非公式のグラン・クリュがカリフォルニアに出現しています。
ナポレオン三世の命令により、1855年のパリ万博で設立された格付けがもちろん本物のグラン・クリュです。グラン・クリュはワインの格付けにおける最高峰で、ブドウが育った特定の区画、もしくはワインが造られたシャトーに言及されます。ブルゴーニュやアルザス、シャンパーニュ、ラングドック、ロワールではグラン・クリュは土地に基づき、ボルドーではシャトーに基づきます。
カリフォルニアを含む米国でグラン・クリュのシステムに近いものは、米国の原産地呼称であるAVA(American Viticulture Area)です。AVAはテロワールをより明確に定義づける目的で1980年に設立されました。しかしながら、ワインのフレーバーやアロマ、畑に宿る魂という点においては、AVAで示されるワインは花の色を「赤色」と単純に表現しているようなもので、花の色を「真紅色」や「朱色」と表現しているのがグラン・クリュです。
「AVAでは特定の畑がどれほど特別で貴重なものかということを示してはいません。ブルゴーニュのグラン・クリュではその畑や土地について数百年にもわたる研究が続けられていますが、私たちはまだ始まったばかりです。多くの人が新世界には偉大な畑が殆ど存在しないと考えていますが、人々の心を揺さぶるようなワインを造ることが出来る、そんな畑を探し求めています」と、ソノマのワイナリーPatz & Hall で創始者兼醸造家を務めるJames Hallは語ります。
カリフォルニアが優れた畑をグラン・クリュとして正式に認定する可能性は低いですが、ゼロではありません。それらの畑が注目に値する理由は何なのか、栽培家と生産者がどのように協力しているのかを理解するために、彼らの話を聞いてみましょう。
関係性
Santa Maria Valley のワイナリーMiller Family Wine Companyで営業・マーケティング担当部長を務めるNicholas Millerは次のように語ります。「1973年に私たちがBien Nacido Vineyardという畑に植樹を始めた頃、私たちと同じような熱量で栽培している人はいませんでした。多くの人が質より量を重視していたからです。しかし私の父と叔父はピノ・ノワールとシャルドネの質を追求するためにカリフォルニア大学デービス校(醸造学で著名な大学)と提携し、丁寧な栽培に努めました。」
現在Millersは約280haの土地を所有し、うち3分の1を自社畑として指定しています。ブドウ樹はフィロキセラの影響があるカリフォルニアでは希少な自根のブドウ樹です。植樹と栽培の厳格なアプローチにより、彼らのブドウには大きな需要があります。
「栽培家と生産者の関係性は重要です。コミュニケーションを通じて常にお互いの意図を理解しなければなりません。同じ畑のブドウから造られた生産者違いのワインを比較するほど興味深いことはありません。全ての決断がワインに影響を与えるのです」と、ブドウ畑の所有者であるTom Bryan Babcockは説明します。
土地
Russian River Valley のワイナリーArista WineryのMark McWilliamsは、彼らがブドウを購入している栽培者たちとオーガニック栽培、価格について次のように語ります。「私たちが共同する畑の多くは非常に古いもので、樹齢の高いブドウ樹がクローンより優れているのを感じます。また栽培技術も非常に高く、オーガニックで持続可能な農法に反する化学薬品などを使用しません。ゆえにブドウは高くなりますがそれだけの価値があります。私たちの関係はビジネスというよりパートナシップを重視しています」
もちろんテロワールも重要な要素の一つではありますが、生産者たちが下す決断の一つ一つがワインのフレーバーを決定づけると、カリフォルニアの畑Thompson Vineyardの所有者であるNoah Rowlesは説明します。
「多くの人がブドウを入手すればどんなスタイルのワインでも生み出すことが出来ると考えているので、“ワインは畑で造られる”ということを過小評価していると思います。しかし世界最高峰のワインには極力手を加えない醸造が求められるのです」
未来の形成
ここ数十年の間、ワインの専門家たちは優れたブドウを入手するためには何処へ行けばよいかを知っていました。しかしこれからはワイン王国カリフォルニアの物語を形成しなければなりません。人々が切望する世界最高峰のテロワールがカリフォルニアにあるという評判を築き上げることが重要です。
「ブドウがどこから来たか、またその背景にはどんな人がいるのかを気に掛ける消費者はほとんどいないでしょう。しかし小規模なワイナリーには密接な関係を気付くことが重要だと思います。私たちは共に働き、共に生活して地元に根付いているので、その関係性が信頼関係を築くのです」
次のレベルに進むためには栽培家と醸造家が互いに方向性を定めていく必要があります。
「私はフィロキセラとピアス病の影響で所有畑の多くを失いましたが、私は落ち込むどころかこれ程良い経験はなかったと思っています。現在6,7つの素晴らしい畑からブドウを購入していますが、私は畑の栽培者たちを信頼していますし、私はブドウ畑での実験的なプロジェクトに取組み、ワイン造りに時間を割くことができます」と、Sta. Rita HillsのワイナリーBabcock Winery & Vineyards のオーナーであるBryan Babcockは語っています。
一方で、Napa Valleyに位置する畑Gamble Family Vineyardsの所有者であるGambleは、自身のワイナリーで醸造と栽培を兼任していますが自身の仕事をできるだけ小規模で行いたいという反対の意見をとっており、その理由を次のように説明します。「もしワインのブランドを高めるのであれば、それと引き換えに畑管理の質やワインの質を下げることになると思うからです」
栽培家と醸造家、そして消費者の全てが完璧に近いワインを望んでいます。カリフォルニアがフランスの時系列に追いつくことはできませんが、フランスの歴史と体系的な格付けの代わりに、カリフォルニアでは栽培家と醸造家たちが情報の木を育て上げ、彼らの力を新世界で証明するために尽力しています。
「立地から樹齢に至るまで、どの畑が優れているかということが年々明らかになっています。交響曲とソロのロックセッションの対決のように、単一畑で単一品種を栽培する動きは大きくなっているのを感じます。どちらかのアプローチに優劣があるわけではないですが、単一畑の動きに大きな価値があるように感じているのです」と、Napa ValleyにあるワイナリーNickel & Nickelの担当者はまとめています。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/06/californias-grand-cru-vineyards-emerge
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