悪な労働条件や住居条件について責任を問われない限り、状況は悪化する一方だと述べました。「2018年には大きな事件があり、今年も4つの搾取工場が発見されましたが、法律で禁止されている条件で収穫の労働者を雇用している下請け業者はもっとたくさんあったことが分かっています」と語りました。
実際、近年は多くの生産者やメゾンがピッカー(収穫労働者)を見つけるのが難しくなっています。シャンパーニュのブドウ収穫は重労働で、賃金も低い。また、収穫が始まる9月は、学生たちが大学に戻っているため、潜在的な労働力はさらに減少します。そのため、収穫労働者のほとんどは東欧、あるいは近年はさらに遠くからやってきており、多くの場合、労働基準が疑わしい下請け業者に雇われています。実際、今年発見された搾取工場のうち2つは、ブルガリア人とルーマニア人の収穫労働者に関するもので、シャンパーニュの下請け業者に雇用されていました。他の2件は非正規労働者によるものです。
CGTは8月上旬に外国人収穫労働者の労働・住居条件について懸念を表明しましたが、Dumenilはその懸念が的中してしまったことを遺憾に思っています。
Dumenilはさらに、この収穫期に5人の死者が出たことについてもコメントしました。「私たちは、この5人の死が収穫初期の極端な気温に関係していると考えています。人体はこのような状況下では適応するのに苦労し、現行の収穫規則では十分な療養時間がとれないのです」。
収穫規則では、すべての収穫労働者は週72時間まで働くことができると定められています。5時間の労働の後には1時間の昼食休憩が必要で、昼食前後の5時間の間に15分の休憩を1回取る権利があります。
検死は5人の死者すべてについて行われました。死者は19歳から45歳の男性4人と50代の女性1人で、健康状態は良好だったようです。
シャンパーニュ委員会(CIVC)は、9月25日に発行された地元紙『L‘Union』のインタビューに応じ、共同会長のMaxime Toubart(SGV会長)とDavid Chatillon(メゾン・ド・シャンパーニュ組合―UMC会長)は、この事態を憂慮しました。
「私たちは報道を通じて、一部の収穫労働者が耐え難い状況で働かされていることを知りました。我々はこのような言語道断の行為を強く非難します。ワイン生産者たちはこのような事件に深く関連しており、虐待や悪習が常態であることを示唆しているとも捉えられますが、全くそうではありません。これらの行為は、労働スタッフを尊重する情熱的なプロフェッショナルの精神を反映してはいません。このような容認できない虐待や行為をストップさせることが肝心です。収穫労働者の安全と保護は、絶対的な優先事項でなければなりません。」
収穫
2023年のシャンパーニュの収穫に立ち込める暗雲は、労働条件のスキャンダルだけではありません。ブドウの腐敗も問題です。
ブドウの房が異常に大きく、収量が非常に多かったことがブドウの成熟を妨げました。8月に頻発したにわか雨と高い湿度によって引き起こされたいくつかの腐敗の発生と相まって、複雑な収穫になることは明らかでした。
より高いアルコール度数を収穫開始時期に求めた2017年(腐熟ヴィンテージ)と同じ過ちを犯さないために、CIVC技術チームは、ほとんどの畑で、最低限必要なアルコール度数(この年は潜在アルコール度数9度)がまだ満たされていないことを承知の上で、収穫開始を承認しました。彼らは、潜在アルコール度数が低いときに現れるフェノールの熟度がよりクラシカルなシャンパーニュを生む可能性が高いことを知っているので、この戦略を選んだのです。
腐敗が始まる
収穫が始まると、CIVCの品質およびサスティナブルに関する開発ディレクターであるSébastien Dubuissonは、最初のプレス荷重の分析を、優れた2002年ヴィンテージや、伝説的な1985年ヴィンテージと比較しました。しかし彼は、生産者がカビの生えたブドウを圧搾しないようにしなければ、このポテンシャルは発揮されないと付け加えました。収量が多ければ収穫者が腐ったブドウを廃棄することができる、そうなることを確信していました。
Dubuissonの理論的根拠は理にかなっていますが、収穫が本格的に始まって明らかになったのは、生産者が2017年を腐敗したブドウに金を支払った年だとしか覚えていないことでした。言い換えれば、腐ったブドウを選別するためにさらにお金を払う必要はないと判断したのです。
2023年の腐敗は灰色カビ病(grey rot)と白カビ病(sour rot)の組み合わせが多く、2017年は主に灰色カビ病の被害でした。さらに、白カビ病は9月上旬の酷暑で爆発的に増加し、30℃以上の気温で、時には健康なブドウでさえ、圧搾を待つ間に破砕台で感染しました。多くのブドウが9月上旬にもう少し熟すこともできたのですが、未熟で腐敗したブドウがプレス機に入ることになりました。
腐ったブドウが15%以上プレス機に入れば、高品質のワインを造るのは難しくなります。しかし、ブドウを摘む段階で腐敗が選別されなかった場合、プレスの機の中には30%、極端な場合はそれ以上の腐敗が含まれている可能性があります。シャンパーニュ地方では、赤ワインかロゼワインを造らない限り、選果台は使用できないという奇妙な規則があります。
シャンパーニュのメゾンが、このような規格外のブドウ(または果汁)を受け入れ、代金を支払っていたとは、呆れるばかりです。ブドウの価格は今年も上昇し、1kg 10€に達しました。
さらに、2017年に腐敗したワインのうち最悪のものを取り除くのにほとんどのメゾンが3年近くかかり、それでもかなりのボトリティスがエントリーレベルのキュヴェに入りました。
シャンパーニュ評論家であり、デキャンター・ワイン・アワードのテイスターでもあるTom Hewsonは、ボトリティスに起因する欠陥を示すサンプルの多さにショックを受けました。多くのシャンパーニュ生産者は、平均的なシャンパーニュの消費者は品質良いキュヴェと劣るキュヴェの区別がつかず、ラベルにシャンパーニュと書かれている限り、多少のボトリティスは気にしないと考えているようです。しかし、競争が激化するスパークリングワイン市場では、品質対してはもう少し投資し、マーケティング対する投資は下げた方がよいかもしれません。
実際、CIVCが発表した最新の数字によると、シャンパーニュの輸出は減少傾向が続いています。実際、8月の販売本数は2100万本で、2022年8月の販売本数より300万本少なく、前年同月比12.6%の減少となっています。年間では3億1,450万本で、2022年8月末より2,280万本少ない(7.2%減)。この7.2%減が維持されれば、シャンパーニュの年間売上は2億9,190万本となり、2002年以来最低の数字となります(Covid-19に起因する2020年の2億4,400万本減を除く)。
輝くシャンパーニュ
以上、ここまでの話はかなり暗いことのように思えますが、シャンパーニュのすべての人が欲に導かれ、量を重視しているわけではないことを指摘しておく必要があります。
品質重視の生産者はまだたくさんいて、彼らはまた努力を重ねることでしょう。そして彼らは今年、Dubuissonが予言したように、素晴らしいキュヴェを生み出すでしょう。このような生産者、協同組合、メゾンは、最良のブドウだけを収穫することの重要性を知っているため、収穫チームにきちんと投資しています。収穫労働者には十分な宿舎と食事が与えられ、摘み取りの時間は気候に合わせられ、ブドウは注意深く選別されます。多くの場合、ブドウ木から摘む際に選別され、バスケット内のブドウがケースに注がれる時にもう一度選別されます。もっと小さなカゴで収穫する場合は、カゴがプレス機に向かうトラックに積み込まれる前に、もう一度チェックされます。
Champagne TarlantのMelanie Tarlantによれば、特別な管理が必要だということです。というのも、あまりに腐敗が進むと、ピッカー(収穫労働者)が腐敗に気づかなくなってしまうからです。彼女はこう説明します。「ピッカーの心理を理解するには、畝全体の収穫作業を伴にしなければなりません。そうすることで、しばらくするとピッカーが腐敗に気づかなくなることがわかるのです。そのため、ブドウがケースに入る前に、さまざまな人がバスケットをチェックすることが重要なのです」。Tarlatは、ピッカーと選果人が同じリズムをつかむまでには時間がかかるが、いったんリズムをつかめば、作業は非常にスムーズに進むと認めています。
Champagne Roedererは、クリスタル・ロゼ、ヴィンテージ・ロゼ、コトー・シャンプノワ(Hommage a Camile)の赤ワイン用のブドウも小さなカゴで収穫します。収穫されたブドウは、選果台で選果される前に冷却され、除梗され、低温浸漬されます。
Champagne René Geoffroyでは、赤ワインとロゼ・シャンパーニュは3回選果を行い、白ワインには2回選果(ブドウ木で選果し、バスケットのブドウがケースに入る前に再度選果)を行っています。
Champagne David Léclapartは、収穫を午前5時に開始しました。収穫を正午に終え、午後の厳しい日差しを避けるためです。他の生産者も天候を見ながら収穫を行い、収穫するブドウに細心の注意を払っています。
今年はシャルドネの腐敗の影響が少なかったのは事実ですが、Champagne Alexandre FilaineのFabrice Gassは、彼のチームが腐敗したブドウの選別に集中したため、丸一日かけてプレス荷重2000kgのシャルドネしか収穫できませんでした。
Champagne Franck PascalのFranck Pascalは、健康で完熟したブドウだけを収穫するために注意深く選別を行うと、収穫時間が3分の1増えると見積もっています。ただ、収穫作業全体に細心の注意を払い、ケースに入ったブドウを選別する人を増やすことにはコストがかかりますが、このプロセスに携わった人は誰も文句を言っていません。むしろ、プレス機から流れ出る果汁の品質に満足しています。
TaittingerやBollinger、さらにはMoët & Chandonのような大手メゾンは、自社畑にスタッフを配置し、収穫チームを監視し、必要であればブドウの再選別を行っています。また、これらのメゾンは自社のプレスセンターで、すべてのケースに腐敗がないかをチェックし、プレス荷重は品質等級に応じて分けています。彼らは2017年の大失敗から学び、プレミアム・キュヴェを守るために多額の投資をしているようです。
両極端な年
結論として、2023年の収穫は、シャンパーニュの品質、エコロジー、ウェルビーイングを重要視する、そして他方では量とあらゆる犠牲を払ってでも収入を最大化するという、二極化した性格を明確に示しているといえます。以来、シャンパーニュ地方では、この両者の溝がほとんど埋められない所にまで広がっています。
品質重視の生産者の多くは、すでに畑の除草剤を根絶し、昨年12月には除草剤ゼロの嘆願書に署名しました。一方、ブドウ栽培者(一般的にキロ単位で販売)は、シャンパーニュ委員会に対して現状維持を強く求めています。後者はまた、多かれ少なかれ怪しげな下請け業者に収穫を委託していることが多く、今回の収穫では、彼らが品質を完全に無視した結果、何百万リットルもの粗悪な果汁が生産される可能性があるようで、願わくは市場に出回らないことを祈るばかりです。
すべてのシャンパーニュ愛好家にとって、この収穫がこの地域のどん底を示すものであり、2017年や2018年とは異なり、そして品質と人道的な労働条件に関する教訓が得られたこと、それを願うしかないでしょう。
引用元: Champagne Tries to Stop the Rot
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