スペイン出張報告 ~リアス・バイシャスにいってきました~ (営業 戸谷 良子)
皆さんこんにちは。スペイン担当の戸谷です。 今回はスペイン北西にあるスペイン最高の白ワインの産地として名高いガリシア州に行ってきました。
なぜガリシアへ??
序文に記した通り、『スペインの白ワインならガリシア地方』というのは、スペインワインを扱うお店であれば、ちょっとした常識なのかもしれません。しかし、何故その場所が優れているのかと問われるとすぐに答えることができません。この目と舌で確かめたいと思ったことが出発地点でした。
みなさんの中でもスペイン白の優良産地、と言えばRias Baixas(リアス・バイシャス)と認識されている方が多いと思います。更に近年その近隣のD.O.で、面白いブレンドの白ワインが造られているRibeiro(リベイロ)、またブルゴーニュのピノ・ノワールのような柔らかいメンシアが造られているRibeira Sacra(リベイラ・サクラ)にも注目が集まっています。
ガリシア州内には2012年までに5つの「ワイン原産地」(D.O.Denominacion de Origen)が認められていますが、今回はその中で最も行きたかったこの3つのD.O.に絞って訪問してきました。
ガリシア地区とワイン生産者について
ガリシアについて、場所と歴史的なことを少しお話しておきます。そもそもガリシアとはスペインのどこに位置するのでしょうか。
ガリシア州とは?…スペインの自治州の一つ。イベリア半島の北西部に位置します。南はポルトガル、東はアストゥリアス州とカスティーリャ・イ・レオン州に接しています。州都はサンティアゴ・デ・ラ・コンポステーラ。エレサレム、バチカンと並ぶキリスト教三大聖地の一つとして有名です。スペインの中でも年間を通して降雨量が多い地域で、気候も比較的温暖な場所。リアス式の海岸沿いにあるこの州では古代より漁業が盛んで、ここの魚介類もガリシアの特産品!「タコのガリシア風」は日本のスペインバルでも鉄板メニュー。皆さん一度は聞いたことがあるのでは??そしてこの魚介類とあいますよ!と“海のワイン”と謳われているのがガリシアを代表する白ワインの産地D.O.リアス・バイシャスのアルバリーニョです。
飛行機からビーゴという空港に降り立つ時に、夕焼けの中、緑の深い大地を見ました。緑色が幾層にも重なって、海が濃い青色と水色できらきらして、その上にいくつものイカダのような木のしかけがありました。牡蠣の養殖だろうか?と思いましたがそれはホタテだったと後で知りました。スペインといえば赤茶けた土、乾燥した熱い空気、白に近いような薄い緑色の木々…そこにはオリーブもあったり、そんな光景が一般的だと思っていましたが、ここはそんな一般的スペインのイメージの土地とは全然違って、空気にも水がたっぷり含まれている感じです。すべてがみずみずしい!ここは普段わたしが考えていたスペインとは違う場所なのだと思いました。
ここからリアス・バイシャスでのアルバリーニョの試飲が始まります。
車でワイナリーに向かう道すがらあることに気がつきました。「畑があまりない…」、「畑が小さい…」ということ。
以前リオハで見たような広大なブドウ畑はどこへやら。リアス・バイシャスは大きい畑を所有している人が殆どいないのです。ガリシアの生産者は 70 ~ 80%が買いブドウでワインを造り、自社で瓶詰めしているところはまだ非常に少ないのです。
約 4200 軒の生産者がいるとの報告ですが、各自の持つ自社畑は平均で 0.5haあまり。これはなぜなの??
その答えは小農制度の存在でした。ガリシアでは土地などの遺産を子供全員に均等に分けることを義務とする制度を古くから採用しています。もちろんその子供も自分の子供たちへと代々均等相続されるので、一人あたりが所有できる畑がとても小さいのです。ブルゴーニュで言う一つのリューディくらいの広さの畑を 100 人で所有している、更にもっと少ない人はブドウの樹たった 6 本所有という人もいるとのこと(驚)!!
それ故ブドウ栽培だけをしても食べていけないのが実情で、平日は会社に働きに出て、土日にブドウを見るという働き方をしている人も少なくないようです。このように兼業農家が多くブドウの畑を四六時中管理出来ないために、ブドウに病害が発生してもすぐに対処できず、上質なブドウを作れないということにつながってしまうようです…。それがガリシアがワイン産地として未発達だった要因の一つかもしれませんね。しかし近年はこの様々な問題も少しずつ解消に向かい、クオリティが向上していることは言うまでもありません。ではなぜそんなにリアス・バイシャスのアルバリーニョがすごいのでしょう?
リアス・バイシャスの優位性
リアス・バイシャス以外にもアルバリーニョは育てられています。カリフォルニア、メキシコ、ポルトガル、スペインのペネデスなどでも育てられています。しかし特にリアス・バイシャスが良いとされる理由はグラニテ(花崗岩)土壌と多雨、冬は凍るほど寒くなく、夏は焼けるほど熱くない温和な気候であること。ガリシアという大きな州のほぼ大半はグラニテ土壌が主体です。これから 3 つのD.O.の比較をしますが、基本ミネラリーと感じるのはもちろんこの土壌由来です。土壌に保水性がないため根が地下水までぐんと伸び、ミネラルを多く含んだワインができるのです。この恵まれた土壌と、温和な気候が随一のアルバリーニョを生む鍵のようです!
またこの小さいD.O.リアス・バイシャス内には、5 つのサブリージョンの存在があります。
内陸なのか海側なのか?またはリアス・バイシャス内で東西南北どこに位置しているのか。雨量で比較すれば、北は小雨で南は多雨。気温で比べれば北は気温が低く、南は暖かです。
海に近い方がテイストにキリっとさが生まれ、山深くなればナチュラルでおおらかになります。海に近ければ湿気が多く山間では乾燥します。そんな観点で 5 つのリージョンにわかれていると認識しています。
リアス・バイシャス内で最も多くアルバリーニョを生み出しているリージョンは『バル・ド・サルネス』というリージョンです。リアス・バイシャス北部に位置し海岸に面している為、寒くて湿気が多いエリアです。5 つのリージョン内にはアルバリーニョ 100%でないブレンドものも多くありますが、バル・ド・サルネスではアルバリーニョ100%のものが殆どです。また生産量に換算してもかなりのアルバリーニョがこの地域から造られています。
以上のことから言えることは、『ここまでリージョンが分かれている=各地域が地域性の違いに誇りを持ってアルバリーニョを造っている』ということだと思います。
また、リージョン的にはバル・ド・サルネスでの生産量が圧倒的に多く、アルバリーニョに特化しているところなので 100%アルバリーニョを探すのであれば、選択肢がたくさんあるバル・ド・サルネス産との比較は避けられないと思います。
まだまだ圧倒的に試飲量が少ないので、5 月に現地で開催されるFenavin(試飲会)でたくさん試飲を重ね答えを出してくるつもりです。
訪問した 3 つのD.O.の違い
さて、話を戻してガリシアの全体像を見てみることにしましょう。
今回訪問した 3 つのD.O.、Rias Baixas(リアス・バイシャス)、Ribeiro(リベイロ)、Ribeira Sacra(リベイラ・サクラ)。この隣合ったD.O.にはどんな違いがあるのでしょうか。
一番海側のリアス・バイシャスは栽培の 90%がアルバリーニョです。細分化された耕作地を有効に活用するため、また樹勢の強いアルバリーニョを強い日差しから守るため棚式栽培が採られていました。青い海と綺麗な濃い緑をした木々の景観、棚式のブドウ栽培の様子は日本のブドウ畑を彷彿とさせるものがありました。
続いて隣のリベイロは、ボディのあるトレイシャドゥラ主体のワインです。100%トレイシャドゥラのものはあまりなく、殆どのものがアルバリーニョやゴデーリョなどとブレンドされます。このブレンドの妙でワインは色々な姿に変わっていきます。リアス・バイシャスのように点在している畑が少なくなり纏まった段々畑も目にするようになります。
続いて更に内陸のリベイラ・サクラ。白に近い緑の木々と乾燥した私の思うスペインがまた戻ってきます。畑は明らかに山の中に位置し、あまりにも複雑な場所にあるワイナリーばかりで訪問が大変です。カーナビの案内は道のない白地図を辿っていました…。
スペイン・プリオラートの段々畑に出張に行った同僚が言っていたことを思い出しました。「こんな急勾配な畑でブドウ栽培をすること、それは命懸けの作業であり、特別な気持ちがなければ出来ない、ありえない凄いことだ」本当にその通りでした。
あるワイナリーは、畑に降りるのに簡易エレベータを使用。転落すれば下は深い谷です。どこからもそこへ行くにはかなりの苦労をしなくてはならない秘境D.O.でした。
隣合っているD.O.とはいえ、3 つのD.O.は距離にすれば約 1,000 キロ。大変な距離です。それ故、降雨量や標高も変わり、栽培されるブドウもテイストも勿論変わってくるのですね。
ガリシアのブドウ品種とそのテイストの違い
ここでもう一つ忘れてはいけないのが赤品種の存在です。
D.O.リベイロとD.O.リベイラサクラでは、赤品種としてはメンシアを主体にテイスティングしましたが、他にもかなりの数の赤品種を手がけていることがわかりました。メンシアはガリシアではかなりポピュラーな品種で、今回は通り過ぎるに留まってしまいましたがD.O.リベイラサクラのとなりのD.O.バルデオラス、そしてその隣のD.O.であるビエルソでも盛んに造られています。
ちなみにD.O.ビエルソはガリシア州ではなくカスティーリャ・イ・レオン州です。フィラディスで既に取り扱いのあるルナ・ベベリデのFinca la Cuestaは、ビエルソのワインです!
D.O.リベイロやD.O.リベイラサクラのメンシアと、D.O.ビエルソのメンシアを比べると明らかな違いがありました。前者は印象が明るくミネラル主体で骨格派、透明感のあるタイプが多いと感じ、対してD.O.ビエルソは黒系の重厚感のある安定感のあるテイストでした。
またブランセジャオという赤品種を初めてテイスティングしました。オリエンタルスパイスをほのかに感じる面白い赤品種でしたが、ピノ・ノワールを感じさせるような綺麗な仕上がりのものもありました。
次に白ワインですが、下記の通り特徴を纏めてみました。
ガリシア白の主要 3 品種は間違いなく、アルバリーニョ・トレイシャドゥラ・ゴデーリョであり、基本はステンレス発酵。しかし近年+α の需要があり、シュール・リー、マロラクティック発酵、バトナージュ、樽使いなどの取り組みが各ボデガで必ずと言って良いほどされていました。
試飲した白ワインはいずれのワインに於いても華やかでストラクチャーがあり、舌にじんわりと染み入り長く芳香性と余韻を感じるものが多かったのが印象的です。リアス・バイシャスのものは+塩味をアフターに感じ、さすがは海沿いのD.O.なのだと感じます。
D.O.、品種は違えども「ミネラル」、「華やかさ」のみならず「芯からの土地のパワー」を備えたラインナップのガリシアの白ワインは魚介との相性は然ることながら、多少ボリューム感のある白身のお肉料理にもとても良く合いました。ゴデーリョやトレイシャドゥラ&ローレイラブレンドも非常に美味しかったです。今回の出張時、夕食に併せたワインは全て白ワインだったのもその証拠です。
最後に…
リアス式海岸のある海沿いの地形、雨量が多く温和な気候、魚介や貝類など食べられている食材、歴史的な小農制度など我々日本人に馴染みの深い共通点が非常に多かったと感じたのがガリシア州を訪れた感想です。
スペインワインに造詣が深い方に対しても、そうでない方に対してもワインを手にされる全ての日本のお客様に対して、声を大にして言いたいです。
『ガリシアのワインを選択肢の中に一度入れてみてください!』と。
日本人に馴染みやすいガリシアのワインは、一度飲んだらきっと再び手にとってもらえるはずです。
5月のFenavinで更に皆様に訴えられる魅力をみつけられるよう全力で試飲に励んできます!!!
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