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無糖のシャンパーニュは一般的になるか?

 

2014年、Louis Roedererがメゾン初となるドサージュ・ゼロのヴィンテージ・キュヴェ”Louis Roederer Brut Nature 2006”をリリースしました。それはヴィンテージ・シャンパーニュを最も純粋な形で享受できる機会なので、ワイン・オタクの人々にとっては喜ばしいことです。リザーヴ・ワインやドサージュのない、そして何よりも糖分を含んでいないのです。

 

純度100%のヴィンテージ・

大手シャンパーニュ・ハウスの多くは、ヴィンテージ・シャンパーニュに甘味を加えた少量のリザーヴ・ワインを添加してリリースしています。ラベル上では「2008年」を謳っているかもしれませんが、醸造の際には2008年以前に収穫されたブドウで造られたドサージュ・ワインを加えてもよいことになっています。たとえリザーヴ・ワインの比率が全体の1%未満だったとしても、あなたが飲んでいる偉大な2008ヴィンテージのシャンパーニュの味わいには大きな影響を与えています。つまり、そのヴィンテージの純粋な表現というのは非常に貴重なことなのです。

 

この方法は長きにわたって一般的なものでした。他の地域の醸造家と同様に、シャンパーニュの人々は「バランス」という言葉を多用しています。彼らは女性を愛する以上にバランスを愛しています。ブドウ栽培者と大手メゾンの間で意見が合致することは稀ですが、バランスの良いスパークリングワインを造るにはドサージュが不可欠だということに関しては多くの人が同意しています。ドサージュによってシャンパーニュの高い酸が柔らかくなり、また口当りの良さと複雑性を与えてくれます。砂糖はシャンパーニュの生産者にとっては秘密兵器のようなものだったのです。

 

しかしながら、2021年の現代においては、生産者達は過剰なリンゴ酸よりも過熟なブドウや締まりのないワインについて不満を述べる傾向があります。地球温暖化はシャンパーニュにおいても変化を必要としていて、温暖な気候による酸度の低下や熟したブドウに対処するために、栽培や醸造の方法を適応させています。

 

生産者たちの試み

19世紀後半、Laurent-Perrierが”Grand vin Sans Sucre”を販売した時、それは偉業ではなく異常な試みだとみなされていましたが、過去10年間ではBruno PaillardやPhilipponnat、Billecart-Salmon、そしてJoseph Perrierといった生産者がノン・ヴィンテージのゼロ・ドサージュ・キュヴェをリリースしています。特にJoseph Perrierのシャンパーニュは際立っていて、それは「バランス」を良く表しており、ブリュット・ナチュールのシャンパーニュには珍しい見事なテクスチャーを持っています。

 

では、ドサージュ・ゼロのヴィンテージラベルは次の必然的なステップなのでしょうか?

 

Billecart-Salmonの最高責任者であるRoland-Billecartは次のように答えます。「ああ、あなたたちジャーナリストはドサージュに固執するのが本当に好きですね。確かに、シャンパーニュのブドウの成熟度が高いほど、バランスの優れたドサージュ・ゼロでヴィンテージの表現をしやすくなります。ラベルには表記しませんでしたが、我々は2002年に単一畑Clos St Hilaireからブリュット・ナチュールのシャンパーニュを生産しました。ドサージュ・ゼロはシャンパーニュの栽培における変化の代表的なものであると同時に、流行でもありますが、Billecart-Salmonではトレンドを追いかけているわけではありません。また、将来的にBillecart-Salmonではドサージュが必要なくなる可能性も確かにあります。2019年がその例で、ヴィンテージ特有の熟度によってドサージュが不要であるかもしれないからです。」

 

シャンパーニュの主要メゾンのいくつかは、ここしばらくの間キュヴェの残糖を体系的に減らしてきました。Moet & Chandonの2009ヴィンテージの残糖はわずか5g/Lでした。一方で、彼らの高級な従兄妹であるDom Perignonの2009ヴィンテージの残糖はわずか4g/Lで、Krugの2004ヴィンテージでは6g/Lとなっています。しかし、残糖が低いからといってラベルに表記しなければいけない規則はありません。残糖が12g/L以下であれば、どのシャンパーニュもBrutを名乗れるのです。

 

シャンパーニュの生産者たちは、地球温暖化とブルゴーニュと同じような高いレベルの成熟度によってもたらされる必然的な未来に目を向けています。AR LenobleのオーナーであるAntoine Malassagneは次のように語ります。「歴史的に、シャンパーニュにおける主な問題はブドウの十分な熟度が得られるかどうかでしたが、現代の大きな問題は酸度レベルです。シャンパーニュの収穫は例年早まっていますが、これは出来上がるワインの酸が低くなってしまうことが背景にあります。我々のシャンパーニュが適切な酸度を維持するために、今年はマロラクティック発酵を撤廃することを決めました。」このような家族経営のドメーヌでも、ドサージュの量を減らしているのです。

 

もちろん、全ての人がこのヴィジョンに共感するわけではありません。Philipponnatの当主Charles Philipponnatは次のように述べています。「Philipponnatでは、ヴィンテージ毎にドサージュの量を変更しません。ヴィンテージの多様性は自然なことだと考えていますし、安定的であるべきではないと思います。規則性の概念は非常に工業的なものです。我々はドサージュ・ゼロのヴィンテージ・キュヴェをリリースする予定はありません。我々のヴィンテージ・キュヴェには2.5~5 g/Lのリンゴ酸が含まれています。厳格なフィニッシュに仕上げるためには少量のドサージュが必要です。10年前にNVのブリュット・ナチュールをリリースしましたが、それは一部の顧客のリクエストによるものでした。」

 

Philipponnatは、ドサージュ量の変化について一般のワイン消費者に伝える必要はないと主張します。ソムリエやバイヤーは、ドサージュ・ゼロのシャンパーニュが一部のニッチな層向けであることを認識しています。ラベルに”ブリュット・ナチュール”の表記があったとしても、消費者の購買行動に影響を与えることはないでしょう。たとえ、ソムリエが長い講釈をたれたとしても。

 

ソムリエのMatt Cirneはドサージュ・ゼロのシャンパーニュの売れ行きについて次のように述べています。「多くのブリュット・ナチュールのスパークリングワインをオンリストしていますが、売れ行きは好調です。ドサージュが決め手になっているわけではないですが、その品質と価値の高さゆえです。私の経験上、一部の愛好家を除いてドサージュについて考えている消費者は稀です。ドサージュ・ゼロというと、線が細く薄いワインを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、最近はそうではありません。シャンパーニュとはロマンティックな飲み物です。シャンパーニュを飲みながら、ティラージュについてわざわざ語りたがる人がいるでしょうか?そんなことをしたら気分が台無しです。」

 

ドサージュの未来

シャンパーニュの気候変動により、40年以内にドサージュなしでもバランスの取れたヴィンテージ・シャンパーニュを生産できるようになったと仮定します。その場合、2つのタイプに分かれることになるでしょう。一方は販売促進のためにドサージュ・ゼロを積極的に謳うブランド、もう一方はドサージュ・ゼロにも関わらずあえて”Brut”として売りだす、Billecart-Salmon のCuvée Nicholas Francoisような老舗のブランドです。

 

2015年、シャンパーニュにおいてドサージュ・ゼロが品質面で市民権を得るには程遠いだろう、とある著名なシャンパーニュの醸造家は述べていました。2019年の収穫を終えた今、5年前に人々が想像していたよりも状況は変わっているようです。とはいえ、ラベル表記の有無に関わらず、無糖のKrugを目にすることはまだまだ遠い未来の話になりそうです。

引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/01/sugar-free-champagne-just-got-serious

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