国内市場で成功すると、その実力をより広範囲なエリアで試したくなるのは当然のことですが、一つの分野で成功したからといって別の分野で広く認められるというわけではありません。
サンジョヴェーゼは長い間愛されてきたイタリアの赤ワインで、イタリア国内における植樹の10%をサンジョヴェーゼが占めています。溌剌とした酸と芳醇なフレーバー、そしてその高い熟成能力(適切な生産者の手にかかれば)を鑑みれば、世界中の生産者がサンジョヴェーゼに魅了されるのは驚くべきことではないでしょう。しかしながら、この品種がイタリア国外で栽培されている例は非常に稀で、その将来性は疑問視されています。
オーストラリア・ヴィクトリア州のビーチワースにあるワイナリーFighting Gully Road で栽培と醸造を担当するMark Walpoleは、1990年代後半に初めてサンジョヴェーゼを扱い始めました。当時のオーストラリアにはサンジョヴェーゼのクローンは1つしかありませんでしたが、トスカーナのワイナリーIsole e OlenaのPaolo de Marchiとの出会いによって、Walpoleを含む地元の栽培家たちに2つの新たなクローンがもたらされました。Walpoleは次のように語ります。「これらのクローンはこの地域でのサンジョヴェーゼ栽培に大きな変化をもたらしました。収量の低さと房が密集していないことがブドウの質、すなわちワインの質向上に繋がりました。
ニュージーランドではワイナリーHeron’s FlightのDavid Hoskinsが、1993年にボローニャ大学から2つのサンジョヴェーゼのクローンを入手しました。1980年代にフランス系品種の栽培に苦戦してから数年後、Hoskinsは2区画にサンジョヴェーゼを試験的に栽培し、同時にカベルネ・ソーヴィニョンとシャルドネ、メルロも栽培しました。そして1997年、Hoskinsは所有畑の3分の2をこれらのクローンに植え替え、1998年に初めてサンジョヴェーゼをリリースしました。
世界の気質
では、サンジョヴェーゼはオーストラリアでどうなっているのでしょうか?Walpoleによると、彼のブドウ畑はオーストラリア山脈の北側に位置しているため、大陸性気候かつ熱帯降雨が多く発生するので、ボトリティス菌が発生する大きなリスクがあります。しかしながら、彼のブルネッロ・クローンはキャンティ・クローンよりも果皮が厚く晩熟のため、上記のリスクの中でも成功しています。
カリフォルニアでは、ワイナリーStolpman Vineyardの経営陣の一人であるPeter Stolpmanの父が、彼の畑のマネージャーであるRuben Solorzanoasと共に、1994年に4ヘクタール程のサンジョヴェーゼを植樹したのが始まりです。現在一家の広大な畑を指揮しているStolpmanは、「サンジョヴェーゼは丈夫なので、バラード・キャニオンの過酷な状況下でもよく育ちます」と語り、またこの地でサンジョヴェーゼが生き残ることが出来る特徴として、石灰質土壌、強い風、そして日較差を挙げています。
カリフォルニアの別エリアでは、ワイナリーReeve WinesのNoah DorranceとKelly Dorranceがソノマとメンドシーノでサンジョヴェーゼの栽培を始めました。しかしながら、サンタ・バーバラの栽培条件は単純にも関わらず、この地域においてはサンジョヴェーゼに対する文化的知識が欠落しており、それが見落とされている原因であると指摘しています。「ピノ・ノワールやシャルドネには多くの文化的知識がありますが、一方のサンジョヴェーゼには参照できるデータが非常に少ないのです」と、Dorranceは説明しています。さらに北上すると、ワシントン州のワラ・ワラでは病害のリスクが少ないためにサンジョヴェーゼが成功しやすいと、ワイナリーLeonettのChris Figginsは述べています。
サンジョヴェーゼのスタイル
過去の偉大な例に倣うのか、もしくは自分の道を切り拓いていくのか、それが問題です。Reeve Winesはイタリア国外のサンジョヴェーゼと、イタリア中部のサンジョヴェーゼの比較を楽しんでいるといいます。「もちろん似たような味わいになってはいけませんが、どの点が類似していて、どの点が相違しているのかを考えることは重要なプロセスだと思います。ゴールは、カリフォルニアだけでなく世界的な視点から見て模範となるようなサンジョヴェーゼを造ることです」
カリフォルニアのStolpmanによると、伝統的な方法で破砕・発酵(非カーボニック・マセレーション)させたサンジョヴェーゼのキュヴェは、イタリアのサンジョヴェーゼよりもリッチで果実の凝縮感があるといいます。「降雨の少なさと日射量が重要な役割を果たしており、この品種には高いタンニンがあるため、果皮が柔らかくなるまで収穫を待つ必要があるので、アルコール度数は14-14.5%まで上がり(したがってより円熟でフルボディなワインになります)、トスカーナの赤ワインよりもはるかに高いアルコール度数に仕上がります」
Figginsは、Leonettiにおけるサンジョヴェーゼの表現について、イタリアの中でもとりわけ濃厚で抽出の強いものだと語り、「Chianti ClassicoやVino Nobileというよりは、Brunello Riservaに近い」といいます。Walpoleは彼のサンジョヴェーゼを「モダンなChianti」と表現し、その理由はオークとステンレスタンクを用いた醸造方法、大樽による12カ月の熟成、そしてトスカーナの土着品種コロリーノを5%ほど使用している点にあります。
市場の意見
Hoskinsによると、ニュージーランドにおけるサンジョヴェーゼの大きな課題は、多くの消費者がサンジョヴェーゼをよく知らないという点だそうです。Hoskinsはこの課題を解決するために、オークをあまり使用しない軽めのスタイルや、1ヶ月のスキンコンタクトを行う力強いスタイル、そしてアンフォラで熟成したキュヴェなど、様々なスタイルのサンジョヴェーゼを造ってきましたが、それらの大半はマーケティングの目的で行っていました。そして試飲に訪れた顧客は3種の全てのキュヴェを購入する傾向があるといいます。
ニューヨークを拠点とするインポーターVolcanic Selections(キャンティ・クラシコの米国アンバサダーも務める)の創始者であるJeff Porterは、イタリア国外のサンジョヴェーゼはイタリアのものよりも価格が高くなる傾向があると述べています。しかしながら、ニューヨークのレストランBar BouludとBoulud Sudでヘッド・ソムリエを務めるIan Smedleyによると、消費者のイタリア国外のサンジョヴェーゼに対する反応はポジティブであるといいます。「たしかにイタリアのサンジョヴェーゼに期待する味わいとは異なりますが、正しい説明を持ってすれば、ブドウと産地の関係を教える良いツールだと思います」
将来の展望
Reeve Winesはイタリア国外でサンジョヴェーゼの生産がより盛んになることを確信しています。「今は以前よりもより幅広い品種の栽培が行われていますし、サンジョヴェーゼの知名度は非常に高いです」また、オーストラリアではWalpoleも賛同しています。「オーストラリアにおけるサンジョヴェーゼの未来は明るいと思います。栽培家はサンジョヴェーゼの栽培の知見を深めていますし、醸造家もシラーズやカベルネ・ソーヴィニョンとは異なる醸造プロセスを経る必要があることを理解しています」さらに、現在のトレンドはフルボディのワインからミディアムボディのワインへと移行しつつあることも指摘しています。Smedleyはトスカーナのワインを模倣するのではなく、その土地の個性を反映したサンジョヴェーゼを造ることが成功へと繋がると考えています。
一方で納得していない人もいます。Hoskinsはニュージーランドでイタリア品種の人気が高まっているものの、ワイナリーは最終的には消費者が求めるものを生産することになり、そしてニュージーランドにとってはそれがソーヴィニョン・ブランとピノ・ノワールにあたります。
Stolpmanも同意見で、イタリア国外でのサンジョヴェーゼの栽培は極めてニッチなものになるだろうと予測します。しかしながら、彼はトスカーナの可能性を確信しています。「トスカーナのワイナリーは、新しい世代のワイン消費者の嗜好の変化に順応して、より軽くフレッシュなスタイルのサンジョヴェーゼを造っていくと思います。抽出を抑えた醸造のトレンドという点で、サンジョヴェーゼが重要な役割を担っていくことを確信しています」
サンジョヴェーゼの未来は、時が教えてくれるでしょう。
引用元:https://www.wine-searcher.com/m/2021/08/sangiovese-struggles-to-gain-a-foothold
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